『はあとWOWオトメイク』するのでござる!
彼と久々のデートの予定で候
★原作を知らない皆様に簡単なストーリー説明★
『まじかるサムライっ
元気で明るい中学二年生の
そこではあとは、カタナから授かったまじかるパワーで『さむらい☆へんげん!』の能力を習得。魔法少女に変身し、悪の大王・アーク・ダイカンヌと戦うことに。
決め台詞は『キラメキ
一人では手下にすら苦戦したが、はあとの放つうぉーりあの力に導かれた仲間が集まり、『うぉーりあファイブ』が誕生。五人は力を合わせ、ついに敵を討つことに成功した。
ところがアーク・ダイカンヌの裏には、更なる強敵が待ち構えていたのだ!
しかもはあと達は無作為にうぉーりあに選ばれたのではなく、過去の深い因縁によって魂に烙印があり、カタナはそれに引き寄せられて彼女達の前に現れたという事実が発覚する。
過去を巡る中、はあとは召喚すると現れる守護侍・
しかし過去の記憶が蘇ったことが、うぉーりあファイブに危機をもたらす。はあとの親友でもあったうぉーりあファイブのメンバー・
彼女によってうぉーりあファイブの絆は引き裂かれ、はあと達は壊滅的な痛手を負う。
しかし正気を取り戻したせいらが、はあとを救うために敵陣にて自爆する道を選んだことで敵もまた大きな打撃を受け、この機を逃すまいと、はあとは消滅する覚悟で磨り減った魂でラスボスに挑み――彼女達の尊き戦いのおかげで、世界は救われたのだった……。
…………ダメだ、あらすじだけで泣いてしまう。
私は手にしていた雑誌をそっと閉じ、涙を拭った。ちなみにこれが書かれているのは何と、女性ファッション誌である。
ファッションの聖域ワンフォーから始まったPR広報は今や全国規模で展開され、その影響を受けて世間では『うぉーりあ風メイク』や『キュンプリファッション』が流行り始めた。おかげで、こうしてファッション誌にまで取り上げられるようになったという次第である。
二次創作も盛んに行われており、SNSではタグが氾濫。夏季コミポには間に合わなかったものの、次回の冬季コミポでは、参加ジャンルナンバーワンになるのではないかと目されている。
話が大きくなりすぎて、映画がコケた時の反動が怖い。とはいえ、原作に興味を持ってくれた人が増えただけでもありがたいことだ。
私は再び雑誌を開き、今度は特集記事に目を通した。まさか自分の彼氏を、こんなところで見ることになるとはな。
記事タイトルは、『キュンプリの魅力徹底解剖』――発表されたキャストと原作アニメのキャラとの比較から、PR活動の詳細まで網羅している。そこには、映画に登場しない
チラッとならわかるけど、個別に一ページも割くことなくない? ていうかこれ、スタジオ撮影した写真だよね? 脇役ですらないのに、いくら何でも目立ちすぎだろ……。
「先輩……顔、緩みすぎです」
一緒に休憩に入っていた
「見た目は神之臣とはいえ、中身はキショイですよ? 皆、躍らされすぎですっ!」
あの十哉がチヤホヤされる現状に、彼女は納得がいかないらしい。
でも私がニヤニヤしてたのは彼氏の艶姿に見惚れてたからじゃなくて、それもあるけどそれだけじゃなくて、今夜久しぶりに十哉とデートできることになったからなの!
注目を集めるようになってから、十哉は外出するにも苦労することになった。ファンの女の子達が、あらゆる場所で待ち構えているせいだ。
小学生の頃、女子に陰湿ないじめを受けたせいで三次元の女が大嫌いになったというのに『失礼なことをしたらキュンプリが嫌われるかも……』と思うと無碍な扱いもできず、十哉は正直参っているらしい。大学では
で、私とも全然会えなかったんだけど……『変装グッズを入手したのでお会いしたいで候』と彼から誘ってくれたのよ!
メイク道具も私服も持ってきたし、お泊りになる可能性も考えて可愛い下着も付けてきた。準備は万全。
もしかしたら
と、浮かれて早上がりにしてもらったのに。
『申し訳ない、急用が入ったため約束はキャンセルさせていただくで候。埋め合わせは必ずするで候』
いそいそと退勤してスキニーデニムとサマーニットという大人カジュアルな服装に着替えてウキウキとスマホを開いたら、こんなメッセージが届いていた。
がっくりと、私は膝から崩れ落ちた。
だがしかし、こんなことで怒ったり拗ねたりしたら面倒臭い女だと呆れられる。それでなくても今は、強力なライバルがいるのだ。
『私のことは気にしなくていいから、忙しくても無理だけはしないでね』
絶望によって暗黒に染まりかけた視界の中、必死に目を凝らして何とかそれだけを入力し送信すると、私は大きく溜息を吐き出した。
いい女になるって、難しい。でも皆、こんな風に本音を押し殺して、相手に負担をかけないように頑張ってるんだよね。はぁ……付き合うイコール我慢大会なのかよ。
このまま帰るのも勿体ないし、何処かに行くか。
てことでやって来たるは、ワンフォー。
秋物でもチェックしようと考えたのだが――――バスを降りて初回PRイベントを開催した広場を何気なく見た瞬間、私は固まってしまった。
広場の木の影で、見覚えのある男女二人が抱き合っている。いや、男の方が藻掻く女を逃がすまいと、必死に抱き留めているようだ。自慢じゃないが、視力は両目とも2.0なのだ。
私は全力でそちらへ走った。自慢じゃないが、百メートル走は十三秒台の駿速なのだ。
「
私の声を聞いて、男――
「……池崎さん、二度とこんな真似しないでください。また同じようなことをしたら、今度は訴えますからね」
厳しい口調でそう告げると、式島さんは少し離れた場所で足を止めて見守っていた私の元へと歩いてきた。
「ありがとう、古泉。私は大丈夫よ。だから、見なかったことにして」
呆然としたまま、私は頷いた。
「助かるわ。それじゃ私は店に戻るから、デート楽しんでらっしゃいね」
ぽんぽんと私の優しく肩を叩き、式島さんはそのまま歩き去ってしまった。
「……とんでもないとこ、見られちゃったね」
真後ろから声がして、私は飛び上がった。いつの間にか、池崎が背後に接近していたのだ。
「取り敢えず、お前が女と見れば誰でも抱き着くセクハラ野郎なのか、それとも式島さんだからあんなことしたのか、それだけでも説明してもらおうか」
慌てて飛び退き、距離を取って警戒心を剥き出しに尋ねると、池崎は叱られたワンコのように項垂れた。
「もちろん、レイカだからだよ……。またフラれちゃった……もうやだ、死にたい」
と吐き出したかと思ったら、人目も憚らずワンワン泣き始めたではないか!
仕方なく、私は彼を近くにあるベンチに座らせた。
しかし、ワンコのワンワンは止まらない。
このまま放っておくわけにもいかず――私はあれこれと適当に慰めの言葉を並べ立て、何とかクライングワンコを泣き止ませようと懸命に奮闘した。
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