自分は選ばれた特別な人間

齋藤 俊 (キュウミリ)

短編


 俺は特別、俺は特別。そう自分に言い聞かせてきた。

 俺はなんでもやればできるヤツで、スポーツ選手でも、俳優でも、漫画家でも。何にだってなれるんだって、そう思って生きてきた。


 たぶん、大多数の人はこんな考えは中学を卒業する頃には卒業している。遅くとも高校生にもなれば、自分が将来何になるかなんて検討がつくだろう。



 今年の夏もひどく暑い。


 扇風機からくる温風にあたりながら、古錆びれた工場の中に自分は居た。今、手を動かして造っている物が何なのかも分からない。何か油圧機器だと思うのだが、派遣の俺には何も聞かされてなどいなかった。


「おい、お前新人の佐藤っていったっけ?」


 その時、不意に声をかけられた。背後に居た男は俺の上司にあたるポンプ班の班長。


「はい、そうですが……」

「今のペースだと今日のノルマ終わらないんだよね」


 そして、班長は「残業よろしくね」と言うと定時で帰っていった。


 結局、自分一人で二時間ほど残業をしていた。自分が仕事より、時間が欲しい派の人間なの分かってるクセに。本当につまらない不愉快な世の中だ。


 俺はイライラしながら帰路に就こうと自転車置場に向かった。免許証もなく車を買う金もない俺は、自転車通勤を余儀なくされていた。自転車のカゴに重い工具箱を置く。

 朝、寝ぼけ眼で運転するとカゴに置いてある工具箱の重みでよく振らつくのだが工場内には盗む輩もいるので持ち帰るしかなかった。

 あのクソ班長め、憂さ晴らしにコンビニでも寄って酒やつまみを買い漁ろう。そんなことを考えながら煙草に火を点けた。

 重い体で自転車を漕ぎ、コンビニへと向かう道中。隣を高級車が走り抜ける。その車は俺が一番欲しかったモデルで、宝くじが当たったらそれを買ってやろうと心に決めていた。

 前方にあった信号が赤に変わり、車は静かに停車する。

 俺は自然に運転手に目をやった、すると、そこには俺に本当によく似た男が。まるで俺のコピーのようで、目元や唇の厚さ、髪型も酷似していた。

 自分の顔にあんな似てるヤツがいるとは……。驚きで口から煙草がこぼれ、地面に落ちる。


「世界には似ている人が三人いるらしいって。本当なんだな」


 高級車の車の男は電話をしていて、声も微かに聞こえる。その声も前にボイスレコーダーに遊びで録った俺の声にそっくりであり。ここまで似ていると驚きを隠せなかった。それと同時に何故か怒りも心に沸いてきた。この怒りの正体が分かったとき、それにまたイラついた。



――自分と顔も声も似ているのになんでこんないい生活を送ってるんだよ。



 こんな人生になったのは、みてくれは全く関係なくて。俺の努力の全てがちっぽけなもので、無意味なのだと否定されたような気がした。


 信号が青になり、高級車はエンジン音と共に排気ガスを俺に浴びせながらコンビニの駐車場に入っていく。ゴホゴホッと咳が出る、ふざけやがって、ぶっ殺してやろうか。殺せるわけも本気で殺したいとも思ってないのに血液が沸騰した。


 おっと、酒とつまみを買わなくちゃな。


 自転車を停め店内に入ると、ちょうど男がレジで煙草をカートン買いしてるようだった。銘柄はセブンスター。ここまできたら吸ってる煙草まで同じかと思ったが違ったみたいだ。


 何故か俺はあのコピー人間に見つからないようトイレ付近まで足早に隠れた。正直、俺がコピーなのかアイツがコピーなのか分からない。ていうか、コピー人間などではなく、赤の他人だということは重々承知しているのだが。


 発泡酒とつまみをカゴに入れ、レジまで行く「マルボロ一つ」店員のおばさんは、生気のない顔で煙草を取り出しレジを打つ。この年になっても働いてるなんて生活が大変なんだな……俺は尊敬の念すら抱いた。


 お釣りを受け取ろうと手を伸ばすが、おばさんは俺を見つめて何処かうわの空。おそらく、先ほどの客と俺があまりにも似ているから混乱しているのだろう。


「おばさん、おばさん。お釣りは?」


 おばさんはハッと我に返ったようで、無言でうなづきお釣りを渡してきた。


 袋を受け取り店を出る。袋を自転車のカゴに入れ、ペダルに足をかけた。そのとき、遠くでけたたましい衝撃音が鳴り響いた。


 車が何かに激突したのであろうか? この辺りはこのコンビニがあるだけで周りは田畑ばかりの農道。店内だと微かに聞こえないぐらいの音だったであろう、たぶん気付いたのは俺だけだろう。


 全力で自転車を漕ぎ、急いで現場に向かった。おそらくこの辺のはずだが……。


 そこで俺が見たのは先程の瓜二つの人間が乗っていた高級車が電信柱に激突していた。車は大破しており、原型をとどめていなかった。中にいたアイツもおそらくは即死だろう。よそ見運転でもしたのだろうか? 不謹慎だが笑うずにはいられない。ざまぁ見ろ。今日の酒の肴は決まったな。


 立ち去ろうと前を見つめた。だが、その時。車から呻き声が聞こえたきた。


 俺は駆け出し、車の運転席を見る。自分の顔した人間が頭から血を流していて、なんとも言えない気持ちになった。感傷的とかそんなんじゃない今までに感じたことのない不思議な気持ちに。


 その男は掠れそうな小さな声で助けを求めていた。まぁそりゃそうだろう、見たかんじ歩いて帰れるわけもなく。救急車を呼ぶべきだろう。そうだろうな。ふつうそうだ。


 この車の惨状を見るに男はてっきり死んだのかと思ったんだがな。今から救急車を呼んだら間に合いそうな顔してやがる。


 そこでふと自転車に戻り、工具箱からドライバーを取り出した。





 俺は特別、俺は特別。そう自分は特別だった。


 ああ人生はなんて楽しいのだろう。


 今、自分には愛する妻も子供もいる。だが仕事はない。不動産の賃料収入や株式の配当で暮らしていた。いわば不労所得者だった。


 働かないで食べる飯はうまい。株や不動産の元手は家系が元々裕福だったため全然困らなかった。欲しいものは何でも手に入る。美人な奥さんに健気な可愛い息子。高級外車にスポーツカー。金は心を豊かにする。


「パパぁ遊んでー」


 可愛い息子が無邪気に俺の膝を揺らす。ソファにどっしり構えていた俺の体ごと揺れる。


「分かったから、揺らすのやめてくれ。お父さんは疲れてるんだから」

「えーだって、いっつもパパ家にいるよー。パパって“にーと”さんなの?」

「パパは会社のお偉いさんだから家にいても大丈夫なのよ」


 妻が子供に優しく言い聞かせる。そういえば親父の会社の役員でもあったな。すっかり忘れていた。


「まぁ少し待て、煙草吸ったら遊んでやるから」


 元気な息子はふくれっ面になりながらも「うん」と返事をした。

 煙草を持ってベランダに出ようとすると妻が不思議な顔をしてきた。


「そういえばあなた煙草変わったのね。前はセブンスターしか吸わなかったのに」

「ああ、そうなんだ。たまには違うのも吸いたくてね」

 

 煙草に火を点けるとベランダの手すりに肘を付き煙を吸い込む。煙が口の中を苦み走って舌の奥で痺れる。大きく煙を吐き、広々とした庭に視線をおくると自慢の高級車ばかり。


「そういえば、あなたケガの方は大丈夫? わたし、心配で心配で」


 キッチンから妻が質問してきた。


「大丈夫だよ。ほら、傷なんかないだろ」

 

 腕や足には傷跡一つ残ってなどいない。


「そうだったわ。よくあんな事故でほぼ無傷だったわね」

「まぁな、俺は“特別”だからな」





 俺はドライバーを握りしめ、頭から血を流し苦しそうに咳をする男の首元にドライバーを宛てがった。


「何をするんだ……やめてくれ。助けてくれ」


 男は虚ろな目をして命乞いをしてきた。


「神様もアレだな。外見は同じだけど中身は違うものを作りたくなる衝動があるなんてな」


 俺は本当に声もそっくりだな、と付け足すと。男の首にドライバーを刺した。


 男は嗚咽しながら、虚空に手を伸ばし何かを掴もうとしていた。だが空を切り泳いでいた手はゆっくりと動かなくなり、ピクリともしなくなった。


 最初は事故に見せかけた強盗殺人をしようと思った……だけど俺にはできる……やれると思った。そう、なりすましだ。


 俺とこいつはあまりにも似過ぎている。中身以外はまったく見分けが付かないだろう。


 まず、俺は衣服を交換した。ズボンの尻ポケットに入っていた免許証を見る。


 そこには『津上雅也』と書かれていた。住所はここからそれほど遠くない高級住宅街だった。


 俺は持ち物をすべて交換すると、他人とは思えないほど似ている男の死体を近くの雑木林に運んだ。死んだ人間に衣服を着せ、運ぶというのはこんなにも辛いものなのかと息切れする心臓と肺に鞭を打った。周りが何もないとこでホント助かった。この時は田舎に生まれたことを感謝した。


 男と酒とつまみの入った袋を雑木林に置くと大破した車に戻り、中に入って割れたフロントガラスでかすり傷をつけた。さすがに完全に無傷はまずいだろう。


 そして、それからはひたすらに男の経歴を調べた。ケータイ電話にメモ帳、何から何まで目を通した。人通りの少ないここで見つかるのは、おそらく朝だろう。その朝になり発見されるまでの間に俺は男の過去を熟読した。


 時間は夜も少し明けてきた三時半。一台の軽トラックが田畑だらけの農道を通りこちらへやってきた。俺の乗る大破した車に近寄る気配があったため、俺はすぐさま頭を打って気絶したフリをした。軽トラックは事故車の脇に停めると、慌てて運転手が駆け寄ってきた。


「おい! あんたぁ大丈夫かぁ!」


 駆けつけてきたのは近所のおじさんだろう。おそらく、やることもない暇なジジイは農作業のためにこんなに早く来たのだろう。俺は返事をせず無言で返した。


 すると、おじさんはどっから出したのかタオルで俺の顔を拭いた。その後、ケータイなどの連絡手段がないのか、おじさんは軽トラックでコンビニまで走りだした。



 俺は無事救助された。医者には少し不審な顔をされたが、なんとか誤魔化せたようだった。


 まぁまったく同じ顔なのに疑うもクソもないからな。


 俺は入院することになった。病室のベッドの上で初めて妻と子供にあった。不安な顔して来た妻も子供も俺の顔を見ると安堵したようだった。奥さーんわたしはまったくの別人ですよー。


 その後、話につまるところがあったら頭を打ったため分からないと言った。仕事も幽霊役員だけで、ほとんど不労所得だったのは幸いだった。仮に仕事があっても頭を打って出られないことにすればいいと思った。こんだけ裕福な家庭なら死ぬまで介護してくれるだろう。


 退院し、時間ができると俺は即座に車を走らせた。久しぶりに運転する車が高級外車とは最高に気持ちがいい。高校生の時に友達の車を乗り回して遊んでいたことがあったので運転は一応できた。もちろん無免許だが。そして俺はあの農道にあるコンビニの方へ向かった。


 近くの雑木林に捨てて置いた男は少し臭ったがそれほど腐敗していなかった。捨てておいたレジ袋と男を担ぐとトランクにぶち込んだ。トランクには予め消臭剤を置き、ブルーシートも敷いておいた。


 そして男を乗せたまま、まず着いたのが近くの川だ。ここにレジ袋を放り捨てた。そして次に向かったのは人が訪れることもない自殺の名所、両隣の駅からも大分離れたレールの上。電車に轢かせればバラバラになり、ドライバーで刺し殺したことも分からないだろう。腐敗の進み具合もそこまでではなかったため、これが一番いいと思った。近くの線路脇には靴と遺書を置いた。遺書には『人生に疲れました。』と書いた。自分が死ぬんだから遺書も普通に自分が書いたもので何の問題もないと思った。


 翌日の夕刊にひっそり俺の自殺が載っていた。まぁ自殺したのは俺ではなくあの津上雅也で自殺ではなく他殺なのだが。



――佐藤一颯(二十六)自殺





 俺、『佐藤一颯』は『津上雅也』に完全になりかわった。


 俺は、今の妻と息子が大好きだ。だが、あっちは違う。俺じゃなくて『津上雅也』のことが好きなのだ。『津上雅也』に扮する俺が好きなわけじゃない。『佐藤一颯』が好きなわけでもない。そう思うと心苦しかった。


 ボーっとしていると昔の自分を思い出す。あんなに頑張ってもがいて生きてきた俺を。


 今頃、親父とお袋はどんな気持ちだろう。俺が死んで泣いてくれたのか、それとも清々したのか、葬式はあげてくれたんだろうか。まぁ、その葬式に並ぶ遺体は俺じゃないのだが。そもそもあんなにバラバラになった肉片を家族に見せるのだろうか。そんなことを考えていると息子が幼稚園から帰ってきた。妻が玄関まで出向き、幼稚園バスに乗る先生方に挨拶すると、妻と息子がリビングへ来た。


「また、あなた考え事? 最近変よ、大丈夫?」


 妻は心から心配しているようだ。


「大丈夫さ」


 息子も心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「パパ……なんか変わったね、全然遊んでくれなくなった」

「……よーし! 遊んでやるぞ。さぁ、何するテレビゲームか?」

「あなたが一緒にテレビゲーム? 珍しいわね」


 なんだよ。俺は親となんか遊んだ記憶なんかない。どんなことすればいいんだよ。


「そういえばね、今度ママ友達と二泊三日の温泉旅行に行くって話があるんだけど……あなたも一緒に来る?」

「それって大体ママさんとお子さんだけで行くもんだろ? 俺は大人しく留守番しているさ」


 マジか。さーてその日は何しようかな。


「ねぇねぇ、パパも行こうよー」


 本当に俺のことが……。いや、あの『津上雅也』のことが好きだったんだな……。


「今度行こうな、親子三人で海でも行こう」

「ほんと? 約束だからね」

「ああ、約束だ」


 水着のお下がりは嫌だな。後で一人、買いに行こう。



「じゃあ、あたし達行ってくるね」

「ああ、気をつけていってこいよ」


息子がシャツの袖を引っ張って、こちらを見る。


「パパは行かないのー」

「だから行かないって行っただろ」


 本当にこのぐらいの年の子供は親にべったりだな。


 そうして、妻と息子はママ友達の車で二泊三日の温泉旅行に向かった。俺も行きたかったなぁ。もう少しこの家に慣れたらにしよう。


 俺は早速、家探しを初めた。まだまだ知らないことも多かった。妻は専業主婦だし、息子はまだまだ幼稚園生だから、家から出ることも少なく。のんびり家探しも出来なかった。


 早くこの家に慣れて本当の家族になるんだ。あいつらの父親を殺したから罪滅ぼしとか金のためじゃない自分の為にやるんだ。いつかは本当の家族にだって……。



 妻と息子が旅行に出かけたその日の夜。


 本当の家族にはなるにはどうすればいいんだろう。二階の俺と妻の寝室でそんなことを考えていた。まずは妻の両親に会って……って、そんなんじゃないか。


 そんなことを考えてるうちに瞼は重みを増し、もう少しで眠りに入ろうとした。



――ガシャーン



 一階のリビングで窓ガラスと思われる割れ物の音が響いた。心臓は早鐘を打ち呼吸が乱れる。何が起きた? 誰かがガラスをぶち割ってきた? なんで? 金がありそうだからか? ここは高級住宅街なんだぞ? 他にいっぱい豪邸は並んでるじゃねぇか。


 クソ、しょうがねぇ。まだ強盗だと決まったわけじゃない。だが、まず最初に警察を呼んでおこう。ケータイで一一〇番にかける。そういえば、生まれて初めて警察に電話したんだ、と冷静に考えてしまう頭は何故か残っていた。警察に繋がると、速やかに住所とガラスが割られたことを告げる。だが、俺は考えた。このままでいいのか? 泥棒ごときににこんな怯えてて。俺が家を守らなくてどうするんだ。俺はひと一人殺っちまってるんだぞ。こそ泥なんかに怯えてどうすんだ。俺は通話を切るとケータイをポケットにしまった。


 一階からは、何か物を探すような人の気配がある。なんだかんだ言っても警察に連絡したのは安心感があったのだろう。俺は護身用の木刀を構えて音をたてず階段をゆっくり下りる。


 すると、何も聞こえなくなった。おそらく強盗は金品を奪取し、今頃逃走しているだろう。だが何故か自分は安堵していた。やっぱり、強盗は怖かったのだ。一応注意しながら警察が来るまでリビングにいようと扉を開ける。




――「やぁ、俺」




 そこには俺に本当によく似た男が。まるで俺のコピーのようで、目元や唇の厚さ、髪型も酷似している人間が俺に声をかけてきた。





 俺は、前からこの近辺の富裕層より金を持っている立派な佇まいの津上家に目を付けていた。いつ忍び込んでやろうか算段するため、張り込みしながら計画を練っていた。


 そして、ここの亭主を見たとき、ハッとしたね。こんな自分の顔に似ているヤツがいるのかと。こんなゴミ溜めにいるようなドクズな俺の顔して、こんないい暮らししやがって。


 それだけでもう、ここで強盗殺人しようって思ってたんだ。





 俺の腹部から熱い血がしたたって、カーペットを赤く染める。


「何をするんだ……やめてくれ。助けてくれ」


 クソ……。痛みで何もできない。嗚咽しながら、俺は強盗に手を伸ばしその首を掴もうとしていた。だが空を切り泳いでいた手は自由が効かず動かなくなっていった。


「神様もアレだな。外見は同じだけど中身は違うものを作りたくなる衝動があるなんてな」


 強盗は俺を見下ろしそんなことを捨て吐いた。なんだ? 不公平っていいたいのか?


「フ……世界には似ている人が三人いるらしいって……。本当なんだな……」


 俺は血を吐きながらほくそ笑んだ。

 意識はだんだん遠くなり強盗の声も遠くなっていく。


「ドッペルゲンガーを見ると死期が近いっていうしな」


 強盗はニヤけながらしゃがんで俺を近くから見据えて言った。


「じゃあ、お前も近いうちに死ぬな……」


 血が喉に溢れてうまく言葉もでない。


「はぁ、お前何言ってんの? 死ぬのはお前、分かる?」


 はいはい、お前はまだ分かんねぇんだな。人を殺した人間が長く生きられるわけがないんだ。


「……この三人は似たもの同士なのかもな」


 この三人は似ていたのかもしれない。


 俺が『アイツ』の家に生まれて、『アイツ』が俺の家で生まれていても同じことが起きたかもしれない。


 俺は薄れていく意識の中そんなことを思った。




 俺は特別、俺は特別。そう自分に言い聞かせてきた。


 俺はなんでもやればできるヤツで、殺人して、なりまして、裕福な家庭で過ごせば。幸せな暮らしが待ってるんだって、そう思って生きてきた。



 だけど違うね、今なら分かる。




END

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