第23話『そうでもない真実』



     9.


 疋田広志の死に様は聞く限りでは階段の中二階みたいに転がっていて、身体の四肢はあらぬ方向に曲がっていたとのことだ。学校までにあるあの長い階段は石段だし、中二階と言っても、そこまで結構な段数がある。さぞかし相当派手に転がり落ちたのだろう。

「犯人は七瀬ななせ芹菜せりなです」

 犯人が中河友二の彼女だと、りりすちゃんが言ったときは思わぬ方向からだったので、かなり驚いた。

 今週の金曜日、図書室で翁系さんと読書に勤しんでいたところにりりすちゃんがやってきて、そう切り出した。

「七瀬芹菜が疋田広志を殺した動機は、復讐です」

 このとき知ったことだが、どうやら翁系さんとりりすちゃんは、随分と前から知り合いらしい。

 とはいえ、りりすちゃんは、事件の話を翁系さんにしていたわけではなかったのだろう。

 ぽかん、としていて置いてきぼりになりそうだった翁系さん。りりすちゃんによる、箇条書きを言葉にしたような説明を受けて、翁系さんはどうやら話の流れを理解したようだった。

「どうして疋田くんが殺されることになったのかわからないけど、どうやってその彼女さん? は、中河友二が殺されたって知ったの? 自殺って広まっていたはずじゃないの? もしかして、自殺じゃないって見破ったとか?」

「いいえ。七瀬芹菜は見破っていません。それでも、見破ったとしても犯人を特定するのは不可能でしょう。そもそも、そんな探偵ごっこみたいな動きをすれば私が気づきます」

 探偵ごっこ。極めて合法に近い方法で探偵ごっこをやっているりりすちゃん。

「疋田広志を相手に復讐することは簡単です。なんたって中河友二が自殺したのは疋田広志とのトラブルが原因だと言われているのですから」

「……僕としては、どうやって七瀬芹菜が犯人なのか割り出したのが気になるけど? 中河の件を調査するのに、これだけ時間がかかっているのに。なのに、疋田くんの事件が起きてから犯人を特定するのに時間の間隔が短いのには、どうして?」

「自白したからです」

 りりすちゃんは言う。

「いえ、自白というか、自爆したって感じでした」



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