番外編 殿下、全力で愛されて頂きます
城下デート(Ⅰ)
セレイラとウィリアムが城下をデート。
なにやら、不穏な空気が……?
三人称です。糖分もそこそこ。
*****
「ウィル、これとっても美味しいわ!」
「そうか。レイ、はい、あーん」
「ううっ……」
(何 を 見 せ ら れ て い る ん だ 俺 達 は)
今日はウィリアムとセレイラがお忍びで城下デートをしている。それの警護にあたる近衛達は彼らから目を離すわけにはいかないのだが、自重せずイチャイチャする王太子と王太子妃に目を逸らしたくなった兵士達である。
真っ赤に染まったセレイラを蕩けるような甘い視線で見つめ、口元を緩ませるウィリアム。普段の王太子然とした、王太子妃然とした姿しか知らない割と新参の兵士らは、彼等の素顔を見て内心唖然としていた。
そんな事を護衛が思っているとはつゆ知らずなウィリアムとセレイラは、城下で今若者に人気のカフェのパンケーキ食べている。ウィリアムがマロンの乗ったもの、セレイラはベリー系のものだ。
結婚してからというもの、お互いにウィル、レイと呼ぶようになった。勿論公式な場ではセレイラ、ウィリアム殿下であるが。
セレイラは、晴れやかな表情でフォークを差し出すウィリアムに、恥ずかしいから嫌だとは言いにくく、おずおずと口を開きパンケーキを食す。
マロンクリームのクリーミーな優しい味わいに頬を緩ませているセレイラを見て、ウィリアムはくすくすと笑い、益々愛おしいという視線を向けた。
仲睦まじくほのぼのとする彼らに、店員も生暖かく見守るのであった。若者のデートスポットでもあるこの店において、このようなカップルの様子は日常茶飯事なのだが、如何せん二人とも群を抜いたとんでもない美形である為、かなり目立つのだ。ウィリアムもセレイラも髪色と瞳の色を変えているので、誰も王太子と王太子妃とは思わない。誰もが流行りの恋愛小説に彼らを重ね、うっとりとした表情で盗み見る。
ウィリアム達は店を出てぶらりと歩く。手を繋ぎ肩を並べて微笑み合う二人。だが、休日ということもあり、観光客が多く、何処を見ても人、人、人……と、肉の壁が出来上がる状態だった。
「きゃっ…!」
どんっ、と強く誰かがセレイラにぶつかり、セレイラの身体がぐらりと揺れる。ウィリアムが咄嗟に抱きとめようとした。
が、ウィリアムより先に、セレイラの後ろにいた青年が肩を持って支えた。ウィリアムは顔には出さなかったが、胸の中では、自分が助けられなかった悔しさがひっそりと芽生える。
藍色の髪を後ろで束ねている青年はにっこりと人の良い笑顔をセレイラに向けた。
「大丈夫ですか、可愛い人」
「はい、ありがとうございます」
口説くような口ぶりの青年に、ウィリアムどころではなくセレイラも一瞬眉を顰めたが、外向きの笑顔で青年に返す。
「ねぇ、これから一緒にデートしない?」
後ろからセレイラの耳元に顔を寄せて囁く青年。流石に耐えきれなくなったウィリアムはグイッとセレイラを抱き寄せ、自然な動きで位置を逆にする。ウィリアムが睨みをきかせると、青年は驚いた顔をしたが、その後直ぐに元に戻る。
「ちょっといい?二人とも」
後ろから言われたその言葉に、セレイラとウィリアムは一層眉に皺を寄せる。
「断る」
「えぇ、いいだろう〜?」
先程は人混みのせいで、2人が手を繋いでるのが見えないのは仕方が無いのだが、今は違う。ウィリアムもセレイラも近衛も警戒をし、青年の近くにいる近衛達は忍ばせているレイピアを握る。
「へぇ………平民のくせに貴族である私に抗おうって事か」
ウィリアムはキッパリと突き返したのだが、青年はすっと冷めた目をして唸るような声でボソリと言った。その瞬間周りの紛れている兵士達が短剣を抜こうとするが、ウィリアムが視線で止めた。不思議と男はそれに気が付かない。セレイラとウィリアムは警戒を強めたと同時に疑問符を浮かべた。
この国の王太子と王太子妃となる者達が、自国の貴族を把握していない訳がなかった。しかし、シェナード王国にはこの青年のような貴族は居ない。隣国の伯爵以上の貴族まで頭に入れているウィリアムでさえ知らなかったのである。
しかしここでもう一度断れば、この男が癇癪を起こす危険性がある。その時、セレイラの身にも、民にも危険が及ぶかもしれないので、ウィリアムは周りに控えている兵士達に目配せをして、いつでも出られるよう待機するように指示を出した。
「いいだろう」
「ふんっ、最初からそうすればいいんだ。来い」
最初の雰囲気と真逆なそれに、ウィリアムはため息を静かに付き、セレイラは表情は取り繕ってはいるが、瞳は不安そうに揺れている。それに気がついたウィリアムは腰を抱く力を強めて微笑んだ。
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