第21話『お久しぶりです、先輩』


     7.


 電車に乗って、僕の住む県でも有数の都市部にやってきた。本日は、神崎かんざき衣織いおりせんぱいと待ち合わせだ。

 軽くそこら辺をうろついたのちに、夕食を食べようというプランニングである。

 電車から降りてホームに行くと、衣織せんぱいは文庫本を読んでいた。

「お久しぶりです、衣織せんぱい」

 近づいて、ひと声かけた。こちらの気配に気づいていたみたいで、衣織せんぱいは、ぱたんっと本を閉じた。

「やっほ。久しぶりだね、定刻くん」

「衣織せんぱいは、最近の調子はどうですか?」

「そこそこかな。可もなく不可もなくって感じ。そういう定刻くんはどうなんだい? 最近の、調子は」

「そこそこですよ。いろんなことはありましたけど、別に変わりはないですよ」

「そう。じゃあ、行こうか」

 そういって半日、僕は衣織せんぱいとショッピングモールに行った。特に何を買うわけでもないが、いろんなものを見て、いろんな話をした。

 プリクラを撮ろうと言われたので、丁重にお断りさせてもらった。

 あっという間に時間は過ぎて行き、僕らはそのショッピングモールを出て、駅の近くにある飲食店に這入った。

 お好み焼きやら焼きそばなどの鉄板調理を専門とするお店だった。衣織せんぱいのいち押しとのことだった。

「いろいろと大変みたいだね」

 席について、あれこれメニューを見て注文をしたのちに、衣織せんぱいは満を持してそう切り出した。

「ええ、まあ、そうですね」

 曖昧な返事だ。確かに大変と言えば大変なのだろう。しかし、僕自身はあまり大変な気がしていない。苦労しているのは学校側であって、生徒の僕ではない。僕が苦労するほどの緊張感はない。

「詳しく聞かせてくれないかな? 桜庭谷高校で起きた事件について」

「衣織せんぱいは知っているんじゃないですか?」

「そりゃあ、掻い摘んで知っているさ」

 微笑を浮かべる衣織せんぱい。

「でも、やっぱり当事者から聞くのとじゃ全然違う。リアリティってものがね」

 岸部露伴みたいなことを言う。

 まあ、僕もこの話をするつもりでいたし。

「シェヘラザードのように臨場感のある語りで頼むよ」

 無茶言うなや。



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