第4話 戦闘(対特安)後編
「力ずく………か」
武器を構える彼らから視線を反らさないようにしつつ頭の中で状況の整理を行う。
相手は5人。局長と呼ばれた男は何も構えず腕を組んでおり、他4人は銃の種類やタイプなんてよく知らないがそれぞれ違う銃を手にしている。
気配やこちらへ向けてくる気迫。なにより先程かなりの高さから音もなく飛び降りてきた事から相当の手練れだ。
こちらは渚との戦闘で右腕を負傷し、骨も数本ヒビがはいっている。回復魔法で修復を図っているのだが全く効果が現れない。肉体の再生能力も機能しておらず、魔力で強化することで何とか動かしている。右腕を撃ち抜いた銃弾が原因なのだろうが、今対処法を模索する時間はない。
右腕からは血が流れ続けており軽い貧血状態。この感じだと普段の半分程度しか動けない。
また、回復魔法や魔力による強化等の初級、中級レベルの魔法なら行使できるがそれ以上となると体内の魔力が霧散し発動できない。
状況は厳しい。正直逃げたいところだが、渚の事がある為選択肢から除外している。
となれば、
「今、出せる全力で応戦するしかないか」
呟くと同時に魔法を構築する。周囲に小さな粒子が現れ閃光がその場を白く埋め尽くす。
俺は5人の背後に回り込みつつ新たな魔法を発動する。
「
背後に複数展開した魔方陣から半透明の鎖が飛び出す。
鎖は5人を捕らえようと襲いかかり、
銃弾により意図も容易く破壊される。
不意を突いて発動した【閃光】は彼らに意味を成さなかったらしい。既に彼らは俺を囲むように散開していた。
散開された以上今の状態で全員拘束するのは難しい。ならばーー
今だ素手である局長と呼ばれた男に狙いを定め風属性魔法で風を起こし加速、一気に接近し拳を振るう。
予備動作が殆どなく、端から見れば瞬間移動した様に見える一撃。現に他の4人は反応出来ていない。それは無防備な男の顔面を捉える。
「………これは」
びくともしない。まるで岩を殴っているみたいだ。
距離を取る。じんじんと痛む拳は赤く染まっていた。一方の男は無傷。
他の4人が銃口を構えるのを男は手で制す。
「………中々の拳だな秋君。見た目とは裏腹にかなりの場数を踏んでいるようだ」
「中々って………まるで効いていないじゃないですか。むしろ、攻撃したこちらがダメージを食らいましたし」
「謙遜しなくてもいい。君は強い。しかもこれでまだ全力ではないのだろう?君が万全の状態であればこちらも多大な被害を出す事になるだろう」
「そうならないように、渚に俺と接触させたってことですか」
「渚君がこちらについていると分かれば君も話を聞いてくれるのではないかと思っていたのだが」
「俺としては怒りと不信感しかわきませんでしたけど」
「だからこそ、こちらとしては弁明するべく共に来て貰いたいのだが」
「お断りします」
「………答えは変わらない、か」
残念そうに呟いた途端、男から凄まじいプレッシャーが放たれる。それは俺が倒した邪神と同等のもの。
「渚君の家族である君に手荒な真似はしたく無いのだが………」
次の瞬間には男が眼前に迫っていた。
「少しの間大人しくしてもらおうか」
咄嗟の事で思考が追い付かない。本能的に体を右に捻る。
鼻先を暴風が掠めたかと思った時には、体が空中に浮いていた。
風を起こして体を後方に吹き飛ばしその場を逃れる。
体が地面に叩き付けられ鈍い痛みが全身を襲った。
体を起こし異常がないか確かめる。脇腹が燃えるように熱い。無理矢理受身をとった右腕は鋭い痛みに心なしか流れ出る血の量が先程より増えている気がする。
だが、動くことは出来る。
痛みに耐えつつなんとか立ち上がる。男は腕組みながら感心したように顔を緩ませる。
「こいつは驚いた。そんな体でまだ動けるとは。今ので確実に仕留めたつもりだったんだがな」
「こっちの方が…驚き、ですよ」
皮肉を返そうとするがうまく声が出ない。頭が働かない。血が足りないのだ。
それでも必死に分析する。男の一撃はかわせたはずだ。体を捻った時に拳が空を切るのを確認していた。
だが、俺は攻撃を受けぶっ飛ばされた。そこには何かからくりがあるはずだ。それが分からなければ俺に勝ち目は……
「何やら、色々と詮索しているようだが別に仕掛けなど何もない」
「だ、けど俺は……」
「避けた筈だと言いたいのだろう。確かに君は俺の一撃をかわした。見事なものだったよ。万全な状態の君ならまだしも、まさかあれをかわすとは思っていなかったからね」
「じゃあ、何故」
「簡単なことだよ。避けられたからもう一度拳を繰り出した。それだけだ」
「っ!?」
当たり前の様に放たれたその言葉に男との間にある実力の差を思い知らされる。
確かに俺は万全の状態ではない。しかし、それはあくまでも魔法の試用制限、及び肉体の損傷による行動力の制限であり俺の持つ常人離れした動体視力や反射神経が落ちた訳では無い。
血液の不足により多少の低下はあったが、避けられないということはあっても攻撃された事に気付かない何て事は普通ではあり得ない筈だった。それこそ何かの特殊能力を使わない限り。
それをこの男は普通に成し遂げたと言うのだ。勿論あちらの言葉が本当であればの話だが。
勝ち目がない。
理屈抜きで本能が察する。今の状態でこの男には勝てないと。いや、もしかすると万全の状態で挑んでも勝てないかもしれない。
「改めて問おう。雨宮秋君」
男が語りかける。
「我々と共に来てくれないか?応じてくれれば君の身の安全は保証する。それだけでなく、渚君に関する事についても我々の知る限りの事を話そう。調査等も全面的に協力しよう」
「何が目的ですか?」
「こちらにも君を引き入れる事による利点があるというだけだ」
「…………」
渚についての情報はほしい。しかも、渚はあちらについている。この誘いを断れば敵対する事になる。
また、回復しない傷。霧散する魔力。その他についても把握したい。そもそも、現状不利なのはこちら。このまま戦っても負けるのは目に見えている。負けて捕まるよりかは幾分かましだろう。もとより、渚が向こうにいる時点で俺の選択肢は限られている。
「………完全に信用した訳ではありません。先程の条件の他にも幾つか呑んでもらえると言うのなら」
「分かった。詳しい事は後で煮詰めよう。一先ずは、その怪我をどうにかしなければならない」
「どこへ行くんですか?」
「我々、特安の本部だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます