華蓮な日々①
明日から新しい学校。
あー、緊張するなぁ。皆と仲良くできるかなぁ。い、虐められたりしないよね?
虐められて、俺様系ツンデレイケメンに助けられたりして! この前読んだ少女マンガでそんなのあったの。
ううん、別にイケメンじゃなくて良いんだけど、自分にだけ特別優しくしてくれるのって憧れちゃうよね。ただし俺様を除く。
俺様系はダメ。『こいつを虐めて良いのは俺だけだ』ってなんなの。あなたにも虐めて良い許可なんて出しませんけど?
ああいうの、生理的に合わないんだぁ。あのヒロインはあの男の何が良かったんだろう。全然分かんないや。
もっと、優しくてほのぼのした温かい人がいいな。何ならちょっと太っちょで、運動できなくてもいいや。なんかその方が優しそうだし。
そんな人が隣の席とかだったりして! で、好きになっちゃったり! きゃー!
えへへ、でも隣の席は大事。だってしばらく教科書見せてもらわないといけないし。
ページをめくるときに手が当たってドキドキしちゃうの。二人とも頬を赤らめちゃって『あっ、ごめん』『こちらこそ、ごめん』とか言って!
ま、女の子かもしれないけど。
ああ、ドキドキする!
わぁ、良かった。恐そうな人居なかったよ。三杉先生も優しそうだし、良かったー
あ、隣の席は男の子だ。残念外れた。太っちょじゃなかった。全然俺様っぽくない男の子だ。どっちかと言うと子供っぽい感じ。
笑いかけたら、顔を赤くして目を逸らされちゃった。
全然目を合わせてくれないけど、人見知りなのかな? 毛嫌いされてる訳じゃないみたいだけど。
山田太郎君。
憶えやすい名前で良かった。間違えちゃったら申し訳ないからね。
教科書を見せてもらえることになって、これからよろしくってウインクしたら、真っ赤になってどもっちゃった。
なんか可愛い!
ザ、思春期! これはからかいたくなるね。なんか私の中で可愛い弟ポジションかも。
優しそうだし、ほのぼのしてるというか、見ていてほのぼのするから、ほぼ希望通りかな? 残念ながら、トキメキはないけどね。
「ねぇ、山田君。そんなに教科書寄せてくれなくてもいいよ? 山田君教科書見えてる? って言うか、教科書全然見てなくない?」
「えっ、そそ、そんなことないよ? 全然見えてる! 大丈夫だよ!」
そんなこと言いながらも、山田君はこっちを全然見ない。そんなとこ見てて教科書読めるわけないじゃない。
仕方がないから、教科書を山田君の方へと押しやって、私の椅子も山田君に近付けた。
「そんなに離れてたら見えないでしょ?」
「ええっ、い、いや、大丈夫だよ、うん」
可愛いけど、男の子の思春期って大変だなぁ。
ちょっと親睦を深めるのとからかうのを兼ねて、ページをめくる時に手が触れて『あっ、ごめんね』っていうのをやってみようと思ったのに、山田君たら教科書押し付けてきて全然教科書に触れないから、『あっ、ごめんね』作戦ができない。
教科書が届いて席を戻した後も、山田君はよく私のことを見ている気がするんだけど、こっちが目をやるとすぐ目を逸らす。
別に見てくれても良いんだけど、目を逸らされるとコソコソ覗かれてるみたいで、ちょっと嫌かも。
たまに目を逸らしそびれて目が合うと、すかさず微笑みかけることにした。相手の警戒心を解くには笑顔が一番だと思うの。
もっと逸らされた。
むむむ、手強い。
野良猫を撫でようとしたらすぐ逃げる。でもこっちが気になってチラチラ見てくるみたいな感じ。
隣の席なんだから仲良くしたいのにな。
学級委員の黒崎さんと仲良くなった。黒崎さんは世話焼き体質なので、色々気を使ってくれる。なんだかお母さんみたい。
もっと仲良くなって、夏穂ちゃんって呼べるようになりたいな。
帰国子女は珍しいらしく、隣のクラスの山田さんに話しかけられた。高校生になったらホームステイに行きたいらしい。
私はホームステイしてた訳じゃないから、あまり大したアドバイスはできなかった。知らない人の家に何日も泊めてもらうのって、気が休まらないんじゃないかなぁ。
山田さんは女の子なので、山田さんと山田君でも良いかなと思ってたんだけど、山田君のことを一部の男の子が太郎と呼んでいたのを聞いて、これだと思った。
仲良さそうで羨ましかったのもあるし、人見知りな 山田少年と仲良くなるには、こちらが歩み寄らないとね。
「タロー君、おはよう!」
「えっ、おっ、おはよう、本上さん」
吃驚してたけど、嫌じゃなさそう。どちらかと言うと、ちょっと嬉しそうだし。
「どうしたの、急にタロー君なんて」
「うん、隣のクラスの山田さんと知り合いになったから、ややこしいかと思って。結構タローって呼ばれてるよね? 嫌だった?」
「そんなことないよ。女の子にそう呼ばれることってないから、こそばゆい感じ」
「そうなんだ。じゃあ、私がタロー君の初めてだね!」
そう言うと、タロー君は真っ赤になってモジモジしだした。本当に照れ屋さん。可愛いけど、なんだかおかしくなって笑っちゃった。
「あははっ、タロー君、真っ赤だよ?」
「だって本上さんが変な言い方するから!」
「変? 何が?」
何か変なこと言ったのかな? 小首を傾げて訊ねたけど、答えてくれなかった。よく分かんないけど、タロー君呼びも嫌じゃないみたいだし、いっか。
タロー君。ついタローって言っちゃいそうになる。前に飼ってたワンコがタローって名前だったんだよね。
とは言っても亡くなったわけじゃないの。アメリカに行く前にコーギーを飼ってたんだけど、アメリカに飛行機で行くと気圧とか温度変化で、小さい犬は結構死んじゃうって聞くし、船だと日数がすごくかかって弱っちゃうとかで、結局連れて行かずに伯父さんの家に里子に出したの。
私向こうでちょっと病気になっちゃって、帰国してからも入院してたりで、タローを引き取るのは止めたの。
伯父さんが溺愛してたから、引き取る話をすると涙目になるんだ。そんなに可愛がってもらえるならと伯父さんに託して、たまに遊びに行って戯れることで我慢してる。タローったらすっかり伯父さん大好きになってるの。浮気性よね!
学校のプールが始まった。まだそんなに暑くないのにね。泳ぎたかったけど、病気のことがあるからって、両親が許可してくれなかった。もう治ってるのに。
暑くなってきて一回だけプールの授業に参加できた。暑いと水の中が気持ちいい。そんなに泳げないけど楽しいな。
せっかくのプールなのにタロー君は風邪でお休み。残念だったね、タロー君。
次の日にはタロー君は学校に来ていたけど、色んな男子が代わる代わるやってきては、私の水着姿について語っていく。皆、隣の席に私がいるの気付いてないの!?
恥ずかしいから止めて欲しい。
膨らみ始めた胸がエロいとか、ウエストが凄く細いとか、お尻がキュッと上がっていて外人みたいだとか、太ももの付け根の黒子がたまらんとか、どんだけ見てるのよ!
太腿の付け根の黒子って何!? 私自身そんなの知らなかったんだけど! えっち!
全部聞こえてるんだからね!
そんな話を聞いてもタロー君は涼しい顔。もっと真っ赤になって恥ずかしがるのかと思ってたのに意外。かといって羨ましがって騒いだりもしなくて、案外タロー少年は紳士的。見直しちゃった。
でもそれはそれで、私に魅力がないみたいで何だか悔しい気もするので、ちょっとからかってみよう。
「タロー君も私の水着姿見たかった?」
「いやいや、子供の水着姿なんて見ても仕方ないよ。静香先生くらいじゃないとね」
うわっ、可愛くない! うちのタロー君が生意気にも背伸びした発言ですよ。思春期だから大人ぶりたいんだろうね。
もっと、恥ずかしそうに、『ええっ!そんなことないよ!』とか言うと思ってたのに。お姉ちゃん淋しい。
まあ、でも紳士的よね。背伸び発言はどうかと思うけど、あんまりえっちなことばっかり言う男子が多いから、タロー君の方がいいな。
でも私そんなに魅力ないのかな。胸だって最近大きくなってきて、ちょっと痛い時があるくらいなのに。タロー君、見てないから私がつるぺただと思ってるんでしょ!
「そうなんだ。私、中一にしては胸大きいと思うんだけどなぁ。この前もね、ブラがキツくなってきて大きいサイズに…」
「ストップ! 本上君周りを見なさい」
ん?なあに?
周りを見ると、クラスメイトの皆が赤くなった顔で目を泳がせた。
服を押さえて自分の胸の形を強調していたのに気付いて、凄く恥ずかしかった。
「もうっ、えっち!」
男子は皆えっち! でもタロー君は鼻の下伸ばすんじゃなくて、ちゃんと止めてくれた。良い人!
「皆、タロー君を見習ってよ!」
あんまりえっちだとモテないぞ!
親切なタロー君だけど、ちょっと私に魅力がないみたいに全然反応してくれないから、ちょっと不満。乙女心は複雑なんです。繊細な乙女心が傷ついちゃうんですよ?タロー君?
「タロー君がどうしても見たかったっていうなら、可哀想だから夏休みに一緒にプールに行ってあげようと思ってたのに。残念だったね、私のビキニが見れなくて」
「どうしても見たいです」
吃驚した! ちょっと食い気味に即答してきたよ! さっきまでの紳士タロー君はどこへ!?
「今更だーめ!」
今日は素っ気なく私のことなんか興味ない態度だったのに、急にそんなこと言うから笑いそうになった。
背伸びして紳士になろうとしてたタロー君が食い気味に『見たい』って言ってくれて、嬉しかった。
照れずに私の目を見て『見たい』って言うんだもん!
ちょっと男らしくてキュンとしちゃった。恥ずかしいけど嬉しくて、にやけそうになるのを誤魔化すのに、ちょっとだけ睨んじゃった!
すると女子のお友達がプールに行こうと誘ってくれた。嬉しい。
でも心配性の両親が許可してくれるかなぁ?
また太腿の付け根とか胸とかお尻とかジロジロ見られるの嫌だから、女子だけか男子はタロー君のみね!
期末テストが返ってきて、タロー君が数学の答案を見ながらニヤニヤしていた。そんなに良かったのかな。
でも私も悪くないよ? ちょっとケアレスミスがあっただけだもん。
ふふっ、タロー少年、勝負だ!
「タロー君、何笑ってるの? あっ、いい点だったんだね!? 見せっこしちゃう?」
嫌がるかなと思ったけど、タロー君の答案を覗き込もうとしても、彼はニコニコしてて全然嫌がる素振りをしなかったので、点数を見せてもらうことにした。どれどれ? 私も負けないよ!?
「タロー君は、42点!、えっ、42点? あれ? 私勘違いしちゃった?」
しまった。ちょっと張り切ってて大きめの声が出てしまった。わざとじゃないんだけど、タロー君の点数を公表しちゃった。ごめんね、タロー君。
でも、タロー君ったら全然怒ってなくて、ニコニコしてた。何ならちょっと自慢気に見える。タロー君は優しいなぁ。
申し訳無くて、謝りつつ私の答案を押し付けた。
「タロー君、怒っちゃった? ごめんね? 私のも見る?」
私の答案を見て、タロー君は少し驚いていたみたい。まあ、タロー君の倍以上の点数だもんね。でもあんまりじっくり見られるとケアレスミスばっかりで恥ずかしいよ。
でも、タロー君驚いてるけど、君の点数が低すぎるんだよ? タロー君、ちゃんと教科書見ないんだもん。知ってるんだよ? 私の胸をチラチラ見てるの。思春期だからお姉ちゃん怒らないけど、ちゃんと勉強しないと留年しちゃうよ?
一緒に進級したいし、お詫びをかねて勉強会に誘ってみることにした。
「ごめんね? お詫びに勉強教えてあげよっか? 英語なら自信あるよ。あっ、一緒に夏休みの宿題するっていうのは?」
『教えてあげよっか』なんてちょっと偉そうに言ってしまって、焦ってしまって私の英語の答案を押し付けたり、夏休みのお誘いまでしちゃった。『教えてあげよっか』じゃなくて『一緒に勉強しない?』だよね。ああ、自己嫌悪。
「僕、英語苦手なんだ。助かるよ」
「良かった! じゃあ、夏休みに英語の宿題一緒にやろう」
良かった! 怒ってなかった! やっぱりタロー君って優しい。
語学は毎日使うのが一番だから英語チャットに誘ったら、黒崎さんに止められちゃった。
あれあれ? ひょっとして妬きもち? あれあれ、ラブなんですかー?
違った。全然違った。
田中君と黒崎さんの青春劇場凄かった。黒崎さんのビンタ、凄い音がしたし、綺麗な手形が残ってた。黒崎さんのスナップ速過ぎて見えなかったもん。
駆け出した黒崎さんを追い掛けるべきだったんだけど、あまりに目の前の出来事が衝撃的で固まっちゃってた。女子が何人か追いかけて行ったから、お任せしよう。田中君のことを好きなの知らなかった私より、付き合いの長い友達が行った方が良いだろうし。
田中君の方は誰もフォローしない 。どうフォローして良いのかも分からないけど、目の前に突っ立ったままなので、一応声を掛けた。
でもタロー君にそっとしておくように言われて一緒に教室を出た。
あんな衝撃的なことがあったのに、タロー君ったら全然動じてないって言うか、あの二人にあんまり興味を持ってないみたい。だって、何だかソワソワして全然素っ気ない。
「凄かったねぇ。青春だね!」
「そう? 田中はすぐ調子に乗るから。
そんなことより、僕、自転車なんだ。本上さん、乗せていこうか?」
えー、そんなこととか言っちゃうんだ。田中君可哀想。何か今日はクールタローだ。
自転車二人乗りで帰るのって、昔のマンガで見たことあるよ! ちょっと憧れるけど、ダメなんだよ、そんなことしたら。
「ダメだよ。道路交通法違反だよ?」
「じゃあ、バス停まで送っていくよ。一緒に行こう」
どうしたの、クールタロー! 何だか紳士だよ!? でもバス停そこだよ? もう見えてるよ?
「わぁ、タロー君って紳士だね! 今日は帰り一人になっちゃったから心配してくれたんだ?」
でも心配してくれて嬉しい。ありがと、タロー君。
嬉しくなって笑顔でタロー君の顔を覗き込んだら、久々に顔が赤くなった。
「あっ、赤くなってる。照れちゃって、タロー君たら可愛いんだ!」
可愛いタロー君は久しぶり。ちょっと嬉しい。
「もう着いちゃったね」
「うん、もっと遠くても良かったのに」
まあ、最初からバス停見えてたもんね。最近大人びてきてたから、久々の可愛いタロー君をからかってみたくなっちゃった。
「ふふふっ、せっかく私と二人っきりだもんね? もっと一緒に居たい?」
「もう、からかわないでよ」
あれぇ、もう背伸びタロー君に戻っちゃった。可愛い方が良いのになぁ。
「私はもっと一緒に居たいなぁ」
何気なく言っちゃったけど、本当にそうだと自分の言葉で自分の気持ちに気づいた。
「タロー君だけじゃなくて、皆ともっと一緒に居たい。一緒に遊んだり笑ったりしたい。
せっかく仲良くなれたのに、もう夏休みで当分会えないもんね」
また転校とか病気とかで会えなくなるとも限らないもん。入院中は辛いし淋しいし、泣くとお母さん達が心配するしで大変だった。健康な日常を大切にしないとね!
「会えるよ、いつでも。呼んでくれたら毎日でも会いに行くよ」
ちょっと、嬉しくてキュンときちゃった。入院中の孤独を思い出して切なくなってたから。
「夏休みに神社でお祭りがあるの知ってる? 屋台が出て盆踊りがあったり、ちょっとだけ花火が上がったりするんだ。一緒に行かない?」
「うん、知ってるよ。黒崎さんとかと一緒に行く約束してるんだ。ごめんね?」
皆で行きたいけど、男子が居ると嫌って子もいるかもしれないし。
「い、いや全然良いよ! 僕は田中と一緒に行くことにするよ!」
田中君ね。その頃には黒崎さんと付き合ってたりして。それはないか。
「狭い会場だから、一緒に行かなくてもどこかで遭遇するんじゃないかな」
そしたら田中君と黒崎さんも遭遇しちゃうよ? まあ、仲直りしてるかな。
「そっかぁ、そんなに私の浴衣姿見たいのかぁ。じゃあ、一緒に廻れたら良いね?」
紳士タロー君より可愛い弟タロー君の方が好きなので、もう一度からかってみる。
「じゃあ、会えなかったら浴衣姿の写真送ってよ」
背伸びタロー君が仕返ししてきちゃった。
「えー? どうしようかなー?」
もっと恥ずかしがってるとこ見たいなー。
「リンゴ飴奢るからさ」
「えー? そしたら会場で会ってるじゃない。タロー君ったら」
それにリンゴ飴くらいで釣られないから! 年に一回くらいしかないレアな浴衣姿なんだからね!
夏休みになって、やっと両親からプールに行く許可が出た。もう皆旅行に行ったり帰省してたりで、黒崎さんと二人だけになっちゃった。
タロー君も誘ってあげたいけど、黒崎さんは嫌だろうから止めておいた。
それなのに、なんでいるのかな、タロー君。
黒崎さんとプールで遊んでたら誰かとぶつかっちゃって、振り向いて謝ったら、私の胸元をガン見するタロー君だった。
いや、ビキニ姿を見せてあげなくもないとは言ったけど、こんな近距離で胸元ガン見して良いなんて言ってないからね!?
「山田、どこ見てんのよ!」
「おっぱいですけど?」
黒崎さんの言葉に、ごく普通に何言ってんの、当たり前でしょ?くらいのトーンで、この人は!
恥ずかしくて潜って胸を隠して、えっちぃタロー君を睨んでやった。
「タロー君の、えっち…」
「なんだこの可愛い生き物は」
すかさずやり返されてしまいました。同級生に可愛いって言われるのって、両親に言われるのと全然違って、嬉しいけど凄く恥ずかしい。
黒崎さんからストーカー疑惑を掛けられてたけど、妹さんと遊びに来たんだって。
妹さん、とっても可愛い。私も妹欲しかったなぁ。両親は留学とか私が病気になったりとかでそれどころではなかったんだろうけど。
「あっ、可愛い! 妹さん、可愛いね! 私、本上華蓮。お兄ちゃんのお友達だよ。よろしくね」
「いや、君の方が可愛いよ」
吃驚した! 何小さな声でそんな事囁いてくるの! どうしちゃったの、タロー君! なんかドキドキしてきちゃった。
だって何だかタロー君日焼けして男らしくなってるし、何か体つきもしっかりして脱いだら意外と筋肉質だったりとか!
男子、三日会わざれば刮目して見よってやつだ。なんか、ほのぼのタロー君だったのに、スポーティータロー君になってるんだもん! な、なんかカッコ良くなっちゃってる!
見直して損した!
聞いたら私の水着目当てで、二日に一回プールに通ってるんだって。それであんなにガン見してたんだ。ちょっと恐いよ。
でも、どうやら鍛えたかったのがメインだって聞いてちょっとほっとした。
でもね、水着で一緒に写真撮る約束なんてしてないから!
こらっ、タロー! なんでキョトンとしてるの!
なのに何故か水着で一緒に撮ることになってしまった。恥ずかしすぎる。
「本上さんとはまだ友達になって短いから思い出が少ないじゃない? 僕と黒崎さんは同小だし僕ら夏は市民プールばっかりだったから、探せば一緒の水着写真も一枚くらい撮ってると思うんだ。
本上さんとも一緒の思い出を沢山作りたいな」
私アメリカに居たり入院してたりで、日本の友達がほとんど居ないの。だから、皆の小学校の思い出とか聞くと羨ましかった。
私も皆ともっと仲良くなりたい! 一緒の思い出ほしい!
今日のスポーティータロー君は私の弱いところを攻めてくる。むむむっ!
「タロー君、学校の時と全然違う…」
「必死になるくらい、本上さんが魅力的なんだよ」
きゃーっ! た、タロー君、どうしたの! なんか雰囲気イケメンになってるよ!
はぁ、ドキドキした。
スマホを構えたタロー君の目がちょっと恐いので、優香ちゃんに引っ付いて体を隠させてもらった。
優香ちゃんがカメラマンを替わってあげてた。優香ちゃん優しい。優しいけど、要求が厳しい。そんなに引っ付かないとフレーム入らないかな?
最後にスタッフさんに頼んで皆で写真を撮ってもらった。凄く嬉しい。
帰りにソフトクリームをご馳走してくれるというので、皆でバーガーショップに行った。
田中君、まだ黒崎さんに好きとも付き合ってとも言ってないんだって!
ダメだよ、田中君。女の子はちゃんと言葉にして言って欲しいものなんだよ? 皆好かれてるのか心配なの。そんな自信満々じゃないんだから。
私も言われてみたいなぁ。
「本上さん、付き合って」
もうっ、もうもうっ! 何なの、タロー君ってば! 私の心を読んだの!?
ドキドキしちゃうから、やめてよね!
暑い! 顔が火照って熱い!
もうテンパっちゃって皆何か話してたけど全然聞こえなかった。
何かよく分からない内に、黒崎さんがタロー君とイチャイチャしだして、ツーショットを撮ってた。
何だか胸がモヤモヤすると言うか、チクチクするような、落ち着かない感じ。何だか悔しくて思わず私も一緒に撮るって言っちゃった!
「わ、私も! 私もタローと撮る!」
私もタロー君と思い出写真撮るんだ! 黒崎さんの真似してタロー君に引っ付いた。
優香ちゃんが撮ってくれた写真は、何だかカップルみたいで恥ずかしいけど、嬉しかった。なんか、タロー君がカッコ良く写ってる。こんなに恰好良かったかな?
「この華蓮ちゃん、マジ可愛い! マジ天使! 僕、これ待ち受けにするよ!」
て、天使とか! あ、あと、華蓮ちゃんって、急に!
なんでこの人はいつも不意打ちしてくるのかな!
…私も待ち受けにしようかな。いやだめ。お父さんが見たら何て言うか分かんないもん。皆で撮ったのは水着だしなぁ。着替えてからもう一度撮れば良かったと帰宅してから思った。
英語の宿題をみる約束をしてたので、日にちを決めようと思ったら、タロー君がデートとか言う。
そんなこと言われたら、ドキドキして緊張してきた。どんな服着て行こう。
『僕達離れていても心が通じ合ってるみたい』
な、なんで私が思ってたのと同じ事を!?
『華蓮ちゃんと二人きりだとテンションが上がっちゃうんだよ』
『華蓮ちゃんの水着姿が可愛すぎるからテンション上がるのも仕方ない』
タ、タロー君が悪い大人になっちゃった!
学校の時と違って、凄くグイグイ来る。タロー君って、私のこと好きなのかな。そうなら、ちゃんと好きだよって言って欲しいな。
ち、違った! べ、別に告白して欲しい訳じゃなくて!
『仕方ない、仕方ないんや! こんな可愛い子がおっぱいを押し付けてきたら、男子中学生はおかしくなってしまうんや!』
ちょっと大人っぽくなってドキドキしてたのに! えっちぃタロー君のバカ!
でも、ちょっとだけ、ちょっとだけ、黒崎さんじゃなくて私に興奮してくれたのが嬉しかった。ちょ、ちょっと! ほんのちょっとだけ!
何だかんだでお家にお呼ばれしてしまったので、駅前の商店街でケーキを買って行く。学校で誰かが美味しいって言ってたの。
ショーウインドウに映る自分の姿を確認する。うん、ちゃんと清楚系で可愛いはず。
タロー君のお母様にご挨拶しないといけないから、清楚系のワンピースにした。
タロー君、可愛いって言ってくれるかな。い、いや、今のなし! 別にタロー君に可愛いって言って欲しくて、一時間も洋服迷った訳じゃないから!
なんか自分に言い訳しちゃった。
タロー君のお母様はとても優しそうな明るい人だった。
「僕の彼女可愛いだろ」
「かかか、彼女違う!」
そそそ、そう言うのはちゃんと告白されてから! じゃなかった! 違うから!
「彼女、照れ屋だから。ね、華蓮?」
「よよよ、呼び捨て禁止!」
タロー君の虐めっ子が酷い。すぐからかってくる。いきなり華蓮なんて呼ぶから吃驚して顔が熱い! そんな呼び方、か、彼女みたいじゃない!
お母様と優香ちゃんが助けてくれて、やっと落ち着いてきた。お母様にも悪い印象は与えてないみたいで良かった。
「妹と彼女以外は下の名前で呼ばないんだよ、思春期だから」
や、やめてー! せっかく落ち着いてきたのに、また彼女って言う! しかも私のこと特別だって言ってるようなものだからね!
「か、彼女じゃないし! じゃあ、私のことは本上さんだね!」
彼女扱いされちゃうから、もうちゃんと付き合うまで華蓮って呼ばせてあげないんだから! い、いや付き合う予定もないんだった。
「華蓮ちゃんは僕に会いに来たんだぞ!」
「ちょっ! ちがっ! 違わなくもなくもないけど、違うもん! ゆ、優香ちゃんに会いに来たんだもん! あと、華蓮ちゃん、言い過ぎ!」
ほ、本上さんって言ったのに!
「あらあら、華蓮ちゃんったらお姉さんだったのに、急に子供らしくなっちゃって」
お、お母様までからかうの止めてください!
もう泣きそうになってると、優香ちゃんが助けてくれた。優香ちゃんにアルバムとか見せてもらった。この頃のタロー君は子供っぽくて可愛いのに、今は何であんな虐めっ子なの!?
落ち着いてきたので宿題を見てあげたけど、物凄く適当に解答を埋めていた。
全然勉強してくれなくて、優香ちゃんとふざけ始めてしまった。
ちゃんと勉強しないと一緒に二年生になれないんだからね!
拗ねていたら、タロー君ったらニコニコしながら私の頭を撫でてきた。両親にしか触らせたことないのに! 私の初めてがこんな虐めっ子タロー君だなんて。でも、ちょっとだけ、気持ちいい。
なんか恥ずかしくなって怒ったフリをしてしまった。
「そんなに僕と一緒に居たいんだ。嬉しいな」
「なっ、ちがっ! ちがくもないけど、違うもん!」
もう、やめて! なんかタロー君が子供から急に男性になっちゃった。タロー君が私をドキドキさせすぎる。倒れちゃったらどうしよう。
「調子に乗ってごめんなさい、本上さん」
「うん、もういいよ。勉強しよう?」
ふざけてたと思ったら急に真面目になった。タロー君は真面目にしてた方が格好良いよ!
「これ、なんて読むの?」
「うーん、どれ?」
覗き込もうとして、腕が、素肌がちょっと触れた。そしたら、タロー君が止まっちゃった。
「タロー君、聞いてる? どうかした?」
タロー君の顔を覗き込んだら、急に顔が真っ赤になってきた! ね、熱中症!?
「あーあ、お兄ちゃん、真っ赤だよ? 何急に意識しちゃってんの」
えっ、さっきなんか頭撫でてきたりしてたのに!? 今更!?
えええっ!?
あれ、でも考えてみたらタロー君から触ってきたのって、頭撫でてきた時だけだ。あとは私からだった!
あれぇ? おかしいな? ハンバーガーショップのツーショットで引っ付いてたのも、あれ、私からだ!
『そんなの、痴女じゃない!…痴女じゃない…痴女じゃない…』
いつかの夏穂ちゃんの言葉が頭の中をリフレインする。ち、痴女じゃないもん!
あわわわ、は、恥ずかしくなってきた!
「な、なんか暑いね! べ、勉強はこの辺にしてお茶にしようか!」
真っ赤なタロー君の言葉に助すけられた思いで同意した。
恥ずかしいから一旦離れようと思ったら、手を掴まれた。離れたくないって、声が聞こえた気がした。
私より、大きな手。そっと私の手を掴んだ。
「ご、ごめん」
「う、ううん」
いつだったか、悪戯にやってみようと思ってた、触れ合いからの『ご、ごめん』
されてると吃驚するくらいドキドキした。冗談でやろうとしてごめんね。
男の子の手って大きいんだなぁ。私が小さいのかな。
「二人とも、なに青春マンガしてるの」
優香ちゃんの指摘に、私のドキドキがばれちゃったみたいで、凄く恥ずかしくなっちゃった。ああ、顔が熱い!
タ、タロー君って、私のこと好き、なのかなぁ。
家に帰ってお風呂に入りながら、今日の出来事を色々思い出してドキドキしちゃった。手くらいなら、もっと触ってくれても良かったのに。何だか触れ合った手が淋しい。
タロー君、好きって言ってくれないかなぁ。
あれ、私なんでそんなこと? あれ? あれれ?
わ、私、もしかして…
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