第36話『単純な事情聴取』


     6.


 りりすちゃんが話を聞ける場所を、僕は用意した。

 とはいえ、図書室で司書の先生と、宝籤甲斐に廿日十夜、秋冬春子、般若亜紀にひとりずつお願いしたくらいだ

「なんで俺が年下のガキに呼び出されなきゃならねえんだ」

 と、宝籤甲斐は毒吐き。

「後輩の女の子が俺と話がしたいだって!?」

 と、廿日十夜は騙され。

「定刻くんの後輩が呼んでる? いいよ、いいよ」

 と、秋冬春子は健気に。

「ひょっとして風水水海が殺されたことと関係しているの?」

 と、般若亜紀は気づき。

 僕はこの四名を呼び出すことに成功した。

 順番に話を聞いていくことになり、話を聞いているところを聞かれてはまずいとのことで、司書のかんぬき先生に特別許可を得て、話を聞く場所は司書室の机になった。

 四人が何を聞かれたかわからないまま、僕の順番が回ってきて、聞かれたのは三日、火曜日の出来事についてだった。

 全員の話を終えるのに一時間半くらいかかった。

「突然このように呼び出してしまい、本当に申しわけございませんでした」

 深く頭を下げて、りりすちゃんは謝罪した。

「…………」

 と、宝籤甲斐は斜に構え。

「いいよ、いいよ。気にしないで。また今度、どっかに遊びに行こうよ」

 と、廿日十夜は声をかけ。

「気にしないで。私なんかでよかったら協力するから」

 と、秋冬春子は困惑して。

「…………」

 と、般若亜紀は目を背け。

 話は終了した。

 解散した。

 生徒玄関に向かう最中で、携帯電話が振動して中身を確認すると、りりすちゃんからのメールだった。

『図書室にきてください』

 と。一行だけのメール。僕はほかの面々に忘れ物をしたと言って教室に戻るふりをして図書室に向かった。

 ふりをしたのでやや遠回りになってしまった。般若さん辺りには気づかれていそうだけど。

「お待ちしておりました、定刻せんぱい」

 図書室の扉の前にりりすちゃんは立っていた。

「……今度は何?」

「答え合わせみたいなものですよ」

 りりすちゃんは切り出す。

「風水水海。死亡推定時刻は三日の午前十時から十二時の間とされています。死因は絞殺として見ています。ですので、少なくともその時間内に彼ら彼女らのアリバイは確実なものでした」

「まあ、アリバイの調査が目的だろうとは思ってたけど……」

「最も強固なのが定刻せんぱいと秋冬せんぱいのおふたりです。実のところ、犯人は秋冬せんぱいではないかと思っていたんですよ。意外です」

 少し表情が綻んだ。

 声をかけにきたときみたいな、強張った表情ではない。何だったのだろうか。あのときの表情は。

「この事件には様々な疑問点があります」

 まず――と、一本指を立てた。

「どうして風水水海がここにやってきたのか――です。特に理由もなく他校も、それもこんな山奥にまでやってくるわけがありません」

「誰かに呼び出されたと考えるのが妥当だね」

「はい。そう考えています。ですが、風水さんの携帯電話は依然発見できていないので、恐らく犯人が投棄したのではないかと」

 ここは投棄しやすいですからね、と窓の外を見た。

 雑木林。こんなところにボールでも投げるように投擲すれば二度と発見されることはないだろう。

「加えて、風水さんって、しょっちゅう家に帰って来ないことがあったみたいなんです」

「家に帰って来ない?」

「はい。いわゆる援助交際ってやつです」

 りりすちゃんは苦笑いを浮かべながら言う。

「調査した結果、それらのことがわかったみたいです。その方面の調査は私にはできないので、本職の方々がしているみたいです」

「……だ、だから家に帰って来ないことが多かったわけか」

 少し動揺しながら言う。かなり意外だ。

「そういうことです。元々出歩くことの多かったみたいですから、帰って来ないこと自体が普通だったみたいです。いつこの学校にやってきたのかわからないんです。ただ二日の月曜日はちゃんと学校に出ていたみたいなので、それ以降だと見ています――ともあれ、風水さんの動向に関しては考える余地がいろいろとあり過ぎるのでほかの情報が来るまでは、考えるのをやめておこうと思います」

「それじゃあ、一体りりすちゃんは、どうして僕をここに呼んだんだい?

「もちろん、私たちにしか調べることのできないことを調べるためです」

 生き生きとした表情でりりすちゃんは言う。

「鍵が閉まっている体育館内でどうやって殺したのかを調査します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る