第3話 戦闘(対特安)前編

「作戦………?渚!どういう事なんだこれは…って、危なっ」


俺の呼び掛けに対し返ってくるのは鉛の塊。


仕方なく対話を断念し、膝と手元に目掛けて飛来するそれの着弾地点、タイミング、軌道を見極め最小限の動きでかわす。


直後、俺が避けるのを読んでいたのか回避行動後の僅かな隙を付き渚の回し蹴りが放たれる。これを右腕で防ぎつつ反動を利用し押し返す。


互いに後退し距離を取りつつ出方を伺う。


ここまでの戦闘で幾つかの疑問が浮上する。


渚の俺に対する態度とその身体能力、戦闘技術の高さに、拳銃等の装備品の出所。そして、発泡音が鳴り響きこんなにも騒がしいというのに一切反応を示さない近隣の方々について。


俺が異世界に行っていた2年間。あるいは記憶の無い3年間。計5年間の間に何かがあったのは確かだろう。話してみた感じ俺の記憶も無いように思える。


また、渚が言っていた『特安』や『任務』。どこかの組織なのか。公安なら知っているのだが。亜種みたいなものなのだろうか。


いくら考えてもきりがない。取り敢えずは渚を傷つけない様に動きを封じる。それからゆっくりと聞き出せばいい。記憶が無いなら魔法でどうにかする。チート魔法耐性持ちの俺には弊害で殆ど意味がなかったが。


そこで思考を中断し意識を現実に戻す。時間にして数秒であったが、渚はその隙を狙うこともせずじっとこちらを見つめている。


目標は渚の拘束。できる限りけがをさせない為にも武器、魔法は極力使わない。魔力による身体能力と肉体の強化のみでどうにかする。拘束には少し前に陰陽師に憧れて作った拘束用の札を使えばいいだろう。魔法が使えない時のために何枚か持っておいて助かった。


自分の中で方針を確認し全身に魔力を通わす。身体中の細胞が活性化し、肉体の強度と身体能力が大幅に向上する。


雰囲気が変わったのを感じ取ったのか俺をひと睨みし瞬時に距離を詰めてくる。その手には彼女には不釣り合いなゴツいサバイバルナイフが握られている。狙いは腕。先程から腕や足ばかりを狙っているところから渚の目的も拘束なのかもしれない。拳銃やナイフを使っているので腕や足の1本2本、最悪、四肢を切り落としても生きていれば何でもいい方針ぽいが。


腕に迫るナイフを魔力で強化した腕で弾く。元々チートレベルの強度を誇る俺の肉体だが、魔力で強化すればサバイバルナイフやアサルトライフル程度では傷1つつかない。


僅かに体勢の崩れた渚に一歩踏み込みつつ出しておいた札を額に持っていく。


しかし無理矢理体をひねり繰り出された蹴りに防御を余儀なくされる。その間に間合いから脱出されてしまった。


渚は札を警戒している様で間合いの範囲外からの銃撃を仕掛けてくるがただの銃弾では俺には傷1つつけられない。それは向こうも知っているはず。


何かしら策があるのか。それなら。


地面を強く蹴り渚を間合いに入れる。俺が動き出すのとほぼ同時に発砲される。俺は右腕で弾きつつーーー


「なっ!?」


右腕に鋭い痛みが走る。渚の放った銃弾が俺の右腕を貫き真っ赤に染め上げていく。


どんな理由かは分からないが策に嵌められた事は理解できた。


恐らく、1つだけ別種の銃弾を装填していたのだ。


さらに腹部に手が添えられる。俺の間合いに入れたということは渚の間合いに入ったのと同じ事。警戒してはいたがそれまでの戦闘での実力差からの油断。そして自らの腕を撃ち抜かれた事に気をとられ気付けなかった。


直後、凄まじい衝撃が内臓をかき回し骨を軋ませる。内部に衝撃を与えるそれはいくら肉体が強固でも関係無い。


余りの衝撃に意識が吹き飛ぶのを必死にこらえる。何せここまで近いのだ。ここからなら多少体が動かなくても問題なく届く。


俺は札を貼り付けようと無事な左腕を動かす。だが、予め予想していたのだろう。渚の手には先程とは別の拳銃が握られていた。


だから


渚がハッとそちらを向く。そこには血まみれになりながらも札を持って迫る俺の右腕。


渚が俺を倒すための対策をとっているのは分かっていた。故に両腕に隠しておいた。


ここまで来れば対応も間に合わない。というか魔法には拘束用の不傷のものもあるのだからそちらを使えばよかったと今更ながら思う。余程気が動転していたのだろう。


とにもかくにもこれで決まりーーー


と思っていた時期がありました。


上から人が落ちてくる。その数4人。


軋む体を何とか動かし距離を取る。


男が3人に女性が1人。


そのうちのひときわゴツい男のもとに渚が駆け寄る。


「問題は無いか渚君」


「はい。少々不覚を取りました」


「そうか。では一旦離脱し第2部隊と合流してくれ」


「了解しました。局長」


渚はチラリとこちらを一瞥した後背を向けて去って行く。


局長と呼ばれた男はそれを見送りこちらを振り向く。


「さて、雨宮秋君。すまないが我々と共に来てくれないか?」


「………妹をおかしな事にされて、挙げ句ここまでして、はい、分かりましたなんて言うと思います?」


「ふむ、確かにそうだな。なら心苦しいが………」


彼の後ろにいる者達がそれぞれ武器を構える。


「力ずくでといこうじゃないか」














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る