2012.10.31 エピローグ03
「私がお手本を見せてあげるわ。久しぶりに顔を合わせた幼馴染がいるんだけど、ちょっとなに話したらいいかわかんなくて、逃げてきたのよね」
「意外に乙女ですね」
その情報は持っていなかったので、思わずポロっと本音が出た。
「ああん? 意外とはなによ。失礼ね。汚ぇ傷口を灰皿かわりにしたろか、ぼけ」
首筋が熱くなってきた。本当にタバコの火を近づけているようだ。もっとも、根性焼きをするのが目的ではなく、本格的な手当てをするための光源を確保しているだけだ。
首筋のガーゼを外されて、いちから消毒される。白衣のポケットに色々と道具が入っているようだ。
丁寧な処置が施される。
「はい。おしまい」
「ありがとうございました」
「礼には及ばないわ。これは貸しだから。やばいときに力をかしてちょうだいね」
「勝手に手当てしといて、それはどうなんすか?」
「まぁ、そう言わないでよ。風見くんみたいなのを手当てしてるとさ、安全に見えてるだけで、世界は危険に溢れてるって痛感するんだよね」
「岩田屋は特に異常ですよ。世界的に見ても、ネッシーの死体が発見された影響をモロに受けている場所のひとつですからね」
「異常しか知らない世代と、この町しか知らない連中は、幸せだと思う?」
「どうなんでしょうね。言ってみたら、生まれた時から携帯電話やパソコンがあるのと同じようなもんでしょ。ようは、それを使うものの自分らしさが重要なんじゃないですか」
「面白い考えね。風見くんの思考から導かれる私の問いの答えは、なんだ? ん?つまり、いてもいなくても、あろうがなかろうが、不幸とは限らないってことか。そんなもので変わるようなものは自分らしさとは呼べないって感じか」
もっといえば、自分らしさがなにかわからないと迷うならば、片っ端から壊してしまえばいいのだ。
最後まで壊れないから、大事なものは浮き出るように残っている。
「あ、来た」
つぶやきながら、龍浪は口からタバコを落とした。吸殻を踏みつけることなく、視線を病院の入口に向けている。
自動ドア横の非常用扉を押して、疾風が病院から出てきたところだった。
「おお。なんだ、逢引の最中か? どっかのベッド使えよ。それじゃあな」
ベンチの横を通る際に、疾風はなんの迷いもなく話しかけてきた。
「いやになるわね。天然で大事なことに気づいてる奴ってのは。話しかけるのを躊躇ってた私がバカみたいじゃない」
「彼には、それだけの経験があるんですよ。龍浪先生のほうが詳しいでしょ?」
「というよりも、風見くんがなんで知ってるの? いやまぁ、意外ってよりも、やっぱりかって感じなんだけどね」
立ち止まって話す気のなかった疾風は、そのまま自分の車に向かって歩き続けている。
「さすが、シップーね。全員を最速で抱き終えて帰ろうとしてる訳か?」
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