第9話
誰にだって、知られたくない過去はある。この場合、それはある一定のラインを超えていない人間に言える。
そしてもう1つ。僕のように――
「何でだろうね」
静かに、言葉は空中を彷徨って消えていった。僅かばかりの反響も闇に沈むように遠くへと消えていく。
ズキリと、頭が痛かった。僕の頭だ。カキ氷を食べた訳でも、脳がオーバーヒートを起こしている訳でも無い。純粋に、ただただ事実として痛い。
――【お前に価値は無い】
深く、重いナニかが走馬灯のように目前に現れた。映し出されたソレに視界が一瞬にして奪われ、小さな階段でつまずく。
「ッ!」
バランスを崩して倒れかけたところを間一髪で立て直せば、ソレは消えていた。まるでAR――拡張現実――のように目の前に映し出されたように見えたあれは、何だったのか。
考えるよりも先に、僕の頭は拒絶するかのように意識を遠ざけていっていた。僕自身が深く理解出来る。
――何かが可笑しい。変なのは、自分だ。
正体不明のナニかに追われるかのような恐怖が背中を駆け巡り、僕の呼吸を荒くしていく。行く先も決めずに、僕は誰も居ない廊下をただ1人歩く。
――(あれ?)
ふと、視界に留まったのは1つの表札。クラスを示すそこに書かれているのは、数字と-から成る文字。今は何処なのか、それを確認するかのようにそこを見れば――
【 用 無 し - 消 え ろ 】
(・・・・・・・・・・・・ッ!!)
理解するのに要した時間は、たっぷり2秒にも及んだ。理解した今でさえも、その現実を拒絶するかのように脳が揺さ振られている。
グワン、グワンと視界がゆっくりと揺れていく――次第に、強く、速く――――
「・・・・・・・・・・あ・・・・・れ・・・・・・?」
【お前なんか、産まなきゃ良かった・・・・・・・・・・】
――深く重く、少しだけ高い声が耳に聞こえた気がした。
けれどそれを否定し、拒絶するように意識は遠退き、やがて―――
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夢を見た気がする。自分が自分じゃない、誰かの人生を綴るような、そんな夢。その中で私は、1人の少年に会った。
「
「そうですね、誰にも会わないで休憩のできる場所を探していたんです」
不思議な人だなぁ、って。夢の中だとわかっていたから、私はそう思った。
そのまま、自然に話すんだ。
「それで、見つかったの?」
「・・・・少なくとも、君以外の人は来なかったですね」
「それじゃあ、成功?」
「いえ、失敗です」
「ふふっ」
知ってた。そんな言葉を飲み込んで、私は面白そうに笑った。そんな風に語れるんだから、やっぱりこれは夢だと思う。
けれど、どうしても気になる。彼が、何処か、何か――
「そうだ。君に聞きたいことがあるんですよ」
「どうしたの?」
――あれ?
だんだんと、意識が遠ざかっていく。視界に靄が掛かって、まるで「ここまで」って言われてるみたい。
「――――。―――」
流石に、唇の動きで内容は聞き取れないよ。
苦笑しそうな私は、心地良い感覚に任すようにしてその世界を去って行く。名前も知らない彼の、何処か寂しそうな顔を見ながら。
(さよなら)
――随分、短くて鮮明な夢だな。
最後まで、なんだか呑気な私だった。
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