#4 溢れる恋心

第13話 はじける想い

 最初からそうだった。なのに直視しなかった。

 本当に嫌なら、文句を言われにコンビニなんて行かない。


 こんなに心配して……ずっと想うことなんてない。

 舞桜が好きな気持ちを教えてくれて、涙や凄い恥ずかしがる顔を見て……ようやく分かった。

 思ってても伝えられない辛い気持ちが……


「名前だけで、呼んで……?」

「僕は静乃が……」

 恥ずかしいのか彼女は顔を隠す。

「す……」

 中々言葉が出てこない。きっとまだ迷ってる。どっちを選ぶかとか……


『ドゴッ』

(ドアの向こうから物音がしたのは気のせいかな?)


(欲張りだなんて分かってる……!でも、選ばなきゃならないんだ!)

 一般的に間違ってる理由もあるかもしれない。でも僕は静乃さんを救いたかった。


 気付いたら膝枕の状態ではなく、彼女が僕を押し倒す形となっていた……

「すきだゃ!?」

 口を塞がれた。静乃さんの唇で……それはとても柔らかくて温かい。

 彼女の顔が目の前にある。心拍数も跳ね上がって、顔も熱くなる。


「わわっ……!すごいよ!ママ!」

「ほんとね……」

「うぅ……」

(聞こえてますけど……静乃さんからキスなんて……!?)


 そして唇が離れた。

「はぁはぁ……私だけじゃ、ないよね?」

 少し息苦しいからか、息が上がっているのか分からない。


「ほんとは好きなんでしょ……?私と会う前から……」

 気付かれていた。

(そんなっ!?バレたら絶対嫌われ……)

「私も好き……でも、どっちか選ばなきゃなんて考えは間違ってる……」


 押し倒されたまま説教をされるが、優しい雰囲気は変わらない。

「私は欲張りだって……嫌いにならないよ?そういう優しい、優都が……すき」

 語尾は恥ずかしいのか、少し口ごもってしまう。


「ほんとに……?」

「でも……舞桜ちゃんは許してくれるかな?」

 彼女はドアの方へ問いかける。


「舞桜……行ってらっしゃい」

「…………」

 少し沈黙が続く。

『ガチャ……』

 ゆっくりとドアを開けて、舞桜が入ってくる。

 静乃さんが押し倒すのをやめたので、僕も起き上がる。


「私、そんなに強くないよ……?」

 彼女はぽろぽろと嬉し涙を溢しながら話す。

「分かってる」

「分かってるわ」


「バカって……沢山言っちゃうかもよ……?」

「ほんとは大好きなのにそう言っちゃうの……」

 静乃さんも泣きながらこちらを見つめる。


「うん……分かってる」

「じゃあ……言ってあげて?」

 彼女も辛そうに涙を流す。

「うん……」


「…………」

 無言のまま舞桜は手で涙を拭っている。

「舞桜……ずっと、好きだった。舞桜の気持ちも気付いてた……でもそんな舞桜が可愛いんだ。あの時は逃げちゃって……ごめん」


『ドサッ』

 言葉を伝え終わった後、舞桜は耐えかねたのか僕のお腹に抱き着く。

「そじだらあたじ、泣ぐから……!」

「もう泣いてるよ……?」

「言うなばかぁ……」


「その……私向こう向いてるから……」

「ふぇ……?」

「だって私だけとかずるいもん……」

(まってまって!?いきなりこのままキス!?)


 舞桜は恥ずかしながらも、僕の前に膝立ちして目を閉じる。

 それは今までに無いほど緊張を煽った。

(二人も見てるけど……もう関係ない……!)


 舞桜へ口付けをした。ぷにぷにしてる。唇も可愛い。

 そう思った瞬間、可愛い彼女を見たくて目を開けてしまった。

 彼女もそうだった。間近の状態で目が合う。

「んんっ!?」

 恥じらいの混じった声と、綺麗な赤い瞳。

(可愛すぎる……!)


 僕の理性は吹き飛び、彼女をベッドに押し倒す。

「ん!?」

 彼女へ熱いキスを交わす。

「はむっ、ちゅっ……」

「ん……ちゅっ、れろ」

 受け入れてくれて、彼女は舌を入れてくる。


「ど、どしたの……?」

 静乃さんの声で正気に戻る。

「はぁはぁ……静乃ちゃんにも、してあげて……?」


「あわわわわ……私のお兄ちゃんがぁ」

「しーっ……!」

 深城に見られてる……


「ふぇっ……?」

 でも僕は静乃さんをベッドに押し倒して、もう一度キスをする。


「んんっ!?」

「ちゅっ」

 目を合わせる。そして時間が止まる。

 彼女は察してくれたのか、キス中に舌を出してくれる。


「ちゅっ、はむ……」

「ちゅーっ、れろ……はぁ……」

 僕はその舌を吸ったり、口を舐め合ったりしている……


「熱いキスってやっぱ素敵ねぇ……要さんにも今度してもらお~~」

 彼女は外の声を気にする様子を見せる。それでもキスを続けると彼女はより恥ずかしがる。


 勿論今はいたって冷静だ。キスだけだからもあるし、僕が主体側ってのもあるかもしれない。

(ファーストキスなのに何考えてるんだ僕は……)


 そしたら後ろから舞桜が抱き着いてきた。

「寂しい……」

(なんであなたは僕の心をくすぐるのそんなにうまいの……!?)


『ガチャン!』

「ふぇっ!?」

「お兄ちゃんは私が一番好きなんだもーん!!」

 深城が入ってきて僕に抱き着く。


「ちゅっ……はむっ」

「ちゅっ……」

(待って深城!いきなりキスは反則!)

 拒んで傷付けないようにはするが、心拍数は凄いことになる。


 二人もいきなりの出来事に驚いている。

 勿論僕も驚いている。従妹が僕の事を好きだったなんて……


「はぁはぁ……それは、本気で……?」

「はぁ……お兄ちゃんは私の事、好きじゃない?」

 深城は悪戯っぽく微笑む。

「うっ、そ、それは……」

 正直一番異性としては意識したかもしれない。


「いっつも意識してたの気付いてるからね……?」

 バレていた。

「うっ……」


「深城ちゃんならいいよ……」

 静乃さんは恥ずかしそうに言う。

(そんなこと言われたら……というか本当に恋愛か分からない人まで混ざってるんですよ?)


「ちょ、ちょっとまって……?」

「何か……?ちっぱい、おねえちゃんっ!!」

 深城は次に舞桜へと飛び付く。

「こらっ!やめ……ひゃうぅ……!」


「み、深城……?僕が二人を優先したら辛い思いするよ……?」

「じゃあそんなことするなら私は怒るわ……」

 静乃さんは完全に深城の味方をする。

(でもこんなの本当に……)


「あふぇ……」

 深城は舞桜への手を離して僕の方へ向く。

 舞桜は項垂うなだれている。

「いいよ。私が一方的に好きだからそうするの……!それに!お兄ちゃんを惚れさせてみせるわ!」

(ふえぇ……その言い方は困りますぅ……)


「じゃあ明日は、トリプルデートだね!」

(えっ、イブにデート!?そ、そそそれはまずくありません!?)

「私は平気だけど……」

 静乃さんは顔を赤くしながら答える。


(いやいや、そのオーケーサインはまずいです静乃さん)

「舞桜は……?」

 最後の希望は彼女だけだった。


(バンドの予定とかさ?それでデート自体無しにとか……)

「あたしも、誘おうと思ってたから……」

「ふぇぇ……」

「観念するんだお兄ちゃん!」


(そうだよ、冷静に考えて。ただのデート。出かけて帰ってくるだけ……)

「わ、わかったよ……」

「やったぁ!」



 そして次の日の昼、一緒に家を出て都会の都市部へと向かう。

 街にはコスチュームを着て楽しんでいる人が沢山いた。


「で、あの人達は何してるの?」

 後方数十メートル。探偵姿の夏輝と葵さんと、私服姿の七瀬ちゃんがいる。

(誘拐みたいだな……)


「あっちもあっちで良い雰囲気になるんじゃない?」

 静乃さんがそう言うけど、何度も胸ぐらを掴み合っている。それを七瀬ちゃんが制止しようとしていた。


 バレるだろ、バレないからの喧嘩をしているようだ。

(バレてるんだけどね……)


「イルミネーション綺麗だなぁ……」

 舞桜が目をキラキラさせて見惚れている。昼なのに。

「こういうの好きだもんね」

 僕がそう言うと、顔を赤くした。可愛い。


「舞桜ちゃん、案外ピュア」

「し、静乃程じゃない……」

「どんぐりの背比べだよ~」

「…………」

 深城がそう説得すると、誰も喋らなくなる。


「なんで黙るの!」

 そりゃ恥ずかしそうに怒る。

「かわいー」

「よしよし」

 舞桜と静乃さんが深城の頭を撫でている。


 僕も後ろから二人の頭を撫でる。

「いきなりやめて……」

「恥ずかしいだろ……しかもくずれる」

「じゃ、私に!」

 舞桜への手を離して深城を撫でる。


「んー……!」

 頬を膨らませて怒ってる。


「かーわいー」

 静乃さんが彼女の頭を撫でるが、深城はそこには手が届きそうにない。

 それどころか向かう場所が違う。

「ちっぱいよしよし~」

「いや、やめっ!こんなとこでやるなぁ……!」


 理性を保つため、ふと後ろを見る。三人は急いで隠れるが……

(か、かか壁ドン!?流石夏輝……)

 夏輝が葵さんに壁ドンした。


 けどその直後、腹パンされて夏輝は項垂うなだれる。

 七瀬ちゃんが彼女に注意するが、壁ドンを繰り返されている。

 あの三人の連鎖はちょっと笑える。


「お兄ちゃん!変な人見てないでこっち見てよ!」

 せっかくくすぐってるのに~と深城が怒る。


「わかったけど、急がないと。夕飯までに帰れないよ?」


「いや、帰らないよ?」

「ふぇっ!?」

(いやいや深城さんそれはおかしいです)


「そ、そうね……」

「そうだ……」

(二人も何を期待してるの!?)


「いや、伯父さんも心配するし……」

「お兄ちゃーん、さては何でこの日を選んだか分かってないなぁー?」

(まっ、まさか!?)

「聖なる夜。せめて二人にさせてあげようって気遣い無いのかなぁ~」


「なるほど……」

(あー、ですよね。後ろの二名もいますもんね。割り勘なら嬉しいや)

「これだから童貞君は……」

 静乃さんならまだしも、舞桜に馬鹿にされるのはなんか腹立たしい……

「ぎゃ、逆に安心したんですー」


(人の事言えない。なんて言ったら泣いちゃいそう……)

 身動みじろぎをする。


「寒いの……?」

「だ、大丈夫大丈夫……」

(静乃さんは優しい。本当に優しい。だから貶されても耐えられる気がする。これってもしかして……飴と鞭で洗脳され)


『ぎゅっ』

 左手を握られる。そして彼女は自分の手袋を繋いだ手に被せる。

 彼女の柔らかい手が、僕の冷えた手を温めてくれる。


「ほら?これなら温かいでしょ?」

 そして優しい笑顔。

(なっ……!反則です)


「あたしも!」

 舞桜も闘争心で僕の右手を同じようにする。

「あ、あの冷たいです……」

「温めてよ……」

 普段は強がっている彼女が、守ってアピールをする。猛烈に可愛い。


「私にもー!」

 深城が後ろから抱き着いてきた。

「あっ……」

 大きい胸が……おっぱいが当たる。


「あ、歩きづらいよ……!」

「じゃあやめよっか?」

「…………」

 何も反論できなくなる。完全に弄ばれていた。



 僕らは周りの視線を気にするだけで、そのままの状態でショップ等を回る。

 時々迷惑になるので離れてくれるけど、すぐくっつく。明らかに変な人達だ。


「熱くなってきました」

「…………」

 無言のまま三人は一メートル以上距離を開ける。

「そ、そんな離れなくても……」

(汗とか嫌いなのかな……?)


「ね、ねぇ……襲ってくる気配なんかないよ?」

「やっぱりガセなんじゃないか?」

「そ、そんなことないもん!昨日だって半分襲われてたじゃん!」

 三人は僕にバレないようにこそこそ話をしている。

(聞こえないフリ聞こえないフリ)


「そ、それはそうだけど……優都は本当に嫌がることはしないし……」

(舞桜……)

 そのツンデレに目頭が熱くなってしまう。ロールツインテによく似合っている。


「次見る場所は?」

 涙を堪えて三人に聞く。


「えっとね!ツリー買ってきてって言われてるの!」

「明日まで売ってるか分かんないね……」

 深城の話を静乃さんが真剣そうに答える。

(やっとおつかいを思い出したようです)


「そもそもどこに泊まるの?夏輝の家にツリー持ってくのは流石に迷惑だし……」

『じーー』

 なんか凄いこっちを凝視されてる。計六名から。

「…………」


「ど、どこがよろしいでしょうか……?」

「ホテルー!」

「高いとこはダメだから」

 深城が提案した意見に、舞桜はいちゃもんを付ける。

(ここら辺、高いとこしかないよ!)


「もしかして高かったら同室……?」

 静乃さんが恥ずかしそうに聞いてくる。

「そ、そうなるね……」


「と、とりあえず荷物番はいることだし買いに行こう……」

 そう乗り切るしかなかった。



 専門店に着くと、ツリーは売り切れる事もなくしっかり買えた。


 ふとホテル代が心配になったので深城に聞く。

「結局いくら預かったの?」

「ん!」


 お母さんから預かっていた財布の中を見る。万札が十枚……

(何泊させるつもりだったの……?)


 午後五時だがもう日は沈んでいる……

「今からで空きあるかなぁ……」

「ふふーん。お母さんが知り合いのところを予約してくれてるんだよ~」


「なんだ、先に言ってよー」

「でもお兄ちゃんは泊まることを認めたね?」

(なっ……!)


「あたしはまだ……ふにゃぁ!?」

 舞桜が腕を組んで否定しようとすると、組まれる前に深城が飛び付く。

「ちっぱいはちっぱいで服従するのです……」

(始まったよ……)


「わ、分かったからぁ……!分かったから勘弁してぇ……」

「そればっかやってると伸びちゃうわよ……」

「ふぇ!それはやだぁ……」

 静乃さんが呆れてそう言うと、深城はしょげながらその行為をやめる。


「でも、大きくはなるかも……」

「ま、マジ!?」

 静乃さんは笑いながら舞桜の反応を面白がる。

(いや、ならないから……)



 その後はツリーの箱を三人に渡す為に、ショッピングモールを走り回った……


「優華!夏輝!ちょ待てよ!」

 舞桜は物真似ばかりして、何度も僕を笑わせようとするし……


「このちっぱいがどうなってもいいのか!」

 深城は懲りなく舞桜に悪戯するし……

「優都惑わしてやれー!」

「えっ……?」

「舞桜可哀想……」

 夏輝はノリノリだが、二人はイジられる舞桜を心配している。


「ちょ、ちょっとまってぇ……」

 静乃さんの体つきで目の前走られたら……

 しかもミニスカートに黒ニーソ……

「ど、どこ見てるのよ!」

「いやいや、ツリーの箱で見えないから……!」

(ガッツリ見えてますけど……)


 結局僕らは七人一緒に行動することになった。

(デートの意味……まあ楽しいからいっか)



 こんな友達に出会えて、親友や好きな人と一緒にいれて……僕は恵まれてる。

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