第15話~決意の朝に~

「んっ……」

 朝日が部屋のカーテンから漏れる。

 灰原夏樹は少し早い朝、六時半に目を覚ます。


「んむぅ……七瀬ちゃぁん……」

「しゃわるなぁ……」

 何故か俺のベッドは、優華と妹の七瀬に占領されている。


 だから俺は床に布団を敷いて寝ている。

「いてて……」

 床と当たる体に痛みを感じながら起き上がる。


 結局俺達三人は自宅に帰ってきたのだが……何故か優華も泊まることになった。何故だろう……?

 正直そのおかげであまり寝れなかった


 でも昨日、優都の家で盗み聞きしてしまった彼女の事情の続きを聞いた。


 優都の事故が起こるちょっと前に、宇宙からここに来た彼女は誰にも事情を話せていなかなったらしい。

 冬までどうやって暮らしてたのか?と聞いたら……


 大人の男の人とデートをするという商売をしたり、年齢を詐称してお店で働いていたりしてお金を貰っていたらしい。


 そのお金で、宿や漫画喫茶や銭湯やレストラン等を利用していたという話をしてくれた。

 確かに妥当な金額だとは思える。


 それを聞いた俺は……例の輩達を気絶させた後の彼女の悲しそうな目を思い出して、凄く後悔した。


 だから直ぐ様親父と母さんにしばらく泊めてあげてほしいと頼んだ。

 宇宙人だから……だなんて言えないので理由はつけず真剣に頼んでみた。

 難しい顔ばかりされると思っていたが……何も聞かずに了承してくれたのだ。


 数週間前のあのニュースの事もあったし、多分彼女の正体に関しては気付いているのかもしれない。

 だから、ありがとうという言葉しか出てこなかった。

 彼女は冗談混じりでコンビニ飯ともおさらばだぁ……!と言っていたが……


 俺が風呂から上がって戻る時、父さんと母さんに何度もお礼を言っているのが聞こえた。


 案の定、家庭食を久々に食べたらしく、夕御飯時は目元が赤くなるほど泣いていた。


 でも彼女は無理をしているのか、悩みがあるのか……複雑そうな表情を時折見せる。

 どうしたの?話なら聞くぞと言っても、一方的に話すのはあれだしまた今度話す……とはぐらかされてしまう。



 俺は少ししか眠れなかった目を覚ます為に、顔を洗ってランニングの準備をする。

(どうしたらいいんだろう……)


 俺の道しるべを一緒に探してくれた親友、優都や舞桜の事を思い出す。

 あの二人は今頃どうしているだろうか?まあ結構な事態にはなっていると予想はする……


 でも優都は優しくて誠実で慎重だから、結局うまーくはぐらかしてしまうんだろうな。


 そして……藤崎さんは大丈夫かな?とやっぱり心配になる。

 親元が親元で、家系も組と呼ばれる所の血を引いている事も知っている。

 敵の数も大体は分かるが、かなりの数だろう。


 でもそれを安全にどうかできるのは……今のところ能力を使えて身体能力も高い優華だけ。

(俺が支えなきゃ……!)

 失恋してしばらくは経ったけども……複雑な気分になる。


 でもあの表情は……今でも凄く心配だ。

 自傷を図ろうとした過去の俺を見ているような気もしてくる。


(話せる範囲で二人に相談してみるか……)

 俺は優華が心配で、ランニングを早めに切り上げたのだった。



「そ、その……帰る準備できた?」

 ラブホテルの一室。俺はベッドに座ってそわそわしながら三人に聞く。


「て、できてるよ……」

「うん……」

「まだー」

 静乃さんは足を崩し、舞桜は体育座りで恥ずかしがりながら答えるも……

 深城はのんびりと用意もせず、広いベッドでゴロゴロしている。


「み、深城さん……?お腹空いたしご飯食べて帰るよ?ツリーもあるし……」

 僕はこのホテルでこれ以上気まずい雰囲気を続けるのは……


「うーーん。わかってるけどー、だるいなぁ」

 深城はかったるそうな声を上げる。


「ま、まさかみ、深城ちゃん……!?」

「う、嘘だよな……?」

 静乃さんに続いて舞桜も本気で焦っている様子だ。


「いやいや、キスしかしてないでしょ……」

 僕も弁明する。


 何故そうしなかったのか?

 今まで幼馴染みとして接してきた相手もいるのに、いきなりそこまですっ飛ばせるのか?

 誰か一人とそうすれば、他の二人もきっと自分にも自分にも!ってなるはず。


 絶対無理だ。恥ずかしすぎる。

 まず最初が三対一で自分のモノを見られるってのは嫌だ。

 もうちょっと純情さ溢れる……と思いつつもキスだけでも結構エロさは出ていたと思う。


 三人は途中から服を脱ぎ出していたが、攻めてくるような気配は無く、求めてくるような感じだった。

 だから深城、舞桜、静乃さんと僕の順番で眠ってしまった。


 でも本当に理性が飛びそうだった。舞桜が可愛らしく恥ずかしがっていやいやしてくれなければ危うかった。

 正直いやいやしてくれなければそれも危なかった。


 静乃さんはしたいようにしていいよ?とばかり言ってくれて……優しい天使だった。


 ふと布一枚の天使の姿をした静乃さんを想像してしまう。


『ぶにっ』

 後ろから誰かに……恐らく舞桜に頬をつままれる。

「な、なんだよぉ……」


「いや……べ、別に?」

 彼女は恥ずかしがってそっぽを向く。

(舞桜も舞桜でいちいちあざといな……)

 押されても倒れない僕の男心を、うまーく引き出されているような感覚だ。


「ほら、僕らの家に戻ろう」

 改めて深城を説得する。

「えーおうち?まだここいたいなぁ……」

 でもまだゴロゴロして駄々をこねている。


「そ、それに私達……やっぱりまだ完全に安心って訳じゃないし……」

 静乃さんも自分の家のことを含めて説得する。


「深城。これから何が起こるか分からないし……なるべく強い人の手助けをしていかなきゃならない」

 舞桜も説得をする。確かにその通りだけどもそれは……


「あのロリコンお姉さんもいじってあげなきゃ寂しそうだもんね……」

 深城は肩を軽く落としながら頷いている。

 今度は優華さんを構うのにハマっているらしい……


「あ、あんまり行き過ぎた質問とかしちゃダメだよ……?」

 静乃さんも彼女のことを心配しているのか、深城に優しく言いかける。


「もちろん!」


 でもそれは夏樹の家に向かう形になる訳で……

(仕方がない……)



 僕らは朝ごはんを食べて、家の近くには昼前についた。

 そして夏樹の家へと向かう左右の別れ道。

「一回荷物置くけど……遊びにいくなら迎えに行くから連絡してね」

 僕は重要なことだけ深城に伝えるも……


「え?お兄ちゃんは?」

 深城は疑問を抱いたのかそう聞いてくる。


「ちょ、ちょっと昼寝です。少ししたら僕も行くよ」


 あまり寝れずに朝ごはんの時間に起き、外はそこそこに寒かった。そのおかげか結構眠かった。


 というのは半分本当である。

 まあもう半分は女の子三人の裸を見たせいかちょっと一休みしたかった。

 深城も勿論その中に入る。お風呂は何年も一緒に入っていなかったからか、とんでもなく成長していた……


 他の二人は心配そうに……まあまずその中のもう一人は凍えそうで心配な人はいるんですが……


「ふーん。ちゃんと来てね」

 深城だけはニヤニヤとしている。

 察されているだろうけど……別に直接見る訳じゃあない。



 家に辿り着いた。

 とりあえずお風呂を沸かして、その間にリビングで暖房を付けて舞桜を温めさせた。

 深城はもう荷物を置いて外で待っている。


「じゃあ私も深城ちゃんについていくね?」

 静乃さんも深城が心配で付いていってくれるそうだ。


「うん、気を付けて」

「うん、ありがと……ちゅ」

 静乃さんが行き際にキスをしてくる……!

 彼女達が出掛けても、僕はそのまま棒立ちしてた。

 そのフレンチキスは彼女が僕を愛してくれる証のようで、何だか幸せで溢れていた。


「ねぇ」

 舞桜に声をかけられてハッとする。


「な、なに?」

 動揺しながら返事をする。


「真面目な話だからちゃんと聞いて」

 舞桜の眉をひそめた顔を見る。真剣な話だということは分かっているが、ちょっと驚いてしまう。


 僕は無言でこくりと頷く。

 すると、彼女は続けて話す。

「静乃は優しい。だからもし奴等がまた襲ってきたら、自分の気持ちなんか無視して盾になろうとする。きっと……。でも、あたしは絶対にそんなことはさせない。誰かに頼むがダメなら……」

 僕はその話を聞いて嫌な予感が頭を過った。


「させないよ……!まずそうならないように、僕が彼女も舞桜も守る!」

 僕は言い張る。それだけじゃない。

 大切な仲間だって……!もう、ただ突っ立って人が死に行くのを見てなんていられない。


「そこまで言えるようなら……良かった」

 彼女は途中で言葉を止めると安堵の息を吐く。


「あと……!あんた薬貰って飲んでるみたいだけど、危ないやつじゃないよな?」

 だけど今度は前のめりになって少し強めに聞いてくる。


「大丈夫。もうあの段階でサプリメントになってて、今は色々なやつが開発されてるんだって。漢方とか」

 僕も最近、先生と会って聞いた話をする。


 この冬、能力の発動を抑制する研究を第一に進めていくうちに、それは精神に関係するものでは全く無かったらしい。


「最初は聞いてもよく分からなかった。資料を持ってくるよ」

「あ、あい……」

 彼女は余計な発言をしたと思っているのか、苦笑いをしながら答える。


 元々能力は、神経細胞のウイルスというのでもなく、神経細胞の一時的活性による一時的進化。というものらしい。


 普段神経細胞の一つ一つはタンパク合成をする。それが一定量を超え、限界を超えた時に細胞自体が変化を遂げ能力は発動する。

 それも一定のDNAを受け継いだ人間のみ。


「ふ、ふーん……」

 と説明しても彼女は分かっているのか、分かってないのか微妙な反応をする。


「それに、一定の人は髪色とかも変わっちゃうみたいなんだ」

 続けて説明をする。


「え!?」

 舞桜はソファから立ち上がって驚く。毛布が落ちる。彼女は僕らがあげた赤いマフラーと手袋と赤茶色のコートを着ている。

 手袋が落ち着いていない。余程驚いているのが分かる。


「細胞の変化の残り香。でもそれは変化しないような栄養物質を飲んでもそうなっちゃうんだって。あともしかしたらもう少しすればワクチンが出来て薬を飲む必要も……」

 僕が丁寧に説明していても、やはり聞いていない。


「ゆ、優都のかか髪が……変わっちゃう」

 心ここにあらずだ。


「でも変わってないのは何ででしょう?」

 ちょっとからかいたくなって質問してみる。

「え、そういえば確かに……なんで?」

 彼女はぐっと近付いてきて、僕の紺色のセーターをぎゅっと掴む。


(無意識に顔近付けるのあざとい……)

「う、運が良かったみたい。その変化する細胞の色なんだってさ」

「へ、へぇ~」

 彼女の軽い返し。


 僕らは会話が途切れて黙ってしまい、お互いの目を見つめる。

 舞桜は距離に気付いたのか段々と頬が赤くなる。


 彼女は僕を強く抱き締めて肩に頬を乗せる。若干温かい。

「でもあたしは……優都が無事に生きられるんなら、何でもいいよ……」

 声を震わせながらゆっくりと安堵の言葉が聞こえる。


「ママみたいだね」

 僕も優しく彼女を抱き締める。


「あんたのママよりずっと心配症ですよーだ」

 彼女の言う通り。母親は優しいのんびり屋なタイプだった。


「ふふっ、間違いない。そういう正しい勇気が一番強かったのも分かってる」

 いつも彼女と一緒にいると、これで間違いないと確信を持てる。


「もし薬が無くなってもこうすればいい。あたしは何度だってあんたを抱き締めて……愛と勇気をあげる」

 僕を抱き締めながら彼女らしい台詞が心に馴染む。


「うん……ありがとう」

 その言葉とこの温かさがある時、僕は希望を見るのではなく、ただ前へ進めるような気がした。

 その後も少し彼女とは抱き締め合った。



 彼女はお風呂に入り、僕はトイレから出た。

(はぁ~~何とかなった……)


 抱き締めてしばらく経った時、全く別の変化が起きて焦った。


 彼女の香りて昨日の夜のことを思い出すなんて予想も付かなかった。


(逆に僕の理性はいつまで保つんだろう……)




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僕が天の邪鬼と幸せになれる方法 涼太かぶき @kavking

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