第22話 軍略

 予想どおりその夜、敵の襲撃があった。俺たちは俺とヴィーザラ、将軍とキャシーの二組に別れ交代で睡眠をとり、報告があったのは俺たちが起きていた深夜。

 ともかく将軍を起こし、事にあたる。


「…なにこれ、ヴァンパイアによる襲撃? アンデット化した味方の魔法使いが範囲魔法でって結構な被害じゃん! その上魔獣も? 糧食も奪われてる。あああっ、最悪! ねえ、どうする?」


 こっちは予想と違い将軍はパニック。嘘だろ。


「落ち着けよ、うるさいな!」


「うるさいって、お前ね、これが落ち着けるかっての! 完全にやばいじゃん!」


「ちゃんと報告聞いてた? ともかくこの本隊は対処に成功、被害はなかったって」


 そう、魔獣の対処も荷駄隊の警護もばっちり。あの兵士もベンたちもうまくやってくれていた。代わりに前に出していた二つの部隊は結構な被害。


「そっか、そうだね、とりあえず荷駄を守ってくれたパーティーのリーダーを呼んで状況を聞かなきゃ。ヴィーザラ、頼めるかな?」


「了解」


 しばらくすると代表としてベンがやってきて、敵の詳細と自分たちの対応を将軍に語った。


「俺たちはそこの王子に言われて荷駄を警戒していた。俺たちのパーティーだけじゃ心もとないのでヴァンパイアと戦った事のある連中にも声をかけた」


「…そうか、いい判断だった」


 パニックだったさっきまでとは打って変わって将軍は落ち着いた感じ、表情もカリスマに溢れた顔になっていた。


「相手にとって何が手柄になるか、それを考え対処を、王子の助言は的確でしたよ。将軍、あんたの人を見る目は間違ってなかったって事です」


「…仲間のディージャからも彼の話は聞いていたからな。ともかくは君の機転で助かった、感謝する。当然この事はギルドにも報告させてもらうよ」


「はい、参加したメンバーのリストはこちらに」


 ベンをさがらせると打って変わって将軍は伝令がもたらした報告書を見て頭を抱えこむ。覗き見ると他の二つの部隊の被害は相当なもの。メーヴの作戦は実に効果的だった。


「まあいいじゃん、予測できれば対処可能、やられた事で被害の想定もできるだろ?」


「そうだけどさ」


「少なくともベンたち、そこのリストにある連中を他の部隊に配置すれば今日のやり口は通用しない、魔獣の対応は兵士たちで十分だろ? 手の内がわかればやりようはあるんだから」


 もう、実にめんどくさい。ホントにコイツ将軍なの?


「…とにかく、エミリアにいるディージャに物資を出してもらわないと、やだなあ、またぐちぐち言われるんだろうなぁ。きっとジャンも小ばかにしたように笑うに決まってるし。もう、最悪!」


 そう言って将軍はディージャと同族のヴィーザラをエミリアに伝令に出した。



――グラニログ城


 報告を聞いたメーヴはふうっと安堵のため息をついた。今回は想定通り、そう言える戦果を挙げられた。本隊への襲撃こそうまくは行かなかったが他の二隊に対しては十分に被害を与えられ、糧食も確保できている。

 だがそれでも糧食は十分とは言えない。今回得た物の半分はこちらに巣穴を構えたゴブリンたちに分け与えたからだ。彼らにも食料は必要、欠かしてしまえば躊躇なくこちらの村を襲うだろう。そうなれば彼らを使う事が悪、人間たちにそう認識されてしまう。


 そして次は向こうからの一手、恐らくはこちらの村を襲い、領民たちをこの城に追い込む、それが一番効果的だから。そうなればこちらの食糧事情はさらに悪化、兵士と違い訓練を受けていない領民たちは我慢も効かない。最悪内乱、そう言う可能性も出てくることになる。かと言って受け入れないというのは城内の兵士たちの感情を考えれば出来ない事、食料が乏しい限り、根本的な対策は打てない事になる。


 …いや、ひとつだけ。そう、受け入れた領民たちをみんな殺してアンデットにしてしまえばいい。そうすれば食料は消費しない。それに技量はなくとも恐れを知らない死兵、そう言うものを手にできる。


 だが、とメーヴは逡巡する。領民をアンデット化、それは人間にとっては非道な行い。彼女自身はモラルは高いが人間に対してはなんの感情も抱いていない。だからエミリアでは同じ手で虐殺も命じる事ができた。


 だけど敵側には王子が居る。彼は人間世界に適応し、冒険者として生きている。仲間も居れば友達も、もしかしたら恋した相手も、そんな彼が私がしたことを見ればどう思うだろうか。人間は同胞ではない、けれど彼は同胞である魔族から追放された。

今の彼の立ち位置は人間側。


 …彼に恨まれるのは構わない。私は、あの時彼を庇えなかった。怖くて口を開けなかった。その事で彼は社会的に抹殺された。私がたった一言、「彼は悪くない」そう言えなかった為に。

 でも、軽蔑される事は嫌だった。彼の仲間、友達、そういうものを殺し、使役する。そうなれば彼は私を心底軽蔑し、憎み、嫌うだろう。彼にとって私と言う存在は憎しみの対象、それは許容できない事だった。


 そんな事を考え、メーヴは自己嫌悪に陥る。私は何をやっているのだろうと。魔界にとっては正しい事、みんなの為に、それをすればするほど彼に嫌われる。


「いやぁ、メーヴ殿、流石でございますな。実に痛快ですな、はっはっは!」


 そう言って笑う辺境伯、この男は何を言っているのだろうか。敵であるとはいえ同じ人間、それが残酷、と言える殺され方をして笑っている。…そうか、これが軽蔑。私は王子にそう思われたくない。


 なんとか笑顔を保ったメーヴは次の作戦を考えるからと集まって来た辺境伯や他の連中を部屋から追い出した。


 どうしてこんなことに、あの時、私は失敗した。自分の心に、恐怖と言う感情に負けて、彼を、見捨てた。だからこうなっている。


 メーヴは自嘲的に笑い、次の策を実行する。


――魔界 プレジデントデーモンホテル スイートルーム


「メーヴはやるニャね。実に効果的ニャン」


「…そうだな、ここからあの将軍がどう盛り返すか、…それにしても王子は意外なほど働きを見せている」


「…そうですな、いわゆる裏回し、表に出ず、きっちりと必要な事を成しておいで。私が送り込んだゼノやゴブリンたち、あれらを使えば状況をひっくり返すのも容易き話」


「そうニャ、今回の事で冒険者の連中もあいつに信頼を。将軍もそうかもしれないニャ」


「王子の手持ちの札が増えて行く。結果を作るのは結局王子、と言う事か」


「ええ、認識を改める必要がありますな。王子はほぼ独力でここまでの状況を作り上げておりますれば」


「ま、ニャーの教育が良かった、そう言う事にゃん。…メーヴにとってはここからが正念場ニャ」


「…そうだな、あいつが王子との関係を修復できなければ俺の努力も無駄になる。…それは避けたいところだ」


 いつものように三人は豪華なルームサービスを頼み、大画面の魔鏡に映し出した地上の様子を楽しんでいた。


「どちらにしてもドラマはここからがいいところニャ」


「そうですな、部長。クライマックスはここから」


「…ふっ、そうだな。出来ればハッピーエンド、そう願いたいところさ」


 と、その時、バタンとドアが開かれそこに居たのは政府の役人。


「…何にゃお前」


「…ネコ様、マダラ様、お二人には魔王様からの勅命が」


「バッバから?」


「地上介入の結果を鑑みて早急に6号ダンジョンの建設計画を取りまとめよと」


「「えっ?」」


「人間世界研究部の成果を示せ、とのお言葉でございます」


「…ちょっと待つニャ、それをニャーたちだけで? 部署が違うニャ!」


「私は勅命をお伝えするお役目、質問は改めて別の場所にて。それでは失礼を」


 そう言って役人は去って行く。


「…マダラ、ダンジョンの建設とか、ニャーはやったことないニャン」


「…ええ、私もですな」


「そうだな、助言するとすれば地質調査に材質選びから工程管理、少なくとも半年はオフィスに缶詰だろうさ」


「「えっ?」」


「…こいつは無理に予算をねじ込まれた親父の意趣返し、かもしれんな」


「…あのジッジ!」


「…ともかく地上の事は俺がうまくやる。あとは任せておけ」


「こんなのナンセンスニャン!」


「本当ですな、ああ、半年も、書類仕事は医者に止められてるのに!」


 愕然とする二人を見ながらクロノスは一人ほくそ笑んだ。これで彼は妹の、メーヴの力になってやれる。そう思って。…だが、その時部屋の電話が鳴り響いた。それを取るのはクロノスの役目、この三人の中では彼が一番立場が弱かった。


「…俺だ、何? 状況を判っていっているのか?」


 そんな慌てるクロノスに半年の労役を言い渡された二人はニヤリと笑う。


「…どうしたニャン? クロノス」


「ええ、我々は同じ部員、何事も包み隠さず、そうでありましょう?」


 くぅぅっと拳を握りしめ、クロノスは受話器を置くと、どかっとソファーに身を沈めた。


「…親父が産業界にダンジョン建設の献金を求めろと言って来た」


「にゃは、それは大変ニャン」


「そうですな、大きな反発も予想されるでしょうし、少なくとも私の所は無理ですな」


「マダラ! それはないだろう!」


 そう、マダラはサービスや娯楽、そういった関連企業をたくさん抱えている魔界でも有数の大企業の経営者。彼が払わない、となれば他の企業も返事を濁すに決まっている。


「まあ、第三者的に見て、マダラに献金を、そうする為にはお前の働きが必要ニャ」


「はい部長。何事も対価と言うものが必要ですから」


「…何をさせるつもりだ?」


「お前の親父にニャーたちの意向を伝えるニャン。バッバの勅命を反故、それは無理にゃん。だけど下に専門的なスタッフが必要ニャン」


「そうですな部長、そもそも我々にそうした仕事は無理、優秀なスタッフが居ればある程度お任せできますから」


「…わかった、善処する」


 結果はいつもの通りクロノスの一人負けである。そしてネコとマダラの二人は6号ダンジョン建設計画の責任者、という肩書だけを得て、実務を丸投げ、これは大きな公共事業。そこには当然さまざまなリベートが発生するわけで、それをどうするか二人は楽しそうに話していた。



――人間世界 ヴァレリウス軍本営


「…やはり定石から言えば近隣の村を制圧、住民たちを城に追い込むべきでは?」


 集まった指揮官たちはみな騎士身分。ゴールドのタグをつけていた。一人のいかにも思慮深そうな男が重々しく口を開くとみなそうだと頷いた。

 今回俺は功ありとされ、将軍の副官として軍議に参加させられる。俺の横にはやはり功を認められた冒険者のベンと魔物対策を提言したカッパーの兵士、デルセルト。彼は騎士身分の家に生まれ、その跡継ぎ。こうして世襲と言うのは進んでいく。


「…俺は反対だ」


 将軍は諸将を見渡し、堂々と意見を述べる。ほんっとこいつは外面が良いというか、人前に出ると人格が変わる。


「なぜ、でございますか?」


「…定石であれば敵がそれを読むのも容易い。昨夜の仕掛けから見てもあちらのやることにはそつがない。…例えば村の人たちがすでにアンデット、そうであったら?」


「…それは、あまりに、」


「エミリアですでにそれをやっている。昨夜の襲撃で糧食を奪われた。その事からも向こうの食糧事情は良くない事はわかる。そうなれば我らが村を襲い、領民を追い込む事も想定しているはずだ。つまりこれはあえて弱点をさらし、我らをそこに引き込む罠」


「…なるほど、」


 散々ビビってたくせにこの言いよう。まあ、そうでなければ将軍に成れてはいないだろうけど。


「かと言って何もせぬという訳にはいかぬ。そこで皆から建設的な意見を求めたい」


 あ、ぶん投げた。


 ぶん投げられた諸将もうーむ、と腕を組み誰も口を開かない。冬と言うタイムリミットは迫っている。だがそれまでに勝てる策と言うのは中々なかった。


「おい、ベン、チャンスだぞ、何か言えよ」


 そう話を振るもベンはフルフルと首を振る。その日は結局そこでお開き。昨日の教訓を元に警戒を厳に、そう言う話で解散した。


「なあ、どうすんだよ!」


「どうするって、みんなだって何も言わなかったでしょ!」


「どっちにしてもこのままじゃじり貧だぞ?」


「そんなの言われなくってもわかってるっての! お前は意見ないのかよ? 困るなあそれじゃ」


「うるせえバーカ、それを考えるのが将軍であるお前の役目だろ、使えねえなホント」


「使えないとか言うなよな! あ、そうだ、いっその事引いちゃう?」


「えっ?」


「だってさ、このままじゃお前の言うようにジリ貧だろ? で、冬が来たらおしまい。ヴァンパイアは寒さに強いし、氷の魔法が得意だから効果的。こっちは厚着もしなきゃならないし、寒さで動きが悪くなる」


「まあ、確かに、寒いの嫌だし」


「俺も嫌だ。だからさ、エミリアまで引いて、あそこでしっかりした防御陣地を、相手だって食料ない訳だし、この有様じゃ城への食料の補給は無理だろ? そしてここからこっちに攻め入るにはエミリアを通過するしかない。だから嫌でも城を出て攻撃を、今と反対の状況を作ればいい。こっちは物資に関してはいくらでも送ってもらえるからね」


「ほう、なるほど、いいんじゃない?」


 今回はあえて通信で状況を知らせない。ゴブリンたちは当面は暮らしていける。ここからはこっちのターン。うまくすればゴブリンたちに手薄になった城の兵糧を奪わせることもできるかも。そうすれば向こうは完全に詰み。今回の事を鑑みればゼノの奴は信用できない。どこかでゴブリンと連絡を、そう思っているとガガッっと通信機に雑音が入った。


「あ、ちょっとトイレ」


 そう言って席を立ち一人、外に出る。


『王子、聞こえる?』


「ああ、クリアな音声だ」


 その声はゴブリンのもの。彼らの声は眷属だけにすぐわかった。


『城でゼノがその通信機をつけてたからね、相手は王子、そう思って。周波数をあわせるのに苦労したけど』


「そうか、連絡が取れたのは助かる、そっちの様子は?」


『メーヴは兵隊たちを殺してアンデットに、そう言う事をするみたい。村人が逃げ込んで来たらそいつらもそうするつもりじゃない? そうすれば食い扶持が減らせるからね』


「なるほどな」


『ボクたちはとりあえずの食糧も確保できたし、メーヴはね、奪った半分を好きにしていいって』


「半分もか?」


『うん、あいつは結局人間たちを自分のシンパに出来なかったから。なんかね眷属も10人程度、それ以上は増やしていないよ』


「何か考えがあるのかな?」


『さあね、とりあえずボクたちに裏切られるのは困るんじゃない? まあ、裏切るとは思ってないだろうけど、村を襲われても困るって事かも』


「なるほどな」


『後の事は王子の指示を待って、そう言う形。通信が出来ればどうにでもなるでしょ?』


「それにしてもよく通信できたな」


『昔バイトしてた工場で同じもの作ってたからね。仕組みが分かれば出力は魔力で行けるし、周波数をあわせるのは難しかったけど、あ、それには切り替えスイッチがついてる。カチって宝石を回せばチャンネルを変えられる。宝石の色が変わるから判るはずだよ』


「わかった、ともかくお前らは巣穴にこもってゆっくりしてろ。一番の見せ場を用意してやる」


『ま、期待しないで待っておくよ』


 そこで通信は切れた。ピアスを耳から外し、カチッと宝石を回すと赤黒い色が青になる。こっちがゴブリンたちのチャンネル、と言う訳だ。


 昼を挟んで再び軍議、夜になれば敵の襲撃が来るだろう、そこまでに方針を決めねばならない。


「撤退ですと! 将軍、それは!」


 そういきり立つ男を手で制し、将軍は俺に語った理屈を諸将に語る。みな不思議そうな顔をしていたが、聞き終えるとなるほどっと頷いた。ともかくそれで決定となり、早速行動を開始する。動くのであれば昼間、夜は向こうのターン、なので迅速に動かなければならなかった。


「忘れ物ないだろうな、キャシー」


「少しは手伝ってよ!」


「だってお前何もしてないじゃん」


「してますぅ、王子よりは絶対してますぅ! 大体食事だって水汲みだって全部私がしたじゃない!」


「あんまり近寄んなよ、なんかクセーし」


「しょうがないでしょ! お風呂なんか無いんだから! ちゃんと脇とか股とかは拭いてます!」


 ワーワーと言いながら俺たちは荷物を馬車に積み込み出発を、危うく将軍を置き忘れるとこだったが泣きそうな顔で走ってきたので拾ってやった。


「ふつう俺を置いて行かないから! この馬車はね俺の! わかるかなぁ?」


「うるさいなぁ、そういうとこ、ほんとちっちゃいよね、なんていうの器量がない?」


「そう言う事言うなよな! 昔、ディージャとジャンに似たような事言われて、すっごく傷ついたんだから!」


「ああ、あいつらもあんたは友達じゃないって言ってたし」


「俺だってね、ちゃんとやってたの! なのに空気が読めないとか、うざいとか言われて。あいつら、ダンジョンの中で俺が戦ってんのに後ろでお茶してたんだぞ! ありえないだろ?」


「まあね、でも他のメンバーは?」


「ああ、魔法使いは陰険な奴でさ、俺たちの事を実験動物か何かと勘違いしてた。知識神の信者ってのはそういうとこあるから。神官はさ、豊穣神の信者でこれがまた口うるさくて、」


 そう、フィリスも豊穣神の信者、口うるささは一級品だ。俺とキャシーは声を揃えて「「ああね」」と言った。


「その二人はどっちも一人で平気なタイプで、ジャンとディージャはつるんでて、俺はね、頑張ってたんだよ? でもいっつも仲間外れで」


「なんかわかる、あんた、そう言う顔してるもん」


「ちょっと王子、失礼でしょ? プスス」


「あ、キャシー、お前今笑っただろ! お前だけは味方だと思ってたのに!」


「そいつはあんたの味方さ、なにせお漏らし仲間だからな」


「「それはもういい!」」


 なんだかんだでエミリアに着いたのはその日の夜だった。


「…あら、帰ってきちゃったの? 相変わらずジョバンニはダメね。そんなんだからお漏らしすんのよ」


「うるさいな! いいだろ、これも作戦なんだよ!」


「そんな事よりディージャ、ヴィーザラは?」


「ああ、あいつ? 巣穴に返したわよ。だって竜王が目を覚ましたらメンドクサイじゃない。あいつは竜王のお気に入りだし」


「そっか、大変だな」


 エミリアの村は要塞化が進み、とりあえず北側の防壁は石造りのきちんとしたモノが出来ていた。そして村の広場には本営となる建物も。兵士たちは相変わらずテント暮らしにはなるが、共同で使える大きな風呂が作られていて、とりあえず生活環境は野営地よりも格段に上。その本営の警護にはシャ―ヴィーたち竜人族が配置されていた。


 本営にも風呂があり、俺たちは早速湯を使う。将軍はキッチリタオルを巻いたキャシーに世話をさせ、俺の世話は何故か恐竜顔のシャ―ヴィーだった。


「ほら、動かないの」


 そのシャ―ヴィーは大柄でグラマラス。俺を抱っこするように抱えながら洗ってくれる。顔さえ見なければ実にイイ女。顔さえ見なければ。


 そして湯舟の中でも嫌がる俺を後ろからしっかり抱っこし、湯につかる。力では敵わないし、もう色々と諦めた俺はそのおっぱいの谷間に後頭部を埋め、体を湯の中で伸ばした。


「北側の防壁はしっかりしたモノだったし、これでまず負ける事はないよ」


「まあ、そうだろうな」


「最悪春までこのまま、そうすれば敵は飢えて弱ってるだろうし、勝つのも簡単だろ?」


「ヴァンパイアと言えど、飯は食うからな」


「そう、見方を変えればマイセン全体が籠城している感じ、こっちはここを抑えておけばそれでいい。実に合理的だよ。防壁があれば北からの魔獣の侵入も防げるからね」


 なんだかんだで有利な状況を作り出す、このジョバンニと言う男に少し親しみと好意を感じていた。


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