第35話 裏切り(ウィリアム視点)

 


「何故こんなことをした?――――ジュリエッタ=アリアロイド」






 ジュリエッタは衝撃を受けた顔をしたが、直ぐに眉を八の字にして困り顔をつくる。






「ウィリアム……わたくしはなんの事だか分からないわ……?そんな事より、セレイラさんがここに居るはずでしょう……?!ここで休んでると聞いたのよ……!!お体は大丈夫なのかしら……」






 私の両腕を掴んで、涙を浮かべながら上目遣いでジュリエッタは言うが、私はそれに対して悪寒と拒絶反応を感じる。やんわりと、掴んでいる手を振り払い、無表情で見下ろした。




 拒絶されたのが分かったジュリエッタは、あからさまに眉間に皺を寄せ顔をくしゃりと歪めた。






「セレイラがここで休んでいると誰から聞いたんだ?」




「それは………ロビン様よ」




「へぇ」




「……セレイラさんが足を挫いてしまって、ロビン様がセレイラさんを休ませようと会場を出たみたいなの。いつも完璧なセレイラさんだもの。具合があまり宜しくなかったのだと思うわ。それで、顔色は大丈夫か、今見に来たのよ」






 こちらから罠を仕掛けなくても、色々よく自分から喋ってくれて助かる。自分で自分の首を締めているので大変楽だ。




 本人は気がついていないだろう。喋り方がやたら流暢で、あたかもそういう設定だったかのような、そんな言い回しをしているなんて。嘘が多ければ多いほど、流暢に言葉がポンポン出てくる。






「本当にロビン殿に聞いたのか?」




「そうよ……?」




「セレイラがこの部屋に居ることをロビン殿に聞いた、それで本当に間違っていないのだな?」




「そうよ。信じてくれないの……?」






 じっと見つめれば、ジュリエッタの瞳は奥で狼狽の色をチラつかせている。そして、私がしつこく聞いてくるこの状況に苛立っているのも見えた。






「ロビン=フェリスです。入ってもよろしいでしようか?」




「入れ」






 予め呼んでおいたロビンが、丁度来たので入らせる。ほんのり笑みを浮かべているあたり、この状況を少し楽しんでいるのかもしれない。敵に回したくない相手だ。






「丁度良いとこに来てくれたわ、ロビン様!セレイラ様のお見舞いにいらっしゃったのでしょう?聞いて下さらない?ウィリアムったら、ロビン様からセレイラ様の居場所を聞いたことを嘘だって言うのよ?」






 口を尖らせても何も可愛くもないし、眉を悲しそうに下げても何も思わない。ジュリエッタはセレイラを傷つけようとしたのだ。幾ら幼馴染で、家族のようだったジュリエッタに同情は全くしない。




 腕に縋り付かれたロビンは無理矢理引き剥がす。この男がいつも表情が柔らかいのはただの仮面で、顔の下は腹黒い。ロビンは不快感を全面に出して、ジュリエッタを睨み下ろした。それにジュリエッタは本気で動揺しているようだ。「貴方は私の仲間でしょう?」と。






「何を仰っているのか理解出来かねますよ、王女殿下」




「ど……どういうことよ?貴方は教えてくれたわよね?この部屋にあの女がいるって……」




「知りませんよ。私は教えていません」




「嘘よ。貴方がここにアイツを連れてきたのでしょう?そうでしょう?本当の事を言いなさい」




「僕はずっと本当の事を言っています。私はセレイラ嬢をここに連れてきてはおりません。……ですよね、ウィリアム王子殿下」






 ロビンはジュリエッタに嘘を付いていない。事実、私がセレイラを部屋に匿ったのだ。






「―――あぁ。ロビン殿はセレイラをここには連れてきていないな」




「ど……どうしてウィリアムがそう断言出来るのよ?!」




「どうして……か。だって私がセレイラを部屋に連れていったのだから」




「……は?」






 瞳が零れんばかりに見開いたジュリエッタ。ほくそ笑みながら畳み掛ける。






「ついでに言えば私はこの部屋にセレイラを連れてきていない」




「……っ?!何処にい「教えると思っているのか?」」




「……?!?!」




「もう一度聞く。何故こんな事をした?」






 目を釣り上げて下唇を悔しそうに噛み、私を見ている。






「わ……わたくしは知らないわ!!!」




「まだ言い逃れするつもりなのか?愚かだ、ジュリエッタ。セレイラを魔の森に連れていくために賊と契約して、そいつらに襲わせようとしたのは裏が取れている」




「五月蝿い五月蝿い五月蝿いうるさいウルサイ!!いいわよ、認めるわよ!!あの女が邪魔だったのよ!でもわたくしだけではないわ!!その男も共犯よ!!!」






 ジュリエッタは顎でロビンを指した。






「変な言い掛かりもいい所ですよ、王女殿下」




「嘘つき!!お前と私はあの女を陥れる為の計画を練った!!わたくしは本当の事を言っているわよ!!」




「僕は貴方様と契約した憶えはありませんから」




「逃げるつもり?!!貴方は私に『仰せのままに』と、そう言ったわよ!!!」






 ギャンギャンと叫び荒れるジュリエッタには、あの「妖精姫」という要素は何一つなかった。目は狂気的で、黒い。






「証拠を見せてみろ」




「証拠なんてある訳ないじゃない!!!」




「証拠が無いならロビン殿は白だな」




「はぁ?!?!私の事が信じられないとでも言うの?!?!」




「あぁ、信じられない。お前は嘘を付いていたからな」




「……っ」






 あれだけ顔を真っ赤にして怒っていたジュリエッタは、サァーっと顔面蒼白になる。唇も青くガタガタ震えているが、まだその目は諦めていなかった。






「………っ……でもっ……!!」




「足掻いても無駄だ。お前は罪を認めたんだ」




「……死ね……死ね死ねシネシネ……!!!」






 護身用のナイフを手にしたジュリエッタは私に襲い掛かるが、後ろに控えていたガリレオが直ぐに後ろから出てきて跳ね返す。鈍い音を立てて、後ろに飛ばされたジュリエッタをすぐさま私が魔法で拘束する。






「っく………ロビン=フェリス!!!お前のせいよ!!!」






 捕えられても尚足掻くジュリエッタにそろそろ呆れてきた。ロビンは、自分の発言の許可を聞いてきたので頷くと、彼はジュリエッタの前にしゃがみ、あの甘い笑顔で微笑んだ。






「ジュリエッタ王女殿下、いえ――――ジュリエッタ=アリアロイド。僕はずっとシェナード王国国王と―――ウィリアム殿下に忠誠を誓っているのだから、貴方を裏切るようなものは何も無い」






 ロビンは無詠唱で魔法を使うと、ジュリエッタは一気に意識を飛ばした。口から泡まで吹いている。






「衛兵!!!」




「はっ!」




「この者らを地下牢に入れろ」




「……!!はっ!!」






 衛兵達はジュリエッタやその他賊らを見て目を見張ったのも束の間、囚人達を更に魔道具で拘束し始めた。




 それを見た私は3人に向き直った。






「ご苦労―――協力感謝する。私はセレイラを迎えに行って夜会にまた顔を出してくる」






 礼をする3人に背を向けて、セレイラの所へ向かった。




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