第13話 送迎
買い物を終えた俺たちは荷物を、学生寮へと運んでいく。
すべて運び終えたときには、もう既に夕日が沈んでいる頃だった。
「全員、俺が送ってくよ」
「そんな、悪いですよ」
「そうです。いつも部活でこれくらいは遅くなるのは普通ですし」
桜咲さんと夏野さんが、断ろうとするが
「今日は部活じゃないだろ。もうじき暗くなるっているのに、女の子を1人で家に帰すっていうのも教師としては問題だろう。帰りが遅くなったのは俺が一因しているし」
2人は遠慮していたが俺の言葉には何も言い返すことができず
「「……お願いします」」
◆
「一番近いのは、夏野さんの家かな」
「はい」
全員、荷物を教室から持ってきたのを確認し、車に再度乗り込む。
助手席には、一番最初に戻ってきた桜咲さんが乗っている。息を切らしながら戻ってきたのだが、そんなにも急がなくていいのに。
シートベルトを装着したのを確認すると、エンジンをかけて学園から外へと出ていく。
実際、学園から自宅に一番近いのは俺と観月だろう。だが、一緒の目的地だというのに最初に降ろすのは効率が悪い。
車を走らせて、夏野さんの自宅を目指す。
夏野さんの自宅は以前、彼女のお婆さんが入院したときに彼女を自宅へ送り届けたことがあるので覚えている。
一般道を走っていると――
「じぃ~~……」
なにやら、助手席側から視線を感じる。
運転中なので、首を向けて確認することはできないが間違いない。
「桜咲さん、俺の顔になんかついてる?」
「すいません、気になっちゃいましたか?」
「そりゃあ、そこまでずっと見られてたら」
桜咲さんはふふっとおかしそうに笑う。
「いえ、運転する先生の顔って初めて見ましたから、なんだか大人の男性の顔だなぁって思ってしまって、つい見てしまいました」
褒められているのかよくわからないがなんだが視線がこそばゆい。
そういうと俺から視線を外し、桜咲さんは前を向く。
信号が赤になり停車すると桜咲さんは何かに気が付いたかのように窓の外に視線を送る。
「あそこですよね。先生が車に轢かれたのって」
「ああ、そうだな」
そういうと、俺もそこへ視線を移す。
後方座席の3人も動いた気配が背後から感じる、
つい最近見たばかりの光景だがいつみても事故の痕が痛々しい。ついつい視線をそこに奪われる。
「先生、前」
観月の声でハッとして信号が青になっていることに気づかされる。
いかんいかん、生徒を乗せている今日はいつも以上に運転に集中せねば。
少し遅れて、アクセルを踏み込む。
「しっかりしてくださ~い」
買い物から帰ってきたときから、どことなく機嫌が悪いような気がする。
そこからは何もしゃべることなく、夏野さんの自宅前まで送り届けた。
夏野さんの自宅は歴史を感じさせる一軒家で、どこか赴きを感じさせられるのだ。この家でお婆さんと2人で暮らしている。
「じゃあ、夏野さん今日は助かった、ありがとう」
「いえ、また何かあったらおっしゃってください。それとアイス御馳走様でした」
一礼し、車が見えなくなるまで夏野さんは俺たちを見送ってくれた。
「次はカレンだね」
「ハイ、お願いします」
カレンの自宅は、もう既に目視できている。
距離はまだあるのだが高台の大きな屋敷なので嫌でも目立つ。
間違いなく、この周辺一体でも大きな住宅だ。あの家の住人と知った時は驚いたものだ。
高台を上ると、家の門の前に車を停車させる。
「でかっ」
「すごい」
ここら一体は、高級住宅ばかりだ。
それゆえ、周囲も大き目な邸宅が多いのだが、カレンの家は群を抜いていた。
ホームパーティが出来そうなほどの広い庭には、ベタに白い大きな犬が走り回っており、庭を手入れしている庭師さんまでいるのが見えた。
「すごいな……」
「あはは、ちょっと恥ずかしいです」
車からカレンが降りると同時に、門が開きそこからメイドさんが出現した。
すごい、リアルメイド初めて見た。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
見事な一礼でメイドさんが、カレンを出迎える。
――ん?
顔を上げた金髪白人メイドに既視感があり、ジッと見続けると
「なんでございましょうか人を視姦して、気持ち悪い」
「お前シルビアだろ! なんでメイドやってんだよ!」
俺に対してのこの毒舌はよく覚えている。間違いない。
俺の顔を見るたびに視姦されたとか、気持ち悪いなどほざきやがっていた大学の後輩だ。
海外からの留学生で母国に帰国したものだと思っていたのだが、なぜここにいる!?
「もしかして、その視姦っぷり高城先輩ですか? お久しぶりです。卒業式以来ですね。会った瞬間にこれとか、さすがにドン引きです」
「お前の凹凸どころか平面な身体なんかに興味なんかない!」
外見美人で中身残念な後輩との再会は俺を大いに動揺させた。
「センセ、シルビアさんとお知り合いだったのですか?」
「ああ、大学の後輩だよ。まさかカレンの所でメイドやってるなんて……」
下宿してハウスキーパーをしているとは聞いていたが、ここだったとは……世間ってホント狭い。
「とりあえず、お前んとこのお嬢様は送り届けたか……「お嬢様何か変な事されませんでしたか」おいっ!」
俺の説明を最後まで聞く前に、カレンに安否を尋ねるのはどうなんでしょうかね。いや、まあ正しい反応なのだろうけど。
「はい、何もシテくれませんでした」
ここで日本語をまちがえるなっ!
そういうことをする要因があったように聞こえるから。
後輩が嘲笑するような笑みを浮かべる。
「はっ、さすが
というよりあったら、そっちの方がまずいだろう。
「じゃあ帰るから。カレン、今日は助かったありがとう」
「ハイ!」
別れを伝えると、俺は自宅前でUターンし商店街方面へと車を走らせた。
「まさかシルビアがカレンの家で働いているとは……」
最近の出来事の中でもわりと衝撃的な事実だった。
大学を卒業してもう2年経つ、妙にその時のことが懐かしく思い出し自然と笑みがこぼれる。
「……随分あのメイドさんと親しそうでしたね」
「そうそう、あの“美人”メイドとか、ねッ」
痛っ! 観月、座席を蹴るな!
2人視線が左側と後方から突き刺さる。
「大学の時の後輩だよ。てっきりもう帰国したのかと思ってた。まあ懐かしくはある」
「元カノ?」
「違うよ。なんで、みんなそういう風に勘繰る?」
そう思えばよく「シルビアと付き合ってんの?」みたいなことを何度も尋ねられたことがある。その時は別の彼女と付き合っていたので「ない」ときっぱり否定していたのだ。当時の彼女にまで浮気を疑われるし。
そこまで考えて大学時代の彼女のこと思い出した、もう思い出しくもないのに。
「そうとしか見えないからですよ」
「だよね。すっごく親しそうだった」
「……仲がいいと言われればいいんじゃないのか? あいつ嫌いな人間にはとことん冷たくなるし」
会話が成立する分、俺はまだマシだろう。
昔、外見に騙されて言い寄っていた奴が何人も犠牲になった。
ちなみに俺があいつと親しくなったのはカレンと同じ趣味だと俺が知ってしまったからだ。しばらく付きまとわれ、その内に親しくなっただけだ。もしかしたらカレンの趣味はあいつから伝えられた可能性は十分にある。
「“あいつ”ってよんでるし」
「…………」
そのまま会話もなく桜咲さんの家にまでたどり着いた。
「……先生。今日はありがとうございました。また明日学校で」
「また明日、今日は助かったよ」
「失礼します」
車を走らせ、三日月荘へとむかう。
「なあ、観月。桜咲さん何か怒ってないか?」
「知らなーい。怒ってるって感じたならそうなんじゃないの?」
お前も怒ってるよね。
観月は機嫌を損ねるとそっぽを向くからわかりやすい。その原因がいまいち分からないことが多いのだが、次の日には機嫌が直っているパターンが多い。
――いや、俺の事を無視し続けている期間があったな。いつごろだったか?
「帰るぞ」
「ん」
アパートの駐車場に車を停め俺は自分の荷物を持ちアパートへと戻っていく。
「おかえり。また明日な」
「……おかえり、また明日」
そう言って別れを告げると俺と観月はそれぞれの自室へと帰っていた。
◆
カレン
「ムゥ……」
食べ終えた夕飯を下げているシルビアさんは私の視線を感じたのか尋ねる。
「お嬢様、そんな可愛らしく見つめてどうされたんですか?」
見つめてなんていません。
これでも睨んでいるんです。
シルビアさんはいつも私は子ども扱いします。
「センセと知り合いだったんですね」
「そうですね。大学時代よくしていただきました」
微笑がなんだか可愛らしいです。
「付き合ってたんですカ?」
シルビアさんは同じ女としても私から見ても綺麗な女性です。
だけれど
私の知らないセンセを知っているのは少し羨ましいです。
◆
観月
すっごくイラつく。
原因は分かっている。と言ってもその原因は多々ある。
まず1つ目は夏野さんと間接キスしたことだ。
「スケベ、ロリコン、スケコマシ……」
絶対、下心があったに決まっている。
夏野さんは美人だ。
桜咲さんの話で男子たちはよく色めき立っているが、夏野さんは、完璧すぎる高根の花という印象を持たれている。なにより、彼女を慕う女子たちの嫉妬が恐ろしいんだと思う。
ポスッとクッションをサンドバックのように、拳をぶつける。
クッションは上の住人の顔の代用だ。
「メイド好き、オタク……死ね」
2つ目の原因としては、カレンの家にいたあのメイドだ。
なにさ、親しげにあいつって、全部わかっているみたいな言い方して。
さらにクッションに拳をめり込ませてぐりぐりと変形させる。
アタシが隣に並んでも、よくて兄妹にしか見えないだろう。
あの人の隣にはいつもアタシより年上の女の人がいた。
アタシは一度失恋している。
いまでもその時の事は良く覚えている、アタシの知らない
キュッと唇を固く結ぶ、その時は自分が子どもであることが、ただ悔しくて仕方がなかった。
好きな人が、大学に通っている時はアタシはまだ中学のセーラー服を着ている時だ。
ようやく制服が変わったと思ったら今度はあの人はスーツが似合う大人の男性になっていた。
歩ちゃんはアタシの事どう思っているのだろ。
手のかかる妹みたいな存在?
担任の生徒?
知りたいようで知りたくない。
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