第二章『名探偵ごっこ』

第7話『かつての授業。科目は道徳』


     1.


「みんなの友達ってどんな人かなっ?」

 そんなことを訊かれたのは小学校のときだった。元気げんき溌剌はつらつな担任の先生だった。

 その先生の行う授業はいつも楽しかった。

 甲斐ノ川すすぎ先生。

 その先生は、ある日の道徳授業でそんなことを言った。

 みんなは各々、自分の友達を言っていた。手を挙げて、誰と友達だとか誰と仲がいいと、和気藹々わきあいあいと盛り上がり、先生は四方八方からの発言に対して、うんうん、と頷き、相槌あいづちを打っていた。

「それじゃあ、ここでみんなに質問です」

 甲斐ノ川先生は、みんなに訊ねた。


「その人は、きみのことを友達と思っているのかな?」


 直後、教室は凍りついた。

 口々に友達を自慢し合っていた全員が全員、凍りついた。固まって、静止した。

 そのとき、そのときだった。

 僕は。

 僕は――見た。

 見てしまった――というべきかもしれない。黒板の前で、こちらに向かっている甲斐ノ川先生が、浮かべた笑顔を。

 それはまるで、顔面にただ笑顔という仮面を貼りつけたような、意味も感情もこもっていない。何かを覆い隠しているような笑顔だった。普段とは、まったく違う――笑顔を、甲斐ノ川先生は浮かべていた。

「友達……友達、ねえ……」

 別に僕自身、友達がいなかったわけではない。仲のいい相手はいた。そんな当たり前に思っていることの前提条件が覆されてしまった。友達という線引きがそれ以来、曖昧なものになってしまった。

「……あんな奴にも、友達なんてものがいたんだろうか」

 十月十日木曜日、首吊り死体が発見されてから丁度一週間が経過したこの日、僕は死体が発見された場所にいた。

 いや、それではいささか正確性を欠く。

 僕がいるのは、死体のあったフェンスの前である。

 死体は――中河友二の死体は、学校の周りにあるフェンスの向こう側――雑木林ぞうきばやしにある木で首を括って死んでいた。

 既に警察の現場検証は終えられているみたいで、今週の頭頃までは近づけなかった現場に、今日はやってきた。

 中河友二。

 あんな奴にも、友達なんてものがいたのだろうか。僕の視点から見れば、疋田ひきたくんや榊坂さかきざかくんが友達に見えるわけだが、僕は、彼自身――中河友二当人が誰のことを友達だと思っていたのかが、気になった。


「ご存じですか。犯人は現場に戻ると言うんですよ」


 背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには細身の女の子がいた。

 桜庭谷川高校の女子制服を着用している。

「ええっと、きみは?」

「おっと、失礼失礼。初めまして、定刻さだとき刻樹ときき――先輩。私は一年二組の鎖理くさりりりりすって言います」

 これが、僕とりりすちゃんの出会いだった。



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