月夜の口付け(Ⅱ)
前話の続きですが、セレイラ視点だと少し書ききれなかったので、第三者視点で書いております。すみません(;´д`)
⚠激甘注意報⚠
でろんでろん、かもしれません……
*****
ノアがリリーベルの部屋に窓からやってくるのだが、その時にいっしょに持ってくる鈴蘭が紛失してしまったのだ。鈴蘭は告白等に使われる、恋愛においては縁起の良い花で、しかもこの物語においては必須の花である。
何故ならば「リリーベル」という名前は鈴蘭から来ているから。
それがノアが登場する直前に発覚してしまったのである。
皆蜘蛛の手のように散って、探し回ったが、どこにも見つからない。これじゃあノアがいつまで経っても登場出来ない。
リリーベル役のセレイラは全然動かないシナリオに疑問を浮かべ、バタバタする裏方を見て何かハプニングが起きたと察知し、1人でアドリブで乗り切る事にした。観客はセレイラの演技に見入り、実は問題が発生しているなどとは全く思ってもいない。
そろそろセレイラのアドリブがきつくなってきた頃、裏方達は頭を抱えていた。そんな時、ノア役のウィリアムが口を開いた。
「鈴蘭はいい。私に考えがある」
「しかし、殿下。鈴蘭が無ければ話が……」
「大丈夫だ。必ず元の台本に繋げてみせるから安心してくれ」
「はい………」
そしてノアは窓から外套をふわりと舞わせながら魔法を使ってゆっくりとリリーベルの部屋に入る。幻想的で美しいその絵に令嬢達は思わず頭を押さえ、子息達もその色気に当てられてため息を零すほど。
『ノア様!』
『リリー、今夜も会えて嬉しいよ』
『わたくしも……』
抱き合う2人はお似合いとしか言い表せない。『花畑でプロポーズ』のスチルになっていてもおかしくない輝きである。
そうやって抱き合っている時に、セレイラは何があったのかコソリとウィリアムに問う。
「どうなさったのですか?」
「鈴蘭がどうやら無いらしい」
「え」
「アドリブ、いけるか?」
「えぇ、大丈夫かと」
「元の台本に戻さないといけない。よろしくな」
「はい」
ノアとリリーベルは体を話すと、ノアはリリーベルを横抱きにしてベッドの縁に座らせ、ノアもその隣に腰掛ける。頭を撫でながら愛しそうに甘く熱くリリーベルを見つめるその視線に、セレイラは真っ赤になってしまう。それはウィリアムがセレイラに向ける視線に酷似していたからだ。勿論ウィリアムの恋焦がれる視線は演技ではなくセレイラ本人に向けているので似ていて当たり前なのだが。
『リリー、今日は大事な話があってやってきた』
『………はい』
『私は君にあの仮面舞踏会の日に一目惚れをした。そして君を欲しいと思った。君が私の隣にいて、共に笑ってくてたらどんなに幸せだろうと』
『そんな………』
『私は君だけだ。リリー、君しかいない。私の唯一の愛しい人、どうか私の妃になってくれないか』
ノアがリリーベルの手を握り懇願する。
『…………ごめんなさい』
『………理由を聞かせてもらえないか。そうしたら、私は、諦める、から………』
『それは………』
『やはり私の事が嫌いになった『いいえ!違います!』』
リリーベルは食い気味にノアの言葉を否定する。ノアはリリーベルに驚くような表情を見せた。泣きそうな顔でノアを見つめるリリーベル。そんなもどかしい2人を見ている観客達はハンカチを片手に食いるように舞台を見ている。
『わたくしは、殿下のような素晴らしい方の隣には立ってはいけない者なのです』
『………それは?』
『言ってしまえばわたくしは貴方に軽蔑されてしまいますわ』
『しない。絶対に』
『いいえ、しますわ。だって、だって、わたくしはっ……!』
『………「月の戒律」を破った、って?』
『………っ?!何故それを……?』
驚愕したリリーベルは大粒の涙をはらりと一雫零した。その涙の跡を優しくノアは指の腹でなぞる。その目は軽蔑なんてものは一切なく、 ただただ彼女を「愛しい」と訴えていた。
『ずっと知っていたよ。リリーがその事で傷ついてきたこと、それが枷になっている事、全部知っている』
『……ど……して……?』
『それは、私が君にあの日助けられたからだよ』
『え……?』
『あの日、池に落ちた私を救ってくれたのは、リリー、紛れもなく君だよ』
開けたままの窓から流れる柔らかな風が二人の間を通り抜ける。薄いシフォンで出来たカーテンは、少しの風でもふわりと舞う為、より画が映える。
唖然としたリリーベルの頬を撫で、そして壊れ物を扱うかのようにふわりと彼女を抱き締めるノア。
『それに君は「月の戒律」を破ってなんかいない』
『え……?どういう……』
『君は「月の精霊」に愛されていて、君が「月の精霊」に訴えてくれたから、彼等が力を貸して、溺れていた私を引き上げてくれたんだ』
『嘘……でしょう……?』
『本当だよ。これでも君は私の隣に立ってはいけない人なのかな?』
『…………私はずっと、ずっと………』
『大丈夫。私が君を守る』
涙を留めもなく流すリリーベルはノアの背中に腕を回し抱きしめ返した。
『わたくしは、ノア様の隣に居てもいいのですか……?』
『勿論。ずっと私の隣に居て欲しい』
『ノア様……っ!』
暫く抱き合っていた2人は少し体を離して頭をコツンと合わせた。観客は涙を流しながら真っ赤になっている。
「本当は鈴蘭を持って格好よく告白する予定だったのだがな」
そう言って苦笑するノアにはこの台詞はない。ここからアドリブなのだろう。
『何故鈴蘭なのですか……?』
『君の名前は「リリーベル」だろう?』
『まぁ……!』
「鈴蘭を用意しようとは思っていたんだ。だが……生花は枯れてしまうだろう?」
関係までもが枯れてしまうのは嫌だから、と、なんとも粋な台詞が飛び出してきた。ギャラリー、主に令嬢達が、ほうっと頬を染めてうっとりため息を付いている。
「わたくしも……生花は嫌ですわ」
「だから」
ノアは顔を傾けてリリーベルの顔に接近する。セレイラは驚く間もなく唇を塞がれてしまい硬直した。観客席から令嬢達の甲高い黄色い悲鳴が聴こえる。裏方陣も声を抑えるのに必死だ。
「これで許してくれないか」
身も焦がすような蕩けるような瞳。不意打ちのキスに顔を火照らせているセレイラは、嬉しいのと恥ずかしいのとでごちゃごちゃになっていた。だからここで終わらせてやらない、と企む。
「…………や……わ」
「え?」
「………いや、ですわ」
潤んだ瞳でウィリアムを見上げるセレイラは天災級の破壊力を持ち合わせている為、ウィリアムは素で唸ってしまう。そして頷いてくれると確信していたウィリアムは、突然のいやですわ宣言に内心動揺していた。
「……そんな口付け1つだけなんて本当に残酷な人」
「………っ?!?!」
セレイラは全力でウィリアムを今煽っている。仕返しだ。彼も目を見開いて硬直しているのでかなり困惑しているのだろう。
「セレイラ、これは自分のせいだからな」
耳元でボソリと掠れた声で呟いたウィリアムに今度はセレイラが硬直する番となった。リリーベルをベッドに寝かせたと思うと、上からノアが被さる。肘から下全てをリリーベルの頭の横に置いている為、顔が物凄く近く、少し動けば唇が当たってしまう距離だ。ベッドの上ということでかなり扇情的で、ギャラリー達は男女問わず耳まで赤く染め上げている。
「ノ、んっ!」
ノアの名前を呼ぼうとしていきなり唇を奪われた。何度も何度も角度を変えて啄むように口付けをされ、セレイラは頭がクラクラとしていた。ウィリアムはタカが外れそうになるのを必死にこらえ、最後に長めにセレイラを堪能すると、ゆっくりと離れた。
そしてセレイラの瞳を覆うと、「安眠」の魔法を掛けた。勿論フリだが。
寝息を立てるリリーベルに、また触れるだけのキスを贈ると、ウィリアムは窓の縁に背中を向けてしゃがみ、顔だけ横を向いて妖艶に微笑んだ。逆光のため、見えるのはシルエットだけなのだが、それだけでも色香を醸し出すのは十分だった。
『おやすみ、愛しいリリー』
ひらりとノアは窓からいなくなって、舞台は暗転する。
このシーンだけで観客達は大盛り上がりで、大好評だった。
☆☆
「ウィリアム様っ!あ、あれはっ、どうして」
舞台が終わってから、控室で真っ赤になってセレイラはウィリアムに問う。
「………あれはセレイラが悪い」
「ぅっ………」
「………本当に、これが舞台じゃなかったらどうなるか分からなかったからな。次から気をつけて」
「………はい………」
ウィリアムはセレイラの細い腰を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。ウィリアムは彼女の首元に顔を埋めて深呼吸をする。
「『どんな事があっても君を愛してるよ』、セレイラ」
「……!……『わたくしもいつどんな時も貴方を想っています』、ウィリアム様」
そしてまた口付けを交わそうとして、監督とその他の生徒達が「お疲れ様でしたー!」と控え室にやって来て、またお互いに気まずくなるのは、もう最早お決まりとなってしまった。
******
はぁ……どうしようこの子達……w
殿下、全力で婚約破棄させて頂きます 柊月 @hiiragi-runa-6767
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