第11話
「どういうことですか?」
そのまま、僕は聞いてみた。麻奈さんによって、ベッドの上に押し倒された。
それが偶然ではなく故意的なものなのは、彼女の目を見れば明らかだった。
「何が?」
「なんで、僕は押し倒されるんですか?」
「わからない」
わからないって・・・・・・そう、あきれ声を呟こうとしたところで、僕はやめた。
どうせ、何を言っても理解してくれない。なにせ押し倒した張本人なのだから。
「退いてください」
「んー・・・・・・・・・・・君が私のお願いを聞いてくれるなら退いてあげる」
「それを断ったとしても、貴方が先生に見つかって被害をこうむるだけですよ」
「ありゃりゃ、なかなか手強いな」
心の底から楽しそうに、麻奈さんはそう言う。慣れているのか、彼女は笑みを浮かべたまま僕の顔を見つめている。
どうしようか。どうしようもない、という意見を押し殺して、僕は思考を続けた。
そうでもしないと、落ち着かない。僕だって年頃の男子だ。
「それにしても、君は本当に男かい?」
「そうですよ、僕も健全な男子です」
「とてもそうは思えないなぁ・・・・・・・・・・・・」
性別を否定された。
しかも、それを麻奈さんは本心で思っているのか表情も困惑しているようだった。
「・・・・・・・・・なんでですか?」
「だって、君の君が元気にならないんだもん」
「・・・・・・・・・・・! 貴方は、女子としてもう少し慎みを持った方が良いですよ」
そう皮肉で返すのが、精一杯だった。無理。
僕にその手の話は振らないでほしい。案外ピュアな心なのだ。
「あれ? 君ってもしかして初心? ・・・・・・ふふっ、可愛いなぁ~」
「止めてください」
「どうしよっかなぁー?」
先程とは打って変わって、楽しげな雰囲気の麻奈さん。正直、被害にあっている僕としては今すぐに戻りたい。
視界を少し上に向ければ、既に夕方の時刻。
「バイトがあるんです」
僕にできる、最大限の抵抗がここまでだ。僕の力で彼女をどうにかすることは、無理ではないかもしれない。
けれど、少なからず彼女、そして僕にも被害がでてしまうことは理解できる。
だからこそ、僕はこんな手段しかとれない。
諦めたように、僕は僅かばかりの抵抗を止めた。これで――
「そっか、じゃあ、いただきまーすっ!」
(え?)
何の躊躇いも無く、嬉々として彼女は僕の腰辺りへと視線を向けた。
僕を押さえ付けていた片手が外れ、腰の間へと伸ばされていき―――
「!」
「……きゃっ?!」
咄嗟の判断で、僕は麻奈さんの背中に両腕を回し、抱きしめるようにして横へと転がった。立場逆転。
今度は僕が麻奈さんの上から押し倒すような姿勢になった。急な僕の行動に、驚いたのか麻奈さんの目がきょろきょろしている。
どうやら、三半規管が一時的に麻痺しているようだ。
「失礼、しました・・・!」
言葉少なげに謝り、そして介抱への礼を告げて、僕は走り去るように保健室を飛び出した。
もう下校時刻は過ぎており、部活動の人たちが校庭で汗を流しながら走っているのが見えた。
未だに茜色の空が広がる、5:47分。僕は昇降口を、学校から逃げ去るように走り抜けた。
麻奈さんの事も、夢の事も、声の事も。
きっとこれは、悪い夢で―――でも、それは僕についてを語るナニかで。
必死に追い求めているナニかを封じ込めるように、全力で走りながら、僕はアパートへと向かった。
そういえば、『彼女』が近くに居ないことが、珍しく思えた。
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~後書き~
メリークリスマス!といっても、その月になっただけですね。
12月になったお祝いも兼ねて、早めの今日に仕上がるように少しプライベートを削りました(*´ω`)
此処まで、私の拙作をお読みくださり、ありがとうございますっ!
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