第27話 幸せの定義

 翌朝、エミリアを出立し、堅固に補強がされた北の壁の門をくぐり、マイセンの地に。馬車はガタゴトと進み、外は雪が本降りになっていた。

 とは言え馬車の中は火鉢のようなブレイザーで暖められているし、俺もジョバンニもそれぞれの女に膝枕されている。実に快適だ。


 ピルナの丘に着いたのは昼を少し回った頃。そこにポツンとあったのは明らかにやっつけ仕事で作られた小屋。


「え、あれが商会?」


「…そうみたいだね」


 御者のヴォルドに中を見に行かせると、一応しばらく暮らせるだけの食糧や薪が置かれていたという。


「ははっ、流石に俺もあそこで暮らすのは無理ですね。吹雪になったら倒壊しそうですし」


「どうすんだよ、お前」


「どうするって俺に言われても」


 そこからみんなで作戦会議と言う名の悪口大会が始まった。


「まあ、ジャンが意地悪なのは今に始まった事じゃないからね」


「ディージャも性格悪いもんね」


「そうそう、俺なんかドラゴンに殺されかけてるもん」


「私は実際に枯れ木にされてるよ?」


「まあまあ、伯爵アニキも悪気があった訳では、」


「あったに決まってんだろ、ヴォルド、お前バカか?」


「そうだよ、あいつに悪気がないわけないと思うよ?」


「そうね、ディージャも一枚噛んだに決まってる」


「…ともかく、ここで暮らすには建物が必要です、ヴォルド、どこか知らないの?」


「えっとメーヴ様、近くの村とか、探してみます? とりあえず食料と薪はこの馬車に積んで」


 そう言う話になり、俺たちも雪の中馬車を降りて荷物を運び入れていく。けっこうな量があり馬車はパンパン、俺たちも歩いていくことに。


「うっわ、マジ寒い、あり得ないんだけど」


「そうだね、このまま凍死とかしたら絶対あいつら呪ってやる」


「つかジョバンニ、あんたヴァンプになったのに寒いの?」


「えっ? 普通に寒いけど」


「マジか、キャシーもヴォルドも平気なのに? 完全に出来損ないじゃん」


「出来損ないとか言うなよ!」


 そうこうするうちに近くの村に。そこは完全に焼け落ちた廃墟だった。


「うっわ、マジで?」


「これは無理かな」


「…ですな」


「…ですな、じゃねーんだよ、ヴォルド、お前のせいなんだから何とかしろよ!」


「えっ? 俺のせいなの?」


「ジャンはお前の兄貴なんだろ? ならジャンのやったことはお前のやった事じゃん」


「…そんな事言ったらメーヴ様だって」


「…私、関係ありませんから」


「あ、そうですよね、そうだと思ってました」


「とりあえずヴォルド、お前こっちの出なんだから、お前の故郷とかは?」


「えっと、それがここで、」


「はぁ? 使えねえな!」


「ちょっと、これでも結構ショック受けてるから!」


「うるせーな、お前だって村潰してんだからおあいこだろ?」


「そうだけど、」


「…ともかく城に、そうするしかないわね」


「城に? 崩れたらどうすんだよ」


「でも、もしかしたら無事な区画があるかもしれないし、それに私たちの仕事はあそこで眷属を掘り起こす事。眷属が何人か居れば城の廃材であの丘にしっかりした建物を作らせればいいのよ」


「あ、そっかヴァンプは雪の中でも平気だもんね。出来損ない以外は」


「だから出来損ないって言うなよ!」


 ともかく話はそう決まり、俺たちはボロボロになった城に行く。ぐるっと回りを見回すと一部の建物が被害を免れている事に気づいた。

 ヴォルドが言うには城で働く使用人たちの宿舎で城とは別の独立した建物であった事が延焼を免れた原因だろうと言っていた。

 中に入るとそこはがらーんとしていて何もなかった。とはいえ台所や風呂、トイレなどはそのまま使える形、調度品が一切ないだけだ。


「誰かが持ち去ったみたいね」


「でも、ここは無人の場所のはずだよ?」


「えっと、そのね、」


「なに、王子、お前またなんかやったの?」


「そうじゃないって、そうじゃないの! ゴブリンたちがここのものは好きにしていい? って言うから、いいんじゃないって」


「…いいのよバーニィ。それもあの時は必要な事。そもそもここに来ること自体が想定外だもの」


「まあ、そうだけど」


 そんな話をしていると玄関からぴょこっとゴブリンが顔を出す。


『王子、何してんの?』


「あ、お前らこそ」


『ボクたちは馬車がこっちに来たって言うから確認しにきたの。まあ、王子たちなら問題ないけど』


「こっちは問題大ありなんだよ」


 そう言ってゴブリンを招き入れこっちに来た事情を伝える。ここのゴブリンは食料も豊富で物資もこの城や近隣の村から集めて回ったので生活レベルはかなりのもの。着ているものも毛皮だった。


『ふーん、なるほどね、ボクたちも本城の方は手を付けてない、だって崩れたら危ないし。でも王子がやるなら手伝うよ』


「マジで? 助かる」


『その代わりって訳じゃないけど、ボクたちの巣穴にも遊びに来てよ。ウチの巣穴はきれいだから大丈夫だよ』


「ま、いいけど」


 とりあえずそのゴブリンも交えて城を探索する。寝るにはベッドが必要だし、出来れば食器もテーブルも。絨毯もあればなおよかった。眷属探しは事のついで、ともかく暮らせるようにしなければ。


 まずはメーヴの私室、ここにベッドがあることは判っていた。ゴブリンは何人か仲間を呼んでそのベッドを運んでくれる。それに部屋にあった棚も無事。そこにはティーセットなども入っていた。あとは絨毯とナイトテーブル。これで寝室の家具は十分だ。

 次はリビング、あちこちを探し無事なソファーを手に入れる。それに棚も不揃いではあるが無事なものをいくつか見つけた。絨毯は謁見の間にあった長大なものを運び込み、部屋のサイズに合わせてカットすることに。ジョバンニたちはキッチンの道具、ヴォルドは風呂やトイレに必要なものを探し出し、運び入れていた。


「まあ、これだけあれば大丈夫かな」


「そうね、十分に暮らせるわ」


『足りないものがあればボクたちが用意するよ。今回は王子のおかげで豊かになれたからね』


「ええ、助かるわ」


『メーヴもボクたちに良くしてくれた』


「あなたたちはバーニィの眷属、粗略にはできないわ。だって私、彼の妻になったから」


『そうなんだ。ネコのバカが良く許したね。そっちの長老も』


「先輩は昔から私を認めてくれてました。私の家の方はもう関係ないから」


『まあ、ネコのバカがこっちに、それよりははるかにマシだよ。あいつ、本当にバカだし、容赦ないもん。じゃ、今日は帰るから。明日また手伝いに来るね。そっちのヴァンプも王子の事よろしく、王子も本当にバカだから』


「うるせえな!」


 とりあえず新しい暮らし。眷属の掘り起こしもゴブリンたちが居ればかなり楽。なにしろあいつらは穴掘りに関しては専門家だからね。


 その日はメーヴとキャシーが飯をつくり、ヴォルドが風呂を沸かしてくれた。


――魔界 魔界庁舎 ダンジョン三課 6号ダンジョン建設本部


「ああ、忙しいニャン! マダラ、予算の割り振りは?」


「今、やっているところです」


「設計に遅れが出てるニャ、地質調査に誰を当てるかも決めなきゃならないニャ!」


「地質調査は現地のゴブリンたちに、そう通達を、設計はヴァンパイアの設計士を増員、資材調達は私のところで」


 ダンジョン三課の課長に就任したネコたちは激務、専門家たちが着いたとは言えその決裁だけでも膨大な量、すでにマダラとネコは二日はここから帰っていない。

 何しろダンジョン建設は魔界最大の公共事業と言っていい。莫大な予算と労働力が必要になり、そこには大きな利権が発生する。そこもうまく配分しなければ不満が残る。マダラはその調整に当たっていた。


 もちろんこれだけの事業となれば広報も必要、そうしたマスコミ対策も容姿に優れたネコの仕事、インタビューやテレビ出演、そういうスケジュールもありいっぱいいっぱい。流石に王子たちの観察をしている余裕はなかった。


 そしてネコには必死になる要素も。魔王はこれまで傍若無人に振る舞っていたネコたち三人に対し、計画が遅れるような事があれば地上世界への介入を禁止すると言って来た。具体的には地上の様子を覗く魔鏡の使用の禁止、更にはゲートを使っての地上への移動も許さないと。表向きの理由はマナの節約、ともかく王子に会いたいネコ、それにアルトを通じ、地上の権益が欲しいマダラ、さらに妹のメーヴが気になるクロノスの三人は必死で働かなければならない状況下にあった。


「ネコ様、19時よりテレビ特番の撮影が、マダラ様は同じく19時より産業界の面々と会食、こちらにはクロノス様も出席になります。ネコ様は撮影終了後勉強会に出席、マダラ様は資材研究部より報告会が、27時にはお二人とクロノス様は設計部との会合があります」


 そう報告するのは地上から戻り次第有無を言わせずダンジョン三課の職員にされたデーモン族のゼノ、彼もまたついていない。もちろん家に帰れるはずもなかった。


「27時って何にゃ! おかしいニャろ!」


「そうですよ、労働法に違反していますよ!」


「それはこっちのセリフですよ!」


「「「はぁぁ」」」


 ネコたちのため息は重く、深いものだった。



――地上世界 グラニログ城、跡地


 翌朝、ゴブリンたちは群れから遠目の魔法が使えるシャーマンと力に溢れたホブゴブリンたちを連れてやってくる。


『久しぶりじゃの、王子』


「あ、オババ、地上に来てたの?」


『まあの、魔界にいても退屈じゃし』


 そのシャーマンは旧知の間柄、幼いころ、同族の彼女の群れにネコと二人でよく遊びに行っていた。

 そのオババに椅子を進め、メーヴがお茶を出してくれる。ホブゴブリンたちはヴォルドと一緒に早速掘り起こしを開始していた。


「…はじめてお目にかかります、私はこの度彼の妻となりましたメーヴと」


『あんたの事はよく知っとる。このババも王子の事は気にかけておったでな』


「ねえ、このゴブリンはふつうのゴブリンと違うの? 俺もシャーマンと何度か戦ったけど」


「そうだよね、見た感じ変わらないし」


『ひひっ、わしはの、いわばゴブリンそのもの、ゴブリンの意識の集合体みたいなもんじゃ』


「えっとよくわかんない」


「うん、私も」


『ゴブリンというのはの、群れがそのまま一人の人格、そんな感じで出来ているのじゃ。蜂やアリがそうであるように。だから個人の名も必要ない』


「えっと、つまりあんたはゴブリンの女王バチみたいな感じ?」


『そうじゃ、ジョバンニと言ったかの。わしらは力も弱く、人間にもかなわぬ。その代わり数に勝る』


「たしかに」


『わしらの子は個人ではあるが自意識と言うものが薄い、もちろんそれぞれに感情はある。だが群れの意向、そう言うものをきちんと守る。そうでなければゴブリン同士、争いがあってもおかしくないであろう?』


「あー、確かに、ゴブリン同士の争いって聞いたことない」


『そう言う意識の繋がり、それがあるから誰かが得た知識や経験、それを一族で共有できる。だからわしらは穴掘りに優れ、武器や道具の加工もできる』


「へえ、すごいね。まあ確かにゴブリンって頭いいし」


『たとえ群れが全滅しても得た経験や知識は一族に残せる。…それがわしらの欲。だからこそこうして地上に降り、人間たちと戦うのじゃよ。例え勝ち目は薄くとも』


「勝つことが目的じゃないってこと?」


『そうじゃの、魔界の意向、それは人間世界にある程度の混沌を、その意向とわしらの欲するものは一致している。だから数を増やし、犠牲をいとわない。群れには必ずシャーマンが居て、それを通じて知識の共有が図られている』


「でもさ、誰かが死んだりしたら悲しくないの?」


『悲しむより称える、そ奴が経験した事が群れに、一族に知識となって生きていく、それがわしらの喜び。死んだらまた生まれてくればよい、そう言う考え方』


「その知識を得てどうするの?」


『ひひっ、それはお主らにも問いたい。金持ちになってどうする? 出世してどうする? 権を得て何を?』


「それはさ、例えばみんながより良く生きれるようにとか、平和な世界を作りたいとか」


『知識があればより良く生きれる、平和と言うが人間は戦うが本能じゃ、出来たところで数十年。いずれまた争いたくさん死ぬ』


「…そうかもしれないけど」


『そうしたいから、それが目的、わしらにとってはそれが理想、人間が貧乏を好まぬようにわしらも貧しい暮らしは好まない。豊かになる為には知識が必要。結局はの、人間であろうが魔族であろうが同じ事、わしらはそう言う役目を神々に与えられた、そうおもうしかあるまい?』


「…あんたは俺よりたくさんの事を知ってる。その上でそう判断したって事だね」


『そうじゃの、どのみち世界は全ての欲を満たせるようには出来ておらん。だから争うのは必定、定めじゃな。…それは最初からそうなっていた、そして誰もそれを変えることはできぬ。そういうもの』


「…そうだね、世界は常に誰かを犠牲に。それが自然」


 そう言ってジョバンニは考え込んでしまった。


「それはともかくさ、オババ、俺、神様にあったよ?」


『知っておる、戦神アム、この世界を作った神のひと柱』


 そう言ってオババはおもむろにメーヴのおっぱいをぎゅっとつかんだ。


「ちょっと、何を?」


『中々ええ乳をしておるの。王子は幼き頃から乳をいじるのがことのほか好きじゃからのう。あの頃はババもまだ若く、この体も張りがあったでの、王子はようババの乳をいじっておった。ネコは立派に育ったがあ奴はアホ、お主のような頭脳明晰な妻がおらねばと心配しておったのじゃ。乳もこれだけあれば十分じゃ』


「ネコってあのときの?」


「ええ、私の先輩にあたる人、彼は幼い時から先輩と一緒だったの」


「アレはやばいよね、俺もジャンもディージャも一歩も動けなかったから」


『そうじゃの、あ奴は強い、魔族としては一級品じゃて。けれど強さは全てではない。強ければ正しい? それならあのヴァレンスはこの世を統べる王になっていたはずじゃ』


「…確かに」


『そしてこの王子はヴァレンスのせがれ、わしらは王子にあ奴とは違う生き方を、そう思っておる』


「はい、私もそう思います」


『王子はの、母に恵まれなかった。魔王は、あのグリューナー・シルヴァーナは夫に迎えたヴァレンスを愛さなかったからの。そしてサキュバスとしては予想外の妊娠、王子は生まれた時からあ奴に疎まれていた』


「けれど魔王様は彼を溺愛していたのでは?」


『そう、溺愛、欲しいものは何もかも揃え、不満を抱かぬように贅沢を。そして側にはあのネコを置き、情においても不足なきよう取り計らった。それがあのヴァレンスの血を、あの暴虐を抑え込む方法だからの』


「…確かに学生の時、先輩が修学旅行で留守を、魔王様は彼にお弁当を持たせなかった」


『そうじゃ、魔王は、あのグリューナはヴァレンスの暴虐に自らの体を捧げる事で対処した。それは女にとっては屈辱、じゃがアレには逆らえぬ。だからゆりかごのような世界をつくり、ヴァレンスをそこに閉じ込めた』


「はい、その事で魔界は発展を」


『そう、みんなが恩恵を享受した。無理のある政策であったがヴァレンスをこれ以上暴れさせない為、その為であるならどんな無理も通さざるをえない。その結果が今の魔界、マナ不足と言う訳じゃな。

 そして奴は王子を愛さぬ事で女としての意地、そう言うものを見せている。王子は必要、奴の権力基盤はヴァレンス。その落とし子である王子を失えば奴の立場は崩壊する。じゃから表向き大事に、溺愛、そう見せていた』


「…そんなのって、彼は悪くない」


『じゃから自身の代わりにネコを、そしておぬしの事も認めた、あ奴がちゃんとした母であれば王子を叱り、きちんと育てたはず、それをせずにいたのはこのままいけば追放、自らの意思ではなく魔界全体の総意として、そうなるように仕向けたから』


「…その原因は私の事」


『そうではない、サキュバスの特性、そして半分流れるヴァレンスの血、そうした事を考えればああなることは予測できたはずじゃ。それを何の対処もしなかった。それだけでもあ奴の罪。…お主は知っておるかの? 王子が地上にどんな格好で追い出されたか』


「…そこは、わかりません」


『地上に降りて、身に蓄えたマナは霧散、着ていたものはパジャマだけ、武器もなく、持ち物もなにひとつ、そう言う状況でスロウは王子を放りだした』


「…そんな」


『だからわしらは陰で王子を助けていた。表向き王子に寄り添えばそれは魔界の意向に反するからの。この状況になって初めてこうして顔を出せたという訳じゃ』


「…オババ、夢でそのヴァレンス、父さんは俺に告げた。母さんは信用するには値しない女だって」


『さすがじゃの、ヴァレンスは。夢枕であっても本質を誤らぬ』


「よくよく考えれば俺は母さんに触れた事はない。いつもネコが居てくれたから。世話をしてくれるのはネコか宮殿のメイドたち。どこかに連れて行ってもらった事もない。ネコと一緒にオババのところに、それぐらい。あとはメーヴ、お前が連れて行ってくれたブドウ狩り」


「…でも最初に行った喫茶店は?」


「あれはメイドに聞いて教えてもらったところさ」


『ともかく魔界にもどっても益はない、しばらくは地上で暮らすと良いの』


「まあね、今更戻ってまた無職ってのは嫌だし」


『大丈夫、このババが悪いようにはせぬ』


「うん」


『わしらにとって妖魔の長は王子、あのグリューナではない。あ奴は魔王ではあるがの。いざとなれば魔界を脱しても構わぬと考えておる』


「オババ…」


 オババは俺を手招きし、小さなころのように胸に抱きしめてくれた。


『のう、ジョバンニとやら、わしらの目的はこういう事じゃ。知識がどれだけあれど気持ちと言うものもある。わしはの、この子がすべて、それでも構わぬと思っておるのじゃ。それが魔界に、そして世界に都合が悪かろうとも。…例えその事で一族が滅ぶことになろうとも』


「…それが本当の強さなのかな」


『さての、それはおぬしが見出す事じゃ。楽しい、そして愛しい、そう言う事を犠牲にしてまで成す事は何もない、逆に愛しいものの為戦うならばそれも楽しき事』


「幸せの定義、それが俺には判らなかった。だからみんなには支持されても個人としては嫌われる」


『…じゃが、王子はおぬしを友と認めた。そうである以上わしらもお主を好いておる。幸せの定義は人それぞれ、おぬしのそれが王子と共に、そうあればわしらも嬉しい』


「…うん、俺は結局空っぽだった。至高神の教え、それを体現する、そういう道具。自分の希望も欲も幸せも、本当の所は何もわかっていなかった」


『さて、ババは巣穴に戻らねばの。外はいささか冷える、王子、落ち着いたらババのところに』


「うん、必ず行くから」


 オババはしわだらけの顔でにっこり笑うと転移の魔法で姿を消した。





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