バーガーショップ
遊び疲れてお腹が空いた僕はスタバの向かいにあるバーガーショップに寄ることを提案した。
帰ればお母さんが夕食を用意してくれているだろうけど、だってもうちょっと本上さんと一緒に居たいし。
「お母さんが晩ご飯用意してくれてるから」
「うちもそうだよ。成長期の男子はお腹が空くんだよ」
「じゃあ、山田の奢りね」
黒崎さんはコーラだけな。
「優香は晩飯食べられなくなったら叱られるから、ソフトクリームくらいな」
「うん!」
「じゃあ、私もソフトクリームにしよっかな」
「黒崎さんは、ブラックコーヒーだね」
「なんでよ! 私もソフトクリームで良いわよ!」
なんか僕が全部出すことになっているみたいだけど、ここのソフトクリームは小さい代わりに百円だから大丈夫だ。
「クスクス。二人は本当に仲が良いのね。付き合ってるの?」
「「そんな訳ない!」」
「うわー、仲良し!」
「黒崎さんが田中と付き合ってるの知らないの?」
そんな訳ないと思うんだけど。
「えっ、まだ付き合ってなかったよね?」
「えっ、まぁ、そうね」
ええっ!? どういうことだ!
「ええっ!? つ、付き合ってないの!? プールでデートしてたのに!?」
「まだ付き合ってって言われてないもん」
めんどくせ。黒崎さん真面目だから面倒さいな。そんなの付き合ってるだろ。
「いや、田中の中じゃ付き合ってることになってるんじゃないの?
『夏穂が通話切らなくて寝不足だよ』とか自慢してたよ」
「ええっ!? あいつ、影で私のこと夏穂って呼んでるの!?」
「えっ、そこ? 食いつくのそこなんだ。『夏穂が俺のこと好きすぎて、すぐ妬きもち妬いて困るんだよ』とか言いまくってるよ」
「た、田中君って…」
ダメな奴でしょ。流石に黒崎さんの前では言いづらそう。
「田中さんサイテー」
優香、黒崎さんの真似しちゃダメ。変な男に引っ掛かるようになっちゃうぞ。
「付き合っても言えないくせに、私に夏穂なんて呼ぶ度胸もないくせに、あいつ!」
田中も黒崎さんも同小、もっと言えば同幼で幼馴染み。気の強い黒崎さんは田中のことなんてあいつ呼ばわりです。
黒崎さん、向かいのスタバを睨むのは止めて。あいつ等が本上さんに気付いたら、僕の命が危ないから。
「まあまあ。黒崎さんは言ったの? 付き合ってって?」
「そ、それは、言ってないけど…」
まあ、あれだけ派手に公開告白したら十分だよね。
「そこは男子から言って欲しいもんね!」
本上さんが拳を握りしめている。小っちゃな手! 可愛い! 好き!
「本上さん、付き合って」
「なななな! 何言ってるの! こんな時に冗談言わないでよ!」
言って欲しいって言ってたのに。まあ、冗談じゃなかったら言えないんだけどね。
振られたら引きこもる自信がある!
真っ赤になった本上さんが見れたから目的は果たせた。
「お兄ちゃん、サイテー」
優香、ちょっと黙ってろ。ソフト溶けるぞ。
「そういうこと冗談で言うのは本当にサイテー。本気なのをごまかして冗談に逃げるのはもっとサイテー」
やめて、黒崎さん。僕が悪かったから。もう言わないから。ごめんなさい。
「ごめんなさい」
「も、もう! 止めてよね! ちょっとドキドキしちゃったじゃない!」
いやぁ、本上さんは可愛いなぁ。
「ヘタレ山田はどうでもいいわ。田中のヤツ、ちょっと下手に出てたら調子に乗って!
本上さん、写真撮って! 山田、ちょっとこっち来なさい」
黒崎さんが僕の腕に抱きついて肩に頭を乗せた。むむむっ、柔らかいものが腕に! そして良い匂い!
「えええっ! そ、そ、そんなことしちゃダメだよ!」
純真な本上さんがあわあわしている。アメリカンな帰国子女のくせに意外だ。
「私も嫌なんだから早く撮って! 山田の顔は入れなくていいから!」
なんだよ、黒崎さん。ちょっと好きになりかけたのに、童貞の心を弄びやがって。
「じゃあ、私がとってあげるね!」
優香が僕のスマホで写真を撮った。ナイス優香。黒崎さんか本上さんのスマホだったら、僕に写真をくれなかっただろう。
「ありがとう、優香ちゃん。山田、送って!」
「はいはい、送信」
「田中め! これで身の程を知るが良い!」
黒崎さん、本当に田中のこと好きなの?
「わ、私も! 私もタローと撮る!」
どうした、本上さん。なんかおかしなノリになってるぞ。嬉しいけど。
本上さんは黒崎さんと入れ替わって、僕の腕に抱きついた。
柔らけー! お、おっぱい、当たってる! 良い匂い!
黒崎さんには悪いけど、本上さんはレベルが違うな!
サイコー!
「わ、私は顔も入れてくれていいよ!」
「分かったー!」
優香がまた僕スマホで写真を撮ってくれた。
黒崎さんは鼻息荒く、フーフーいいながらメッセージを送っている。
それ妬きもちやかせるのはいいけど、顔写ってなくても僕ってバレバレじゃない?
だってあいつ向かいのスタバにいるし。
刺されるの嫌だよ?
スマホを返してもらい、本上さんと写真を見る。
やっべ! 本上さん、マジ可愛いんですけど!
恥ずかしそうに微笑む本上さん、マジ天使なんですけど!
優香、カメラの天才だな! お父さんの一眼レフ持ってくれば良かった!
二人でスマホを覗き込んで、彼女の髪が僕の頬に触れる。
写真に気を取られた本上さんは僕の二の腕におっぱいを当てたままだ。
これは流石に夢かな。
夢じゃなかったら、帰りにトラックに跳ねられて異世界転生だな。
夢なら華蓮ちゃんって呼んでみようかな。さっき、タローって呼び捨てになってた気がするし。
「この華蓮ちゃん、マジ可愛い! マジ天使! 僕、これ待ち受けにするよ!」
言ってやったぜ! 黒崎さんの気がスマホに向いているうちに言ってやったぜ!
「か、華蓮ちゃん!?」
「あ、ごめん、嫌だった?」
「ううん、嫌じゃないよ!」
やっべ! 肩抱いたら不味いかな? 夢だとしても流石にそれは田中だな。やめておこう。
おい、優香ニヤニヤすんな。分かった。肝臓と骨髄もだな? さすがに心臓はやれんぞ?
その後も黒崎さんがメッセージをやめて指摘してくるまで、今日撮った写真を見ていた本上さんは僕の腕に抱きついたままだった。天然小悪魔華蓮ちゃん最高。
僕は当然指摘しないよ? 当たり前じゃん。
優香もニヤニヤしながら指摘せず見守ってくれていた。さすいも!
本上さんが離れた後も、僕はしばらく諸事情で席を立つことができなかった。
もう帰らないとと言う本上さんを送りたかったが、僕は席を立つことができなかったので、お腹が痛いと言って先に店を出てもらった。
コーラをチビチビ飲んでクールダウンしていると、店の外で黒崎さんと田中が口論しているのが見えた。
まあ、どうでもいいか。本上さんは居ないみたいだし。
なんだかんだでどうせ付き合うんだろ?
あっ、田中がビンタされた。黒崎さんってすぐ手が出るよね。恐いなぁ。
田中半泣き、黒崎さんギャン泣き。
あっ、田中抱き締めた。
今度はビンタされてない。
どうやら和解成立したみたい。田中は尻に敷かれること決定だな。
よく考えたら、田中は黒崎さんとしかデートしてないのに、黒崎さんは僕とプール行ったり、腕組んだりしてんだから、黒崎さんの方が悪いのに、女って怖いわぁ。
「黒崎さんと田中さん、くっついたね」
「ああ、昼ドラみたいだな」
面白いから写真を撮っておいた。後で本上さんと黒崎さんに送ってやろう。動画にすれば良かった。
こんな地元の駅前でよくやるよね。だって田中の家すぐそこの商店街のスーパーだよ?
こんな所を親に見られたら僕なら恥ずかしくて家出するね。
あ、田中の親父さんだ。配達から戻ってきたんだな。
あーあ、お父さんに目撃されちゃったな。
まだお母さんよりマシか。
「帰ろっか」
「うん!」
僕達は店を出て、道の真ん中で昼ドラ中の田中に手を振ってやった。
僕達に気付いた田中は、冷静になったのか、真っ赤になってキョロキョロしだした。
幸せになと口パクで告げて、僕らは家路についた。
いつもなら田中もげろと言うところだが、今日は幸せ過ぎて田中の幸せも応援してやりたくなったのだ。
さっきまで応援してなかったけど。
黒い山田君は、天然小悪魔華蓮ちゃんに浄化されて白い山田君になっているのだ。
帰宅して夕食を食べた後、僕はゴロゴロしながらメッセアプリを起動し、スクープ写真を送信した。
『スクープ!まるで昼ドラ!?』
『本日夕刻、買い物客で賑わう駅前の通りの真ん中で、黒崎夏穂と田中健が二人だけの劇的空間を作り上げた。
浮気性の田中に激怒した黒崎は、とある親切な紳士とのデート写真を捏造し、田中に送りつけるという、『妬きもち大作戦~あんたなんか私だけ見てればいいんだからね!~』を決行。
慌てた田中は偽装デート現場に駆けつけるも、一向に告白もしないくせに彼氏面の田中に鬱憤の溜まっていた黒崎のビンタが炸裂。
『浮気現場に駆けつけたら逆にビンタされたでござる』状態で田中は半泣きに。
しかし加害者の黒崎は、まるで被害者のように号泣し、田中の非を責め立て自己正当化に成功。
勢いに流された田中はその場で黒崎を抱き締め、二人は付き合うことになったという。
ただし、この場に及んで『付き合って』というキーワードを言わなかったことで、二人の間には禍根が残っている模様。
今後の展開に目が離せない。
目が離せないと言えば、同現場に配達を終えた田中パパが偶然居合わせ、顧客や昔馴染みが沢山いる駅前で昼ドラ空間を繰り広げる息子から目が離せなかった模様。
ちなみに現場は商店街にある二人の実家から丸見えの位置である。
女の子を泣かせた田中が地元で窮地に陥ること、また今後浮気も許される環境ではなくなったことは想像に難くない』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます