2012.10.31疾風【最終章】13

「なにを興奮している。そいつのハッタリに決まっているだろ」


「かもな。おれだって半信半疑だよ。なんだっけ。もっとも巨大になるUMAであるが――」


「それ以上喋ると、一人ずつ殺していくことになるぞ」


 片岡の動きは素早い。疾風がステアリングを掴むより、ちょっとだけ遅いぐらいだ。

 殺害方法は銃殺らしい。片岡は取り出した拳銃を疾風に向けている。

 銀河は疾風と片岡を交互に見比べてから、すべきことを正確に判断したようだ。


「もっとも巨大になるUMAであると同時に、最初は最も小さいUMAでもある。ちりめんモンスターみたいなもんだって理解したぜ。ちりめんに混じってるタコとかも、成長したらタコ焼きに使うサイズになるんだろ。

 もっとも、おれの体内で保管するクラーケンは、それ以上のサイズになるはずか?」


「べらべらとうるさいぞ。一人犠牲にならんと、玩具ではないとわからんのか」


「あんたこそわかれよ。たとえ本物だとしても、この場で誰も殺せねぇよ。あんたが怪我するだけだ。川島疾風のMR2よりも速く、引き金をひけるとは思えん」


 助手席で、未来がふふっと笑った。

 疾風を知っている人には期待される。未来は味方として、銀河は敵として認めてくれている。


「片岡さん。巖田屋会の動きを考えても、もう時間がありません。急ぎましょう。言葉が過ぎるかもしれませんが、銃口を向ける相手を間違えたようです」


「間違えてはいない。今晩も夜の予定があるから、死ぬわけにはいかないんでな。そうだろ?」


 実際問題、他の誰かが狙われていたら、疾風の体は反射的に動いただろう。

 MR2で片岡をはねていたはずだ。

 片岡が銃を下ろすのを見届けてから、疾風はハンドルから手を離した。


「いいか。俺が生きてるうちは、銀河をいいようにはさせねぇぞ。こいつが不幸になるのは勝手だが、それで万が一にでも朱美に迷惑がかかったら、てめぇを許さねぇ」


「悲しいな。まるで長生きするのを疑っていないような口ぶりだ」


「喧嘩売ってんのか? こちとら、あと百年は生きるつもりだぞ。そんでもって、機械の体を手に入れて、さらに延命してだな」


「わかった。約束しよう。川島疾風が生きているうちは、久我銀河に自由を与えておいてやる。だから、それ以上は未来を語るな。お前は、この先――」


 片岡は不自然なタイミングで煙草をくわえる。火をつけることなく、疾風たちに背を向けたことで、変な勘ぐりが生じる。

 まるで、なにかを言いかけたのを誤魔化したような動作だった。

 秘書は嬉しそうな顔のまま頭を下げる。つむじを見せてくれたのは短い時間だった。ぱっと頭を上げたときには、真剣な顔で疾風の目をみつめる。


「どうかお願いします。宿命に抗って運命を変えてください」


「宿命と運命ってちがうの?」


 漢字が似ているから、同じようなものだと疾風は思っていた。

 秘書は答えずに片岡についていく。説明ができないのか、話せば長くなるのか、どっちなのかわからなかった。

 残された連中で、疾風の疑問に答えてくれる奴はいない。別に期待してもいない。


「なぁ、楓」


 銀河が他の話をはじめたので、気になるのなら自分で調べるほうがはやそうだ。


「楓はおれのこと愛してるか?」


 意味の違いを調べるにしても、あとまわしだ。いまは、この場から離れるのが最優先事項となる。すぐに車を発進させる。

 楓の答えをきいていいのは銀河だけだからな。

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