第23話 一目惚れ
ウィリアム暴走注意報
*****
最近ウィリアムと会えていない。ウィリアムも公務が忙しく、私自身も忙しいのですれ違いになっているのだ。それに寂しいと思うのはどうしてだろう。最近この事でしか悩んでいない気がする。
向かいの回廊にジュリエッタが従者を引き連れて歩いていた。私は彼女に一礼を遠くからすると、彼女自身もこちらに気がついた。しかしふいっとあからさまに無視されたので、心の中では苦笑いだ。
ですよね。
と。
後ろに控えているガリレオにちらと視線を向けると、いつもと違う雰囲気な彼がそこには居た。心做しか顔を火照らせ、いつもの引き締まった顔が少し緩んでいる。疑問に思った私は、彼の視線の先をみて、そして驚いた。
視線の先にジュリエッタがいたのだ。
凛と、そして華やかに、静々と歩く様子は外用だ。いつもならウィリアムやアレクにどついている。
そんな従者の見たことが無い表情を見て何も分からない程鈍感ではない。私はニヤニヤしてしまうのを必死に抑え、公爵邸へと帰った。
☆☆
「ねぇ、ガリレオ」
「はい、セレイラ様」
「貴方に好きな人はいるのかしら?」
その瞬間、ザザーっと彼が持っていた書類が落ちる。そんなに動揺したら更に分かりやすくてニヤニヤしちゃうじゃない、と落とした書類を掻き集めつつ思う。
拗ねたような表情で「いきなりどうされたのですか?」と聞かれたので、「何となくよ」と白を切る。それに申し訳ないと思いつつも、人の恋バナを聞くのは楽しくなってしまう。
「うふふふっ。貴方に春がくるとはね〜」
益々真っ赤になったガリレオは涙目になっている。からかいすぎるのも良くないのでここまでにしておいた。
ここまで彼が感情を表に出すのは珍しい。ガリレオはジュリエッタに恋をしているという事がハッキリと分かった今、私に表情を取り繕わないという事は、私に主人として心を許しているという事だ。それに嬉しく思った。
しかし……
恋の相手がジュリエッタか、とこれからの彼の恋物語の複雑さに溜息をついた。ジュリエッタは現在ウィリアムに熱を出しており、婚約者の私を目の敵にしている。それを除いても、ジュリエッタと結ばれる未来は1%以下だろう。
ガリレオはティリダテス子爵家の人間だ・っ・た・。家名は現在もあるものの、あるようでないのだ。ほぼ平民の状態で今私の護衛をしている。
従者と隣国の姫。
結ばれればシンデレラストーリーとして令嬢達の間で話題になるが、そうなる確率がいかに低いかは、公爵令嬢として生きてきた私はよく分かる。
それはガリレオ自身も分かっている。自分は恋をしてはいけない相手に恋をしてしまったのだと。だからこそ葛藤し、遠くからジュリエッタを眺めているだけなのだ。
私はガリレオをじっと観察してしまう。
すると暫くしてガリレオは書類を片手にゆっくりと私に体を向けた。
「セレイラ様………じっと見るのはご容赦ください。居心地が……」
「ごめんなさい。ジュリエッタ殿下と結ばれるならどのルートが良いかなって……あっ」
口を滑らせて「ジュリエッタ」と言ってしまった。目をスススとガリレオから逸らしたが、ガリレオはしっかりと聞いていたので逃げることは出来ない。
ガリレオは目を伏せて一息つくと、「知られているのですね」と諦めたように言った。
「知られているって何を?」
「私が……殿下に恋心を抱いてしまっている事でございます」
「それは……あなたを見れば直ぐに分かるわ」
「そう……なのですか……」
「ええ。……でも……ジュリエッタ殿下とは何処で知り合ったのかしら?さっきで一目惚れ?」
「いえ………」
ガリレオは、この間の夜会の日、私に会えないかと探していた時に、たまたまジュリエッタを見たらしい。それが一目惚れの瞬間だったそう。
「でも妙ね………」
「はい。それは私も思いました故、つけさせて頂きました」
「そう。そしたら?」
「“青龍の間”に向かわれまして……」
「“青龍の間”?会場から1番遠いわよ……?」
「はい。詮索しすぎるのも怪しまれますので、そこで撤退してしまいました」
「そうね。その方がいいわね。ありがとう。今日はもう下がっていいわ」
「はっ」
“青龍の間”ね……。ジュリエッタの部屋からは近くも無いが遠くも無いという位置。何か話があったとも考えにくいが、ここまで怪しいと、誰かと何かを企んでいるのではないかと考えてしまう。
でも衛兵が何も言わないということは何も無かったとも言える。きっと衛兵もウィリアムに報告しているだろう。私はこのガリレオからの報告をウィリアムに報告することを止めたのだった。
☆☆
「で、ジュリエッタがとうとう動いたか~」
「ええ、そうなの」
私はジュリエッタが仕掛けてきたことをアレクに言った。ゲームの出来事と同じことがこうやって実際起こるのが楽しいらしい。くすくすと瞳が柔らかく細められ、彼の長い髪が揺れる。
今日は何故かいつもよりラフな格好をしているアレクは、色気が増長されていて私は目のやり場に困っていた。
「ねぇアレク、その服どうしたのよ?」
「え?これは母上がくれたんだよ。へぇ…レイこういうのが好きなんだ〜」
「っ!!ちがっ…!!」
服をチラッとめくり、妖美に微笑まれる。外だ。部屋の中ではない。衛兵もいる。ああ、ダメだ。衛兵もアレクの色気にやられている。これはウィリアムに報告しなくては。ガリレオは、まだ私の危機だと判断していないのか、後ろで顰めっ面をしているのみだ。
すると、後ろから誰かに腰を引かれ、ぽすっと抱き止められた。見上げると赤髪赤目の彼である。
「私の婚約者に手を出すのは承知しませんね、アレキサンドライト殿下」
「おいおい、ウィリアム。ふざけていただけだよ。な?レイ」
「知りません」
「レイ!?」
「セレイラを口説くなんて言語道断だ。今すぐここから消え去って頂きたいですよ」
「分かった!ごめん!だから敬語でにこにこするの止めて!」
ウィリアムが本気でキレると、黒い笑みを浮かべて敬語になるのだ。それが今起こっており、アレクは青い顔をしている。
私はウィリアムに手を引かれて、この間私が泣き崩れた時と同じ部屋に入った。この部屋には私とウィリアム2人だけ。婚約者と言えど、長時間2人きりは怪しまれるので、長くても15分が限度だろう。
ウィリアムは私をソファーに座らせるかと思いきや、そこをスルーした。ハテナを飛ばしていると、私が座らされたのは―――ベッド。
流石にダメだ。ベッドはダメだ。
私は必死に首を横に振るがウィリアムはにこにこしていて聞いてくれそうにない。
彼は何をするつもりだ?
ただ話をする為に連れてきたのではないのか?
混乱する私はウィリアムに肩を軽く押されてベッドに寝転がらせられる。ウィリアムはいつの間にか上着を脱いで、シャツのボタンを取り外し始めていた。
「ウィ……ウィリアム様っ!!これは…!」
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