第17話 女子トーク
カレン
センセが覗きを捕まえたという話はすっかり話題となっていました。
「観月よかったね~。あの時見せなくて」
「も、元々見せるつもりなんてなかったし!」
確かにあの時、覗きがいたと思うとぞっとします。
「はいはい、いつまでもここにいないで、もう部屋に戻りなさい」
「あとで私たちも見回りに行くから、夜更かししちゃだめよ」
結崎先生と水沢先生に促され私たちは部屋にもどることになりました。
女子寮の部屋は2つの二段ベッドに4つの事務机が置いてあります。
寮生はここで勉強をするのでしょうが、今日の私たちは勉強道具などは持ってきてはいません。荷物置き場として活用させてもらいましょう。
「これからどうする?」
「このまま寝るっていうのも少しもったいない気がするな」
「おお、夏野さんって、もっとまじめかと思ってた。「消灯時間を過ぎたら寝なさい」って」
「さすがにそこまでじゃないわよ」
苦笑しながら夏野さんは答えます。
学級委員の許しを得た所で私たちは親睦を深めるための話をすることになりました。さすがにアニメや漫画の話はありませんでしたが面白い話をいろいろ聞けました。
そして女子トークの定番となるのは――
「でさ、夏野さんは好きな人いないの?」
「私か?」
そう恋の話です。
観月が率先してこの話題を持ち出しました。
「今は部活で忙しいからそういうことは……」
「ええー以外、夏野さんってモテそうなに」
「それを言ったら観月さんだって」
確かに観月にはその手の話をよく聞きます。
けれど、誰かと付き合っているという噂は聞いたことがありません。
「アタシはまだいいよー。弟の面倒見ないといけないし、それに呼び捨てでいいよ。桜咲さんもカレンもね」
「わかった、なら私の事も
「あ、そういえば弟君の写真を見せてください」
そういえばお風呂場でそんな約束をしていました。
弟君の話をする観月はいつも楽しそうに話すので見てみたいです。
「いいよー。ちょっと待ってね」
2人で観月のスマホに視線を落とします。
スマホには特撮ヒーローのポーズをする弟君がばっちり映っていました。
スクロールをしていくとずっと弟君の写真が続きます。
本当に弟君が大好きなんですね。
「かわいい……」と夏野さんがぼそりと呟きます。確かにこんな男の子に「お姉ちゃん」と呼んでもらえれば、頬が緩んでしまうでしょう。
「桜咲さんも見てみる?」
「……私も涼香でいいわ。私は後でみさせて」
なんででしょう。涼香の声がどこか暗い感じがします、体調でも悪いのでしょうか。
「なら名前で呼ばせてもらうね。……涼香には今好きな人いないの?」
確かに学校で一番美人だと言っても過言でない涼香の恋愛トークは非常に気になります。
「……いるよ」
「ええー!? 誰!?」
「………」
てっきり誤魔化されるかと思ったけれど意外なことに応えてくれました。いったい誰なのでしょうか?
観月は当然のように喰い付いて、夕葵さんも驚いたように目を見開いています。
昨年、学園で一番人気だったのサッカー部の
リップクリームを塗った綺麗な桜色の唇から、想い人の名前が告げられます。
「高城先生」
嘘であってほしい答えが返ってきました。
私はもう写真を見ておらず指だけが動いています。
「え……」
それは誰の口から出た言葉でしょうか。自分で出したのかもしれません。
「………なんて冗談よ。びっくりした? 私はあまり面白い話できないから」
「っ、あ、なーんだ冗談か。そうだよね先生が好きだなんて少女マンガじゃあるまいし、もーホントびっくりしたー」
「そ、そうだ、涼香あまり驚かせないでくれ」
「ふふふ、ごめんごめん」
本当に驚きました。よかった冗談ですか……
けれど私の心にはどこか安心できない感情が生まれていました。
ほっとして改めてスマホの画面に視線を落としました。今度は大人の男性に抱かれた弟君が映ってました。
けれど、弟君ではない男性の方に私は見覚えがありました。
――一緒に映っているのって……センセ?
スーツでないので私の知っているセンセではありませんが顔は間違えようがありません。
センセに抱かれた弟君はとてもうれしそうで、親しげな様子だということがわかりました。
いけないと思いながらもさらに写真をスクロールしました。
――なんで……。
今度は観月が映っていました。
セーラー服の観月の頭を撫でているセンセがいます。
観月の手には卒業証書が握られています。多分、中学の卒業式の物でしょう。学園に上がる前から2人は知り合いだったのですか?
「カレンもう写真いい?」
「あ、はい!」
急いでホームボタンを押して今見ていた写真を閉じます。
見間違いということは、ないのでしょう。
「ちょっと喉が渇いたから飲み物買ってくるね。何か欲しいものあれば買ってくるけど」
観月が飲み物を買いに行く立ち上がりました。自販機の入り口に設置してあり購入は自由です。夕葵さんはお茶を頼み、私はミルクティーを頼みました。
「あ、それなら私も手伝うわ」
涼香さんが手伝いを名乗り出て2人は部屋から出ていきました。
◆
観月
「こらー男子部屋へ行く気かー」
男子たちに興味ないから行くわけないのに。
それにしても
「飲み物だけでーす」
本気で叱りつけているわけではないので、やんわりとアタシは返答する。
「うーん、
その疑うような目、傷つくなー。
「本当ですよ、荒田先生」
「なんだ、桜咲もいっしょかなら行ってよし!」
「なんか差別を感じるー」
「普段の行いを振り返りな」
そう言われるとアタシは何も言えなくなる。
涼香の顔パスで教員部屋を通過したアタシ達は自販機の前まで来た。
入り口付近はまだ薄暗くて、人が帰ってくる気配はない。自動販売機の明かりだけが周囲を照らしている。あーあ、歩ちゃんは警察行っちゃたしなー、押しかけようかと思ってたのに。
「涼香はどうする?」
既にカレンと夕葵の飲み物を購入し手の内に抱えると、次に涼香の希望を聞いた。
「ねえ、観月。聞きたいことがあるんだけれど」
「なに?」
なんだろう、ここで聞くってことは2人がいると聞けないこと?
それにしてもさっきの好きな人告白にはびっくりしたわ。いきなり歩ちゃんを名指しするんだもん。ホント、冗談でよかった。
「できればホントの事教えてほしんだけれど」
「うん?」
「………観月と高城先生ってどういう関係?」
「………」
本日2度目の絶句だ。
「え? な、なんで、ここで歩ちゃんが出てくるの」
「うん、カレー作ってる時にね、食堂で聞いちゃったんだ。先生と観月の会話」
その観月のセリフで思い出すのはあの時、歩ちゃんに言われたあの言葉だ。あのときそういえば涼香がすぐに現れた。聞かれてた? いやいや、まさか……
「特別な生徒って何?」
うわあああああーーーーーー!!
完全に全部聞かれてるぅ!
アタシは内心、だらだらと汗をかいていると
「それに先生……観月のこと名前で呼んでたし」
………ダメだ。完全にアタシ達の事を勘繰ってる。
この年頃の女子はアタシも含めこの手のゴシップには目がない。
涼香だったら変な風に風潮したりはしないとは思っている。
ほとんど初対面に近いくらいなのだが普段の学校生活や生活態度を見ていればそんなことをする子じゃないことは分かる。
分かっているけれど………
「付き合ってるの?」
「ないないないない!」
そう思われるのはすっごくうれしいけれど。
それだと歩ちゃんの立場が危ない。うん、かなり危ない。
だから私は否定した。
この時、違うことを言えばこの後の結果は変わってたかはそれは誰にもわからない。
私の否定を聞いた涼香はすごく安心した様子で、息を吐いた。その安心した顔は逆にアタシに不安を与える。
「……さっきの好きな人ね、実は嘘じゃないの」
「……え……」
待って待って、どういうこと……冗談が嘘って。
「観月は? 先生の事好きなの?」
「え、あの、その……」
やめて! そう叫びたかった。
これはアタシの想いだ、誰かに触発されて言っていいものじゃないし、言いたくない。
けれど相手はあの涼香だよ。
アタシの知っている中で一番綺麗で勉強もできて、学園で知らない人がいないっていうくらいの有名人。
ここで引いたらアタシの一番大好きな人を盗られてしまう。そんな気がした。
脳裏によみがえるのは知らない女の人を家に招くあの時の情景。
もうあんな思いは嫌だ!
「………好き。アタシは歩ちゃんの事が好き!」
ここに想いを伝えたいその人はいないけれど、これは宣戦布告だ。
目の前にいるアタシのライバルへの。
「うん、やっぱりそうなんじゃないかって思ってた」
私の布告を聞いても涼香はあまり同じた様子はない。なんだ余裕のつもりか!
「なら改めて聞くけれどどんな関係? ちなみに私は関係がフェアになるように観月に想いを伝えました」
「………結構いい性格してるよね涼香」
涼香にはアタシと歩ちゃんの関係を話すことにした。
もちろん涼香の事も聞かないといけない。
けれどそれは今日じゃない。飲み物だけを買うには時間がかかりすぎているからもう戻らないと2人が待っている。近々話す約束をして今日はここで話を打ち切る。
女子寮へ戻ろうとすると――
「……おまえらか、はよ寝ろ」
「「っ!!」」
このタイミングで歩ちゃんが帰ってきた。
涼香とアタシはびっくりして思わず飛び上がりそうになった。
「歩ちゃん! もう帰ってきたの!?」
「……事情聴取だけだったからな。けど疲れた」
「お疲れ様です」
「ありがと桜咲さん。じゃあ、俺は先生たちに報告してくるから、とっと部屋戻れよ……あと男子寮へ行くなよ」
「いかないよ!」
「ま、桜咲さんがいるから、その心配もないか」
なにその扱いの違い! アタシには信用ってものがないの!
好きな人がここにいるのに行くわけない。
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