第5話 特安本部へ

黒塗りの車に乗り込み特安の本部へ向かう。


戦闘で負った怪我の方は既に完治している。魔力の霧散や再生を阻害していたのはやはり腕に撃ち込まれた銃弾が原因だった。


詳しい事は本部で話すと言われたが時間がたてば自然と効果が消えるものらしい。


住宅街はやはり事前に避難命令が出ていた様だ。住民はおらず修復も直ぐに終わるとのこと。


住民から苦情はこないのかと聞くと修復は完璧だし、避難中は国からの計らいで高級旅館にタダで泊まれるなど色々優遇される為そこまで苦情は無いと言っていた。もうひとつ大きな理由があるがそちらも本部で纏めて話すとも。


結局本部に行かなければ何もわからない為大人しく連行されていた。


連行とはいえ拘束はされておらず所持品を取り上げられた訳でもない。せいぜい両隣を局員に固められ変な行動を起こさないか見張られている程度だ。


車内には他に運転を担当する局員と局長と呼ばれる男ーー稲村宗大いなむらそうだいが助手席に乗車していた。


車内は静かでモーターから発せられる駆動音がやけに目立つ。


俺としては後程全て聞かせてくれると言うことで特に今話すことも聞くことも無く、稲村も無言。他の局員もそれに追随し何も喋らない。


しばらく無言のまま時が過ぎる。


「雨宮秋君」


「何ですか?」


稲村はこちらを向かずに声をかけてくる。


「君は異世界に召喚される前は何をしていたんだ?」


「覚えてません。どういうわけか召喚される前の3年間の記憶が無いので。というか、そこら辺の事情はそちらの方が詳しいのでは?」


「そうか。………いや、少し気になってね」


「はぁ………」


そこで会話は途切れる。何故、そんな質問をしてきたのか疑問に思ったが後でいいだろう。


数十分後ーーー


「ここが本部………」


俺は東京都のとある場所にある高層ビルの前に立っていた。


周りにはビルや開発中の建造物が建ち並び、近くを沢山の車両や人が行き来している。


山奥にひっそりと佇む秘密基地的な物をイメージしていたのだが。


「一応うちは国の指示で創設された機関だからね。公にも公表されている」


「国の指示ですか」


国の指示で創られた。公にも公表されている。つまり、こんな武装集団が必要でなおかつ国民もそれに納得せざるえない状況にある。今の日本は想像以上にヤバイのかもしれない。


「それでは行こうか」


稲村について建物に入る。相変わらず両隣は局員二人に挟まれたままだ。渚達はその少し後ろを着いてくる。


建物に入ると広い空間をスーツや白衣、戦闘服等様々な服装の人々が忙しく歩き回ったり、話し合ったり………


「おー!ようやく来ましたか」


一際大きな声が響いたと思うと、その場にいた人々がピタリと止まり蜘蛛の子を散らす様に離れていく。


残ったのは一人の女性。腰の辺りまであるボサボサの灰色の髪に丸眼鏡、シワが目立つ白衣。袖から覗く腕は細く顔も痩せこけている。長髪と体格に似合わず自己主張の激しい胸部がなければ一目で性別を判断出来ないだろう。


よろよろとこちらに近付いてくる姿はさながらゾンビである。


「また、研究室に引き込もっていたようだね間野君。あれほど食事、睡眠、入浴を心掛けろと注意していたはずなのだが」


「いやー。私も意識はしてたんですよー。でもまぁ生きてるんですからいいじゃないですかー」


稲村の苦言を間野と呼ばれた女性が間延びした声でいなしながら、こちらに顔を向ける。


「おー!君がなぎちゃんのお兄さんかー。私は間野涼希まのすずきってゆーんだー。まのっちでもすずきちゃんでも好きな呼び方で呼んでー」


「よ、よろしくお願いします…」


「はぁ…。こんな調子だが間野君はうちの研究部門のリーダーであり………君と同じ異世界からの帰還者なんだ」


「えっ!?」


「帰還者なんて大袈裟ですよー。私の召喚された異世界は魔王とか邪神とか危ない存在はいなかったですしー。それに帰る時だって言ったら直ぐ帰してくれましたよー」


詳しく聞くと、間野さんの召喚された世界は今の地球より遥かに進んだ文明を持っており、別の世界への移動手段が確立していた。魔物やらエルフやら魔法やらの異世界あるあるはほとんど無く科学中心だったらしい。超能力はあったが。間野さんを呼び出したのは別世界の者はどれ程の才を持っているか知りたかっただけだという。


「帰ってきたらいなくなってから5年も経っててさー、今更生存報告したところで色々面倒なことになるでしょー。で、途方に暮れてたときに稲村さんにスカウトされたんだよー」


「彼女の才には目を見張るものがあったからね。君との戦闘で使用された銃弾も彼女が開発した物なんだ」


魔力を霧散させ肉体の再生をも阻害した銃弾。この世界の技術では開発しえない物だとは思っていたが帰還者が開発したのか。超能力ってやつなのだろうか。


「んー、私はそんな大それた力は持って無いよー。精々調べ物が捗るくらいだよー」


「心が読めるんですか?」


「ちょっとねー」


心が読める。非常に厄介な力だ。少しだけとは言っていたが………って心を読めるんだったら今考えてることも……


「………そこまで気にしない方がいいぞ。余計に内心が漏れてしまう」


「あ、わかりました」


そこで稲村は一区切りつける様にひとつ咳払いをする。


「ではそろそろ本題に入ろうか。ついて来てもらえるかな?」


「勿論です」


稲村に連れられ俺はエレベーターに乗り込む。間野さんと渚、他二人が続く。


「これから君に見せるものは特安についてと渚君の情報。そしてこれまで我々が調べてきたとあるプロジェクトのデータだ。渚君はこれに強く関係している」


「はい」


「その前に一つ君に伝えたい事がある」


「伝えたい事………?」


渚や特安以外の事。何かあるのだろうか?


「君は………」


エレベーターの扉が開き、目の前に様々な機材が置かれた場所に出る。そこに設置された巨大なスクリーンに映像が写し出されていた。そこには


「死んでいる事になっているんだよ。5年前に」


棺桶に入れられ目を閉じた青白い顔の少年ーーー


雨宮秋が写し出されていた。













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