第67話 オープンキャンパス
盆休みの里帰りも終わったということは夏休みの半分以上をを消化したことになる。
里帰り中は、歩波の家である黒澤家のマンションに世話になっていた。
故郷では高校の同級生と会い、家族全員で祖母のお墓参り、最後には家族そろっての食事をすると、あっという間に終わってしまった。
そして、盆が明けてのオープンキャンパス。
俺は母校である律修館大学に来ていた。
これから入学を希望する高校生たちが多く赴いている。その学生の中には、俺の生徒たちも含まれている。
オープンキャンパスの内容として、教授たちの講演や在学生や教職員による大学施設の見学ツアーや学部などの説明を聞いた。
その後は、好きなように施設内を見回ってもいいことになっている。俺は生徒たちと一緒に大学内を回っていた。大学内にはサークル活動をしている学生もおり、結構賑わっている。
「あんまり変わってないな」
当たり前か。卒業してたった2年しか経っていない。
学生の時は何気なく通った廊下だったが、校舎内を見ていると懐かしさを感じる。よく透と大桐との3人で「講義がだるい」だの、「課題の提出が間に合わない」などと、いかにも学生らしい話をしていた。
「ねえ」
ああ、そういえばあの木陰で昼寝してたら気が付いたら夜だったっていうこともあったなー。次の日のテストで風邪ひいて単位落としそうになった。
「ねえってば」
うわ、この教授まだ在籍しているんだ。一体、年齢いくつだよ。
「あーゆーむーちゃーん」
「……何の用だ、観月」
俺の腕を抱いて身体を寄せてくる観月を引き離して答える。
さっきから聞こえていたけど、あえてシャットアウトしていたんだ。
「ちっともこっち見てくれないから」
「距離が近い、ちょっと離れろ」
学園ならいつものことで済むが、ここには周囲の人の目もあるんだぞ。
「ん、わかった」
俺が抗議するなりすぐに俺から離れる。
距離が離れたことにより、少し自分の中でも余裕ができる。
お盆を含めて1週間ほど観月の顔を見ていなかったが、あまり変わった様子はなさそうだ。
本当に告白されたのかと疑わしくなる。
けれど、あの頬に残った感触が嘘ではないことが証明している。こっちの心情も知らずか観月は平常運転だ。
「まずは、どこから回るの?」
そう言って、俺の持っているパンフレットを横からのぞき込んでくる。観月から漂ってくる甘い香りが鼻腔をくすぐる。
いや、平常運転じゃない。なんだかいつも以上に距離感が近い気がする。
「……とりあえずキャンパス内を一周するつもりだ。みんなは見てみたい学部とかある?」
俺は観月から少し距離をとって、オープンキャンパスに参加しているメンバーに問いかける。
「いえ、特には」
やや冷たい声で答えるのは涼香さんだ。半眼で俺を見ているのがちょっと怖い。
「時間があれば弓道場を見に行きたいです」
リクエストを出すのは夕葵さんだ。
涼香さんとは逆にちっともこちらに視線を向けようとせず、パンフレットに目を落としている。なんか怒っているような気がするのだが、俺の気の所為か。
「……ムゥ」
カレンはわかりやすく拗ねてふいっと俺から顔を背けた。
結局、いつものメンバーが今回のオープンキャンパスに参加している。
「じゃあ、ここからだと一番近いのは栄養学科だな、そこに行ってみよう」
……
………
…………
通っていた大学だが、そのすべてを知っているというわけではないので、いろいろな新鮮さを知ることができて意外と俺自身も楽しむことができた。
気が付いた時には時間は結構経っていて、昼食の時間になっていた。
大学内にはカフェテリアや食堂もあり、今日は一般にも開放されている。
主に使用しているのはオープンキャンパスに参加している高校生がほとんどだ。中には今日のオープンキャンパスの手伝いに来ている在校生の姿もある。
昼食に出遅れた俺たちは場所は4人席が空いたので、彼女たちを座らせてキャンパス内をぶらついていた。
「おや、高城君ですか?」
俺の名を呼ぶ年老いた男性の声。
聞き取りづらいということはなく、落ち着いた印象を相手に与える。
「ご無沙汰しております。
吉楽先生は俺の大学時代のゼミナールの担当教師だった。
担当教員の名前を冠して「お気楽ゼミ」などと呼ばれていた。大学時代の俺の恩師でもある。
「春以来ですね。元気そうな姿が見れてよかった」
「吉楽先生もお元気そうで何よりです」
「今日は、オープンキャンパスの引率ですか?」
「はい」
学生時代かなりの頻度でお世話になった先生だ。
大学を卒業してからも、「私の教え子です」ということから、卒業後もなにかと生徒たちの近況を把握してくれている。
俺がが事故で入院していた時もどこからか聞きつけてお見舞いに来てくれた。面倒見の良さからも生徒からも慕われていている。卒業した先輩たちも何度も会いに来ることもあったくらいだ。
「ところで、昼食はもう食べましたか?」
「いえ、それが出遅れてしまったので。生徒たちに食堂を使ってもらって、別の場所で食べようかと思っていたところです」
大学内にはコンビニが併設されているのでそこへ向かう途中だった。
「なら、ちょうどよかった。私と一緒にどうでしょうか? 教員用のお弁当が余っていますので、それでもよければ」
「いいんですか?」
ありがたい申し出に俺はすぐに食いつき、懐かしの研究室に向かうことになった。
◆
涼香
「やっぱり大学って高校とは全然違うね」
自分で時間割を決めていくのも面白いし、自由な時間が多く取れるというのも魅力的だ。それに勉強やクラブ・サークル活動、学びたいこと、やりたいことにチャレンジできる多くのチャンスに恵まれる。
私たちは昼食を摂りながら、午前中に見学させてもらったことについて話していた。大学の食堂の食べ物は十分においしい。カフェテリアもあるからなんだかすごくおしゃれだ。
「アタシは思っていたのとは違ったなぁ」
「さすがに栄養学科でも料理ばかり作り続けるわけじゃないぞ。座学だって必要だろう」
「うっ……そうなんだけどさ。タンパク質の名前とか言われてもわかんないよ。英単語1つ覚えるのだって大変なのに」
「高校の勉強とは全く異なるからな」
「カレンは外国語学部だよね?」
「ハイ」
シルビアさんが所属していた学部で、カレンもそこを目指しているって聞いてる。
「シルビアさんが楽しそうに通っていたので、私もここに進学したいって思ってました」
私が静蘭を受験したのと同じような理由だ。
「弓道場もまだ新しくてきれいだったな」
「夕葵ってばどれだけ名前知られてるのよ」
呆れたように観月がつぶやくけど、観月の声には感嘆もふくまれている。
弓道場の見学に行くと、練習中の在校生にすぐ夕葵は声をかけられていた。
やっぱり全国上位クラスの夕葵は有名人だったみたいで、学生どころか監督からも声をかけられていた。そんな夕葵に友人としてはどこか誇らしいものを感じた。
夕葵の弓引く姿を間近で見せてもらった時の、夕葵の佇まい、矢を放った時の弦で弓を打つと鳴る音すべてが素人目にも美しく思えた。大会の応援に行けば、多くの出場者がいる。けれど、その中でもやっぱり夕葵が一番綺麗だった。
「ここに決めた?」
「まだ、確定ではないが……推薦が取り消されないように、これからも精進あるのみだ」
夏休みが明けてからの国体に向けて意気込んでいる。夕葵も律修館への進学を前向きに考え始めている。
私はどうなんだろうか。
夢も特にないけれど、とりあえず大学に行くっていうのは志望理由としてはいいのかな。
……
………
…………
昼食を摂り終えたけれど、まだ高城先生は戻ってくる様子はない。
昼食のピークが終わったからか学食の席もだいぶ空きができた。私たちだけに昼食を摂らせて、高城先生はお昼をちゃんと食べることができたかな。
「携帯にかけてもちっとも出てくれないし、どこで何やってるんだろ」
「まだ昼食を摂っておられないなら、申し訳ないな」
「ハイ」
今、何気なく重要な話が出てきたような気がする。
「観月……なんで、高城先生の携帯番号知ってるの?」
「え、ああ、家庭教師してもらった時に教えてもらったんだー。しつこく連絡すると怒られるから自重はしてるけどね」
自慢げに携帯を見せてくるから、ちょっとイラっときた。
こういうリードを見せつけられると、やっぱり観月がうらやましくなる。先生の連絡先、私も欲しいなぁ。
「もしかしたら教育学部にいるかもしれないです」
「ああ、そうかもしれないな」
先生はここの教育学部に在籍していたから、懐かしくなってそこに向っていても不思議じゃない。
「じゃあ、そこに行ってみようか」
私たちは4人で教育学部に向かうことになった。
教育学部には結構な数の高校生がいる。
立ち話が耳に入ってくるとどうやら、在校生からいろいろと話を聞いているみたいだった。大学生かー……高校生とはどう違うんだろう。
教育学部をさっと見渡す。
高城先生もこの場にいたと思うと少し変な気分だ。
見ているとひとりの男の人と目が合ってしまった。首に下げているプレートを見れば在学生のようだった。
「君たちも教育学部に興味があるの?」
「いえ、私たちは人探しをしているだけで……」
声をかけながら詰め寄ってきた学生から少し距離をとる。
なんていうのかな。自意識過剰かもしれないけれど、よく声をかけてくる男の人と同じ雰囲気がする。観月もそれを感じ取ったのか嫌そうな顔をしている。
「人を探しているんです」
「そっかー。なら人が見つかるまで、あっち話でもどうかな」
人を探しているって言ってるよね。
一緒に探してあげるっていうのならまだましだったのに。もしかして、断る言い訳だと思われてるのかな。
どうしたものかと頭を悩ませていると――。
「あー!! JKナンパしとるー!!」」
女性の大きな声が男の去り際の言葉をかき消した。
「ひ、人聞きの悪いこと言うな! 俺は親切心で声をかけただけで」
「はいはーい。言い訳してるとみっともないよー」
男の人の言葉には全く信用性がないみたいだった。
女の人は関西の人なのか、ちょっと訛りのある話し方をしている。
さばさばした様子の女性だ。服装も赤白のボーダーTシャツにジーンズと動きやすさを重視しているみたいだった。
「ほら、あっちで、在校生の話が聞きたいって言ってる男の子がいるから。そっちにいったりー」
「えぇー……男ぉ~~」
露骨に嫌そうな顔をするけれど、役割をこなすために男子生徒のもとへと向かった。
「ごめんなぁ。軟派やけど、そこまで悪い奴やないから」
「あ、いえ」
声をかけられただけで実害はなかったから、何も言うことはないんだよね。
それよりも先生を見つけないと。
会釈をして立ち去ろうとしていると女の人が私たちを呼び止める。
「ちょっと聞こえたんやけど、人探しをしとるって? どんな人?」
「私たちの高校の先生です」
「なら、ウチも一緒に探そか?」
「いえ、そんなの悪いです」
「ええから、ええから。さっきのお詫びやと思って」
私たちの都合で振り回すのは申し訳ない。
けれど、この人の顔を見るからに善意100%の様子だから断りづらい。
「あ、そういえば自己紹介してへんかったね。ウチは七宮 円佳。教育学部の4年や」
私たちも簡単に自己紹介だけを済ませると、本題に移る。
「で、先生ってどんな人なん? 男、女? 若い? 老けとる? 私服、それともスーツ?」
早口に次から次へと質問してくるので、ちょっと応対に困った。
なんていうか、元気のいい人だなー。
「あ、私は写真持ってます」
カレンが自分のスマホを見せる。
私も見てみると、待ち受け画面にいいアングルで撮れている高城先生が映っていた。
いい写真だけれど、カレン……待ち受けにするのはやめようよ。うちの生徒に見られたら先生が好きだってことばれちゃうよ。
「どれどれ。ってこれ上代 渉やないかーい」
カレンが冗談を言ったのかと思ったのか、突っ込む七宮さん。うわぁノリツッコミだ。
高城先生、写真がよく撮れ過ぎているせいで、また渉に勘違いされてるよ。前にもうちの店で騒がれていたのを見たことがある。
「こんな美形な先生おったら、女子みんなキャーキャー言うやろ」
実際、みんないってますけどね。
「で、ほんとの写真はどれなん?」
写真を見てもこの人が先生だと信じてもらえない。
「いや、本当にこの人ですって」
「はいはい。理想なのはわかるけど。こんな人……ん?」
何かを思い出しているのか、あごに手を当てて考えるジェスチャーをする。
そして、何かに思い至ったかのように私たちを見る。
「……もしかして、先生って高城歩って人ちゃう?」
「知ってるんですか?」
「え、マジで先輩の生徒さん?」
七宮さんは興味深そうにマジマジと私たちをみる。
逆に私たちは先輩といわれても私は別に驚きはしなかった。先生だって大学を卒業してからまだ2年しか経っていないし、顔見知りの人だっていても不思議じゃない。
「もしかしたら、うちの教授のところに居るかもしれへん。付いてくる?」
このまま当てもなく彷徨うより一か所に固まっていた方がいいかもしれないと考えて、私たちは七宮さんについていくことにした。
◆
「……長居し過ぎた」
腕時計が動かなくなっていることに気が付いたのはつい先ほど。
観月の救出の際につけたまま川に飛び込んだ後にもまだ動いていたので、そのままつけていたが、このタイミングでご臨終なされるとは。
研究室の時計を見て、声を挙げて驚き、先生に別れの挨拶をまともにできないまま研究室を飛び出した。完全に俺のミスである。
スマホを取り出し画面を開くと、観月からの着信が大量に来ていた。履歴をスクロールしても観月の名前がしばらく続く。ちょっと怖い。
鞄にしまっていたから気が付かなかった。食堂に戻ってみたけれど、彼女たちの姿はなかった。
最後にはスタンプで“バカ”の後に“教育学部”などと書いてあったのでとりあえず、もう一度教育学部へと戻ってきた。
電話をかけなおしてみたが繋がらない。
暇さえあれば、スマホに触れている観月が電話に出ることができないということは使用できない状況にあるということだ。買い換えたばかりだから電池切れということは可能性は極めて低い。
館内を歩いていると、体験授業という看板が目に入った。どうやら教育学部の学生が教師をしているらしい。
そっと後方の入り口から教室内を覗いてみると、高校生が席に座って在校生の授業を聞いていた。
授業を聞いている中には俺の生徒たちの姿もあった。
授業の邪魔をするわけにはいかないので俺は後方で在校生の授業を聞くことにした。
前で授業のデモンストレーションを行っているのは俺の知っている人だった。
――七宮か。
似非関西弁が特徴的なゼミの後輩だ。
プライベートでは早口だった印象だが、教壇に立ち授業をしている今は聞き取りやすい。それにあの似非関西弁にはみんな好印象を持っているみたいだ。教職についたら生徒と友人のように接する先生になりそうだ。
「んでな。こうした革命以前のフランスの政治・社会体制を“旧制度(アンシャン=レジーム)”っちゅーいうんや……」
あ、目が合ったせいで七宮が言葉に詰まった。
「んんっ……イギリスとの戦争でいきづまった国家財政を立て直すために、貴族に対する課税などの財政改革をこころみたことに対して、貴族などの特権身分が抵抗したことがフランス革命のきっかけとなって」
わずかに咳をしてのどの調子を整え、再び授業を再開する。そのあとは特に問題もなく、授業は進んでいった。
……
………
…………
「とりあえず、すまんかった」
俺はまず第一に生徒たちからしばらく目を離してしまったことに対して謝罪した。
「ちっとも、連絡ないからどうしたのかと思ったよ」
観月がやや不機嫌そうに愚痴る。
「悪い。ちょっと世話になった先生と話をしていたから」
とりあえず、今回のお詫びとして大学の売店でアイスを購入して彼女たちの配った。今は休息しているところだ。
「懐かしいのはわかりますけど、私たちを放っておかれても困ります」
「うっ……」
「楽しかったですか。先生とのお話は?」
「ぐっ……」
涼香さんの言葉が俺の心を抉ってくる。完全に俺の非があるので何も言うことができない。
「……うふふ。ごめんなさい。ちょっと放っておかれたので意地悪しちゃいました。そんなに怒ってませんから」
「なら……よかった」
なんだ、怒っていたように見えたのは演技か。
というより彼女もこんな意地悪をするんだ。安堵の息をついてアイスを一口食べる。
「で、どうでした? ウチの授業は?」
「なんで、七宮も当然のようにここにいるんだよ」
しかも当たり前のように俺の金で買ったアイスを食べている。
「ええやないですか。ベタなナンパから守ってあげたんもウチですよー」
それを言われると弱い。
「それにしても、先輩の生徒さんに会えるとは思わんかったですわー」
「俺だって七宮がデモ授業するなんて思ってなかったよ」
「吉楽先生に頼まれたら断れんって。いい練習にもなったし」
まあ、成績は悪くなかったし、人当たりもいいから安牌か。
「七宮さんは先生の後輩なのですか?」
「といっても、1年くらいしか付き合いないけれどな」
「ウチは結構楽しかったですよ。先輩の周りはオモロイ人ばっかでしたし」
それは俺も同意できる。
「シルビア先輩とも卒業してからは、ちょっと疎遠になってしまいましたし。いまどこでなにしてはるんやろ」
「この子の家でメイドしてる」
俺はカレンを指差して答える。
「ぷっ……あっはははー。相変わらずオモロイこと言いますねー」
俺の話を冗談だと受け取ったのか、七宮は笑い飛ばす。
確かに「メイドしてます」なんて聞いて信じる人はいないだろうな。
証拠を見せてやるべく、カレンに写真を見せるように伝える。一瞬、待ち受け画面が見えたがそこに映ってるの俺だよな。それ学校で絶対に見せるんじゃないぞ。
「え、マジで……」
写真を見て本気で驚き、信じたようだ。
あんな奴だが、学生のころから数多の大企業から入社推薦を貰っていたと聞く。絶対、イベントとか逃したくないから蹴ったんだと思う。
「じゃあ。ウチは後片付けがありますんで。アイスごちそうさんでした」
しばらく雑談を挟むと七宮は時計を見て立ち上がる。
「おう、がんばれよ」
「うっす」
手を振りながら俺たちのもとから離れていく。
そういえば10月は教育実習の時期か。俺自身も教育実習を経験したからわかるが、結構大変だった。実習指導者との人間的な相性もある。まあ、あいつならうまくやるだろう。
「ずいぶんと仲がよろしいことでー、七宮さんとはいったいどんな仲なのかなー」
観月が俺と七宮の中を疑うような視線を向けてくる。それは涼香さんやカレンも同じ。「またか」と内心辟易とする。
「言っとくがな、七宮はただの後輩だ。観月が思うような仲じゃない」
「歩ちゃんはそう思ってなくても、向こうは本気かもしれないじゃん」
「ないよ。それに七宮には彼氏いる」
「え、そうなの」
俺がいたときには、な。
今はどうかは知らない。
七宮とは良くて友達までだ。向こうだって、「氷室先輩や高城先生みたいな人と付き合うと気疲れしそうやし」っていっていたしな。
「でも、先生の周りって、いつも綺麗な人ばかりいますよね」
涼香さん、綺麗な人って君がそれを言うかな。鏡見てみなさい。
「あのなぁ。これから俺が話す女性すべてにそんな疑い掛けられると思うと正直、迷惑だから言っておくが、俺は当分の間、彼女を作る気はない」
「何でですか?」
それを言われると、言葉に詰まる。
なんていうか、この質問に正直に答えるのは正直、恥かしい。とうより、情けない。
ここにはカレン、観月、涼香さんがいる。
自惚れみたいだが、俺の恋愛事情が気になるという気持ちは理解できなくもない。俺だって逆の立場だったらものすごく気になっていただろう。
「……これ以上はプライベートなので、回答を拒否します」
適当な理由をつけて、これ以上の質問は受け付けない。
「えぇー!! ここまで言っておいて!?」
「そろそろ。帰るぞ、俺だって今日のこと学園に報告しないといけないからな。君たちは今日のことをレポートにして夏休み明けに提出すること」
観月たちは不満そうな顔をするが、俺の絶対に応えないという雰囲気を察したのかこれ以上の質問はしなかった。
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