第76話 弓道大会
夕葵
朝、私が目が覚めると先生の顔が真っ先に目に入った。朝からこれは心臓に悪い。
私は、遅れながら自分が今どんな状況にいるのかを把握した。そうだ、先生と一緒に寝たんだった。
けれども、起きようとしていて何かが私の動きを阻害する。その正体に気が付くと私の身体はびくりと反応した。
――抱きしめられている!?
一瞬、すごく幸せな夢を見ているのかと思った。
昨日、誘惑には勝てず、欲望のまま動いて先生の胸元に顔をうずめてしまったところまでは覚えている。
けれども、朝起きたら先生に抱きしめられているなんて思いもしなかった。
動こうにも抱きしめられている手を振り振りほどくことはもったいない。
もう一度、このまま眠れたらどれだけ幸せだろうか。
けれども、そろそろ起きなければならない。
せっかく先生に連れてきてもらったというのに、遅刻するわけにはいかなかった。
長い葛藤の中、名残惜しくを思いながらも先生を起こさないように布団から出る。
先生が目を覚ます前に着替えようかと、浴衣を脱いで制服に着替える。
「やっべ!! 何時だ!?」
「!!??」
ちょうど下着姿になったときに先生が目を覚ました。下着姿の私はすぐに部屋の入り口側へと隠れた。
◆
朝、目が覚める。
まずは肌がいつも使っている布団と異なる感触を感じた。
枕の高さも違う。
次に目を開くと朝日に照らされた見知らぬ天井が目の前に広がった。
――ああ、そうか。昨日はホテルに泊まったんだ。
目が覚めたばかりで思考がぼうっとしている。
なんでホテルに泊まったんだろうか。たしか、柳先生に頼まれて……。
そこからは一瞬で昨日の出来事を思い出した。
「やっべ!! 何時だ!?」
布団を跳ね上げ慌てて、机の上に充電してあるスマホで確認する。
時間はまだ6時を少し回ったばかりだった。
昨日はアラームをセットせずに眠ってしまったのだが、寝過ごしていなくて本当によかった。
――あれ? 夕葵さんはどこに行った?
「お、おはようございます。先生」
「おはよう。夕葵さん。なんで、そんなところにいるの?」
俺より先に夕葵さんは起きていた。この子の方が俺よりよっぽどしっかりしてるよ。
けれど、壁に隠れるように顔だけを出して俺をのぞき込んでいる。
「え、えっとその、今着替えている途中でして……」
「ああ、ゴメン……」
どうやら、夕葵さんが着替えているときに俺は目を覚ましたらしい。目を覚ました俺に気が付いた夕葵さんは慌てて姿を隠したのだろう。
もう一度俺は布団を被り目を閉じながら、夕葵が着替え終わるのを待った。
……
………
…………
俺も着替えを終えると、ホテルのフロントへ鍵を返却し、夕葵さんを駅まで送りに行く。
外に出れば、台風一過といわんばかりに、雲一つない晴天となっていた。
空がいつもより広く感じられる。
駅の電光掲示板を確認すると、電車も通常運行しているようで、会場までは問題はなさそうだった。同じようにホテルから出てきた人たちも足早に向かっていた。
「なら、俺は車で会場まで向かうから」
本来なら、ここで俺の役割は終わりだ。
しかし、せっかくここまで来たのだから弓道の大会というものを見てみたいということで、夕葵さんの応援に行くことにした。
俺は車で向かうので少し遅れるとは思うが、駅の改札口の前で、一旦別れる。
「これ、さっきコンビニでサンドイッチとカフェオレを買ったから行く途中で食べて」
客の込み具合からホテルの朝食を取っている時間はなかった。
駅の中にあるコンビニで買ったものを渡す。
「ありがとうございます」
「今日の大会頑張って。俺も応援に行くから」
「歩兄さんに見られていると思うと緊張しますね」
ホテルの外に出たのだから、もう兄妹のフリをする必要はない。律儀に俺を“兄さん”と呼ぶことに思わず苦笑してしまう。
基本的に部屋の外には出なかったが、フロントの前を通る時や夕食や朝食のレストランでは彼女は一度も間違えることなく俺のことを呼んでくれた。少し彼女から呼ばれるのに慣れてて来た気がする。
「もう兄妹のフリはいいよ」
「そう、ですか?」
「いつも通りに戻ろう。夕葵さん」
「あ……」
昨日はちょっと特別な日だった。
これからは、いつもの日常に戻る。
それに、男女で一泊した後に呼び方が変わるなんて、“何か”があったみたいだ。
仕切りなおすために、俺はいつものように彼女の名前を呼んだ。
しかし。
「あの、私のことは呼び捨てで呼んでください」
「え?」
「呼び捨ての方が、先生に……夕葵と呼ばれたときにしっくりきたましたので」
それは夕葵さんに限ったことじゃないけれど、確かに俺も“さん”付けで呼ぶより呼びやすい。
――観月とか歩波とかカレンとかもいるから今更なような気がする。
結局のところ、基準がはっきりしない。
呼んでくれる相手、受け手によるのだろうか。
「ま、俺もそっちの方が呼びやすいし。夕葵がそれでいいなら名前で呼ばせてもらうよ」
「――っ――はい。では、会場でお待ちしています」
頭を下げて彼女は駅の改札の奥へと消えていった。
さて、俺も向かおうかな。
◆
――~~つ~~~やった、やった!!
ダメだ。気を抜くと頬が緩んでしまう。
電車に揺られながら、私は先ほどのことを思い出す。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
昨日と今日といいことばかりだ。
目が覚めたら、好きな人が目の前にいて、朝の挨拶をして、一緒に出かける。
恋人のようなやり取りを何度も思い出しては、頬が緩む。
先生からもらったカフェオレを口に含むと、甘くてちょっとした苦みが口の中に広がる。今の私の心情を現したかのような味だった。
思い出せば心臓が暴れだす、あからさまに浮ついた様子を見せるわけにはいかない。はやる心を抑えて、電車の揺れに身を任せる。
「ええー。それはちょっと嘘だって」
「ほんとだってば」
電車の中でも聞こえてくる女性たちの声、どうやら地元の女性が話しているようだった。
「この前の一緒に旅行の時に彼がさ。寝てたら無意識に抱きしめてたって~」
「わざとに決まってんじゃん。寝相の悪さ利用して、あわよくばって魂胆見え見えじゃん」
まるで、私の朝の話をしているようでそちらに耳を傾けてしまう。
「でもでも、心理学的にも意味のある行動なんだって」
「はいはい、惚気はその辺にして」
そこでいったん話は打ち切りになり、別の話題へと転換していく。
心理学的な意味。いったいどういう意味だろうか。
気になって、私はスマホを開き、検索を始めてみる。
色々な情報が飛び交う中で一番目に付くのはやはり、“カップル必見”などと男女の仲を示す単語ばかりが飛び交っていた。そのうちの一つを開いてみる。
『一緒に寝る時、身体のどこかに触れて寝るって、ラブラブの証拠です。その人は寂しがりやだから誰かに触れていたい、体温を感じていたいって気持ちがあるのです』
「…………」
……ものすごく恥ずかしい。
確かに先生に抱きしめられていた時は温かかった。
逆に離れたときはなんだか寂しいようなそんな気持ちになった。
――昨日は隣にいたのに。
空いている席を見てなんだか寂しさを覚えた。
……
………
…………
電車に乗って1時間ほど経過すると会場までたどり着く。
すでに会場には多くの人が出入りをしていて、空気が張り詰めているのがわかる。
私は深呼吸をしてから、会場の門をくぐった。まずは部員たちと合流することが大切だ。
「夕葵ー!」
「お姉さまー!」
私を呼ぶ声が聞こえてきたので、そちらへと歩みを進める。
というより、ここでお姉さまなんて呼び方をしないでほしい。学園でもやめてほしいのだけれど。
すでに彼女たちは弓道着に着替えており、準備万全のようだった。
「よかったー……無事について」
「ああ、歩先生が送ってくださったんだ」
実はこのことを誰かに話したくて仕方がなかった。
頬が緩みそうになるのを、なんとか堪える。
「いいなー。高城先生と二人っきりのドライブ。楽しかった?」
「……」
「別に遊びに行ったわけではないぞ」
嘘だ。
ちょっとはそんな気分があった。
「で、で? 何かあったりした?」
「聞かせてよー」
「男と女2人だけで出かけて何もなかったんて言わせないよー」
追及が始まるが、さすがに同じ部屋で寝泊りしたのを話すわけにはいかない。
「そんなことより、柳先生はどこに居られる?」
到着したことを報告しなければならない。周囲を見渡すが柳先生の姿は見えなかった。
「運営委員へちょっと顔出しにって。あ、戻ってきた」
私の後方に視線を送る友人につられて、後ろを振り向くと弓道着を着た柳先生がみえた。
「夏野さん。よかった、無事についたんですね」
「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません」
「高城先生は後で来られるようですね。先ほど、連絡がありました。夕葵さんも着替えてきなさい」
柳先生に着替えを促されて私は、更衣室へと向かった。
◆
車から降りると、すでに大会は始まっているようだった。
俺は、静蘭学園の生徒を目印にして生徒たちのところへと向かった。運よくすんなりと見つけることができた。
「お疲れ」
「あっ、高城先生!」
生徒たちの顔を見ればどうやら結果は上々な様子だった。
あたりを見渡すが彼女は見当たらなかった。
「高城先生。お疲れ様です。この度はありがとうございました」
「柳先生こそ、お疲れ様です。夏野さんは?」
彼女からは呼び捨てでもいいといわれているが、教師同士の会話のなかでは苗字呼びのほうがいいだろう。
「もうすぐ試合なので控室にいます。会っていかれますか?」
「いえ、さすがに。応援席の方で見ていますよ」
集中しているのに、弓道をまったく知らない俺が声をかけても意味がないだろう。
彼女の集中の邪魔にならないように、観客席から応援しよう。
「あ、だったら一緒にいきましょうよ!」
「そうそう! 私たちも応援組ですから」
弓道部員たちが俺の腕を取り応援席の方へと連行する。いいけど、公衆の面前で腕を組んで歩くのはやめましょう。
「………ウザ……」
……
………
…………
応援席には各学校の生徒や教師、家族がベンチに座り選手の応援をしていた。
試合会場はちょうど競技中だったようだ。
「弓道の試合って、もっと静かなものだと思ってた」
選手たちは集中して試合に臨んでいる。
特に日本特有の武道などは、集中を妨げるような行為をしてはならないと思っていたが声を張り上げて応援している学校もある。
特に矢が的に当たったときには歓声が聞こえる。味方の矢が当たると応援席から掛け声を掛けも「よーーーーっし!」や「しゃあぁぁぁ!」などと、女生徒も声を挙げているから驚きだ。
「基本はそうなんですけどね」
「学生弓道だとこれくらいですね」
へえ、そういうものなのか。
「ところで、俺は弓道のルールも何も知らないんだけど。的の中心に近い方ががやっぱり点数が高いのか?」
「それはアーチェリーですよ。本当に何も知らないんですね。何しに来たんですか?」
少し棘のある言い方をする生徒がいた。
髪を2つのお団子ヘアにまとめた生徒だった。この子には少し見覚えがあった。確か、夕葵をやけに慕っている1年生だ。
「ちょっと、美幸。失礼だよ」
今の物言いには弓道部員たちも少し物思うところがあったみたいだった。
「でもでも、そういう採点方式もあります。今回はちょっと違うんですよ」
「まあ、いいからさ。簡単なルールだけ教えてもらってもいいか?」
簡単にだが、弓道部の部員に大会のルールを説明してもらっていると、競技の順番が巡り、夕葵の順番となった。
「あ、夕葵がきた!」
「がんばってー」
「お姉さまぁあああああ!!」
応援の声に気が付いたのか、夕葵がこちらを向く。俺は手を挙げると、彼女は一礼してそれに答えてくれる。
「あ、夏野 夕葵だ」
「やっぱり綺麗ね」
彼女が会場に入っただけで少し周囲がざわつき始める。
やはりこの業界ではかなり有名なようだった。
彼女が場に立つと、先ほどの応援とは打って変わって、周囲が静かになる。
まるで会場の人すべてが彼女に魅入られているかのようだった。
弓道をまったく知らない俺でも弓引く彼女に惹かれるものがある。
彼女が構えを取る。
凛――言い表すならまさにそのような光景だった。まるで、時間の止まったような静寂
「……」
その静寂が解かれたのは彼女が弓を放った時だった。
風切り音が聞こえ的の中央に中る。
その一本を皮切りに彼女のすべての弓矢が的に的中すると会場からは大きな拍手が彼女に送られる。俺は彼女の姿に見惚れて拍手をすることができなかった。
夕葵の雰囲気は独特だ。
厳粛で神聖。場の雰囲気も合わせてよりそう思わせる。
「…………」
「皆中――持っているすべての矢が的中することなんですけど。皆中することはそれだけ難しいんです。だから誰であっても、必ず拍手をするんですよ」
夕葵は拍手をもらえても澄まし顔だ。残心というやつだろうか。この大会では採点制というものを取られているらしい。的中だけでなく、射形や佇まいなどを統合して、審査員が採点を行なっているらしい。
「今日の夕葵。すっごく調子がよさそうだね」
「今回も期待できそう」
どうやら、弓道部員からみても彼女は好調のようだった。
「ヨシ!」と喜ぶ彼女も見てみたいものだ。この大会に優勝したらそんな彼女を見ることができるだろうか。
……
………
…………
昼休みとなり、俺は適当に昼食を摂ろうかと会場近くにあるカフェテリアへとやってきた。
弓道部員にはお弁当が振舞われているが、応援だけの俺がもらうわけにはいかない。店内の窓際の席に座ると、会場を出入りする人たちが目に入った。
何を食べようかとメニューを眺めていると、女性に声をかけられた。
「あら、やっぱり。先生じゃありませんか」
「あれ? ……祭さんですか?」
店の従業員服である和服しか見たことがないのだが、彼女は間違いなく日和の看板娘である祭さんだった。
周りを見渡すが誰もいない。どうやら、1人のようだ。
「今日は、どうしたんですか?」
「応援ですよ。こう見えて私、静蘭のOGで弓道を嗜んでいるんです。まあ、夕葵ちゃんほど上手ではありませんけど」
「あ、そうなんですね。よろしかったら、昼食一緒にどうですか?」
別に下心があるというわけではない。
まったく知らない土地で一人で食事をするというのは、物寂しいと感じたからだ。
「では、お言葉に甘えて」
彼女も気にする様子はない様子で席に座る。
彼女のメニュー選択を待ち、一緒にオーダーを店員に伝える。
「昔ながらのナポリタンの目玉焼き添えと食後にホットコーヒー」
「トーストサンドイッチとレディースケーキセットを」
女性らしくケーキセットを注文する祭さん。
そんな彼女を見ていると、祭さんは俺をジトッとした目でにらみつける。
「食べ過ぎだって思ったでしょう?」
「いえ、和菓子屋さんの娘さんがケーキってなんだか珍しい組み合わせだなって」
「私だって女の子ですよ。和菓子屋の娘でもケーキとか食べたくなります」
あまり俺と年齢が変わらないような気もするが、この人いくつなんだろうか。もしかして、年下だろうか。
少し待つと、それぞれ注文した品が目の前に並べられる。
「食べましょうか。次の試合が始まっちゃいますし」
「そうですね。あ、でもその前に写メいいですか?」
「どうぞ」
そう言って、彼女はスマホで目の前のケーキを撮る。少しカメラが上向きだったのは見栄えをよくするためだろうか。俺が映ってしまっていたら申し訳ないな。SNSにでもアップしているんだろうか。
2人食事をしていると、誰かが見ているような視線を感じたが、店内を見渡しても知り合いはいない。気のせいだと思い、食後の珈琲に口をつけ、祭さんに話題を振る。
「毎回、夏野さんの応援に来ているんですか?」
「いつもではないですよ。今日は時間ができたので、夕葵ちゃんの頑張っている写真を見せるとお客さんが喜ぶんです。みんな小さいころから見守ってきましたから。」
「そういえば、昨日、夏野さんに昔は落ち着きがなかったと聞いたんですけど。本当ですか?」
「そんな時期もありましたねー。けれど、「祭さんみたいになりたいの」って髪を伸ばし始めたって聞いた時は、もう抱きしめたくなりましたよ。それからは見る見るうちに綺麗になって……私なんてとっくに追い越していきましたよ……特に胸なんか」
危うく、珈琲を吹き出しそうになるが、何とか堪える。
自虐的に言う彼女の胸元に一瞬、視線が行ってしまったことは申し訳ない。
この人は、夕葵の話題を振ってあげるとよく話してくれる。
俺が聞く前に、いくつも彼女のことを話してくれた。本当にあの子のことが大切なんだろうな。
一通り彼女の話を聞くと、会計を済ませて、店の前で祭さんと別れた。
◆
夕葵
「お姉さま。見てください!」
会場の控室で昼食を摂っていると、美幸が何やらスマホを私に見せてくる。その騒ぎに周りの部員たちも注目を集めた。
「なんだ?」
「見てください。これを!」
美幸のスマホには、どこかのカフェテリアだろうか。
隠し撮りされたような写真には、高城先生と一緒に食事を摂っている女性――祭さんが映っていた。
「えー、なにこれデート?」
「相手の人って誰さー」
部員たちが、美幸のスマホに映っている写真を見て議論を繰り広げる。
「応援に来たって、ただの言い訳だったんですねー。この女とデートがしたかっただけなんですよぉ。教師として、生徒をデートのだしに使うってどうなんですかねぇ」
美幸が私の顔を窺うようにして、自論を話す。
私が何を言うかを待っているのだろうか。
「ただ、昼食を摂っているだけだろう」
「えー? そうですかぁ? この2人ってもっと親密そうな仲じゃありませんか?」
「この女性は私の通っている道場の知り合いだ。柳先生とも懇意の人だ」
「え?」
先ほど祭さんから「先生と一緒にランチ♡」などという、からかい混じりの報告をもらったのだ。しかも写真付きで。
先生は写真を撮られているような自覚はなかったようで、きょとんとした顔がちょっとかわいらしかった。うらやましいといえばうらやましいが、私は昨日のうちに十分に堪能させてもらった。
それに2人の仲は邪推することはない。
先生は祭さんの好みのタイプとはまるで違うからだ。
あの人の好みのタイプは年上だ。
それもはるかに年上の……枯れ専というものだろうか。
初恋は小学生のころ、近所に住んでいた50歳のおじさんだったと言っていた。ちなみに20歳の娘さんのいる日和の常連さんだ。祭さんは祭さんでお客さんにも人気がある。
私としては、祭さんが変なことを歩先生に吹き込んでいないかの方が心配だった。
「……後で話を聞かないと」
先生が歩波さんに危惧している感覚と似ているかもしれない。歩波さんから先生の事を尋ねるのは少し自重しよう。
柳先生が戻って来られると、次の試合の打ち合わせが始まる。
大きな大会だ。
緊張もするが昨日と比べたら、今の私は平常心だ。
あの人の前でももっと平常心でいられるように……まだまだ精進が足りない。
◆
昼からの試合も滞りなく進み、ついに決勝戦となった。
試合を終えた選手も、実業団の人もいるだろうか。
皆がこの試合に注目している。試合というよりも夕葵にだろうか。
夕葵は、ここまで全試合皆中というわけにはいかなかったが、好成績を残している。注目を集めないわけがない。観客席の1つに祭さんが座っているのを見つけた。
「ん?」
一瞬、試合会場に立つ夕葵と目が合った気がした。
そういえば、ほかの部員とは結構話しているが、駅で別れてからは彼女と話していない。
そんなことを考えている間に試合は始まった。
審判の合図により、選手が弓矢を構える。
ここにいる選手たちは、各県の代表選手たちだ。
そんな中、トップクラスの強豪をも唸らせる技術と射品が夕葵にはあった。
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