第34話 遂に動き出す黒い影

 


 月明かりだけが差し込み、銀糸の髪の女がすやすやと眠っている。そこは偶に彼女が寝返りを打った時に立つ音が聞こえるだけで、静寂な場所であった。




 しかしこの静寂を破った者達がいた。




 騎士や従者の装いをしたその男らは各々の武器を持ち、目の前にいる獲物に舌舐めずりをする。不気味に笑った男達は、徐々に1人ベッドの上で眠る彼女に近づいた。




 そして女を抱えようとしたその瞬間――――。




 杖を持っていた男が、何者かに後ろから首元に手刀を当てられ意識を飛ばされたのだ。男達が何事だと後ろを振り向いた。




 色素が薄いため、月光のみのこの部屋では白髪にも見える男―――ガリレオは鞘から剣を引き抜く。冷酷な視線を侵入者に向け、その刃が鈍く光った。




 男達は歯軋りをしつつ、レイピア等を構えガリレオを囲む。


 睨み合いの末、動きを見せたのは侵入者らであった。




 ガリレオの背後にいた男は一直線にガリレオの心臓を目掛けて刺しに行くが、ガリレオはレイピアを剣の側面で華麗に流し、手首を捻り上げて落とす。男は呻き声を上げた。




 まだ3人程残っている。


 そのうちの2人がガリレオに向かって剣を振り下ろした。左から仕掛けてきた男の攻撃は交わし、背後からの重めの一撃を剣で受け止める。鈍いが甲高い金属のぶつかる音が部屋に響き渡り、そして2人は一旦距離を置いた。






「これ以上俺達の邪魔をする様であれば、この女がどうなっても構わないという事だな?」






 急に響いたその声は、ガリレオを嘲るように、そして目の前の女を脅すように紡がれた。いつの間にか目が覚めていた彼女は立たされて、喉元に鋭く尖った刃が当てられ、じわりと女の首元から血が滲む。




 ガリレオは眉間に皺を寄せて、目の前の2人を切りに掛かった。2対1では、どんなにガリレオに実力があっても分が悪いのは明らかであった。




 男の挑発に乗らず、女を一向に助けようとしない様子に、男は口を開けて笑いだした。






「アハハハハハハハハハハハっ………!お前は従者に捨てられてこのまま俺らに攫われる運命なんだぜ、滑稽だな!!!」






 女は泣くかと思いきや―――笑った。綺麗に弧を描くその笑みは、美しくも恐ろしい。一瞬男が息を飲んだ、その刹那に彼女は男の拘束からするりと抜け、体術で気絶させる。




 それに意識を向けてしまった、ガリレオに対峙している男らは、ガリレオに隙をつかれて、1人は腹を刺されて、暫くたった後死亡、もう1人は女が詠唱した魔法によって眠らされる。






『バンド』






 また呪文を彼女が唱えると、黒い紐のようなものが現れ、気絶している者の手と足を拘束した。




 床に転がる男達を冷ややかに腕組みをして見下ろした女性。そして彼女はある女性の名を呼んだ。すると、クローゼットの中からお着せを身にまとった灰色の髪の女が現れた。






「直ぐに取り掛からせて頂きます」






 使用人と思われる女性は、早急に彼女の首の手当をした後、そのプラチナの髪を引っ張った。中から―――暗赤色の髪がはらりと顔をだす。ドレスを脱ぎ別の服に着替えれば、出来上がったのは、ウィリアム=シェナードであった。






「メリル、ガリレオ。手を貸してくれたこと感謝する。下がらずにこのままここに居てくれ」




「はっ」「畏まりました」




「………もうすぐ、だな。主犯のお出ましは」






 不敵に笑ったウィリアムは魔王のように恐ろしく、メリルとガリレオまでもせすじ背筋が凍る程であった。






 ☆☆






 足音が聞こえ、この部屋のドアの前でピタリと止まった。


 ノックの音が聞こえるが、無視をして座ったまま向こうの出方を待つ。






「セレイラ様……?足の具合はいかかですか?」






 人懐っこい明るさはありつつも、少し萎れたような声色でこの部屋に本・来・な・ら・い・る・は・ず・の・セレイラに声を掛けた者がいた。正しくそれは私が待ち望んでいた主犯である。






「セレイラ様!セレイラ様!」






 ドアの向こうにいる奴は、中から声が聞こえないので焦ったようにセレイラの名を口にする。しかし、中に誰もいないことは確実に分かっているので、そうやって演技をする犯人に苛立ちを覚えた。






「セレイラ様入りますわ!!」






 顔を青くさせて勢いよく部屋に入り、扉をパタンと閉めた犯人は、部屋が全体的に暗いので私達に気が付かない。勿論、下に転がっている奴らの事も。なので心の声がダダ漏れであった。






「ふふふっ。上手くいったのね。セレイラなんてウィリアムの妻になれるような器ではないのよ。忌々しい女。やっと居なくなってくれたわ。そのまま殺してしまった方がいいかしらね」






 目が据わっており、狂っている女。私は一切の感情を消した。そして魔法で一気に部屋に明かりをつける。






「?!?!?!」






 驚いた表情でこちらをみる主犯の女。






「………何故……?ウィリ「どういうことか説明して貰おうか」」




「………」




「何故こんなことをした?――――ジュリエッタ=アリアロイド」




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