第94話 文化祭2日目 ⑤

「わかりました。ゲストの変更とステージの司会の担当変更ですね」


 俺は職員室を介して客員室に入ると、先ほどの渉とのやり取りの中でいくつか変更になったことを伝える。さっきまでここにいた渉は向島先生に連れていかれて、講堂へと向かっている。

 それにしてもゲストが渉に変わったというのに涼香はあまり驚いた様子はない。

 身内の自慢のように聞こえるかもしれないが、上代渉といえば今や知らない人の方が少ないほどの俳優だ。実行委員会の生徒たちに伝えたときは発狂せんばかりに喜んでいたというのに。


「どうかしました?」

「いや、驚かないんだなって」

「驚いてますよ。でも、私には遠い存在で現実味がないといいますか。そんなに大騒ぎをすることことでもないですし」


 確かに、俺だって芸能人が近くにいても大騒ぎすることはしないだろう。渉の伝手から知り合った芸能人もいるが、あそこまで発狂したりはしなかった。


「それと、パレードのことにもちょっと変更があって……」


 その後もいくつかの変更点を伝えていく。


 ……

 ………

 …………


 俺は涼香と一緒に講堂へ向かう。

 俺は制服から着替えていつものスーツ姿になっていた。

 ステージ横のカーテンを少し開け講堂の様子をうかがう。

 既に講堂は満員状態だった。一般客席分も完全に埋まってしまっている。

 どんなゲストが来るかは知られていないはずだが、今までの静蘭学園の文化祭に参加していた人は興味があるのだろうか。


 渉を呼びに行くため控室に向かうと、控室の扉にはこっそりと中を覗き見しようとしたり耳を澄ませている女子生徒を見つける。これが男子生徒だったら社会的に死ぬぞ。


「こら、何やってんだ」

「あ、高城先生……」

「さ、さっき実行委員会の通達で聞いたんですけど、今日のゲストが上代渉って本当ですか!?」


 期待するかのように尋ねる。

 俺は内心ため息を吐く。


 ここに居るのは俺の呼び出しの際にその場にいなかった実行委員会の女子たちだ。

 情報を聞きつけてやってきようだ。この分だと、もしかしたら一般生徒にも口の軽い生徒から情報が流れているのかもしれない。


「本当だ」

「「「「きゃあ♪」」」」


 声をそろえて嬉しそうな声を挙げる。


「会わせてもらえませんか?」

「さっき握手もしてもらったって聞いて」

「私たちはしてもらってません!」

「不公平です」


 何が不公平だ。あれは俺の呼びかけに応じてくれた子へのご褒美みたいなものだ。

 期待していたように俺を見ているが――、


「ダメだ。上代さんだって忙しいんだぞ。そろそろ始まるから持ち場につきなさい」

「……行こ」


 俺が断ると不機嫌そうに唇を尖らせながら去っていった。


「なんだか、かわいそうな気もしますね」

「今まで実行委員会の仕事をさぼって人に押し付けているばかりの子にあげられるものはない」


 俺が実行委員会の仕事を見ていなかったとでも思っているのだろうか。

 さっきここに居たのは、昨日の見回りどころか今日までの準備すら何かと理由をつけてサボっていた子たちばかりだった。


「ま、ちょっとした俺からの罰ということで」


 俺に説教食らうよりはいいだろう、働かざるもの食うべからず。

 俺はノックし了承の声が聞こえると控室の扉を開けた。


「上代さん。そろそろ出番です」


 渉には俺のスーツを貸しておいた。

 さすがにミイラ男の格好でステージに立たせるわけにはいかない。


「はい。ん? その子は?」

「さっき言っていたパレードのお姫様です。俺の手伝いで一緒に来てもらいました」


 ミスコンで優勝してしまった彼女はパレードで一番の花形だ。

 毎年、静蘭学園のハロウィンパレードはお伽噺の登場人物に仮装することになっている。その花型の隣を歩くのはゲストというのが通例だ。


「なるほど。では、そろそろ行きましょうか」


 渉は立ち上がると俺と涼香の間を通り過ぎて、控室から出ていく。

 涼香に頼みごとを伝えると控室前で別れる。

 ステージの脇にまでたどり着くと、実行委員会の生徒やうわさを聞き付けた先生方が小さく黄色い声挙げる。


「では、今日はよろしくお願いします」

「はいう」


 渉がニコリとほほ笑むと司会を担当している女子は舌を噛んだ。俺は役割もあるのでステージ横で待機させてもらう。


 開幕の音が鳴ると講堂の明かりが消され、徐々にステージのカーテンが開く。スポットライトの当たる場所に司会の子が立つ。


『本日は、静蘭学園文化祭にご来場頂き誠にありがとうございます。みなさま大変お待たせいたしました。ただ今より「ゲストトーク会」を始めさせていただきます』


 渡しておいたトークイベント用の司会台本を読み上げていく。即興で作った割には十分だろう。


『まず初めに、本日のトークイベントの主宰であります、高城先生よりご挨拶を申し上げます』


 生徒からマイクを受け取り、司会の生徒と入れ替わる。。

 ライトの熱に多くの人の視線を感じながら話すのは緊張しないといえば嘘になる。軽くせき込み声の調子を整える。

 ステージの上からは前方に静蘭の学生、後方に一般客が座っている。ステージ近い位置には観月たちが座っており、一般客の中に歩波と透が一緒に座っているのが目に入った。大桐はあの巨体を隠す方が難しいだろう座席二人分を使っていてかなり迷惑だな。百瀬は荒田先生に腕を組まれて拘束されている。


『まずは、簡単に今回のゲストの方のプロフィールを紹介させていただきたいと思います。どんな方がみえたのか考えてみてください』


 昨日の今日どころか本の数時間前に決まったゲストだ。

 正直段取りも心もとないし、時間稼ぎの目的で多少の抵抗はさせてもらう。


『年齢は21歳と若い方です。高校を中退されて俳優の道を歩まれました。初主演は特撮『ソルジャーライダー』で一躍脚光を浴び、以降様々なドラマで主演を演じておられ、数々の賞を受賞されました』


 俺の紹介に講堂の中の空気が変わる。

 ざわつく講堂内に黄色い声が混じり始める。まさかの期待が現実に訪れようとしていて「じれったい」という声が聞こえてきた。


 俺は振り返り、渉と視線で合図をする。


「それでは、来ていただきましょう。ゲストの上代渉さんです」


 俺の紹介と同時に渉がステージ上に姿を現す。


「「「きゃあああぁあああああああぁあああああああ!!!!!!!!!」」」


 女性の声が圧倒的に多い、講堂の窓が割れんばかりと大音量の歓声と熱気に押される。

 司会の位置からは講堂内を広く見渡せる。

 必死に拍手をしている生徒や泣きだしている子までいる。席を立とうとするものまで現れるがそれはステージ前に配置しておいた警備員さんにしっかりと阻まれる。


『今回は、あまり時間は取れませんが上代さんと語り合いましょう!』


 司会の子の説明は聞こえていないようで、視線は常に渉に固定されていた。

 講堂の人たちが叫び続ける中、渉は実に堂々としていた。あいつにとってはこれが日常なのかもしれないが、少しはこの混沌を収める努力をしろ。


『静蘭学園のみなさん。初めまして。ご紹介にあずかりました上代渉です。今回、高城先生に声をかけていただきこの文化祭にゲストとして参加させていただくことになりました!』


 伸びやかなハイトーンボイスが講堂内に響き渡る。

 渉が言葉を発するとさらに会場のボルテージは上がっていく。もうこうなっては俺では収拾がつかないだろうな。司会の子にマイクを返し俺は奥へと引っ込んだ。


『短い時間ですが、今日はよろしくお願いします!』


 マイクを持った渉はノリノリで話し始める。


『では、上代さんに聞いてみたいことはありませんか?』


 講堂何にいる生徒や一般客に問いかけると一斉に手が挙がり出す。

 規模は全然違うがクラスで行った対面式の時を思い出した。


 渉は十代後半でデビューし、一気にアイドル的人気を博しつつ演技力の高さも評価されている実力派俳優だ。

 プロフィールもあまり明かしていないことで有名でこんな機会はもう二度とないだろう。それにプロフィールをあまり明かしていないのは我が家の家庭環境を守るためということもあり事務所もNGを出しているからである。


『じゃあ、まずは……先生から行きましょうか』


 司会の子は苦笑いで指名すると、えぇ―……という声が挙がる。

 指先まで真っ直ぐ、天井から糸で吊るされているように手を挙げていたのは静蘭学園の教師である女性教師だった、完全に権力を使ったよ。

 近くにいる実行委員会の子はマイクをもってその先生の元へと走っていき、マイクを渡す。


『あ、あの、静蘭学園で教師をしています。小岩井と申します、いつもTVなどで拝見させております』

「ありがとうございます。小岩井先生」


 名前を呼ばれて顔を赤らめる小岩井先生。向島先生と同じリアクションをしているよ。ちなみにこの2人は仲良くお局様と影で呼ばれている。


『ご趣味は』


 お見合いかっ!

 みんな心の中で思っているツッコミだろう。

 まるでいつも尋ねていることがそのまま出てきた感じだ。本人も自分が発した言葉に気が付いて顔を赤くしていた。


『趣味ですか……演技の幅を広めるためにいろいろなことに手を出していまが……仕事を関係なしで言うなら、スノーボードですかね。あ、あとフットサルも好きです』


 フットサルは忙しくて顔を出せないが俺が誘って一緒にやっている。スノーボードは俺の大学時代の友人たちが一緒に付き合ったこともある。


 だが、ダウト!

 こいつの趣味といえば休日には一日中ゲームだ。。

 どちらかといえばゲームの方が趣味といってもいいくらいだ。派手なアクションシーンとかが多いからインドアなイメージは誰も想像しないだろうけれど。


 質問の答えの後に簡単な会話をすると小岩井先生は礼を言い座る。

 そして、司会の子が次の質問を促す前に手が上がり始める。

 次に静蘭の生徒を指名した。


『嘉向といいます。……俳優としての活動を始めたきっかけは?』

『俳優を目指そうと思ったのは、あこがれの俳優がいたからですね。あ、この俳優は誰かは秘密です。ごめんね』


 軽く小首をかしげながらも答え方に会場からは「かわいいー」などの声が挙がる。

 もうすでに会場の空気は渉に主導権を握られている。もう渉が何を言っても黄色い声が挙がるんだろうな。


 次も静蘭の学生に声がかかった。


『加藤といいます。あのぉ。今付き合っている女性の方はいらっしゃいますか?」


 結構踏み込んだ質問をしてきたな。

 一応、答える質問は事務所の社長から決められているみたいだけれど。恋愛事情は事務所NGな質問だ。ただでさ恋愛方面でいろいろ記事になることが多いのだから。


『いません。今は仕事に集中したいです。あ、GISELEの春日井さんとの交際のうわさがありましたけど、あれはデマですので』


 渉の言葉を聞くと安堵の息が聞こえてくる。

 話題作りで交際報道がされると聞いたこともあるので、きっとそのようなものだろう。


『次は……そちらの男の子にお願いします』


 マイクが渡された相手は陽太だ、隣には大家さんもいる。


『どうしたらソルジャーライダーになれますか?』


 マイクを両手で持って何ともかわいらしい質問をする。

 だが解答には困る質問だ。

 大家さんもちょっと困った顔をしている。


『そうだなー、ボクには好きな人はいる?』

『うん! お母さんと、お姉ちゃんとにいちゃんとレオくんと、みいちゃんと……』


 次々に出てくる大切な人の名前に会場の空気が和む。

 っていうか、陽太可愛すぎだろ。ここに居たら思いっきり抱きしめてるところだ。


『ソルジャーライダーは大切な人を守れなくちゃいけない。その人たちを守れるくらい強くなったらソルジャーライダーになれるよ』


 子供の夢を壊さず、大切なこともしっかりと伝える100点の回答だ。

 小学生の時に同級生イジメられていた奴がここまで成長してくれるとは……。


 その後もいくつも質問が飛び交う。

 時折、プライベートに迫ってくるような質問をされたが渉はうまく切り返し、つつがなくトークが終わりの時間に近づいてくる。


『では、時間も迫ってまいりましたので、次で最後の質問にさせていただきたいと思います』


「えぇー」という落胆の声が聞こえてくるが、司会の子はそれに動じず最後の回答者を指名した。


『これからの夢は何でしょうか? あと役者になるために必要なことは? よかったら教えてください』


 この質問をしたのは演劇部の生徒だった。

 役者になることが目的ではない、しっかりとその先を見ている質問だ。この子は将来役者を目指そうとしているのだろう。


『……そうですね。一緒に仕事がしたい監督がいるのですが、その人が「使いたい!!」って、「お前しかいない!!」って言われるような役者になりたいですね。今の僕の夢はその人が撮りたい作品のための役者になることです』


 渉が答えると会場から、驚くような声が聞こえる。

 渉は煌びやかなイメージで天才的な能力の持ち主だが、血の滲むような努力により才能を伸ばしていることは関係者以外には知られていない。あらゆる経験はすべて役者としての自分のためだ。


『あと俳優にはなるにはルックスが重要だなんて世間は思っていることが多いですが、僕は、それだけを評価されるのは非常に不快ですね。顔をほめられるより、演技をほめられた時の方が嬉しいです。生まれ持ったものは自分を慢心させるだけです。成長する中で得たものが何より必要なことだと思います』


 渉は生まれ持った才能を徹底的に否定している。

 俺は俺で才能というものは存在していると思っている。

 

 だが、努力を否定はしない。

 それはそれで夢見がちだとは思うが幼いころから努力をしてきていることを知っている俺としては否定することはできない。

 渉は少なくとも母親から与えられたものを認められてもうれしくないと思っているのだろう。あいつの演技の才能は祖母から遺伝したものだと俺は思っている。母が……あの女が俺たちに与えたものなんてあいつは願い下げだろう。


『だから、人生というのは自分が選択して貫くしかないと思います。僕は何があっても今の道を選んだでしょう。誰かに言われたからなんて理由で諦められるほど僕は素直な性格ではないので』


 さすがに高校を中退して背水の陣で挑まれたら応援するしかない。

 こういう思い切った性格はいったい誰に似たんだろうか。


『みなさんは「こんな夢を言ったらみんなに不可能だって笑われる」「親はこの夢に対してなんていうだろうか」「そうして自分にはきっと無理なんだ。だってほとんどの人が言ってるから」と意外と周囲に振り回されていませんか? 自分の限界に蓋をして、何もしていないのに挫折してほしくないです」


 夢をあきらめる挫折は大抵は何もしてないからだろう。


『これは俺の考えですので、必ずしも正しいとは言い切れません。参考程度に考えてみてください』

『は、はい! ありがとうございます!』

『それにこんな人の話もあります」


 ここで話が終わるかと思いきや、まだ渉は話を続ける。


『俺の知り合いにサッカー選手を目指している人がいました。しかし、その人は外傷で夢を諦めるしかありませんでした』


 おい、誰の話をしている。

 渉の知り合いでサッカーをやっていたはたくさんいると思う。

 だが、一瞬俺と目が合ったのは気の所為じゃないだろう。歩波も透も俺を見るんじゃない。


「ですが、また新たな夢を見つけて実現させました。僕は純粋にその人のことを尊敬していますし、目指す人間の一つの形だと思っています」


 やめろ。

 これ以上恥ずかしい話をするな。聞いているこっちは死ぬほど恥ずかしいぞ。

 けれども俺の名前を出さないだけマシ……


「今はその人は教師としてこの学校に勤めてますので、相談に乗ってくれると思いますよ。ねえ、高城先生?」


 講堂の人たちに視線が俺を見て、なにやらひそひそと話をし始める。


 これから面倒事になるのはまず間違いないだろう。

 そんな予感を残しながら渉とのトークショーは終了した。


 ……

 ………

 …………


「どうよ。俺のトーク術はイタイ! イタイ!!」


 控室に戻ると俺は無言で渉のドヤ顔の面をつかみ、握力を使って締め上げる。

 悲鳴を挙げている姿は先ほどの舞台の上と同一人物には思えないだろう。兄妹の中でのこいつの扱いは最下位といってもいい。


「なにすんだよ!」

「何であそこで俺の名前を出したのかなぁ??」

「事実だし! いいだろ!」

「よくねえよ! ただでさえお前と似てるって騒がれてんだぞ!」


 これで俺と渉が昔のことを知っている親しい関係だということが分かっただろう。勘のいい人であれば俺と渉の関係に気が付くかもしれない。それに――、


「歩波が前の学校でお前と兄妹だと知った連中にいじめられたのは知ってんだろ!」


 前の学校に一緒に遊んでいた友達がいた。

 その友人たちは歩波と同じように声優を夢見る子たちだった。

 その子らには渉とは兄妹だということは伝えてあった。ただ、そのころの渉は知名度はそれほどもなかった。売れてくるようになると紹介してほしいと話をされたらしいが「向こうも忙しいから」と断ればすぐに折れてくれた。だから、この話はここで終わるかと思っていた。


 後日受けた声優事務所のオーディションに合格したのは歩波だけだった。

 それはその友人たちにとっては許されないことだった。


 歩波だけが合格した理由は渉とのコネクションがあるからだと学校内に広められた。事務所はそんなことは関係なく、純粋に歩波を評価してくれていたようだ。


 だが、クラスメイト達からあらぬ誹謗中傷を受けたと聞いている。

 さらに、渉との関係を確かめようとした性悪なクラスメイトにスマホを盗られ、歩波の連絡先が校内に拡散されたのだ。個人情報を出会い系のサイトに情報登録をされ、見知らぬ相手からの着信は電源を入れれば続き卑猥な誘いの電話が絶えず歩波を追い詰めたという。


 無論、こんなことをした元友達や事態を黙認していた教師たちには、景士さんと成恵さんからしかるべき対応がとられた。


 こっちに来てから歩波は付き合う人を極力選ぶようになったと思う。観月たち以外との友人関係を見ていると深く関わろうとせず壁を感じるのだ。


 渉は俺の拘束を振り切り、頭が痛いのかこめかみ当たりを押える。頭が痛いのはこっちだっての。


「どのみち兄貴が俺を呼んだってことで、何かしらの伝手があると思われてるよ」

「ぐっ……」


 確かに渉に頼んだのは俺だ。


「それに今日の盗撮野郎も言ってただろ「こんなところで“ほなみん”に会えるとは思わなかった」ってさ」


 “ほなみん”とはネット上でつけられた歩波の愛称だ。

 歩波は歩波で個人的に結構名前が知られるようになってきたらしい。


「前の学校からのリークだろうけれど、俺と兄妹だってことがネットに書かれ始めてる。内緒にしておくより今のうちに話しておいた方が、なんで隠していたのかって歩波が詰め寄られるだけだ。それなら兄貴側から話を通した方が話は通じやすい。兄貴に秘密にするように言われたとか、言い訳は立つ」

「俺が余計に面倒になるけどな」

「兄貴ならそれくらい甘んじて受け止めるべきだろ」


 お前の苦労を俺も知れってことか?


「はあぁぁ~……めんどくさいことになりそうだ」


 今後は防犯対策はしっかりしておこう。

 歩波の例もあるし、スマホは肌身放さず持っておいた方がいいかもしれない。


「そういや、この後のパレードのことなんだけどさ」


 渉を拘束から解放するとこの後のパレードについて説明する。


「ああ、確実にお前目当てで増えるだろうな」


 学校のSNSは裏も表も含めて所々に渉の名前が飛び交っている。

 そして、最も話題となっているはハロウィンパレードだ。直で渉に会えるとなれば目の色を変えた民衆は押し寄せるだろう。この事については涼香を通して商店街に事前に知らせてもらった。


「急遽決まったことだからさ、俺の仮装って今日着てきたミイラ男のしかないんだけど」

「安心しろ。ウチの被服部が俺専用ということで用意された衣装は2着ある」


 2種類の内好きな方を着ろを言うことだろう。

 俺と渉は体格はそんなに変わらない。さほど問題もないだろう。俺は袋から衣装を取り出す。


「「うわ……」」


 渉が衣装を広げると2人でそんな感想をもらした。


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