第7話 近付く真相
「…………」
深城は黙って僕の方を見つめ続ける。
「だからなんだよ……」
「で、お兄ちゃんは結局なんて答えたの?」
やっと一番重要な質問をしてきた。
(そんな間を空ける必要あったかなぁ……)
「答えは分かってるからいらないってさ。この体質の事向き合うって伝えたよ……」
「そっかぁ、ふぅーん……」
しっかり答えたが曖昧な反応をされた。
最近色々とあって戸惑っているのだろう。心情が変わらなくても関係性が変わるというのは大きな事だろうし……
「喉はもう大丈夫そう?」
「うん、深城こそ風邪治った?」
「もちろんよ!」
心配すると深城は腕をまくり、綺麗な細い腕を見せる。
「お兄ちゃん、今」
「考えてません」
またにやけた表情で僕を見る。だけどすぐ真面目な表情に戻った。
「でも、心配だね……」
「うん。色々とね……」
彼女の親戚が捕まったとて、安心できる訳では無い。
それに夏輝だって無敵って訳じゃない。
「夏輝が心配だ……」
「お昼に目を覚ましたみたい。香奈ちゃんもさっき病室にいたよ」
香奈というのは彼の一歳年下の妹の事だ。
「そっか、傷の具合は?」
「そこまで酷くないみたい……」
「なら一安心だね……」
けど先に夏輝が襲われたって事は、奴らに夏輝の事がバレてると考えるのが妥当だ。
そして舞桜がいない時に聞きたかった事を思い出した。
「静乃さんは?」
「大丈夫だよ。舞桜ちゃんが葵さんに送ってほしいって頼んでた」
「舞桜が……?」
「少しずつだけど、馴染めてるというか仲良くなれてるみたい」
「そっか。それは良かったよ」
二人は前みたいな空気では無いという事に安堵の息を漏らす。
「んで、まだ治まらないの?それ……」
「別に触れなくていい……」
「うぇ~~、触ってほしいの?お兄ちゃんの変態」
(よく軽々しくそう切り返せるね……)
「まっ、頑張って!お兄ちゃん!」
「深城があんなことしなければね……」
「あんなことってどんなことかなぁ……?」
(うわ、ウザっ……!)
「ふふっ、おもしろーい」
深城は笑顔で面白がっている。
話を逸らされたけど……頼み事を話す。
「静乃さんのケア頼むね。昨日へこんでたんだ。七瀬ちゃんに何か言われたのかも……」
「そう、だったんだ……」
その事を話すと少し驚いた様子だった。
話によると静乃さんはやっぱり落ち込んでいたようだ。
「元気付けるのは深城の得意分野!でしょ?」
「えへへ、ありがと……」
俯いた深城を元気付けるとすぐ笑顔になった。
『ガラガラ』
「ただいまー」
舞桜がトイレから帰ってきたようだ。
「元気付けるのは私の得意分野だからねっ……!」
深城がまたニヤニヤといたずらの笑みを浮かべている。
「あのー、深城さん……?」
僕がそう問いかけた時にはもう遅かった。
「んひゃっ!」
舞桜はまた抱き着かれて変な声を上げている。
「はぁ……」
僕は大きな溜め息をついた。
かれこれあれから二週間が過ぎた。
舞桜は吹っ切れたのか毎日のように見舞いに来てくれる。
そっちに吹っ切れられても困るけど、でも幸せそうな彼女を見ているのは嬉しかった。
それは子供の頃に戻れたような感じもした。
夏輝は怪我を完治して、一週間前に無事退院した。
僕はというと少しずつヒビが治るまでもう少し。あと二週間の辛抱だそうだ。
『ガラガラ』
「よっ」
病室で遅れている宿題などに手を付けていると、夏輝が学校帰りに寄ってきた。
後ろには舞桜と静乃と深城もいる。
(勢揃いだな……)
「あっ、いらっしゃい。というか勢揃いなんて珍しいね……」
「ん?あー、なんとなくだよなんとなく」
「へぇ……」
後ろでニヤニヤしてる深城を凝視する。
間の二人は妙に気恥ずかしそうだ。
「おお、宿題やってたのか。お前流石だな……」
感心した様子で夏輝は僕の宿題を見ている。
「夏輝はやってるの……?」
「そんなの決まってるじゃんか」
(やっぱりやってないんだね……)
皆で来るとは思わなかったので勉強道具をしまう。
「しまっちゃうのか?」
「うん、しまうよ」
「そうか……」
「な、なんで残念そうなの……?」
「いや、ついでに勉強出来るかなぁって」
(めんどくさいんだね……)
夏輝はポジティブで行動派に見えるけど、勉強とか知らない事に関しては真逆な面がある。
「見ていいよ。間違ってるかもだけど……」
「まじか!ありがと!」
夏輝はプリント類を受け取ると、嬉しそうに読み始めた。
「身体は大丈夫そう?」
「うん。もうすぐで治るってさ」
僕は静乃さんの問いにそう答えた。
「やっとだな……!」
その言葉を聞いて舞桜も元気付けてくれる。
「あっ!そうだ……!退院したら皆で遊びに行こ?」
深城が僕らに提案してくれる。
「おっ、良いじゃんかそれ!」
夏輝もノリノリでプリントを地面に置く……
(夏輝ってこういうところも含めて面白いなぁ……)
「そうだな。皆で、行きたいな」
舞桜は俯いている静乃さんに、微笑みながらそう告げた。
「うん。皆で行けないなら僕はパスだよ」
僕も同じように彼女にそう伝えた。
「あ、ありがとう……」
偽善なんかじゃない。
本心を伝えてくれたあの日から、静乃さんは優しくて大切な友達なんだ。
(と、友達……?)
でも何故か友達止まりなのは悲しい。
その時の僕は未だに彼女への本当の気持ちを分かっていなかった。
「どうかしたの?」
「どうかしたか?」
僕が俯いていると、静乃さんと舞桜が同時に気にかけてくれる。
その優しさにドキッとしてしまった。
「あっ……」
二人は少し恥ずかしそうにして、同時にそっぽを向いた。
「かわいい……」
思っていたことが口から漏れていた。
「!?」
「!!」
照れているのか、二人して顔を真っ赤に染める。
舞桜は好きな気持ちが分かってるから余計恥ずかしくなる。
「優都お前……攻めるなぁ」
「ひゅーひゅー」
夏輝には感心され、深城は僕らをからかう。
「優都は知らないかもだけど、あの二人めっちゃ息ぴったりなんだ」
続けて彼の口から、意外な事実が暴露される。
(深城がもしそれを狙ってたなら……)
僕は従妹の将来に不安を覚える。
「ど、どしたの?お兄ちゃん……?」
深城を凝視すると引き釣った笑みを浮かべる。
「はぁ……いやぁ、何でもないよ……」
やり返しと言わんばかりに呆れた声で反応する。
「な、なんか今凄く失望された気がする……!」
「ぷぷっ……」
静乃さんが笑った。それはあまりにも意外で僕も驚いてしまった。
(でもー……歯止めになってくれると良いんだけどなぁ……)
「う、うそでしょ!?しずちゃんから笑われた……!」
深城も目を見張って驚いている。
「自業自得ねひにゃぁっ!?」
「ちっぱい敏感星人めぇ~~!」
(やっぱり舞桜にしわ寄せが……)
「うわ……」
「おい、舞桜が可哀想だし程々にしとけー」
静乃さんはその光景を初めて見るのか驚いていた。夏輝も呆れた様子で、僕の代わりに注意してくれる。
(あぁ……人に注意されるとか、あぁ恥ずかしい……)
昔から深城は舞桜と一緒にいると、不意をついてくすぐったりだとかしている。
でも最近は弱点を見つけたらしく、僕をからかいたいのかあればっかり……
『コンコン』
わちゃわちゃしていた空気が一瞬で固まる。
「そのー私はここの院長だ。入ってもいいか?」
クールな女性の声がドアの向こうから聞こえる。
「あ、はい。どうぞ……」
(ちょ、ちょっとうるさくしすぎたかな……)
『ガラガラ』
「失礼するぞー」
その姿は金髪ロングヘアの癖っ毛で、背丈も百七十程はあった。見た目も若く二十代半ば位だ。
「静かにします……!すみません」
僕が軽く謝ると、そうではないんだと首を横に振った。
「そのー、少し君の体質について重要な話があるんだ……」
それは僕らが呼称していた、
「先生、それって……真逆の事が起こるこの体質について、ですか?」
僕が聞き返すと院長先生は頷いている。
「あぁ、そうだ。まず自己紹介するよ。病院長の
柚原先生は首から下げた自分の名札を見せる。
「は、初めまして……僕は葉月 優都です」
「あぁ、初めまして。他の子達はこのことを知っているのかな?」
そう聞かれると皆も頷いている。
「はい、実際に目にしてます……」
僕が補足して説明すると、柚原先生はそうか……と悩んでいる様子だった。
「じゃあ君達も聞いていった方が良い」
柚原先生も納得してくれたようだ。
「これは、特殊なウイルスのようなものなんだ……」
「ウ、ウイルスですか……?」
「大丈夫だ。身体には害はない。けどそれは脳等の中枢神経、体等の末梢神経の細胞に埋め込まれていて、瞬間的な発達を促す。君がそれをうまくコントロール出来ずにいると……あんな不可思議な事が起こってしまうという訳だ」
「な、なるほど……」
「すまないな……私も未熟で数日前に分かった事なんだ」
「そ、それってずっと入院してなきゃいけないんですか?」
深城がまず目前の事を聞いてくれた。
「それに関しては大丈夫だ。一週間後まで何事も無ければ退院しても問題ない」
柚原先生は心配そうに言葉を続ける。
「ただ……これからも経過や事情を教えてほしい。その為に通院、電話でも構わない。そうしたら何かが分かるかもしれない」
「はい、分かりました」
そう答えると、彼女はメモを取り出す。
「二つだけ、質問させてほしい。これが初めて起きたのは……?」
「五年前の十月三十日……です」
「五年前の事故と同じ日か……」
今になって気付いた。それは事故の日、三週間前と全く同じ日だった。
「二つ目は、その症状について。君が気を付けている事も出来たら聞かせてほしい」
「これは……僕がこうなってほしいとか願ったりすると、突然空間にヒビが入って真逆な事が起きるんです……だから何かを強く願ったりしないようにしてます」
「そうか……聞かせてくれてありがとう。また何か分かった事があれば伝えるよ」
「あ、ありがとうございます……」
その後、柚原先生は目の色が変わったように病室を出ていった。
「ここの院長さんって研究熱心なんだな……」
夏輝が驚いた様子で呟いている。
「何か分かると良いんだけど……」
自分の手を見つめると一気に不安が込み上げてくる。
「一人であまり思い詰めないで……?」
静乃さんが僕を気にかけてくれたのか、心配してくれる。
「ありがとう……」
「何が分かっても優都は優都だ。元気出せよ……!」
舞桜も僕に微笑みかけてくれる。きっと皆の方が驚いているのに……
(僕がしっかりしなきゃ……!)
そして何より、俯いて黙り込んでいる深城がとても心配だった……
「むしろ……!ゼロが一になったんだぜ?大きな一歩だ!これからどうするかなんて後から考えりゃ良いんだ……!」
少し間が空いて、夏輝がポジティブに考えさせてくれる。
「うん……!どうにかなるかもなぁー位の気持ちで良いよね!」
僕が切り替えてそう答えると、深城が舞桜の背部にそのまま抱き着いていた。
「うぐぅ……」
「えっ?」
静乃さんは困惑する舞桜の側に寄って、泣いている深城の頭を撫で始めた。
「大丈夫だよ……!」
「またぁ……おにいぢゃんまでっうぐっ……いなぐなるがもって……」
「まったく深城はぁ……またそんなこと心配してたのかー?大丈夫だ」
「あっ……」
あの運動会の次の日の事を不意に思い出した。
おじさん達が色々と忙しい中……僕は元いた家から逃げ出した。
「あの日、真っ先に気付いて俺達に教えてくれたの誰だと思う?」
「み、深城だったんだね……」
結局僕はこの病院近くまで行ったんだ。
ここの医者であろうお爺さんが声をかけてくれて、その日の夕暮れまで保護されていた。
最後は伯父さんと深城が迎えに来てくれて……二人とも泣いていたから僕も泣いていたと思う。
次の日、夏輝と舞桜に怒られたのは今でも覚えている。
「む、昔の事?」
静乃さんがそのことを恐る恐る聞いてくる。
「僕から……話すよ」
何も知らないであろう静乃さんにその日の出来事を伝えた。そして深城を不安にさせた事はしっかりと謝った。
「そうなんだ……」
「あんたは家出とかそういう経験あったの?」
「ううん……私は逃げれなかったから」
静乃さんは暗い表情で俯いている。
「そっか……悪いこと聞いちゃったな。でも、こうやって互いの事分かってくのって大事だろ?」
「うん!」
舞桜が笑顔で彼女の背中を擦ると、彼女の顔に笑顔が戻った。
(やっぱり悲しい顔より、笑顔が一番似合う)
「ま、安心しろよ。これからも見舞いに来るからさ……俺とは違って誰かさんは毎日来るかもしれないけどな」
夏輝のその余計な言葉で場の雰囲気が更に和んだ。
「…………!」
舞桜は顔を赤らめながら拳を握っている。
「舞桜はいじられやすい体質なのかな……?」
「そこもうまいこと言わんでいい……!」
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