第33話『死んだ人間みたい』
3.
妙火の部屋に行ってテレビゲームをして遊んだ。高校に入ってからめっきりゲームをしなくなったので、久しぶりのテレビゲームで遊んだ。
「それじゃあ、妙火。僕送って行ってくるわ」
「はいはーい。春子さん、今日はありがとう」
「ううん、こちらこそありがとう。またね、妙火ちゃん」
そんなやり取りを得て、傘を差して僕らは玄関を出た。
辺りは、五時にしては真っ暗だった。
雪が降っていて空は見えない。
雪が積もっていて、街灯と民家の灯り以外に灯りはなく、深々と雪が降っている。そんな静かな中、靴が積もった雪を踏み込む音が聞こえる。
「わざわざ送ってくれなくても大丈夫なのに」
「とは言っても、夜だからね。危ないじゃん」
「こんなに暗くて、雪も積もってたら誰も襲ってこないよ」
笑いながら言う。
だからこそ、だ。どんなときも注意しなければならないことだが、悪天候のときも十分に気をつけなければならない。人が外に出ないということは、通常時よりも人のいない場所が増えることを意味しているのだから。
「――ありがとう」
傍らで春子さんがぽつりと言った。
「私ね、今日みたいに頼みごとができる相手って定刻くんしかいないんだ」
「……そんなわけないでしょ。春子さんには友達が沢山いるじゃない」
「いるよ、いるけど……だけどね、信用できるのと友達なのはイコールじゃない」
「…………」
「みんな、仮面を被っているみたいで、信用できない。何を考えているかわからないから――怖いんだ」
「……それは」
それは、誰もが持つ悩みだろう。
「そんなこと言ったら僕だって一緒だろ」
「まあ、そうなんだけどね」
あっさりと肯定された。
「そうなんだけど、なんていうのかな。上手く言えないけど、みんなの場合は表面ばかりがいいように見えて、その後ろ側がどうなってるのか――あるのかないのか。それさえ、何だか読めないんだよ――でも、定刻くんは違うんだ」
「……違う?」
どう違うというのだろうか。
僕もそこら辺に転がっている人間と何も変わらない。
「定刻くんの場合ってね。裏側しかないって感じなんだよ。そりゃ表面もあるよ。表面もあるけど、本心や本音みたいなものが全部裏面にあるってのが、見え見えなんだよね」
少し考えるようにして。
「相手にされていないって感じがするんだ」
「…………」
「喜んだり怒ったり哀しんだり楽しんだりできる人なんだろうし、人を好きになることも嫌うこともできる人だと思う。でも、定刻くんが隠している――内側に潜んでいる本性みたいなものは、誰も相手にしていないんだと思う」
ざくざく、と小走りに僕の前に出た。
僕の目を見つめてくる。
「ねえ、定刻くん。その死んだ人間みたいな目には、何が見えてるの?」
…………。
真剣な視線の春子さん。
そこで、僕は何も言えなかった――言わなかった。そのまま再び歩き始めた途中で、駅まであと半分くらいのところまできて春子さんは、流石に駅まで送ってもらうのは悪いとのことだったので、途中で別れることにした。
姿が見えなくなるまで見送った。
春子さんの姿は暗闇と降り続く雪の向こうに見えなくなってしまった。
「…………」
ふたりで歩いていた道を、僕はひとりで歩く。
ふたりの足跡が、まだ雪に埋もれず残っている。
春子さんが言っていたこと、それは気がかりではあった。
自分では自分のことが当たり前になっている。だから欠点も汚点も、わかりにくい。周りの価値観と、周りの常識と付き合っていくために、自分の本性を抑え込む。その抑え込んだ本性――誰でも本性みたいなのはあるだろう。僕もそりゃ建前と本音は使いわけている。
でも。
春子さんが言った言葉のニュアンスと、これは相違する。
彼女の観察眼が僕を見て、どう受け取ったのか。
どう感じたのか、それは僕にはわからない。
僕のことなんて、僕が一番わからない。
僕の目には、一体何がどう映っているというのだろうか。
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