彼から救援の依頼が来たで候
最近、
キュンプリ関連の新商品がドカンと入荷され、イタキモと忌み嫌う
キショイと目の敵にしていた
その十哉が、尊敬する先輩と付き合っているにも関わらず、せいら役の美女との熱愛が囁かれ、嫌悪感が憎悪にまで達したせいもある。
おまけにその先輩に『体で仕事を取っている』というあらぬ噂が立ち、キュンプリ関連の仕事から一旦降ろされたことにやるせなさでいっぱいになっているせいもある。
しかもそのおかげでキュンプリの仕事を代わりに引き継ぐこととなり、運転が苦手なのに社用車であちこち走り回らなくならなくなったせいもある。
むぅ……これだけ原因があれば、不機嫌になるのも仕方ないか。
おかしな噂を流したのは、恐らく
にしても、この体で仕事取れるように見えたのかな……身長以外、中学からちっとも成長してないんだけど。
「
前屈みになっても少しも邪魔にならない胸をチラ見しながらパソコン入力していたら、
「ルイがあんたに会いたがって、うるさいのよ。『サク王子にはいつ会えるの』って、毎日毎日しつこいんだから」
王子、ねぇ……。
「是が非でも、お伺いさせていただきまっす!」
だがしかし、男に間違えられようと構わん。おかげで今夜は、式島美人母娘を独り占めできるのだからな!
よっしゃあ、やる気が漲ってきたぞぅ!!
「それと……ちょっといい?」
ちょいちょいと指先で呼ばれ、私はホイホイと式島さんの方に顔を寄せた。
「あんたは彼氏一筋だし、噂だってガセだと信じてるけど……
真剣な声音で発せられた忠告は、重く深く、やけに真に迫るものがあり――私はここでやっと、式島さんと池崎が過去に恋人同士だった過去があるらしいと察知した。
池崎は『また』フラれた、と言っていた。つまり、彼の気持ちは変わらないようだけれど……二人の間に一体何があったのか?
あいつ、軽そうだし百股かけたとかかな? あー、ありそー。そんな男、金持ちのイケメンでも無理だわー。
「アレはないですね。私のタイプは神之臣様なんで」
そう答え、式島さんのやれやれといった溜息をふんわり浴びてこっそり悦に入ると、私は急いで仕事に戻った。
今夜のためにマックススピードで作業を終えて、瑠依ちゃんに一分でも早く会いに行くのだ!
「ねえ、サク王子はどこの星のプリンスなの? プリンセスは何人侍らせてるの? ルイもプリンセスになれる? 地球人でも息できる? 肺が破裂して死なない?」
駅近くの小綺麗なマンションの一室にお邪魔し、ベビーシッターさんを見送る間もなく、私は待っていた瑠依ちゃんから怒涛の質問攻めを受けた。
うん……これ、どういう設定なんだろね?
仕事帰りにスーツのまま来たから今日もスカートなのだが、それでまだ女だと気付いてないね?
でもまあ、可愛いからいいや!
式島さんがお料理を作っている間、私は瑠依ちゃんの質問に一つ一つ丁寧に答え、ついには地球初のプリンセスとして星に迎え入れるだけでなく、環境設備の充実についても約束させられた。
広々とした4LDKの部屋は、母娘二人では少し寂しいらしい。空いている部屋をサク王子の地球の住処にしようと瑠依ちゃんが提案するものだから、ママはとても困っていた。
「だって、ウチにはパパいないもん。女二人じゃ、この先何かと心配だし」
オウフ、今時の子はえらい口達者ですなあ。
「パパがいなくてもママがいるでしょう。ママ一人で百人力よ〜?」
職場では見せないおどけた表情で、式島さんが瑠依ちゃんに言う。
「サク王子もいるよ。サク王子は百人力の百人力だぞ〜?」
ちょっと拗ねていた瑠依ちゃんだったが、我がイケメンパワーはいまだ健在。必殺のハンサムスマイルで、すぐに未来のプリンセスのご機嫌を取り戻すことができた。
「サク王子、ルイ、幼稚園でお絵描きしたの! 見て見て!」
話題が変わって、式島さんはホッとしたようだ。私に向かって苦笑いしてみせてから止めていた手を動かし、料理をテーブルに並べ始めた。
「これ、ママが見せてくれたパパの写真見て描いたのー!」
ところが母親の思いとは裏腹に、瑠依ちゃんは笑顔で話題を引き戻してきた。
そこに描かれていたのは、頭から二つの耳らしきものを垂らしペロリと大きな舌を出した、何とも形容し難い変な動物。
「ワー、スゴーイ……チョーウマーイ…………」
こう言うしかないじゃん? 他にどういった言葉を述べろと。
式島さん、父親だっつってUMAの写真でも見せたの? いくら何でもそりゃねーよ。
「上手いでしょ? ルイのパパ、可愛いワンワンなんだよ! 人間だけどワンワンみたいなの!」
……ん!?
今、とても恐ろしい妄想をしてしまったぞ。いや、まさか……な?
「ルイー、ご飯できたからお遊びはストップねー。サク王子、お腹ペコペコなのよー?」
「はーい。サク王子、一緒にお座りしましょ!」
瑠依ちゃんに手を引かれた私は、式島さんを見た。彼女も私を見ていた。
無言ではあったけれど、その目は『何も言うな聞くな忘れろ』と強く訴えかけていた。
と、そこへポケットのスマホが鳴る。奏でる着信音は『まじキュン狂想曲』――十哉からだ。
実はレストランでの一件以来、ずっと連絡を避けていた。向こうから何度かメッセージは来たけれど、スタンプのみ返すか既読スルーするかで、自分から言葉をかけることができなかった。
あの台詞を思い出すと、怖くて。十哉が何を考えてるのか、わからなくて。
少し待っても音は止まらず、仕方なく私は二人の了承を得て電話に出た。
『サク殿ーー! 今どこどこどこにいらっしゃるで候ーー!?』
クッソ……久々の電話だったから油断した。
耳死んだじゃねえか! 仕返しに貴様の耳だけにお経書いて、廃寺に放置してやろうかーー!?
しかし、美人母娘の前でそんなお下劣な言葉を吐き散らかすわけにいかない。
「今、式島さんのお宅にお邪魔してるんだけど、何か用?」
『式島殿の!? それはどこで候!? た、たたた大変な事態が起こってしまったので候! サク殿に助けていただきたいので候! サク殿しか頼ることができないので候ーー!!』
十哉の声は、ひどく切迫していた。
『と、とにかく病院に……ちちちっ地図を送るで候!』
は? 病院!?
「ちょ、トーヤ!?」
問い質そうとしたものの間に合わず、電話は切れてしまった。すぐ送信されてきたメッセージには、十哉の言った通り地図が添付されている。
あれ? この病院って……。
「古泉、タクシー呼んだわ。すぐ向かいなさい」
筒抜けの音声から状況を把握し、先回りして手配してくれたらしい。式島さんは仕事の時、いやそれ以上に真剣な表情で私に告げた。
「サク王子、頑張って! ルイ、応援してるからね。きっと大丈夫だよ!」
瑠依ちゃんまでもが手を握り、精一杯のエールを送ってくる。
こうなったらもう、行くしかない。
私は泣く泣く式島さんの手料理を諦めて既に階下に到着していたタクシーに乗り、行き先を伝えた。
地図に記された場所――――なかよし動物病院へ。
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