第28話『棒立ちお手伝い』
3.
それから焼きそばを食べ終えるくらいまでは三人で雑談をしていたが、食べ終わった頃に女の子は女の子でお話の盛り上がりを見せていたので、ふたりには、二年の教室に行くと告げて移動した。
春子さんにフォローも入れておかないといけないし。
二階、二年二組の喫茶店にやってきた。
「おい、来るの遅せえぞ!」
教室の前で――喫茶店と書かれた板を持って宝籤甲斐が客呼びをしていた。
「すまんすまん、手伝うことある?」
「言ってもわかんねえだろ。散々打ち合わせサボってたんだから、ほれ、これ持って立ってろ」
宝籤に、喫茶店と書かれた板を押しつけられて、僕は二年二組の前に立たされた。
廊下に立たされる経験をしたのは初めてだ。いや、いわゆる廊下に立たされるというやつではないだろうか。いや、また違うか。
僕は、二年二組の廊下に立ち、愛想を振る舞いことも、声を張ることもなく、ただ立っている。そんなものでも、お客さんは喫茶店に這入っていく。
同学年だったり、下級生だったり、上級生だったり。
顔を見かけたことがある人もいれば、ない人も、教室内に這入っていく。
しばらく棒立ちしていると、春子さんが廊下を駆けてやってきた。クーラーボックスのようなものを提げている。
「あっ、定刻くんじゃない」
僕の存在に気づいたようで、歩みを止めた。
「やあ、春子さん。どこ行ってたんですか?」
「調理室だよ。調理室の冷蔵庫に水を保管してあるのよ。足りなくなっちゃったから取りに行ってたの」
見た限り重そうなクーラーボックスだ。男子に頼めばよかったのに、と言おうとして口を紡ぐ。
こういう発言は――男性は女性を下だと見ている、みたいな解釈をされ兼ねない。
男女平等とは言われているが、そもそも平等という言葉がおかしい。人間における男性と女性の構造上、平等として扱うのは不可能である。男性を女性と同じように扱うことはできないし、女性を男性と同じように扱うこともできない。平等という言葉を使うから語弊が起きるのだ。こういう場合の言葉は、対等だろうに。
お互いの弱点を補うようにするべきなのに、些細なことに目くじらを立てる輩はいる。
男女平等という言葉が根づいてきてしまった以上、今更変えるのは難しいだろう。
どれだけ有能なものが出現しても、既に市場を独占しているものを簡単には凌駕できないみたいな、そういう話。
「……あ、え、っと」
不安そうな表情を浮かべて、きょろきょろと首を振る。
どうしたのだろうと一瞬思ったが、たぶんは風水のことだろう。
「大丈夫、風水はここにはいないから」
「あ、ううん。別にそういうわけじゃなくて……」
僕の言を否定はしたが、どこか安心した表情をしていた。中学校の頃に、事態解決に一躍投じた僕に対して、相応の気を使っているのだろう。事態の収拾自体はしたけど、根本的な解決になっていないのだから別にそんな気を使わなくてもいいのに。とはいえ、少しでも風水に対する配慮をしておいたほうがいいかもしれない。
「別に風水には、春子さんに危害を加える気はないはずだから。ちょっと距離感がわからなくて空回りしてるだけだから」
「そ、そう? なのかな……。定刻くんがそう言うなら、信じるけど」
「もし何かあったら教えてよ。僕も風水の言葉を信じて言っているんだから」
「わかった」
作り笑いを春子さんは浮かべて教室内に這入って行った。
「…………ふう」
ひと息吐く。立っているだけとは言え、やはり疲れる。
僕はいつまでこうし続けていればいいというのだろうか。
…………そう言えば、七不思議の件。
りりすちゃんは終わったわけじゃないと言っていたが、あれから一ヶ月近く経つが音沙汰なし。人なんて死なないに越したことはないが、七不思議はあとよっつも残っている。このままいけばあと四回、この学校で死人が出るわけだ。
いいや。
正確にはみっつだ。
七不思議の話をしたのは随分と前なので、記憶は曖昧模糊だが、ななつ目は――むっつの不思議が揃ったときに起きる、みたいなものだったと記憶している。
ななつ目を除けばあとみっつの七不思議。どういうものだったのかはっきりとは憶えていないが、噂はまだ鮮度を失っていないことだし、話そのものを聞けば思い出すだろう。聞くかどうかは別として。
なんてことを考えながら、しばらく棒立ちしていると宝籤がやってきて、交代だからもういいと言われたので、板を宝籤に返してさっさと場所を移動した。
仕事を押しつけられてはたまったものじゃない。とはいえ、行く当てがあるわけではない。そんなとき、壁に貼られた宣伝の紙が目に止まった。
うみがめクイズ!
正解者には景品もあるよ!
時間的に始まっているが、体育館で行うみたいだ。
行ってみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます