2012.10.31疾風【最終章】12
「そいつにとっては、地獄だと思うがな。遊びで抱いているうちは、まだいい。本気になった相手がいたら、あとから俺に抱かれるんだぞ」
「だからなに? 最初から大事な女が子供を孕まされてたり、抱いたあとからAV女優になったりすることもあるんだぜ。中途半端すぎて、がっかりだ。どうせなら、もっとゲスで悪の道に染まれってんだ。いい人ぶってんじゃねぇよ。落ちるところまで最速で落ちてみろってんだ」
「なら、お前だったらどうするというのだ? 更なる地獄があるのか?」
大見えきったから、なにも考えていなかったと白状するのは恰好が悪い。こういう時は、経験が道を教えてくれる。銀河にとっての地獄はわからなくても、自分にとっての地獄は知っている。
いままで自由に生きてきた。
代償として、いやなことも多い人生になった。
それでも、幸せだったと胸をはれる。
ひとえに、成長させてくれる女性と出会い、その度に本気で結婚を考えて挿入してきたおかげだ。
無論、いまの彼女の優子とも幸せな将来を考えている。
地獄の答えは単純だった。
「結婚相手を指定してやるとか、どうだ?」
「政略結婚に使えと?」
「そうじゃない。結婚相手が選べないってのは、最悪だ。紙切れ一枚だとしても、愛している証明ができないんだ。俺なら耐えられねぇよ」
「なるほど、面白い。それも上乗せするのも悪くないかもしれんな。利用価値のないこいつなら、それぐらいでちょうどいいだろう」
まずい。銀河を助けるはずだったのに、さらに罰が上乗せされてしまった。
疾風は申し訳ない気持ちのまま銀河の様子をうかがう。
最初から、邪魔をしていただけなのかもしれない。せいぜい疾風にできたことといえば、銀河の中で腹をくくるまでの時間稼ぎぐらいだ。
いつの間にか、銀河は男の顔になっていた。
思わず疾風は口元をおさえる。これ以上、おせっかいをしないようにしただけでなく、勝ち誇ったように笑った顔を隠すためだ。
「お言葉だが、利用価値ならあるんだけど」
「口を挟めるタイミングだと思っているのならば、本当にガキだな」
片岡も銀河の顔を見たくせに、頭ごなしに否定する。疾風が片岡とうまい酒を飲むことはないだろう。銀河とも無理だと思っていたが、あるいはと肯定したくなってきた。
心の中で、疾風は応援する。
――男の顔だ。言ってやれ。なにか知らんがな。
「風見と同じ注射を打たれたんだ。で、どうやら適応したみたいなんだけどな」
「あのバカ。らしくないことを」
秘書が嬉しそうに微笑んだ。些細な反応にすら、片岡は過敏に反応を示す。
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