第38話 あらたなる希望

――ピルナの丘 商会


「そんであんたは追い出されたって? ダメだねえ、ノエルは」


「だって、仕方ないじゃないですか、代わりに明日は私、そうなってます」


「ともかくガラリアは女としてもやり手、このまんまじゃあんたは隅に追いやられちまうよ?」


「そうよねえ、ガラリアは群れの長としても有能だったし、ウチの先代シャーマンがあれだけ圧力をかけたのにきっちり対抗してたし」


「そうね、巣穴が襲われても大人は全員逃がしてる。ウチは対応が遅れてこのざまだし」


 ガラリアに言いくるめられ、一度返されたノエルは群れの女たちからダメだしを受けていた。


「それで、あいつはきれいな女になっちまったんだろ?」


「…そうです、大人の女って感じで、メーヴ様とは違う色気をすごく感じました」


「まあ、あいつは年増、子も産んできっちりシャーマンになってるからね。出来損ないのあんたと違って」


「出来損ないじゃないです! ひどいっ!」


「メーヴ様は王子と同い年、マーベル様は見た目的には少し年上、アレアは年下の妹キャラ、オババはさ、あの二人を見て、被らないようにアレアを変質させたんだよ」


「そうだろうね、そして今度も被らない熟女系。地味子のあんたじゃ勝負にならないじゃん」


「地味子って言わないでください!」


「…でもさ、いくら子を作っても向こうは大人が20人でしょ? あたしたちは数で勝てないよ? シェリルの巣穴は100人以上いるし。このままじゃあたしたちが一族の中で一番下、そうなっちゃう」


「そうねえ、そこは勝ち目がないわ、だからこの地味子をなんとかして王子の一番の女、そうするしか」


「…だから、地味子じゃないです!」


「でも、ノエルが他の女と被らない所ってある?」


「そうねえ、見た目は王子と同年代、被る相手はメーヴ様? 無理無理」


「無理じゃないですよぉ!」


「だってメーヴ様は稀に見る美女よ? 儚げでお嬢様って感じで。あんたが並んで立っても誰もあんたを見ないわよ」


「そうねえ、ノエルは良く見りゃ美人だけど、普通に地味だし」


「魔界の学校に居ても誰も気に留めない感じ? 運動もできないし、勉強も普通? できるのは弓矢だけだもん」


「相手は委員長、あんたは隅っこで本でも読んでるのが関の山、そして相手は魔界一の美男子、普通に無理だわ」


「だからそれをどうにかって話じゃないですか!」


「この際メーヴ様とマーベル様は除外しないと、アレアもかな。あくまでゴブリン同士、ガラリアに勝てればいいのよ。あの二人にノエルが勝つのは無理だし」


「そうね、現実的じゃないか。でもガラリアは強敵よ? 女としての色気もあるし、他と被らない熟女系、王子はあれで寂しがり屋だから、ああいうのに弱そうだし」


「「わかるー」」


「それにノエルを追っ払って自分だけ、関係を深める時間を確保してる。アレアはしばらく帰れない、メーヴ様もかな。あとはマーベル様を」


「そこはさ、あたしたちが裁縫の手伝い、そう言う名目でお側について、あれこれ意見を言って引き延ばせば」


「うーん、あの人には嘘をつかない方が良くない? メーヴ様と違ってマーベル様はあたしたちに嫉妬しないし。正直にノエルと関係を深める時間が必要って言えば判ってくれると思うよ?」


「そうね、そっちはそれで。問題はこいつよね」


「ほんとパッとしないもんね。簡単に突っ返されるし」


「良く見りゃ美人でスタイルもいい、なのにパッとしないってどういう事?」


「普通あり得ないよね」


「しょうがないじゃん地味子だし」


「「うんうん、そうだよね」」


 そんな感じで総攻撃、ノエルは既に涙目だった。ともかくこのまま話しても悪口しか出ないので続きは男衆が帰ってからとなった。


「なんだおめえ、突っ返されたのか?」


「ちがいます! ちゃんと取り決めで明日は私、そうなってるし」


 そんな男たちに女たちが事情を話して聞かせた。


「なるほどな、ガラリアってのはゴブリンとしても良い女って話だ、ノエルみたいに変質したならさらに王子の好みに寄せてきてるって事だろ?」


「そうなのよ、色気むんむんの熟女だって話よ? 今のノエルじゃ話にならないからどうにかしないとって」


「数では向こうの群れに勝てないし、王子の寵愛でも劣るってなったらあたしらの群れが一番下、そうなっちゃうでしょ?」


「そいつはよくねえな。んで俺たちの意見をって?」


「そう、コイツはさ、よく見りゃ美人、体だって悪くない、なのにパッとしないでしょ? だから男から見てどうすればいいかって」


「…うーん、そうだね、僕が思うにはさ、ノエルが他の女と被らない所は地味なところ」


「あはは、そりゃあ確かにそうだけど、地味なのがマズいって話だよ?」


「だからさ、地味だからこそ突き抜けてみればッて話、例えばね、これ、」


 そう言って三男のショタが取り出したのは黒ぶちのメガネ。彼は優し気で少し子供らしさも残している。誰からも好かれるタイプだった。


「地味子ってこういうのかけてそうでしょ?」


「「確かに」」


「ほら、ノエル、これを。これはね、みんなの手伝いをしてたらお礼にってもらったんだ」


 ノエルは少しいじけながら手渡されたメガネをかけてみる。


「お、意外にいいじゃねえか」


 そう言うのはヤンキー系の次男、彼はゴブリンとしても整った顔のいい男。普通にレイプとかしていそうだが実はいい人と言う意外性を持っている。


「そうだな、まずはこの感じを推し進めてみるか?」


 決断を下すのはみんなの兄貴。頼りがいがあって、気は優しくて力持ち、ルックスも逞しい気持ちのいい男。


「そうだね、この感じをベースにあとは意外性。普段はおどおどしてるけど、ベッドに入ったら積極的、みたいな?」


「わかるー、そう言う女はハマるもんな」


「だとすれば、普段は露出は控えめ、でも下着は派手め、そんな感じか?」


「そうだね、兄貴」


「けどよぉ、相手は熟女でデキる女のガラリアだろ? 地味子ぶつけて勝てんのかよ」


「どっちにしろ俺らの手持ちの札はノエルだけなんだ。こいつに頑張ってもらうしかなかろう? ともかくノエル、こっちの事は気にするな。お前は王子の側を離れねえ、それが一番大事な事だ」


「…はいっ! 私、頑張ります」


 意見の一致を見たところで女たちがあれこれノエルに下着や服を宛がっていく。


「やっぱさぁ、下着はド派手な赤系? 清楚さじゃメーヴ様には勝てないし」


「そうね、意外性を出すなら露出は押さえないと」


「でもあんまり堅苦しいのも」


「だからこういう男物のシャツ? 前開きで襟がついて、それに膝上くらいのスカートに今は居ているブーツ? あ、ブーツはさ、ヒール付きの方が良いかも」


「そうね、そういうディテールは大事だもの。うんうん、ちょっと魔界風でいいかも」


「地上に居ても違和感ないくらいだもんね、これにローブでしょ? メガネも引き立っていい感じ」


 そんな感じでノエルは戦闘準備を進めていた。


「…で、ノエル、大事な事だが」


「なんです、兄さん」


「おめえがガラリアに勝って王子の心を、それが一番だが、それと同じくらい大事なのは新しいライバル、そう言うものが出てこねえようにすることだ」


「確かにね、ノエルが頑張っても次から次へと新しい女がってのは流石に厳しいし」


「けどよ、シャーマンを決めんのは王子で、抱いてやらなきゃシャーマンにはなれねえんだろ? って事はだこの先出てくるシャーマンはどいつもこいつもみんな王子の好みの美人揃いって事だろ?」


「そうだ、そこは避けられねえ。けどよ、一発ヤッタからってずっと側にそう言う必要はねえだろ?」


「だったらどうすんだよ、兄貴」


「だからよ、一発は仕方ねえ、恐らくシェリルも、それをしなきゃアレアが文句言うだろうしな」


「まあな、んで?」


「一発やって美人になったこいつらなら例えば人間やヴァンプの男でも欲しがんだろ」


「ああ、そうだろうな」


「だから、そう言う奴にくれてやんだよ、最初から話を仕込んでな」


「なるほど、出来ねえ話じゃねえな」


「いいか、ノエル。この件は話が別だ、ガラリアとも手を組みあいつも引き込め、王子の側役、そう言うのはお前とガラリアの二人で十分だと、んでその辺の話はアレアのバカには伝えるな」


「…そうします」


「この先王子はシェリルを抱く、コイツは避けられねえ話、そしてシェリルがおめえらと同格、王子のもの、そうなりゃどうなる?」


「…力関係は今のまま、シェリルさんの群れが一番で、ガラリアさんの所が二番」


「そう、俺たちはどこまで行ってもびりっけつ。そいつをひっくり返すにはこのやり方しかねえ。シェリルの群れは元はと言えばオババの群れ、そしてアレアもあそこの出だし、ルルやソフィもそうだ。その上王子に別の女? そうされちゃ困るんだよ。

だからそう言う不平等、それをお前はガラリアに、で、実際はだ」


「どうするんですか?」


「あっちにはヴォルドのやつが赴いてる。あいつの妻はルル、ルルはシェリルの娘だ。だから母と娘、二人纏めてあいつに面倒見てもらう。多分王子もこの話には乗ってくる。王子はあれで居て意外と女には真面目だからな。お前とガラリア、二人をもっと深堀したい、そう思ってる。それには三人目は邪魔だって事も気づいてる」


「兄貴の言う通りさ、王子がお前を抱くのをあれだけ躊躇ったのだってそう言う部分だろ? 王子はお前の気持ちが判らなかった。義理で抱いてほしいのかちゃんと覚悟をもっての事なのかだから躊躇った」


「…私、何もわからなくて」


「けどよ、手を付けた以上はキッチリ愛してくれただろ? それはお前がちゃんと王子に惚れたから。王子はそういうとこ敏感だからな」


「そうだね、なんだかんだで王子は僕たちのこと気にかけてくれてる、眷属だから言う事聞いて当たり前、そう言う王様気質ではないんだよ」


「だな、んで、俺らは王子のそう言うとこが気に入ってる。だろ? 兄貴」


「ああ、その通りだ。できれば王子の側役は俺らで、そうなりてえとも思ってる。これはな、知識じゃねえ、体験してそう思う、そう言う話だ。だから俺らは譲れねえ」


「…私も、おなじです」


「だったらおめえは他所の女に目が向かねえほど王子を愛して尽くしてやれ、いいか? 王子や人間たちは子を産むために交尾をするわけじゃねえ。一緒に居てもっと繋がりてえから体を交える。そう言う事に恥ずかしがったり躊躇ったりすることはな、はっきり言って罪だ。どこまでもシテ欲しいと思え、自分から求めていけ。お前は地味だがいい女だ。そいつは俺が保証する。だから自信を持て、女の争いから逃げるんじゃねえ。おどおどするのは構わねえ、だがビビッちまったらそこまでだ」


「…判りました、私、にげないから!」


「…それともう一つ、アレアの事だ。あいつは元は子供、それを無理やりシャーマン、そうしたのはオババだろ? 他にも大人の女はいるのに、何故だと思う?」


「あ、前のババアから聞いたことある! 子供を跡継ぎに、そうすりゃ自分をそのまま注ぎ込めるって」


「…そうだ、俺も聞いた。つまりアレアはオババそのもの、オババは王子に愛されたい、そう言う欲を捨てきれなかった」


「でも、そんなの」


「そうさ、オババはそこらのシャーマンとは違う、何しろクイーンだったからな。その力は膨大、そんなもんを子供の体に詰め込んだ、だとしたらどうなる?」


「…長くは、生きられない」


「だからこそできる事を、ああも急いで。あいつは王子に力を分けて自分を身軽に、少しでも長く生きられるように、そう仕向けた。けれど王子の魔法防壁は想像以上、一族の存続の必要なシャーマンへの変質、それ以外受け継げなかった」


「…それじゃ、アレア様は」


「近いうちに、そうなるだろうさ。けれど生きていくための知識はお前にもあるし俺たちも、オババの知識はいわば禁断、そう言う域に達してる。それはこの世にあっちゃならねえもの。だからそいつを抱えてオババは世を去るつもり」


「…そうなると、私」


「そうだ、実質的に王子の側付き、それがクイーンの役目を果たすことになる。オババより出来る事は少なくなるがそれで十分、そしてその役目におめえが、そう思ってる」


「…そうですね、私が、」


「そうなれば三人目の妻、そう言う目もあるんじゃねえか? 少なくともおまけじゃなくなる」


「…私のやる事はクイーンの候補者をこれ以上出さない、そしてガラリアさんとの争いに勝つこと」


「そうだ、それが出来ればメーヴ様、マーベル様、あの二人に手が届く」


「…やらない理由はありません、私、王子を私だけ、そうしたいから」


「おめえの強みは他の男を知らない事、少なくともガラリアに対しては有効だ。お前のやりたいことは俺たちのやりたい事、だから全力で応援する」


「…はいっ! 私はこれより修羅になります、例え兄さんたちや姉さんたちを犠牲にしても必ずやり遂げます」


「そうだ、それでいい」


 その日、おかしな洗脳をされたノエルは翌朝、ゲートを開いて旅立っていった。


「ま、あいつがダメなら次のシャーマンを」


「そうだよねー」


「んじゃ次はあたしかな?」


「無理無理、あたしだって。あの時だって王子はあたしに一番ハマってたし」


「…お気の毒、次は私よ?」


 世の中はこんなもんである。



――グラニログ城跡 使用人屋敷


 あれからすっと俺はガラリアにハマりっぱなし。熟女でデキる女、そんな感じのガラリアは実に俺の好みだった。見た目的にはひと世代上、人間の年齢換算なら俺が22くらい、ガラリアは30半ばと言ったところか。それだけに物腰も落ち着いていて

ちょっとしたしぐさにも気品と色気を感じさせる。


「王子っ! 王子っ! ああっ♡ だめっ♡」


 しかしベッドの中ではすごく乱れ、縋るように俺を求めてくる。髪を引っ張り強く求めると激しく反応し、逆に甘えると包み込むように抱きしめ、上になって俺を見つめながら射精へと導いてくれる。

 腹が減ったと言えば誰かを呼んで食事を用意させ部屋で食べさせてくれるし、風呂でも全ての世話を体をぴったりくっつけながらしてくれる。そして横になって寄り添う時は俺の腕で自分の腰を抱かせ、顔をぴったり寄せてくる。こういうところも大人っぽかった。


 そのガラリアは博学、様々な経験をしているのでいろんな話をしてくれる。一緒に居て飽きるという事はなかった。


 夕方になると群れのみんなと一緒に食事。隣にピッタリ寄り添うガラリアの腰を抱きながら飯を食い酒を飲む。


「どうです王子? ウチのガラリア様は良いでしょ?」


「まあな」


「私は最初からわかってたかな、王子は年上好みっぽかったし、ノエルはキレイだけどまだ若いから。なんていうの? 味が薄い感じだもんね。なんか地味だし」


「春にはこいつらも子を産むし、人手も増える、ここの開発も俺らがちゃんとやるから王子はさ、ガラリア様にべったり甘えとけばいいんだよ。なあみんな?」


「そうそう、あたしらも王子に頼りにされたい、みたいな?」


「へへ、違いねえ。王様の役目はさ俺たちを幸せにしてくれる事、そいつはもうしてくれてる。だから次は俺らの番、しっかり働いて王子のしたい事を実現する。そういうもんだろ?」


「そうよ、王子がガラリア様を愛してくれる、それは私たちにとって何より幸せ」


「ははっ、そうなの? ま、それは自信があるかな」


「…王子ったら♡」


「どっかに行くならガラリア様も一緒に、何かあってもガラリア様が一緒なら安心できるし」


「そうそう、昔みたいに王子に無茶されても困るからね、あはは」


 みんな明るくにこにこしていた。ここは実に居心地がいい。


 飯を食い終えた後、俺はガラリアに誘われ外に、屋敷の東側には比較的無事な城壁、その角にある塔に連れていかれる。中はたいまつの火が灯され、二階は武器庫。弓矢がたくさん置かれていた。


「へえ、こんなとこがあったんだ」


「…そうなの、こっち」


 手を引かれさらに上に。そこは玉座が置かれた立派な部屋。暖炉もあって火が灯っていた、


「ここは?」


「うふふ、私たちの王であるあなたの、玉座。城にあったもので作ってみたのよ」


「いいじゃん、なんか偉くなったみたい」


「…あなたは私たちゴブリンの王、魔界でも王子なのよ? こういうところはあって当たり前、」


 へえ、と答え早速玉座に腰を下ろす。一段高い床に置かれた玉座に座るとぞろぞろと群れの連中が入ってきて、俺の前に並び騎士のように片膝をついた。ガラリアは俺の脇にたち、彼らに声をかける。


「…みんな、彼が私たちの王よ。誰が認めずとも私たちは彼を王として戴き忠義を尽くす。いいわね?」


「「はいっ! 我らがヴァレンス王に忠誠を!」」


 声をかけてやってっと囁かれたので俺も一言。


「…俺が望むのは皆が仲良く暮らせることだ。だから全員この場で裸になって仲睦まじい事を俺に証明しろ」


「「はいっ!」」


 その後は乱交パーティ。群れの男たちはそれぞれ好きな女を選び、俺に見せつけるように交わった。


「へへ、王子、コイツここが弱くて」


「こっちも見てください、こんなにだらしない顔になっちまうんですよ?」


「ほら、こいつまたイキやがった。王子に見られて昂ってんですよ」


 そんな姿を玉座に座りながら見て、ガラリアに奉仕させながら優雅にワイングラスを傾けた。


◇◇◇


 だめね、私は。もうすっかり彼に夢中。たくさんしてあげたい事があったのに、彼の事を離せない。

 彼に触れる私の体のすべてが彼に感応していく、こんなの知らない、交尾なんかじゃない。私は激しく声をあげ、また、彼を受け入れる。満足したはず、なのにまた彼が欲しくなる。ずっと私の中に居て欲しい、出ていかれると寂しい、どこまでも淫らになって彼を誘惑したい。

 何度も訪れる絶頂、バチっと頭が真っ白になって一瞬気を失う。意識を取り戻した私はわたわたとうろたえ、彼を探し、縋りついてホッとする。強く求められるのが好き、でも、甘えられるのも好き、側に寄り添うだけで体の芯が熱くなる。


 群れの為? そんなのはどうでもいい、立場? 意味が解らない。私はただこうして彼を離したくないだけ、私の名を呼んで、私を求めて欲しいだけ。それが全て。


 彼は夕食は皆と一緒に、そう言った。嬉しくもあり、ちょっと不満。私だけでいいじゃない、そう言う想いも。


 みんなは私が彼に愛されてる、そう言う実感を感じ、からかうように私を褒めた。彼は楽しそうにそれに応じ、みんなと気さくに酒を酌み交わす。私は早く、二人きりになりたかった、けれど彼は私の腰をしっかり抱き寄せみんなに見せつけるように寄り添わせる。今すぐにでもテーブルに潜って彼に奉仕を始めたかった。


 食事を終え、私は彼を玉座の間に連れて行く。女の欲は相変わらず苦しいほどに私を焼いていたけれど、これは必要な事。可視化をする事でみんなの意識、そして彼の意識を変えていく。彼は私たちの主君なのだと。


 毎晩一人で手を入れたこの部屋、彼はすごく喜び、はしゃぐように玉座に座る。そこでみんなが入ってきて彼の前に膝をつく。忠誠を誓い、私たちは彼の言葉を待った。

 彼は私たちが仲良く過ごす、それを望むと言った。…少し、意外。もっと野心的な言葉を想定していたから。その後の言葉はもっと意外、みんなに彼の前で交われと。

…そっか、彼は前に言ったように私たちに踏み込んでくれている。こうした事もその一つ、目の前で互いを晒せばもう遠慮はさしはさめない。私は玉座に座る彼の腰に縋りつき、奉仕を始める。彼は私にそうさせながら優雅にワイングラスを傾けた。


 神々しいとも感じたわ、彼は全てが自然、格好つけではなく自然に優雅に振る舞いこの痴態が神聖な儀式であるように感じてくる。その私の頭の上から声が響いた。


「お前たちのしている事は交尾じゃない、セックスだ。子を成す事は確かに重要、だがこうした事にお前たちはあまりに無頓着だ」


 皆がえっ、と言う顔で彼に注目する。


「だからそこを改めろ。セックスは愛をかわす、それが目的。子ができるのはあくまで結果だ。女たちは身を飾れ、より求めてもらえるように、男たちは自らを磨け、より女を満たせるように。…お前たちは数々の戦い、生存競争を勝ち上がり大人になった。だったら大人であることを楽しめ、子供たちがはやく大人になりたい、そう思えるように」


 一瞬の静寂、しかしそれは感動の渦に変わった。私たちになかった価値観、それが今、私たちの王によって植え込まれたのだ。


「「はいっ!」」


 男も女も感動に目を潤ませ、互いに抱き合った。彼は私を裸にして玉座に抱き上げ体を繋いだ。


「ほらそこ、お前はそっち、二人でそいつを責めてみろ」


「はい、あ、こんな事初めてっす! なんか、すげえいい」


「そっちの女はそこの男を挟み込むように」


「やだ、すごくエッチ、こんなこと、していいの?」


 彼は指示を出し、複数での行為をさせていく。効率には反した事、けれどすごく淫らさを感じた。私は昂ぶり負けじと腰を使う。彼の興味が私だけ、そうなるように、縋り、媚びて、抱きしめる。


 そのうちに彼は私を抱えて立ち上がり、群れの女たちを犯していく。女たちは激しく乱れ、みんなあられもない格好で白目を剥いた。そこに男たちがのしかかる。

 全ての女がそうされたあと、私に奉仕させたまま男たちを集め淫らな話、男たちは彼を尊敬のまなざしで見ていた。


 …こうして私の群れは王である彼の群れへと変質した。



――魔界


 現在魔界は大規模な工事中。政庁近くの乱立したビルは解体され、工場も解体、魔神の言葉は絶対、誰も逆らうものは居なかった。

 政府首班のヴァ―レーンは精力的に動き、残すもの、残さぬものを決めていく。便利さは必要、なので水道などのインフラは残した。問題は電力。今の魔界ではマナを変換した電力で全てのものが動いている。家電は廃棄、電灯も、家々も順次中世風に改められて行く。テレビもなくなり娯楽の類も大きく減った。


 上級魔族の子弟が通っていた学校は必要なものとして存続する。農業的な技術も残す事になった。工業化により大量生産されていた衣服はまた手工業レベルにもどされる。ともかく魔神が戻るまでにできる事はしなければならない。それが魔界の共通認識。


 そんな中、退院したネコとマダラ、そしてクロノスは改装された宿屋の部屋に集まり会合を。


「はぁーあ、最悪ニャ。ニャーは不幸な子だったにゃんて」


「部長、その分はこれから取り返す、そうでありましょう?」


「…そうだな、違った形の権益を、力は必要だからな」


「そうにゃね、まずは地上、そこにしっかり根を張るニャ。こっちで頑張ったところであの金属バットの暴力魔の機嫌一つでパーになってしまうニャン」


「そうですな、まずはアルトの商会を後押しし、そこに我々の権益を」


「俺もしばらくはメーヴの世話になる他あるまい?」


「そうニャン! ニャーはバーニィの腹違いの姉にゃ、ゴブリンたちにとっては王の姉にゃん!」


「いいですな部長、」


「ああ、そこは大事さ」


「よし、やるニャよ! 人間世界研究部、ファイト―!」


「「おうっ!」」


 凝りない人ってどこにでもいるよね。

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