第33話 球技大会に向けて

 ゴールデンウィークが終わった。

 3連休以上あったというのに終わってみれば、本当にあっという間だった。今は休み明けの集会ということで全校生徒と教員も含めて講堂に集まっていた。


『………そもそも、私が学生の時は学業と運動を両立させていたというわけです。諸君らもそれを肝に銘じていただきたい………』


 千人近い人数が講堂に集まるので、講堂そのものも結構な広さがある。

 講堂の壇上には、校章の彫られた演説台で教頭先生が長い話をしている。これほど早く終わんねえかな~と思わせるトークもめずらしい。長い話のほうが、説得力があると思っているのだろうか。


 生徒の大半は教頭の話を聞いておらず、下を向いて眠っている生徒が何人か見えた。


 ――眠い………。


 もうかれこれ30分以上は話しているのではないだろうか。生徒たちは座っているのだが俺たち教員は立ち聞きだ。結構つらい。

 最初は、今月に開かれる球技大会の話をしていたのだが、急に話が飛んで教頭先生の学生時代の話になった。

 そうなれば、俺たちからすれば何の意味もない話の内容のため、自然と興味も薄れてくる。


 必死で欠伸を噛み殺し、出てきた涙で目を潤して覚まさせようとするが、眠気は取れそうにない。


 ――……………Zzz。


「高城先生……」


 耳元にかかる息でビクッと目が覚める。

 声のした方を向くと水沢先生がいた。いや副担任だから俺の隣にいてもおかしくないんだけど。耳に息はびっくりだ。


 どうやら、少し眠ってしまっていたのを水沢先生が起こしてくれたようだ。


「ダメですよ、高城先生。お話はちゃんと聞かないと。めっ、です」

「……すいません」


 静蘭学園には教頭先生が2人いる。

 今話している教頭は佐久間教頭と言う男性で、もう1人は俺に辞令を伝えた右井みぎい教頭という。


 この二人が集会の時に話すことが多い。

 話が長いのは、圧倒的に佐久間教頭なため、壇上に上がった瞬間に生徒どころか教員の中からも、ため息が聞こえてきた。


 自分語りを聞かされるほどきついものはないよな。しかも授業の一コマ使ってまでする意味はあるのか。


 佐久間教頭の話を右から左へと聞き流していると、一人の男子生徒が大きな欠伸をした。


 欠伸がうつったとでもいうのだろうか、またもや欠伸がこみあげてきた。今度は不意に来たため欠伸を噛み殺すことはできなかったため口元を手で覆い隠した。


『……高城先生が眠そうなので、これで話を終わります』


 あ、見られてた。

 佐久間教頭の不服そうな声に反応して多くの生徒が俺の方に視線を送り、女子生徒たちが「かわいー」などと言いながら、くすくすと笑いだす。名指しはさすがに勘弁願いたい。


 まあ、これで話が終わってくれたのは助かったけど。


 ………

 ……………

 …………………


 その後、欠伸をしたことを佐久間教頭に謝罪し、社会科教員室へと戻ると俺と同じ社会科教員である座間先生がスマホをいじりながら俺を出迎える。


「よくやった、いつもより10分も早く佐久間教頭の話が終わったぞぉ」

「さいですか」


 というよりそれを言うということは、あなたも長いって思ってたんですね。


「要領が悪いんだよなぁ佐久間教頭。もっと右井教頭みたい数十秒で終わらせてほしいもんだぁ」


 右井教頭の去年の夏休み明けの挨拶は「今日も皆さん学校に来てくれてありがとう。今学期も学校生活を楽しんでくだいね!」という10秒足らずで終了した。


「そういえば佐久間教頭の話じゃないですけど、今月には球技大会がありましたね」

「だなぁ。メンドイわ~。俺らの年齢、考えろよ~」



 座間先生、それほど運動には乗り気ではない様子。怠そうにスマホをいじりだす。

 座間先生はどちらかというとインドア派ですからね。確か部活の顧問も漫画・アニメ研究会と趣味全開だ。


「それによぉ。ゴリ……剛田の奴が張り切ってんぞ~。打倒A組だとさ~」


 今、ゴリ田って呼びかけませんでした? けどそれよりも。


「なんで1組俺ら限定なんですか」

「そりゃあ。去年の虐殺ワンサイドゲームの所為だろー」


 去年の球技大会を思い返す。


 あー、そういえば、そんなこともありましたね。


 去年の男子のフットサルの時、俺は本来見学だけのつもりだったのだが、フットサルの決勝戦での剛田先生のヤジや嘲笑に嫌気が差した俺が参加したのだ。

 球技大会は教員と生徒の交流も兼ねているので教師も参加することができる。


 まあ、それで、剛田先生の率いるチームに8-2という点差で圧勝したのだ。

 別に俺一人の影響というわけじゃない、俺のチームにもサッカー部の奴がいたし、そこそこ運動できる生徒がいたのが勝因だ。

 けれども、多分この時の出来事が俺が剛田先生によく思われていない原因だろう。なにせ、歯牙にもかけていなかった新人の教員にサッカー部顧問が良いようにあしらわれたのだから。


「あれは……少しやりすぎました」

「いやいや、見てて痛快だったぜ~」


 カッカッカッと愉快そうに笑う。

 あの時は相手が油断しているのもあったし、スタミナ切れということもあったからあそこまで差が付いたのだ。


「まあ、今年も頑張れや」


 完全に座間先生は他人事だ、実際そうなんだけど。


 ◆


「じゃあ、今日のLHRは今月に開かれる球技大会の事について決めようか」


 集会が終わってからの初めてのLHR。


 イベントごとが大好きな静蘭の学生だ。こういった球技大会にも熱が入る。

 賞品としては校内の売店や購買で使用できるという商品券が支給される。球技大会は、男子達が女子達へアピール出来る数少ないチャンスだろう。活躍出来れば、女子への好感度は上昇する。そんな下心を持つ男子は少なくない。

   

「やってやんぜー!! 彼女ゲットだー!!」

「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」


 というかそんな奴等ばかりだ。どんだけ女に飢えてんだ俺のクラスの男子。その下心を知られれば女子は離れるに決まっているのに。


「夏野さん! お願い! こっちのチームに来て」

「ダメよ! 夏野さんは私たちのチームよ!」


 背の高く、運動神経抜群である彼女を欲しがるチームは多くいる。

 クラスメイトとの交友を深める意味合いもあるので、球技大会は比較的早い時期に行われる。まあ、夏野さんはそんなことなくても色々な方面で人気だけれど。


「………」

「………はあ」


 一方で体育祭と同様に、体育の苦手なものにとってはクラスの足を引っ張ることにつながり、苦痛を伴う行事だ。ため息をついている女子生徒の中にはカレンも含まれている。確かあまり運動が得意でないと言っていたな。


 競技としては男子はグラウンドでフットサル、女子はバレーとなっている。試合形式は午前中は総当たり戦を行い午後から上位チーム同士トーナメント方式をとる。


 佐久間教頭の話では、今年は特別賞という物があるらしく、例年以上に熱が入っていた。


「せんせー、特別賞ってなんですかー?」

「それは俺も知らない。というより、もう勝った気でいるのか」

「いやいや、どうせだったら勝ちたいなーって思って、景品が何かわかればさらにモチベーションアップですよ!」


 俺が何か知っていると思って窺うように尋ねてくるが、知らないものは知らない。金銭的な物は教育上よろしくないのでないと思うが、もしかしたら秋の文化祭の予算が割り増しかもしれない。


「へっ、こっちには暴君高城先生がいるんだからよ、負けっこねえぜ!」

「うちの悪魔の右足高城先生にかなうやつはいねえよ!」

怪物高城先生、舐めんなよ!」


 相沢、斉藤、相馬が俺の方を見てそんなことを吼える。

 期待していると言いたいのだろうが、どれも罵倒に聞こえるのは俺の心が荒んでいるからか。


 既に勝った気になっているところ悪いけれど。


「期待をしているようで悪いが、俺はこのクラスでは参加できないぞ」

「「「ええ!?」」」

「俺、昨日付けでフットサル同好会の正式顧問になったからな。そっちの枠で出場することになった」

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