第62話 勉強合宿
8月の上旬、俺たちはバスに乗り学力強化合宿が行われる避暑地へと向かっていた。
参加者は部活に参加していない三年生、希望者の一、二年生だ。
勉強が目的ではあるが、学校行事のイベントに生徒が盛り上がらないわけがない。みんなと泊りで旅行というのはテンションは上がる。もちろん、学校活動の1つなので全員指定の制服、俺たちだって仕事着だ。
バスから降りると高地ということもあってか、夏なのに涼しい。
この高原――”赤住高原”は夏は避暑地、冬はスキー場としても利用されている。近くにはBBQのできる河原やキャンプ場もあるので一般客の姿もある。
「うわぁ、いい眺め」
3年生の女子生徒が言うように合宿場があるのは高原であり、2年生の冬のイベントであるスキー教室もここで行われる。ほかの子たちも普段とは違った風景に笑顔が多くみられた。
「ほら、観月ついたよ」
「う~ん……眠いよ~」
だが、その中で観月だけは眠そうに瞼をこすりながらバスから降りてきた。なんでもプールに行った日から、夜遅くまで夏休みの宿題を頑張っていたようだ。だが、その調子でこの合宿やっていけるのかとを思う。
「はいはい! みなさん! 遠足気分はそこまでにしましょう! 私たちは遊びに来ているのではありませんよ!」
ぱんぱんと手をたたき、女性教師が自分に注目を集める。
名前は
詳しい年齢は知らないがたぶん40~50歳代、年齢を聞けるほど親しいわけではないし、そもそもそんなに接点もない。3年生の学年主任であり、この合宿の最高責任者の任を預かっている。
知性や能力は高く、そのことを自覚しているからかいつも自信にあふれた態度でいることが多い。妥協とかそういうの認めないからな。いや、生徒のことを思ってくれているいい先生ではあるんだけれど。
せっかくの雰囲気に水を差されたからか、しぶしぶではあるが生徒たちは、向島先生のいうことを聞いて俺たちについてきた。バスの停留所からは合宿場であるホテルまでは数分の徒歩移動が必要になる。
「ほら、観月しっかりしろ」
「あ~……歩ちゃ~ん宿題は終わったよ~」
「それは認めるが、ここで寝たら頑張った意味がないぞ」
「ん~……」
だめだ、半分寝ているから聞こえてない。こういうところは陽太とよく似ている。
毎晩徹夜して頑張っていたのだから、もう少しだけ寝させてあげたいとも思うしかし、ここで寝ようものならこの合宿に参加した意味がない。それに、受験を控えている3年生の都合もある。この夏を勉強にささげている生徒だっている。さすがに受験を控えている三年生は一、二年生とはモチベーションが異なる。
「では、各自部屋に戻ってから昼食後、それぞれ担当に割り振られている部屋へいってください!」
ホテルのロビーにたどり着くと一度、解散してそれぞれ部屋に向かう。
合宿場のホテルは宿泊施設としては結構立派なものだ。
俺たち教員には2人一部屋が割り振られるが、俺は相部屋になるはずだった先生が風邪をひいてこれなくなった。その先生には申し訳ないがありがたいことに一人部屋として使わせてもらえる。
「はぁ~~」
柔らかいベッドに体を放り出す。
あ~これは気持ちいいな。少なくとも俺の普段使っているベッドよりもいい。
歩波は俺がいなくなって「ベッドが使えるー」なんて喜んでいたが俺のほうがはるかにいい思いをしているぞ。
――あいつ、大家さんに迷惑かけてないだろうな。
俺のいない間は食事の面倒などは大家さんにお願いしてある。
ダメもとで頼んでみたのだが、快く引き受けてくれた。歩波は基本家事はできない。
特に料理がひどい。
あいつにできることといったら、軽く焼く、温める、ゆでるくらいものだろう。ガスの消し忘れなんていうのも十分に考えられる。大家さんが夕食を共にしてくれるだけでも十分に助かった。
それに明日には黒澤家のお義父さんとお義母さんもこちらに来るそうだ。
何か用事があると言っていたがそれが何かは俺は知らない。やっぱり溺愛している歩波のいない生活に耐えられなかったのだろうか。
長時間ボーっとしているわけにもいかないので準備を始めておこう。
昼食はホテルのバイキングだ。
しかも今回の合宿費用の教員分は学園持ちだ。
明日の昼には慰労会ということでBBQが催されることになっている。楽しんでもらえたらいい。
◆
観月
「はい、コーヒーです」
「アリガト。カレン」
昼食のバイキングが行われているレストランでカレンが持ってきてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れて、少しずつ飲む。あー甘くておいしい。
プラセボ効果かもしれないけれど、飲まないよりはマシくらい。そういえば、中学の時によく夜遅くまで勉強してたらママが淹れてくれたっけ。
「ちょっと、予定詰めすぎたかな?」
「ううん、アタシが終わらせないと思って組んだスケジュールだし」
今回夏休みの宿題スケジュールはあたしの勉強を優先させるために自分で組んだものだ。最初はその濃密なスケジュールにできるかなって不安になったけれど、何とか宿題は全部片づけることができた。
「でも、いきなり勉強のぺースは上げちゃだめだよ。モチベーションっていうのは変わりやすいから」
現に、こうやって眠気に襲われているくらいだし。涼香の言葉には説得力があった。前半のほうは遊びすぎたかな。
「うん、合宿が終わったら少し休憩するね」
甘いカフェオレを飲んで午後のための英気を養う。
「まあ、普通の授業とは違うから少しは気が楽かもね」
基本的にこの合宿の勉強方法は自習のような授業形式で行われる。
勉強したい科目の担当教師の所へ行ってわからない範囲を教えてもらう。今回、私は英語を選択した。担当教師はアレだけれど仕方がない。いつまでも逃げていられるものじゃないし。
「涼香とカレンは何を選択したんだっけ?」
「「社会科」」
「うわー……」
あたしはジト目を涼香に向ける。
恋愛と勉強を一緒にするなんてあまりよくないんじゃないかな。
「家庭教師をしてもらってた観月に言われたくなーい」
「です」
それを言われるとアタシはもう何も言えなくなった。
話が一区切りつくと――
「えっ! とうとう清彦くんに告っちゃうの!?」
「な、なに言ってるの。そんな訳ないじゃん!!」
そんな会話が聞こえてきた。
席の方に視線を送れば3年の先輩たちが何やら話をしている。さっき聞こえた会話からだと、どうやらこの合宿でそういうことが起きるみたいだ。
「あれって、3年生の小暮先輩でしょ。清彦っていうと生徒会の濱田先輩かぁ~」
2人とも学園では有名人だ。小暮先輩は美人だし、久保先輩もそこそこの美形だ。お似合いだとは思う。
やっぱりこういう学校行事は絶好のタイミングだ。夏休み始まる前から結構話題になっていたから合宿が終わるころにカップルとかが増えていそう。
その後は、軽く談笑しているとあっという間に時間は過ぎた。
「……そろそろ向かったほうがいいかも」
「ハイ、観月。また後でです」
社会科を選択した2人は同じ場所向かう。
――アタシだけかぁ……
寂しいまでとは言わないけれど、こうやって1人で動くのは久しぶりな気がする。今回、部屋割りは完全に学校側に任せてあるから次にこうやって話せるのは食事の時くらいかな。
割り振られた部屋に入るともうすでに勉強を始めている人がいた。
その中でも特に三年の先輩たちの姿が多い。やっぱり英語は受験では外せない科目ということだろうか。
後方のほうで空いている席に座ると勉強道具を取り出す。
ちょっと時間は早いけれど、始めよう。
「あれ? 観月も英語なんだ」
「あ、仏田」
以前、球技大会の時にアタシにふざけて告ってきた男子だ。
球技大会以降は特に接点もなかったから、久しぶりに話した気がする。
特に話したいこともないんだけどさ。
軽く挨拶をしてからノートに視線を移して勉強を再開する。1人でも頑張らないと。
「どういう風の吹き回し? 観月が勉強だなんて珍しいじゃん」
「進学したいからね。勉強、頑張るんだ」
適当な相槌を打って答える。
「へーそういえばさ宿題どれくらいやった? 俺、全然進んでなくってさー。量も多いし、合宿で少しでも減らそうかと思って」
「……アタシはもう宿題終わったから」
「嘘だろっ! あの観月が!? どうしちまったんだよ。お前らしくないぞー」
そう言いながらアタシの頬に指をつんつんしようとするのを手で払いのける。
ちょっと邪魔なんだけど。こういうボディタッチもやめてほしい。なれなれしく触んな。
告白される前は別に仲の悪い人じゃなかったと思う。
二人っきりはなかったけど、共通の友達とも一緒に遊びに行くくらいだったし。
友達にしては距離感が近いのとお触りが多いのは嫌だったけれど、球技大会でのお試し告白以降、どうにもアタシは仏田が苦手だ。
もちろん、今まで告白してきた男子も似たような感じだ。あんなふざけた告白をして以前と同じような態度で接してくる仏田の気が知れない。正直、ちょっとムカついている。
「なあなあ、宿題見せてくんない?」
「終わったって言ったでしょ。持ってきてるわけないじゃん」
「んだよ、使えねー」
本当に鬱陶しくなってきたなー。
それに、そろそろ会話の声の大きさも落としたほうがいいと思う。アタシは小声で話しているけれど、三年生の先輩たち迷惑そうにこっちを見てる。
「それに自分でやらないと意味ないでしょ」
「うっわ……なんかお前、真面目ちゃんになったよなー」
まじめに勉強している人を馬鹿にしているような言い方に少しイラついた。
確かにあんたとは去年は補習受けたけどさ、今年からは違うんだい。
それからアタシが勉強を再開しても仏田はしつこく話しかけてくるのをやめない。少し時間が経つと英語の先生たちが部屋に入ってきた。
小柄な体の割にたるんだお腹。アタシ達のクラスの英語担当でもある小杉だ。相変わらず不機嫌そうに周囲を見渡し、教員用のテーブルに座った。
別に質問したいこともないし、関わらなければ何も問題ないからいいんだけどさ。
みんな同じような考えからなのか。何も言わずに黙々と自習を始める。
「そういえばさ。ザ・ブーンプールにはもう行ったか? 行ってないなら行こうぜ」
空気の読めない馬鹿がいた。
仏田の声に反応して小杉がこちらを睨んでくる。
ここでの会話はお互いに勉強を教えあうのは認められるけれど、私語は厳禁だ。仏田の話している内容は明らかに私語。いい加減にしないとアタシまで追い出される可能性もある。まずいと思ったから、仏田のお腹に軽く肘を打ち付けた。
「った。なにすんだよ」
「もう始まってるから、いい加減仏田も始めなよ」
あたしが真剣な声色でそう伝えると、仏田は何か言いたそうになったけれど、口をつぐんでスマホを触り始めた。勉強するんじゃないんかい。
英語の勉強をしているとわからない単語がやっぱり出てくる。その都度辞書を開いて必要な単語を調べていく。
――あれ? この文法ってこれでよかったんだっけ?
けれど、どうしてもわからない部分が出てくる。
手を挙げて先生を呼ぶ。幸運なことに小杉じゃなくて、3年の学年主任である向島先生が来てくれた。
この人がどういう先生かはよく知らないけれど、小杉よりはマシなはず。
「向島先生、この英文なんですけど」
「ああ、それはね」
向島先生はわからないところを的確に教えてくれる。
少しの先生の話を聞いていると絡まった紐がほどけるみたいに問題が解けた。
「あ、こうなるんだ。ありがとうございました」
「いえ、でも沢詩さん。随分と勉強熱心になったわね」
「え、そうですか?」
アタシのこと知ってるんだ。
けど、成績不振の生徒とは思われているかもしれないから、悪い意味で知られているんだと思う。
「行きたい大学でも見つけたのかしら?」
「……はい」
「そう。この調子で頑張ってくださいね。応援してますから」
「はい」
褒められたのかはよくわからないけれど、応援されたのはわかるとそれは結構な励みになった。
参考書を進めていこうかと背筋を伸ばして勉強に取り組もうとすると――
「……あっぶねー。観月、先生呼ぶのなら言えよ」
隣で仏田が体を縮こまらせててにもっているスマホを隠していた。
そんなの自習中にスマホ触っているそっちがいけないんじゃん。授業中たまにスマホ触っているアタシも人のこと言えないけれど。
それからはわからないところは向島先生に聞きつつ、午後の勉強時間は終わった。
やっぱり、周りの人たちが勉強している環境に変わったからかいつもより集中できた気がする。仏田は寝ていたので放っておいて部屋を出た。
――我ながらよく頑張ったほうかなー。ちょっとくらいご褒美があってもいいと思うんだけど。
日ごろから勉強している涼香が聞いたら怒りそうなことを考えて、夕食会場へと向かう。カレンたちももう終わったかな?
そう思っているとちょうど社会科科目に充てられている部屋の扉が開いた。そこから勉強が終わった生徒たちが一斉に出てくる。2人もそこから出てくるかな?
「ねえー高城先生ぇ。夜にお部屋に遊びに行ってもいいですかぁ」
「あ、私も行きたーい」
「夜の特別授業ってことでぇ」
明らかに媚を売ったような言い方をする女子生徒たちの中心には「はいはい、子供は早く寝なさい。明日もあるんだから」と腕を組まれながらも軽くあしらっている歩ちゃん。心なしかちょっと、疲れているような気がする。
――けど、関係ないね! ムカつく!
そして、それを遠巻きに見ているカレン達。
「なにあれ?」
口角を引きつらせながら無理やり笑顔を作って涼香に尋ねる。
「
「ほかにも先生がいたのですが……」
なるほど、あんなふうに歩ちゃんと密着できるときなんてなかなかないから、みんな張り切っているのか。あのまま歩ちゃんはずっと開放してもらえないのかな。
涼香たちは先生に書類を頼まれたということでアタシと別れる。
残されたアタシは女子生徒に囲まれた歩ちゃんをずっと見ていた。
「コラ! 高城先生のもお忙しいんですから、はやく夕食会場へいきなさい!」
見かねた向島先生がほかの生徒たちを咎める。
「はぁい」と返事をして歩ちゃんの周りにいた子たちは離れて夕食会場へとむかった。歩ちゃんは大きく安堵の息をついている。
「……残念だったねー。ハーレム壊されて」
「……観月か、そんないいものじゃないぞ。「部屋はどこですか?」とか、「夜に勉強見てもらえませんか」とか危うい発言ばかりするんだぞ。何気なく腕組んでくる生徒もいるし、か弱い女生徒を力づくて振りほどくわけにもいかないからな」
「ふーん、おやさしいこと、でっ!」
とりあえず、ローキックをかましておく。
「った!!」
大げさな、そこまで強くは蹴ってないよーだ。
「お前は俺に何の恨みがあるんだ!!」
恨みなんてないですよーだ。
あるのは
「まぁ、いいや。飯食いに行こう。腹減ったしな」
「うん、アタシも」
ある程度、気のすんだアタシは歩ちゃんの隣に並んで会場まで歩き出す。
「夕飯は何だろーな」
「結構いいホテルだし、期待していいかもな」
「歩ちゃんって食べるの好きだよね」
「まあ、生きがいの一つだからな。ああ、そういえばありがとな。歩波のこと面倒見てくれて」
高校生の妹が心配でということで歩波ちゃんの面倒を家で見ることになった。寝るとき以外は基本は家にいる。明日には歩ちゃんたちのお父さんたちが来るみたいだし、一度くらい会ってみたかったなー。
「あいつ、料理全くできなかったからな」
「いや、卵焼きくらいはできるでしょ」
「あいつの卵焼きは十中八九、殻がはいってる。得意料理って言ったらちくわの穴にキュウリを挿したやつだ」
果たしてそれは料理って言えるのかな?
「とまあ、そういうわけで感謝してる」
「いえいえ、お隣同士じゃありませんか」
やっぱりいいな―こういうやり取り、あたしにしかできないこの時間がたまらなく好きだ。
――……なんか、腕組みたくなってきちゃった。
いつもみんなみたいに何気なく腕をつかんでいるけれど、いざ自分でやろうと思うと恥ずかしさがこみあげてくる。なんでだろう、いつも学校では自然にやってるのに。
あ、今は2人っきりだからか。
少し、躊躇いを見せてからえいっと勢いをつけて腕にしがみついた。
「うわっ!」
「えっへへ~」
「いきなりなんだ!」
「さっき、先輩たちにされてたじゃん」
それを言われると弱いのか「ほかの人を見かけたらほどけよ」と注意するだけで、アタシの好きなようにさせてくれる。まあ、歩ちゃんはきっとアタシを女としてみていないんだろうけれど。これはこれでお得だ。
このまま行けるところまで行こうかなーと考えていた矢先だった。
「な、何やってんだよ! 観月!」
◆
「見つかったので終了!」といわんばかりに観月の手を振りほどく。こういうのは人によっては結構うるさいんだ。特に今日ここには向島先生がいる、前に似たような場面を見られたら生徒と一緒に説教食らったこともあった。
「何よ、仏田」
あきらかに声に不機嫌さをにじませて観月が先ほどの行為を咎めた男子生徒に文句を言う。
――たしか……2年の…4組の男子だ。
授業を受け持ったことのない生徒だが、男子は生徒の割合が少ないので覚えやすい。1年の時は観月と補習仲間だだったはずだ。
「ただのスキンシップじゃん」
「勉強合宿だろ! 高城といちゃつく為に来たのかよ!」
お前な、仮にも目の前にいるのに教師を呼び捨てっていうのはどうなんだ。
「いちゃいちゃだって! え、そういう風に見える? どうする歩ちゃん?」
そういいながら俺の腕を再度ぎゅっとつかむ。
それを見たからか仏田と呼ばれた生徒の顔が一瞬険しくなる。
――……あー、なるほど。そういうことね。
よくある男子の嫉妬だ。
好意を持っている子が教師といえど男にここまで密着されれば面白くもないだろう。
今更だがいらぬ嫉妬を買いたくないので観月を腕を振りほどく。
「馬鹿言ってないで、とっとと飯食いに行くぞ」
俺は先に歩き出す。
「あ、待ってよ~」
俺の後を追うように観月がついてくる。そのあとは、2人の視線を感じながら俺は夕食会場へとたどり着いた。
「あ、涼香ー、カレーン!」
観月が会場に入ってきた二人を呼ぶとすぐにやってきた。夕食もバイキング形式になっているようでプレートをもって自分の好きな食べ物をそれぞれとっていく。
「あ、肉ばっかりじゃだめだよ」
「旅行先くらい食いたいもの食うんだ」
「はい、野菜も!」
俺の肉ばかりのプレートを見て観月が俺のところに野菜を強制的におく、一度取ったものを戻すのはマナー違反なので、これも食べることになる。
「あ、ならこれも美味しそうですよ」
「これもです」
観月を見て涼香さんとカレンも俺の皿にどんどん追加していく。せっかくの俺の皿の黄金比率が混沌と化していく。
「あー、あー……俺もなんか肉ばっかりだなー」
そういえば仏田も俺たちの後ろについてきているんだった。
自分のプレートに野菜が1つもないことを観月に指摘してほしいための発言なのだろうが、観月は視線すら向けようとしない。カレン達と一緒のテーブルにすわった。遠くの席で仏田の構ってもらえなくてイライラした感情が伝わってきた。
俺も席に着こうと思っていたが、ほかの先生方が座っている場所に空きがない。
なので適当に空いている場所に入れてもらおうかと思っていると、観月たちが座っているテーブルが目についた。4人掛けのテーブルなのだが、今日は夕葵さんがいないので席が一つ余ったようだった。
「ここで食べてもいいか?」
「どうぞー」
了承が出たので席に座り食べさせてもらう。
そのあとは解散となると各自風呂に入り、合宿の1日目は終了した。
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