第23話 俺の大事なものがぁぁあああああ

 宵闇よって暗くなった森の中

 夜が進むにつれ気温が低くなり体が次第に冷えてくる

 寒い、だが今はそんなこと気にしている暇はない

 急ごう、それが今の自分にできる唯一の事だから

 息が荒くなる、ひと時も休むことなく酷使続けた体はすでに悲鳴を上げ始めていた

 一歩一歩進むのに倍以上の体力を使っている気がする

 やがて体は限界を感じその場に倒れてしまう

 だめだ、早く立たないと、立って動かないと、探さないと

 だが体は思うように動いてくれなかった

 何もすることはできなかったと思うとそれだけで悲しくなった


「お父さん......」


 目から伝う涙はほほを通り地面へとたどり着いた



「嘘だろ......」


 俺は目の前に広がる光景に絶句した

 なぜこうなったのかこうなってしまったのかは分からない

 ただ一つ言えることはこれが俺にとって最悪の事で簡単に割り切れることではないこと


「なんでだよ、なんでこうなってしまったんだ!」


 地面に思いっきり両手をたたきつけた

 痛いが心の痛みと比べたら何の問題もない

 もうだめかもしれない

 一体俺が何したんだ、誰か教えてくれよ

 なあ教えてくれよ!


「俺のお菓子はどこにいったぁぁあああああああああああああ!!!!!」


 隠してあったお菓子が根こそぎなくなっていた

 この場所は誰にも言ってないしこの付近にくる奴なんてほとんどいないはずだ

 ギールか? 正直この付近に来る可能性がある

 だがあいつは行方不明、間が悪すぎる

 クソッ何が何でも見つけ出して聞きたださないといけなくなった

 もう一つ心当たりがあるのはアルネシアだ

 彼女とはこの付近で何度か話したことはあるし正直可能性は結構高い

 しかも彼女は現在行方不明、トイレに行ったきり戻ってこないという奇行をやらかしたのは実はお菓子を見つけ独占したかったからなのではないか

 それならすべて合点がいく

 あの誘惑には誰も勝てない、やられた......これも全部奴の作戦だったというのか


「はは、許さねぇ、絶対に見つけだしてやる」


 俺は心に刻んだ

 お菓子の復讐を、食べ物の恨みは恐ろしいのだ覚えておけ

 まずは人員の確保だ、俺は使える人物を下僕シアンに集めさせた


「連さん! いい感じに協力者を集めてきましたよ!」


 よし、見つけるのに30名もいればすぐに見つかるはずだ

 さすが駒さんだ、後で干し肉でも渡しておこう


「これより突然行方の消えた者の捜索を始める、まず行方の分からない五名に加え一人追加された、これによって六つの班を作り各々散策してもらいたい、班を分けた後だが一班ずつに行方不明者の私物を代表者に渡す、その匂いを頼りに探し出してくれ、もしも危険があった場合は必ず引き返すように、お前たちの代わりは誰一人いないことを理解してくれ、以上質問は?」


「はい、はーい、一つ質問いいっすか?」


 手を挙げて高らかにそういったのは小柄な犬耳族の少女だ

 まだ子供だろ、本当大丈夫なのかと心配になる

 無邪気な笑顔だな


「なんだ」


「この捜索の意味を教えてほしいっす、私たちが危険を犯してまでやる価値があるのか疑問なんすよね」


「価値? そんなことが聞きたいのか? なら聞くがお前たちの今するべきことはなんだと思う?」


「そんなの、ゆくゆくに備えて戦力を整えることじゃないんすか」


「それがお前たちにとって一番価値があると?」


「だと思うっすよ、私たちは仲良しごっこをしに来たんじゃないっすからね」


 その瞳には本気が感じられた

 少なくとも何も考えずに感情論で言っているわけではないようだ

 少女の中にエルフ族とはただの協力者であり仲間や友人ではない、つまり助ける意味はないとそういっているのだ

 この少女の言っていることは何も間違ってはいない、仲間だ、なんだといえるのはその価値を認め助けたいと思えるようにならないといけない

 でもなそれは結局種族間の溝を増やすことになる

 だから教えてやる必要がある


「お前たちの族長たちが行方不明になったとする、まずどうする?」


「匂いをたどって見つけるに決まってるっすよ、私たちは鼻がいいっすからね」


「なら族長がいなくなったその日には大雨が降っており、気づいた日にはもう匂いが消えていたとしたら? もしくは場所が分かっていても犬耳族では気づけない場所だとしたら?」


「......そんなの、なんとかするしかないっすよ......」


「何とかする、そう言ってできたことはあるのか? 何とかするというやつに限ってその場しのぎで何も考えてないやつの事を言うんだ。いいかお前の言うことは間違ってはないかもしれない、一人で一生懸命考え行動し変わることだってあるかもしれない、でもそんな奇跡を起こせる奴なんてな物語の主人公ぐらいしかいねぇ、俺たちはただのモブだ、だから一人、一種族で何でも解決しようとするな、お前たちができることが他のやつにはできるかもしれない、それを利用しろ。今エルフ族は一種の危機だ、ならお前たちがするべきことは何かわかるか?」


「見つけ出して、私たちの価値を分からせること?」


「価値とはただの表現だ、そうだな......エルフ族にとって裏切れない存在になれるチャンスが今お前たちの目の前にはある、多少の危険を犯してでもやるべきじゃないか? 今後の事を考えたらな」


「確かにそうっすね、考えの足りなさがよく分かったっす! ありがとうございました!」


 少女は目をキラキラさせ頭を下げてきたので頭を上げさせる

 小さい子供に頭を下げさせるなんていい大人がさせることじゃないからな


「優しいんすね......惚れちゃいそうっす」


 ははは、冗談でもやめてくれ

 とりあえずシアンがハンカチで涙を拭いていたので殴っておく


「では班を分ける、分け終わったら各自行動を開始するように」

 


 班分けが終わりエルフ族捜索が始まった

 俺はアルネシア捜索班について行っている

 アルネシアがいなくなってまだ時間はあまりたってはいないのですぐに見つかるだろうから危険もあまりないとの判断だ

 メンバーは俺、ダックス、ゾラ、チワ、コーギ、ハウンドといった具合だ


「連~疲れたっす、おんぶしてください」 


 と言われて後ろを見ると先ほど俺に質問をしてきたチワが地面に足をつき疲れた顔でこちらを見ていた

 何なんだこいつ、さっきからちらちらとみて言っているがまったく意味が分からん


「ゾラ、担いでほしいらしいぞ」


 俺はそれとなくゾラに伝える


「お? そうなのか? ははは、チワいくらでも担いでやるから存分に休め、がははは」


「違うっすよ~、うぅ」


 ゾラの肩の上でぐったりとした


「こっちです」


 ハウンドがそういった

 彼はこの中で最も嗅覚がいいらしいので案内役を頼んだ

 何でもダックスよりも数倍嗅覚がいいらしい


「連、この先から魔獣が出始める、俺の後ろにいろ」


 俺はそれに従い後ろにつく

 確かに魔獣は現れたがそれほど大したこともなく危険の文字すら出てこないほどだった

 ダックスが魔獣をあっという間に倒していたからそう言えるのかもしれない

 彼は小柄だがその俊敏性には魔獣も反応が遅れるほどだった

 森の中を3時間ほど歩いた頃ぐらいだろうか、急にハウンドが立ち止まった


「どうしたんだ?」


 俺は気になって聞いた


「ここで匂いが途切れています、この先からは一切匂いが感じ取れません」


 まじか、どうゆうことだってばよ


「どうするんだ?」


「いったん戻るしかないかないな、仕方ないが捜索はいったん中止、他のやつらの成果を待つべきだろう」


「でもいいのか? 彼女はお前の......」


「そうはいってもいられない、ここにずっといる方が危険だ」


 ダックスはまだ何か言いたそうだったが言葉を我慢したのか頷いた

 アルネシアの事だ、犬耳族の存在に気付いて途中で匂いを魔法かなんかで消したそんなところだろう、こうなってはもう探しようがない

 今回はやられたってわけだ

 


 俺たちはアルネシアの捜索に失敗し村へと戻ってきた

 すでに五組は村に戻っていた

 俺は軽く挨拶を済ませ報告を受ける


「まじかよ......」


 俺は報告を聞いて驚いた

 行方不明となっていた五名の行方だが全員一致して同じ場所をいってきた

 ブレイブ王国、その国境までだが捜索に出ていた全員が同じ場所にたどり着いたとのことなので確定だろう

 あらかた予想はできていたのだが今回の件、考えたくもないが勇者が関与している可能性が確定的になった

 まずファフニールを倒せる存在だが勇者以外にはまず思いつかなかった

 その時点で勇者つまりブレイブ王国が関係している可能性が高い

 だがその時点ではまだ確信はなかった、ファフニールもその件については何も教えてくれなかったし他のエルフ族だって詳しくは分からないみたいだった

 だけど報告を受けて確信した、エルフ族五名の居場所だがブレイブ王国のどこか監禁されているか、奴隷としてもうすでに売られたかもしれない、もしくは見世物として殺されたか、どちらにしても早く行動をしないとまずいことになりそうだ

 俺はすぐにでも行くべきだろう、人間族の住む国、ブレイブ王国へ

 

 


 



 

 

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