第20話 二人を観察してみた(ロビン視点)

夜会の日のロビン視点です。



*****






 殆どの貴族が会場に入って少し経った頃、僕は少し遅れて会場入りした。それは丁度セレイラとウィリアムがダンスフロアに出てくるところで、2人をじっと観察しながら壁際に寄る。




 誘ってほしそうな目で見つめてくるご令嬢もいるが、2人を見ていたいので気が付かないふりをする。




 大事に大事に丁寧にセレイラをエスコートしている事が傍から見ていても良く分かる。それを見て微笑ましく思うと同時に、その位置に僕が居たかったとも思った。




 2人は微笑みあって中央に進む。セレイラのプラチナの髪がシャンデリアの光を反射して煌めき、今日の装いが更に彼女自身の魅力を引き出している。なので、ギャラリーの「王子は女神を連れてきた」という解釈は强間違ってはいないだろう。




 ワルツを踊る2人は他の人より距離が近い。


 ウィリアムは情熱的に瞳を揺らめかせてセレイラを見るものだから、彼女も恥ずかしくなってしまうようだ。




 その初々しい反応を見て、社交ベテランの貴族らは「あらあら」や「ほほぅ」と何処か懐かしむような、楽しそうなものを見るように声を上げ、同世代の貴族らはあのお似合いの2人に憧れの視線を向けている。




 例外で、同世代の子息達はセレイラに熱を上げているが。




 赤くなってしまうセレイラが悪いが、それに嬉嬉たる表情を隠すことなく見せたウィリアムは、笑みを途端に深める。そして彼はセレイラの耳元にぴたりと口元を寄せて何かを囁いた。きっと甘い言葉を言ったのだろう。




 ほら見ろ、セレイラが撃沈している。




 ウィリアムも罪作りな人だと苦笑した。わざと皆に見えるように顔を耳に近づけたのだから、ある人の角度ではウィリアムがセレイラの頬に口付けしている様に見えるだろう。




 それまで優雅に踊っていたセレイラは、それを機に少しぎこちない動きに変化する。それを見て吹き出したウィリアムを睨むセレイラだが、その睨み顔もギャラリーからは「可愛い」と言われていることを彼女は知らない。




 セレイラはまだ顔を火照らせたまま、そして少し涙目のまま辺りをそれとなく見回す。時々会場にいる子息達と目が合うらしく、セレイラはにこりと微笑むと、分かりやすく子息達は上気させる。それを見てウィリアムが微妙な顔になっているのだから面白い。




 セレイラは僕と目が合うと、何かを訴える様に眼力を強くした。しかし僕は「頑張って」と口パクで返した。その方が見ていて面白いからね。




 セレイラは今度はアレキサンドライトに視線を送るが、彼の表情を見るに面白がっているので助けには絶対にいかないだろう。僕は密かにアレキサンドライトの気持ちに同意した。




 周りの男達に視線を送っていたセレイラに、とうとう痺れを切らしたウィリアムは、ステップをわざと間違えて彼女に足を踏ませた。視線を向けられて喜ぶ子息も、仲良く視線で会話する僕やアレキサンドライトも気に入らないのだろう。




 僕はウィリアムがずっとセレイラの事が好きだったということを知っていたものだから、やっと手に入れられたセレイラを―――と思う気持ちが痛いほど分かった。




 セレイラはウィリアムに嵌められたということは気がついておらず、じっとそれからはウィリアムを見つめているのだからそれも可笑しい。ウィリアムも自分でやった事にも関わらず、羞恥に駆られているのだから。




 ダンスが終わり、ウィリアムは名残惜しそうにセレイラの手を離す。彼はしっかりと僕を睨みつけてきたのでにこりと笑った。




 セレイラに話さなければならない事があり、今日の夜会に望んだ。それを忘れてはならない。




 本当はこの場で話すべきでは無いのだが、セレイラは接待や王妃教育で忙しいだろうし、僕自身も忙しくて面会の時間が取れないので今話すしかない。




 この前は「僕がかっさらえるのではないか」と思ったが、セレイラの事を考えると、やはりそれは間違っているという結論に至ったのだ。彼女は僕を友達、師匠としてしか見ていないし、ウィリアムのように異性として意識させるような技もない。




 だから今あるこのポジションを誰にも取られなければ良い、そう思った。






「あの珍しいの在処が分かったんだよ。知りたい?」






 頭の良いセレイラは直ぐにその意味を理解して僕の言葉の先を促した。そこからは僕の持っている数少ない情報を提示していく。




 あと1つ、僕が新しく掴んだ情報があった。でもそれは……この場で言うべきではない。彼女自身知らないだろうし、ウィリアムさえも知らないと思う。伝えるのは今ではない。寧ろウィリアムとセレイラが結婚して落ち着いた頃に伝えた方がいいのでは、とも思う。




 ジュリエッタとウィリアムを見て悲しそうに目を伏せるセレイラを見て、アルなら彼女にどう声を掛けてあげるだろうと考えを巡らせたが、全く分からなかった。




 しかし彼女の瞳に涙がほんのり浮かんだ瞬間、僕はウィリアムの牽制を無視してセレイラにダンスを申し込んだ。咄嗟に浮かんだのがこれだった。




 セレイラは一瞬クシャリと更に顔を顰めたが、直ぐに元に戻りにっこりと微笑んだ。




 ダンス中は他愛もない会話をしながら、こちらをじっと見つめているウィリアムに目線で喧嘩を売る。「ちゃんとしないとセレイラを取るぞ」と。




 まさか、自分がジュリエッタに触られている事がセレイラを悲しませているとはつゆ知らないウィリアムは、僕の目線の意味を完全に理解したとは言えないだろう。彼の目には後悔の色は無かった。ただただ嫉妬の目だ。僕はそれに対してほんの少し呆れた。




 案の定ウィリアムは僕とセレイラの間に入ってきた。纏う冷気にゾッとしたが、次に彼がどう出るか楽しみだった。






「これはこれはロビン殿。とはいつもありがとう」




「いえ、殿下。こちらこそセレイラ嬢には良くさせて貰っているのですよ」






 嫌味たっぷりに言うものだから、僕はそれが通じないフリをして当たり障りのない返事をする。顔もにこやかに。




 僕の答えに、「おいお前私の言っている意味を分かっているよな?」と顔に貼り付けたウィリアムはブリザードを背負っている。




 機転を効かせてセレイラが嘘をついてこの場を収めようとしたが、先程の彼の目を見るに、セレイラもただでは済まないだろう。




 彼らが去った後暫くして僕も帰ろうとしたその時だった。






「フェリス次期侯爵様?」


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