第11話 傷付けた仲間
「退院したしまた……」
「来なくて大丈夫、だから……」
(そんなのお断りだよね……)
「け、圭祐……!そんな言い方は無いだろ?」
玲の言葉でまた沈黙へと戻る。
「これが問題の伝伸能力ね……」
葵さんが何かを呟いた。分からなかったので聞き返してみる。
「え、今なんて……?」
「まあまあ、優華さんにも色々あるのよ……!」
亜依海がそれを誤魔化す。周りはきょとんとしている。
「と、とりあえず寒いし上がって。皆揃ってる?よ」
これが全員なのか、僕は知るよしも無いので疑問系になってしまう。
『お邪魔しまーす』
そして皆が上がって挨拶を交わした後、テーブルの上にでかいケーキが三つ置かれる。
「こ、こんなに……!?」
おば、お母さんは感動して手の平で口を覆っている。
「だって私達の恩人だもの!」
「そうだよ……!」
「そうですよ!」
居間の外からそんな様子を見ていた僕は、圭祐の表情が晴れただけでも安堵の息を漏らす。
「そんなに怖いの?」
「え……?」
同じく廊下にいた葵さんが、心を見透かすような青い目で僕を見つめる。
「
「のっといえっと?」
「そう……あんたのそれの正式名称よ」
(正式名称!?こ、この人は一体……?)
「ど、どういうことですか……?」
「あんたの部屋はどこ?これ以上は関係ない人に教える訳にはいかないから……」
その真剣な目からは、強い意志のような強さを感じた。
僕は彼女から語られる真実を聞く為に、二階へと案内する。
「ん……?」
「優都の部屋ね……」
静乃は上に上った優都を不思議に思うが、真剣な目をした舞桜は横を通り過ぎて彼の後を追う。
「ちょ、ちょっと待ってよ……」
「う、宇宙人!?」
「あんまでかい声出さない……二階に来た意味無い」
「ご、ごめん……」
「はぁ……まあいいわ。それはそうと、天皇さまとやらが公表したんでしょ?」
(あの話本当だったんだ……!)
「信じてなかったみたいね……」
また呆れられる。
「あと二人とも聞いてるなら入ってきて良いから……」
彼女は困った様子でドアの方を見る。
『ガチャ』
舞桜と静乃さんが入ってくる。僕の部屋に……!?
「何そんなテンパってんの?あ、ははぁーん。なるほどね……」
葵さんは急にニヤニヤする。
「優華、あたしはあんたのことが知りたい」
「それはぁ、困ったわね……というか聞いてたじゃない」
舞桜の真剣な言葉に、一度困ったような表情を見せた。
「あのバウムクーヘンはなんなんだ」
(へ?)
「?」
「ふふ」
「し、静乃?」
「いや、ごめんね……!ふふ、続けて?」
笑いを堪えきれなかったようだ。
舞桜はたまに、こういう風に思ったことをそのまま口にするお茶目なとこもある。
「あー、銃ね」
「じゅ、銃……!?」
「夏輝が刺された時、敵が使ってたの……」
静乃さんが少し辛そうな顔で説明してくれる。
「あぁ、あの時の。思い出させちゃってごめん……」
「それにあんた、
「切ったわね。はぁ……全部説明しても分かんないかもよ?」
彼女にも何か事情があるようだ。
「あたしは仲間を信じてる……!」
「真っ直ぐね……じゃあ話すわ」
『マダデテキチャダメ?』
彼女の近くの空間が歪む。そこからマントを被った化け物が現れた。
「ば、ばっ……!?はぁ……もう間に合わないわね。いいわ……」
僕ら三人はその姿に恐怖する。
被ったフードから微かに見える赤い目。実体は無く影だけが浮いている。影の胴体の手には鎌を持っていた。
「その鎌だったのね……」
舞桜は案外冷静に見えた。いや、頑張ってるんだろう。
「ユーカ、キズツケルヤツ?」
「違うわ、仲間よ。友達」
「トモダチ?ナラキッテモ……」
(いやいやいや怖いって)
僕と静乃さんは後退りしてしまう。舞桜は拳を震わせながらも、その場に立ち続ける。
「ダメだから……あんたはなんでいつもそうなるの……」
「つまり、それがあの時の……優華の持つ運動なんちゃらってやつなの?」
(運動なんちゃらって……)
「いや、皇帝だかって人の言う通り、持ってなくてもって人もいる。でも私の運動細胞は体とここにあるの」
葵さんは自分の脳を指差す。
(天皇と皇帝……意味は一緒だけど)
そのまま、彼女は説明を続ける。
「この子は拾ったの。でもこの話とはあまり関係ないわ」
「じゃあ、優華は何ができるの?」
「大丈夫よ……全部話すわ」
彼女も少し辛そうな顔をしている。
「ハナシ、キク。キョウミ、アル」
「あんたにも初めて話すこともあるわ、きっと……」
話された内容は……
彼女は竜が住む星の、ある国の姫として育った。そして兄がその国を燃やし、壊滅させたこと。
その後に待っていた親戚の家での虐待の話。そこから救いだしてくれた親友や好きな人の話……
そしてこの力の原因は全て……その竜から流れている血にあるという話……
好きな人はその血が世界中に流れぬように、今も死闘を続けて苦しんでいる話。
自分はそこから抜け出して、ここに来てしまったという話……
舞桜は無言で彼女を抱き締める。
「!?」
「あたし達がいるからぁ……!」
そのまま舞桜は泣きながら彼女の頭を撫でる。
「ありがと……」
彼女の青い瞳からも涙が流れていた。
二人が落ち着いたので、話を整理する。
「能力というものについては分かったよ。でも僕はずっとこれの制御が……」
「能力ってのはその血を引き継いだ人のみ、体の細胞の興奮によって起こせるの。だから精神状態に影響するのよ」
言われて気付いた。僕は未だに天邪鬼体質のトラウマを克服出来ていない。
結局あのサプリメントもお守りみたいな物だ。今日もそれがあったから精神を安定出来た。
「結局気持ち次第ってことなんだね……」
「そうね。あたし達は使うことに慣れてるけど、あんたみたいに規模が違いすぎる力を持つ友達もいたわ……」
「そうなの……!?ちなみにその人は」
「…………」
黙り込んでしまった。触れない方が良かったらしい……
「考えたことを全部実現出来ちゃうのよ……つまりあんたは単純にそれの逆ってこと」
「なるほど……」
「わざわざ説明してくれてありがとう」
「僕の為に……ありがとうございます」
舞桜が礼を言うので、僕も続いて感謝の気持ちを示す。
「あと、皆には話さないでね?面倒事は嫌いだから……」
「そっか、分かったよ……!でもあいつらは悪いやつじゃないし、いつか話す時が来たら……」
「えぇ、分かってる」
舞桜の亜依海達の弁解をするが、葵さんは少し辛そうな顔をして頷く。
「でも、だったら聞かせてほしい。圭祐のお母さんが入院してるのって……」
「あたしが……」
「いや、いいよ。僕が話す……」
そして数ヶ月前にあった出来事を淡々と話す。
彼の母親が過労で倒れたと聞き、一時期お世話になってた僕もお見舞いに行った。
その時、過労による内出血で吐血したのを勘違いして……死んでほしくなんかないと願ってしまった。
その時、空間にヒビが入った。それを皆も見た。だからすぐ再検査を行ったところガンが発見された……
圭祐と二人で話し合ったのはその時が最後だ。病院の外の自販機で……
『お願いだから、お母さんだけは傷付けないで……!もうお母さんの前に来ないで……』
泣きながらすがり付いて頼まれた。僕は了承するしかなく、その後は一気に空気が重くなって話すのも申し訳なかった。
「そう、だったのね……」
「うん……」
また沈黙が続くと、葵さんがそれを打ち切ってくれる。
「あんたのその力は……恐らく他主的なものなんだと思う……」
「他主的?」
(他主って言われると確かに……)
ヒビが行くのは相手や物だけだった
「そう。自分に作用させるんじゃなくて、願った相手や物全てに作用してしまう……だから決して自分には起こせない」
「で、でも事故に遭ったのは……」
静乃さんは、僕が事故に遭った時のことを話してくれる。
「それはあくまでも結果よ。それを発動させた後のことだから……怪我もしてしまう」
「その他主ってのか自主ってのはどっちかなの?」
舞桜もよく話を聞いていたのか、気になっていたことを聞いてくれる。
「えぇ、大体がそうよ……でも自主の発動が他人に危害を及ぼすことがある。逆も然りってことね」
「そうなんだ……」
(じゃあ葵さんの友人も……)
「そういうのは自分を制御すれば、多少なりとも何とかなるわ。でもあんたのは……ゼロにするまで大変ね……」
「なるほど……」
彼女が暗い顔をすると、舞桜が相打ちを打つ。
(いい加減向き合わなきゃ……!)
「あの……!別に嫌だったら構わないです!僕がこれに向き合うまで仲間を守ってくれますか?」
勇気を振り絞って葵さんにお願いする。
「勿論よ!任せなさい!でも、あんたからその意思が消えたらやめるし、あたしにだって出来ることに限りがあるわ」
「大丈夫です!ありがとうございます!」
僕は深々と礼をする。
「そんな大袈裟にしないの……!ほら、皆も心配するし戻りましょ?」
「お、来た来た。ケーキ取っておいてあるよ」
夏輝は僕達のことを心配してくれていたのか、廊下で僕らを待ってくれていた。
「き、聞いてた?」
「まあ、な……でもお前が頑張るってんなら、俺も全力でサポートするぜ!」
「盗み聞きしといて何がサポートよ……」
「う、うっさいな……」
夏輝と葵さんは少し親しげで微笑ましかった。
「何何?いつそんな仲良くなったの……?」
舞桜がお返しと言わんばかりに、ニヤニヤしながら彼をイジる。
「入院中に来てくれて、共通の知り合いとな。ちょっとあったんだ……色々と」
「そうね……色々と」
舞桜が分かったという素振りをする。
「もしかして桃里のことか?トラブルメーカーだもんなぁ」
(ま、舞桜が名前呼び!?)
「よ、よく分かったな……」
驚く夏輝とは裏腹に、葵さんが僕を見てニヤニヤしている。
「ははぁーん。舞桜ちゃんが名前呼びしたのに嫉妬してるな~?」
葵さんが微笑みながら僕の肩を突っつく。
「なっ!?」
「ふぇっ!?」
僕と舞桜は一気に顔を赤くする。
「あ、七瀬」
トイレの方から来た七瀬ちゃんに一連の流れを見られていた。
「廊下なんかにいると風邪引くよ……あと、優華さん!お兄ちゃんは渡さないから……!」
体は小さくてもいつも威厳はあるから驚いてしまう。
「大丈夫取らない取らない。でも~?」
優華さんは目を光らせて、七瀬ちゃんに抱き着く。
「ななちゃんは可愛いから奪っちゃうかも~」
「ふぎゃっ!?こら!やめ……!チュッチュすんなぁ……!」
葵さんは七瀬ちゃんへ執拗にスキンシップをする。
(この人まさか……ロリコン!?)
僕らはそんなこんなで、結婚パーティついでの二人の退院祝いを終えた。
ぼんやり見える朝の日差し。そして赤い髪のロールツインテが目の前に浮かび上がる。
「ほら、朝だぞ。起きろー……って!?」
『ドスン』
制服姿の舞桜は驚いて尻もちをついていた。
「ん……?」
「な、なななな!?朝っぱらからどうなってんだ!?」
「え?」
自分の急所たる場所は、いつも通り元気になっていた。
(また朝のやつか……)
舞桜は顔を真っ赤にしている。
「な、なな何で舞桜が!?」
僕は急いで剥がされた布団で隠す。
「あんた……昨日のこと忘れたの?」
「あ、そう言えば……」
(伯父さんとおばさん……お母さん結婚したんだっけ……)
彼女の髪型に気付く。その視線に気付いたのか、舞桜は恥ずかしそうな表情をする。
「ど、どう?」
「に、似合ってるよ……!かわいい」
彼女は嬉しそうに立ち上がり、聞いてくる。
「あ、ありがと……んで治まった?」
「いや、元気になった……」
「ふえぇっ!?」
「用意して下行く……ごめん」
「うん……」
(そういや静乃さんも一時期を境に起こしに来てくれなくなったっけ……?もしかして……)
それからは深城がたまに叩き起こしてくれる。ちょっとやり方は酷いけど……
(いい加減自分で起きなきゃ……)
着替えて一階へ下りると、皆はもう朝食を食べ始めていた。
僕も席に座って、いただきますと一言言ってから料理に手をつける。
「おいひい……」
「よかったぁ~」
お母さんは嬉しそうに手を合わせる。
(はぁ、やっと慣れてきた……)
「お、ママ!明日料理勝負して!」
深城が悔しそうにお母さんに挑戦を申し込む。
「良いわね!じゃあ勝者は優都君にチュね?」
「ふぇぇ……」
深城は嫌そうに呟く。
(なんか少し傷付く……というか僕はどっちを応援すれば……)
『ケホッ、ケホッ……』
舞桜と静乃さんが同時に咳き込む。
「芽愛、あまり優都をからかってやるな……?」
伯父さんも困ったように注意する。
「はぁーい」
(これから葉月家は一体どうなっちゃうんだ……)
『はぁ……』
舞桜と同時に溜め息をつく。
「二人とも朝から溜め息なんて大丈夫か……?」
「ふふ、息ぴったり……」
伯父さんが心配する中、お母さんは微笑んでいる。
(静乃さんとの生活にも慣れてきたばかりなのに、舞桜や舞桜のお母さんもなんて……)
幸せそうなのは良いけど、心配になってきた。普段の生活だけじゃなく出費面も……
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