第18話 新たなる事情

――マイセン辺境伯領 グラニグル城


 ふうっとメーヴは再び大きなため息をつく。過去は過去、今は今だと気持ちを切り替える。今の自分にはやることがあるのだと。魔界のマナ不足は深刻、各所で不満も大きくなっている。私は魔界の為、みんなの為に努力しなければならない。それだけの立場、魔界貴族であり評議会の一員なのだから。


 正直に言えばエミリアでの失策はそう大きな事ではない。どちらにしても戦争は起こる。地上の混乱が深まればそれだけ魔界へマナが多く供給される。それを恒久的なものにするにはこのマイセンにダンジョンを建設すればいい。だが、ダンジョン建設には多くの資材と労働力が必要、今のマイセンの実情ではそれは無理。リヴィアの港町を制圧し、表向き人間の国家としてマイセンの開発を進めながら資金と資材を確保し、魔族たちを動員して労働力を確保、ダンジョン建設に当たらせる。それが目的。


 必要なのは資金と資材、それに時間。ダンジョンが完成するまでは表向き人間の主導する国家の一部、そう在る必要がある。魔族の支配地、そうしては人間世界の総攻撃を受ける可能性もあるからだ。このマイセンとリヴィアの港、それが確保できるのならば領主は最悪ヴァレリウス側の人間でも構わない。つまり戦争が起きればそれでよく、勝ち負けはどちらでも構わない。戦況が不利ならばリヴィアの領主にこの地を制圧させてしまえばいい。もちろんそちらにも手を回している。


 彼女のすることは用意周到、すべての状況を鑑みて、最終的に目的を達成する。かつて恋愛においてそうであったように。


 だが、その彼女の完璧な計画、そこに予測できない変数が現れる。そう、王子が居たのだ。王子を危険にさらせばあの魔王様は黙っていないだろう。…そして、あのネコ先輩も。メーヴの心は激しく揺れた。怒りもあり、苦しくもあり、今やっている事、はやりたい事ではなく、やらなければならない事、そういう義務感しか感じていない事にも気が付いた、あの頃のように自分のやりたい事の為にしていた努力とは違う事も。


「…だめね、私」


 メーヴはそう一人で呟いた。



――人間世界 リヴィアの町


 あれから数日、相部屋のキャシーはなんだかんだと迫ってくる。彼女の事は嫌いではないし仲間であるとも思っている。少なくともフィリスのように口うるさくはなかった。


 だが、してしまえばどうなるかわからない。今まで抱いた三人の女は灰になって死んでしまった。その理屈がわからない。吸い方を考えれば大丈夫、そう思ってみてもサンプル数が少なすぎる。万が一キャシーを灰に、そうしてしまえば必ず心に重いもの、後悔が残ってしまう。魔界で無茶が出来たのはあいつらが死なないから。キャシーはヴァンプの眷属とは言え半分は人間。確率は50%、分の悪い賭けになる。


 それ以前にそこまでの欲求は感じていない。マナを消費しなければそう言う欲も強くはなかった。まあ、おっぱいぐらいはいじるけど。


 そしてその日、俺たちは領主の屋敷に招かれることになった。ここの領主は以前、任務に失敗した時も金貨をくれたいい人、そう言う認識。直接面会した訳ではないが。


「よく来てくれた、まあ、座ってくれ」


 実際に招かれたのは俺とアルト、それにキャシーとメロの4人だけ。ソーヤは招かれず、フィリスも修道院に置かれたままだ。初めて見る領主の顔は思ったよりも若く、精悍だった。少しずるさが顔に出ているような気がするが。…そして、彼からはヴァンプの匂いがした。


「俺はここの領主、ジャン、ジャン・アレンだ。ジャンと呼んでもらって構わない。今じゃ伯爵なんぞと呼ばれちゃいるが元はお前らと変わらねえ」


 ぞんざいな話し方をするその男は胸元からタグを取り出し俺たちに見せた。その色はプラチナだった。


「まずはお互いの事だ。俺はこの通り元は冒険者、プラチナタグになりここの領主に成りあがった。…そして、お前らと同じ魔物でもある」


「…つまりあなたはヴァンプの眷属であられると?」


 こういう時に話すのはアルトの役目、だから俺は口を開かない。


「ああ、そうだ。もちろんお前たちの事も知っている。バーツと言ったか? お前の名はヴァレンス・ロア・カラヴァ―ニ、魔界の王子、王子と呼ばれるのはあだ名じゃなくて本当だったって事だ。そしてアルト、お前はデーモンの眷属、そっちの女は俺の同胞、そこのお嬢さんはインプ、俺にも魔族の仲間がいてね、そいつから色々聞いてはいるさ」


「…そうですか、今回の件は私たちの素性を判ったうえでの任務、そういうことですね?」


「まあ、ありていに言えばそうさ、この騒動の大本、マイセンに降りて来たメーヴって女とは少ししがらみがあってな。…簡単に言えばこの俺はあの女の最初の眷属、エミリアにきたのは誰かはしらねえが俺にとっちゃ兄弟分って訳さ。直接出向いてぶっ潰しちゃ色々マズい。かと言ってメーヴと話をしちゃ余計なご命令、なんてもんを受けることになりかねねえ。だから、お前らに、そう言う話さ」


「…なるほど、それで、お招きの趣旨は? 伯爵閣下」


「…よせよ、俺は魔物だが魔界に住んじゃいねえ、だから王子、あんたの事も敬わねえ。そしてお前らも俺の家臣にした覚えはねえ、敬わられる理屈もねえ。…つまりはだ、俺とお前らは対等、そう言う仲で行きたいんだよ、そうじゃなきゃ色々めんどくせえ。俺も、お前らも、ご命令って奴は性にあわねえ、だろ?」


 その言い草に俺もアルトも思わずぷっと吹き出してしまう。後ろに立つキャシーもあははっと少しあきれ顔。


「まあ、いいさ。それでジャン、俺たちがつるんだら何ができる?」


「いいねえ、その調子だ。俺はな、王子、こんな感じだが領主としちゃあ至極真面目でな」


「それはわかる、前に商人の護衛でその商人が死んじまったときも、あんたはちゃんと彼を悼んでた」


「そうですね、我々にも金貨を」


「…ああ、ここはな、元々なにもねえさびれた港町でな。俺の親父はな、東の大陸からの流れ者。向こうじゃ貴族だったと吹かしてた。俺が生まれたのも向こう、朧気にしか覚えちゃいねえが確かに俺の故郷は向こうだった。だからいつか、そう思って冒険者となり金を稼いだ。メーヴと出会い、奴にヴァンプの眷属にされた。だが、それは俺が望んだ事でもある。人であれば50年もすれば死んじまう。俺のやりたい事には時間がたりねえ、常々そう思っていたからな」


 ジャンの話ではなりあがればどこかで領地を、そう言う目論見、それは果たされ国境沿いのこのさびれたリヴィアの町と伯爵の称号を手に入れた。

 とりあえずの入れ物、そう言うものを確保したジャンは東の大陸に船を出し、あちらの食い詰め者たちを集めてこちらに移住させた。リヴィアは元々さびれていて開発しようにも人を、労働力を欠いていた。故郷の人々の救済、それにこのリヴィアの振興、それは領民たちの受けもよく、するすると順調に進んでいく。資金はこれまで冒険で稼いだ大量の金貨やアイテム。あのエミリアの村も元はと言えば東の大陸からの移住者たちが開発し、住み着いたところだという。

 いろいろあって大陸との交易も始まり、大きな船も寄港する。まだまだ発展途上の感はあるが少なくともみんな食うには困らない。そこまでは発展できた。


「…だが、正直言ってここで頭打ち、畑は作れる余地があるがそれ以外これと言った産物がねえ。大陸との取引も儲けとしちゃあ大きいが、いかんせん船が来るのは二月に一度、取引先を増やそうにもこっちで買い込む産物がなけりゃ船は寄せられねえってさ」


「そうですね、あちらからは胡椒などのスパイス類。それはこちらで高く売れますが、こちらの産物がなければ帰り荷が。船としてはその分損ですから」


「ああ、アルト、お前は元は王都の商会に居たんだろ? そういう意味でも意見が欲しい」


「なるほど、あなたの事情はよく、わかりました。つまりこの戦争を利用してこの町の発展を狙いたい、と言う訳ですね」


「そうだ、大陸の連中はまだまだ貧しい、ここも人は足りてねえ。移民を増やし、そいつらを手助けすれば村もまだ増やしていける。…そういう意味ではエミリアの件は痛かった。あそこは豊かな村だったし、俺が初めて移民を置いたところでもあった。心情的にも痛みはあるさ」


「…なるほど、ですが今回の件を主導するのはあなたのあるじ、メーヴ殿、あなたは彼女の支配下なのでは?」


「…そこだ、確かに眷属としちゃあ主に忠誠を尽くす他はねえ。恩恵は受けてるし、そのおかげでプラチナまで駆け上がれた。支払い義務があるとすればこちらの方さ。

だが、あの女は俺に言った。命令はただ一つだけ、ヴァレンス・ロア・カラヴァ―ニ、そう言う名前の男に力になってやれと、それ以外は望まないとな」


「…ほう、」


「つまり、そのご命令の中に奴の安全は入っちゃいねえ。俺は王子に力を貸す、命令だから当たり前だ。だが、王子の意向があいつをぶっちめることなら? 流石に直接やっちゃ問題があるだろうがその為に力を貸すのは道理の範疇だろ?」


「ははっ、いいねえ。悪くないさ」


「そうですね、で、我々はあなたと組んでこの町の発展に協力すると」


「そう言う話さ、だから俺はそのご命令が上書きされないようにメーヴとは接触しない。…そうだな、理想としちゃマイセンを俺のとこで併合、あっちの木材や鉱石なんかを産物に出来れば船だって寄ってくれるだろ?」


「そうだな、メーヴは用意周到、頭もいい。戦争はどっちが勝ってもいいように、そう仕組んでるはずさ。マイセン側が勝てば向こうの領主を前に立て、こっちが勝てばジャンがその役を、眷属であるお前は意のまま、そう考えるだろうからな」


「魔界の事情ってのもある程度は聞いてる。ダンジョンの理屈も、あの女は表向きは人間の国、実質は魔族の国、そうするつもりだろうぜ。俺もそれで構わない。マイセンの山ン中に人を送り込むとなりゃたいへんだからな。魔族が開発してくれるならそっちの方がありがたい。奴の計画は俺にも利がある。ある程度まで乗っかるつもりさ。だが、戦後の取り分はそれじゃ物足りねえ」


「当然ですね。ですが王子が居ればそのあたりは」


「まあ、ぶつぶつ言う奴は殴ればいい」


「はっ、頼もしいな。んでお前らはどうする? 俺としちゃこの町をお前らの家、そうして欲しい。持ちつ持たれつでとな」


「…そうですね、ソーヤに関しては、ねえ王子?」


「そうだな、あいつとフィリスは人間、相応の立場ってのがいる」


「そこは考えてるさ、フィリスってのは修道院で侍祭に。ここで医療を担当してもらう。教団には根回しもしてる。除名処分は解除、戦争でもいくらか働けば十分な功徳ってやつを示せるからな」


「「いいねえ」」


「いひひ、これであいつは永遠の処女って? 悪くないじゃない」


「ま、ブスだし口うるさいし、頭おかしいですもんね」


「「ねー」」


 キャシーとメロもこれには賛成、もちろん俺たちも賛成だ。


「んで、ソーヤってのはエミリアの件じゃすでに英雄扱い、女どもが奴の手柄を言いふらしてるからな。だからあいつは俺の家臣としてエミリアの代官、復興の指揮に当たらせる」


「まあ、そんなとこだろうな」


「そうですね、妥当です」


「あとはお前らだ。何をするにしても俺の相談役、そう言う形が取れればいい。家臣なんて柄じゃねえだろうし、そうなれば色々儀礼上の問題も出てくる。俺も人の言う事聞けねえお前らを家臣にしちゃいつケツに火が付くか判らねえからな」


「…で、あれば町で商会を、利権さえ頂ければしっかりと町を賑やかにしてみせますよ?」


「きちんと税を支払うならそれもアリさ」


「えっ?」


「民間になる以上特別扱いってのは良くねえからな。ま、話はそれで」


「ちょっと待ってくださいよ、そこは、ほら、話合いの余地が!」


「わるいな、俺は忙しい、ともかく宿は今のまま、動きがあるまで好きにしてろ。あ、そうそう、今回の報酬な、ギルドに話してあの剣や鎧も買い取らせた。それを任務達成の実績、そうしてやった」


「えっ?」


「つまり、お前らは全員今からカッパータグの冒険者、代わりに金は一切なしだ」


「「「えっ?」」」


「仕方ねえだろ? ブロンズのままじゃフィリスの話もソーヤの話も通らねえんだよ」


「ちょっと、」


「ともかく俺は忙しい、ちゃんとギルドに顔を出しておけよ?」


 そう言ってジャンは俺たちを追い払った。


「最悪だろ、あいつ!」


「本当ですよ!」


「ああ、私、欲しいものあったのに!」


「新しいお洋服、欲しかったなぁ」


 項垂れた俺たちはその足でギルドに。そこで満面の笑みのソーヤにあった。


「聞いてください、僕たちはカッパータグ、それにね、僕は伯爵の家臣として採用されることが決まったんです!」


「あ、そう」


「フィリスさんも除名処分が撤回されてここの侍祭になれるかもって。ようやくですよ、ようやく!」


「ほら、ソーヤさん? ご挨拶に伺うところがいっぱいあるんだから」


「そうだね、ミラ。君が頼りだよ」


 くっそ爆発して死ねばいいのに。


 ギルドで今後の抱負とか、任務の内容の変更とか、くだらない話を聞かされタグを交換する。これで今からはカッパータグの冒険者。メロも身元を伯爵のジャンが保証することになっていていきなりブロンズタグの冒険者に。つまりあいつはメロもしっかり働かせるつもりだ。


 ともかくこれでソーヤとフィリスは就職が決まり、パーティーを離れることに。残ったのは全員魔族、あーあ。



 基本的に俺たちは金がない。俺とアルト、ソーヤの三人は派手な生活に慣れ、フィリスに借金まである身だ。そしてキャシーは新加入。お揃いの鎧や帽子、マントと言ったヴァンプ必須の日よけアイテムを揃え、ほとんど一文無し。メロはいくつかの宝石や魔石を持っていた。


「メロ、それ、金に換えてこいよ」


「やだよ、これはね、最後の砦なんだよ? バカだからわかんないだろうけど、とりあえず滞在費はあの伯爵持ちだから困らないはずだよ?」


「暇なんだよ、部屋に籠ってじっとして、本も何もねーし」


「私たちは暇じゃないもん。ね、アルト様? 王子もそのブスとイチャイチャしとけばいいじゃない。緊急的措置ってやつ?」


「…ちょっと、私ブスじゃないよ?」


「鏡見てね、で、私たちはとりあえず町を見て回るんだ。商会をどこに開くかとか、色々考える事あるんだよ? バカには判んないだろうけど」


「うるせえな!」


「バカはすぐ怒鳴るもんね。…アルト様も私もデーモン一族だから商売には向いてるし。あっちのバカ二人は何もできないから」


「…私だって!」


「何が出来るの? アイアン上がりの冒険者なんてほとんど無職だった人なんだから、ま、いわゆるろくでなし? 王子も無職だったもんねー」


 ものすごく腹が立つが事実である。隣のキャシーも言い返せず奥歯をぎゅっと噛んでいた。


「私はね、魔界でも色んな仕事してきたから。デーモンズ・カフェでもバイトしてたし」


「魔界では流行りのお店なのですよね?」


「そうだよ、アルト様。王子も学生だった頃はブス二人を連れて何回か来てたし」


「へえ、意外なところで繋がりがあるのですね」


「そう言うのがあるからアルト様の側付きに私が選ばれたんだ」


 そんな二人はイチャイチャしながら町に繰り出していった。


 仕方がないのでキャシーと二人、部屋に戻る。


「あーもう、退屈だな」


「…私と二人じゃ、イヤ?」


「嫌だから言ってんだろ、言わせんな」


「もう、ひどいっ!」


「男が欲しけりゃその辺で捕まえてこいよ、あ、ついでに金貰ってくりゃいいじゃん。頭いいな、俺」


「完全にウリでしょ! そんな事しないもん!」


 これだけ言ってもキャシーはベッドに横になる俺にいそいそと這いより、その胸の間に俺の頭を抱え込む。そして何が嬉しいのかえへへっと笑った。



――魔界 プレジデントデーモンホテル スイートルーム


「とりあえず現在の状況、地上の調査と細かな情報収集は必要、そう言う話で我々の活動予算、部費を通す事はかないました」


「…金の事は何より大事さ」


「そうニャね、流石マダラニャ」


「しかし、地上の事は意外な形に、流石にメーヴ殿には隙はありませんな」


「…まあ、妹は部長を相手に堂々と王子の脇に立っていたからな」


「個人的にはあいつの事は嫌いじゃないニャ。…でも、」


「…そうだな、あいつがきちんと釈明すれば王子は。だが、状況を鑑みればふさぎ込んでも仕方はないさ」


「女心は永遠の謎、と言う訳ですな」


「まったく、メーヴもやるならとっととやればいいニャ。これだから戦闘力5は」


「それにしても王子は意外なほど身持ちが固いな」


「ええ、魔界でのご乱行、それが嘘のように」


「…あいつはインキュバス、ではないのかもしれないニャ」


「それは、流石にあるまいよ。実際女を吸い殺してもいる」


「…ですが三人ともひん死、若しくはそれに近い状況でありましたゆえ」


「そうにゃね、それにあいつは回復魔法を使ってるニャ。魔族は神の奇跡を起こせない、にゃろ?」


「…やはり父方の血のなせる業、そう思うしかあるまい?」


「途中で変質した、と言う可能性も考えられますな」


「…確かにあいつはメーヴの一件で変わったニャン。それまで我儘ではあっても暴力的ではなかったし、女にはモテても自ら手を出す事はなかったニャン」


「なぜ、ああなったのか、王子は妹とは既に関係を持っていた。犯す必要など」


「マナの回復、魔界に居ればそこには困らないはずニャ、地上で回復の為、女を抱く、それは理屈が通るニャ、けど、あそこまで強引に、メーヴは拒絶するような女じゃないニャ」


「流石に俺も立ち入った事は聞けぬままさ。それにあいつも王子の事は一切口にしなかった」


「そうニャ、それにあの日からニャーの事も、今考えればおかしなことニャン。ニャーたちの代わりに誰かに依存、そう言う事もなかったニャ」


「ただのご乱行ではなかったかも、しれませんな」


「…そうだな、王子は王子なりに苦しんでいたのかも」


「…ニャーもずっと頭に血が上ったままで、あいつの気持ちとか考えた事はなかったニャ」


「推測するにメーヴ殿を前に体に異変が、それはメーヴ殿の心を壊すほどの衝動。王子は部長を同じようにしない為、遠ざけ、他の女で実証を。データを積み重ねていた? ある一定の時から一切女を求める事もなく引きこもりを」


「…そうだな、分析すればインキュバスの本能で片付けられる事ではないな」


「ええ、おそらく魔王様は全てを、ですからあのように」


「…あいつを地上に追いやったニャーたちは愚かだった、と言う事にゃね」


「ええ、世論をそう動かした、魔界におけるマナ不足を始めとする不満、それをそらすためのスケープゴート。あの時は我々すべてに都合が良かったですからな」


「…親父もネコの父も娘を傷つけられた意趣返し、俺たちは魔王の支持率回復、確かに都合が良くはあった」


「…ともかく鍵はメーヴが握ってるニャね。あの時実際は何があったのか、それを知るのはあいつだけニャ」


 これまでは簡単だった話、ろくでなしの王子を懲罰する。それが複雑な事情に変わって行った。






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