第27話 婚約破棄しましたよね……?
遂に、遂に、婚約破棄をした。
父は何だか不満そうだったが、こちらの意思を汲み取ってくれたようだった。数日後王宮に父が出かけて行ったので、きっと婚約破棄は成立していると願いたい。王宮には来なくていいと国王から言われた上にウィリアムも近寄ってこないので、ほぼ成立と言って良いだろう。
しかし私は婚約破棄をした感覚が全くなく、ぼーっと自分の席に座っていた。
本当に何も無いのだ。怪しい。
多少なりとも、いや、王族の婚約が破談で騒ぎにならないなんて事はありえない。ましてや相手は第1王子である。
騒 ぎ に な ら な い っ て 一 体 … ?
混乱状態だった。内密に婚約破棄はありえない。
何故この小さな社交界である学園で全くそんな話題が出ないのか不思議でしょうがなかった。
………まだ情報が回っていない……?
そう考えるのが妥当だろう。私は1人で「きっとそうだ」と自分に言い聞かせて納得したのだった。
通常通り授業が終わり、久しぶりに学園から公爵家に直行する。王宮に通っていた日々が懐かしく感じていると、後ろから「セレイラ嬢」と名前を呼ばれたので振り返った。
「アレキサンドライト殿下、ご機嫌麗しゅう」
「こんにちは、セレイラ嬢」
王宮の中とは違うのでお互いに畏まっている。こう見てみるとやはりアレクは王族なのだと、その凛とした佇まいで実感させられた。
「ねぇ、今日少しついてきて欲しい所があるんだけど」
「………」
そう柔らかく言ったアレクに、どう返そうか迷っていた。今現在婚約をしていない私は、婚約者以外の異性と一緒にいて悪評が立つことは無い。しかし、別の意味で噂になるのだ。
男と遊んでいる令嬢、と。
だから、婚約が破談になった身として、異性と2人で行動するというのは些かどうなのか。
私の顔が曇っていたのかアレクは暫し考えた後、こう提案した。
「だったらシェナード城に来て欲しい」
いやいやいやいや、それこそ無理だろう。
婚約が無くなった今、無闇に城に入ることは許されない。全力で首を横に振っていると、アレクに不思議な顔をされた。もしかして婚約破棄したことを知らない……?
「君はウィリアムの婚約者でしょう?なら今日も入れるよね?シェナード国王にも許可は取ってあるんだ」
(やっぱり………)
彼は知らなかった。ここで言うのも気が引けるので、「いえ……」と弱々しい反論をしたが、アレクは聞こえなかったようだった。いや、聞こえなかったフリをした。
「ありがとうセレイラ嬢。またね。中庭で待っているよ」
ふわりと深緑色の髪が揺れて、目尻のほくろの位置が動く。その美しい笑みを恨んだ。手を振りながら去っていくその背中に礼をしながら私はため息を小さく付いた。
☆☆
カラカラと規則正しい音を立てて王都を馬車が進む。私が珍しくなよなよして口から魂を漏れだしているので、下座に座るガリレオは本気で心配そうな顔をしている。
あっという間に王宮に着き、私は気合いで令嬢の仮面を付けて進む。門にいる衛兵に、「アレキサンドライト殿下に少し用事があるので通して頂ける?」と聞いたが、「は?」という顔を一瞬された。そんな事をなぜ聞くのか分からないって顔だ。
こちらが「は?」である。
王子の婚約者でもない私が王宮に顔パスで入るのは宜しくないのでは?衛兵にも情報が行っていない?それは流石に不味いのでは無いだろうか。
私は納得しないまま王宮の中を進み、約束通り中庭に着いた。真ん中の白いテーブルに、足を組み優雅に座って待っているのアレクに近づき声を掛ける。
座るよう促され、アレクの目の前に座る。直ぐに侍女が紅茶を入れてくれた。輪切りのレモンを浮かべて香りを楽しむ。
すると直ぐに侍女は何処かに捌けて行った。アレクが下がるように言ったのだろう。侍女らを下げなくてはいけない話なのだろうか。
「そんな身構えないで、レイ。ちょっと聞きたいことがあってね」
「はい。どうなさったのですか?」
「単刀直入に聞くけど、ウィリアムと何かあった?」
「……ぐっ……」
口に含んでいたレモンティーを危うく吹き出す所を何とか耐えてゴクリと飲み込む。私は落ち着かせてゆっくりと口を開いた。
「わたくしは婚約破棄を致しまして……」
「え………?!?!」
絶句するアレクに私も絶句だ。今日は驚いたり驚かれたりすれ違っている気がする。
「……だからか………あんなにウィリアムが壊れていたのは……」
「殿下が壊れているというのは……?」
アレクは途端に虚ろな目になり、何処か遠くの場所を見つめてポツポツと話し出す。
「シェナード国王に呼ばれたウィリアムはな、それから帰ってきた時は廃人だったんだ。何事かって聞いても教えてくれないからどうしたものかと観察していたらな、視線で殺せるんじゃないかと思うくらいに鋭い目付きでブツブツ何かを言っていたんだよ………最後に意味深に嗤うものだから………」
思い出して体を震わせるアレクにつられて私も鳥肌が立つ。
「………ゲームでは婚約破棄の展開なんて無かったな……完全にシナリオから外れたけど大丈夫……?」
こうなることは予め想定していた。私とウィリアムの婚約がそもそも第1作目のシナリオ通りでないのだから第2作目はシナリオ通りになる筈がないのだ。
「はい、予感はしていましたわ」
「そう。そもそも鼻っからシナリオ通りでは無いけどね。そもそもジュリエッタはウィリアムの事を取れていないし、そうなればセレイラの嫉妬は出てこない。よって俺の出番無し!」
はははと可笑しそうにアレクは言った。そんな彼に私は兼ねてから思っていた疑問を聞いてみる。
「少し思っていたのですが………あの……ジュリエッタ殿下の嫌がらせが……」
「あぁ、中途半端で生半可って事でしょ?だよねー。皆言ってたよ」
私が躊躇っていた事をアレクは躊躇なく言ったので愕然としつつ、私は前世でもそれは思われていたのかと納得する。第1作目の嫌がらせが強烈だったせいか、私はそこまでダメージを受けていないのだ。
「まぁそうだよね。第2作目はウィリアムを取られることで傷つくって言うのが目的らしいし。でもそれがない時点で終わってるよね」
「…………」
「でもね」
それまであっけらかんと喋っていたアレクが、カップを置いて急に真面目になったので私は彼と視線を合わせて次の言葉を待つ。
「そろそろ気をつけた方がいい。自分の体を大事にして、護衛をしっかり付けるんだよ。いいね?」
アレクが言ったその言葉はとても重いものだった。私はその忠告をしっかりと心に刻む。それを見たアレクは満足そうに微笑んで頷いた。
「今のレイなら大丈夫だとも思うけど。第1作目の功績も大事になってくるんだ。第2作目は第1作目のデータと連動してるから。でも一応。命に関わることだからね?」
それはウィリアムの好感度が高い方が第2作目が有利ということか?しかし、第2作目を買う者は、「花畑でプロポーズ」のキャラを箱推ししている、もしくは熱烈なウィリアム信者の者だと思う。ならば、ウィリアムの好感度は皆MAXだろう。それは関係ないのでは……?と思うが、「残念ながらあるんだよね」と苦笑してアレクはカップに手を掛ける。
「分かりました。気をつけます」
「うん。是非そうして?あ、ところでレイはウィリアムの事はどう思ってるの?」
「え……?」
不意打ちの質問にかぁぁっと顔が熱くなる。
ど、どうって……?
「……元婚約者の方で……」
「違うよーう。そういう事じゃなくて、異性として好きかって事!」
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