うつ病だけど。それでも。

まほろば

優しくて残酷な、どうしようもない世界で

 僕がうつ病になったのは、十八の時でした。

 ちょうど、大学に入りたての頃でしょうか。自立しなければという使命感、将来に対する期待、兄弟や周囲への劣等感。

 色んな事が重なった結果、僕はいつの間にか家に居て、地元の精神科のある病院に通っていました。

 投薬と、カウンセリング。合わなければ次の病院で違う薬をもらい、両親の言うがまま、判断のままに僕は色んな薬を試しました。


 結果。

 癲癇になりました。確か、七月三十日の事だったと記憶しています。

 メンタルクリニックで貰った薬が合わなくて、検査入院して。少し落ち着いて、家に帰りたいと考えていた、と思います。

 思いますというのは、そこから先、僕がどうしていたのか覚えていないからです。大きな発作を起こしたとは聞いているのですが、そんな事さえ、僕は全く覚えていません。

 いつの間にか目が覚めて、病室でいろんな検査をしたことは覚えています。


 退院後は、地獄でした。数週間は、外に出られませんでした。薬を飲んで、寝てるだけ。本もテレビも、ゲームも控えるようにと言われていたからです。

 何回目かの検査で、外に出ていいと言われました。ただし、誰かの付き添いは絶対で半径五十メートル以内とか、制限が付きましたけど。

 一人で出歩いて良いと言われるまで、何か月もかかりました。自転車に乗っていいと言われるのも。


 大学に復帰した後も、薬の副作用が辛くて、授業を何回も休んだりしていました。どうしてうつ病になったのか、健康だったはずなのにと考えて、考えて、考えて。

 答えが出なくて、うつ病を再発して、結局中退しました。

 いえ、中退を決めたのは僕の意志です。だから、僕が全部悪いのだと、今ではそう考ることにしています。

 両親には申し訳なくて、僕は少しでも恩を返そうと今でもアルバイトを続けています。




 僕は、今でもうつ病の治療を続けています。癲癇の治療も。

 今でこそ回復してきましたが、恐らく僕は立派な職業に就くことは難しいでしょう。

 いいえ、違いますね。自分が諦めてしまっているだけです。

 世の中には、障害を抱えながらも生きている人がいます。輝いている人が大勢います。

 なのに。自分には無理だと、どうせ上手くいかないからと目を閉じ、耳をふさいで蹲っているだけです。


 それでも。自分から閉じた世界の中でも。

 僕は生きていたいんです。優しくて残酷な、どうしようもない世界の中で。

 打開策を見つけなければと焦燥感に怯えて、それでも両親へ恩を返す為に働かなければと、国民の義務を全うするために。

 僕が迷惑を掛けてしまった人たちに謝る為に。


 自己の中に大きな矛盾を抱えながら、僕はこれからも迷い続けるのでしょう。

 その迷いが晴れる日が来るのでしょうか。前を向いて歩ける日が来るのでしょうか?

 多分、来ないのでしょうけど。

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うつ病だけど。それでも。 まほろば @ich5da1huku

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