2012.10.31疾風【最終章】08

「では、こういうのはどうでしょうか。シップーに頼みたいことが、私にはあると話したじゃないですか。それが、なかなか難しいと思うので、成し遂げた際のご褒美として、教えてあげてはもらえませんか」


「わかった、わかった。未来さんには世話になったし、それでオッケーです」


「さっすが、里菜ちゃん。いい女!」


「あんたは、やかましいねん! あとで、久我朱美となにがあったかも聞くからな。それも真実を教えるための条件や、ええな!」


「話すようなことはなにもねぇっての。でもまぁ、いいかもしれんな」


「ああ? どういうことや」


「また、ゆっくり里菜ちゃんと話すってのは悪くねぇ。なんかあったら、相談に乗る。だから、あんまり有くんに心配かけるようなことするなよ」


「ちょい待ち。有からなんか聞いたん?」


「いや、世間話をしただけだ。でもよ。男が逃げ出す時ってのは、相場が決まってるもんなんだよ」


 触れあった唇に自分の指を這わせながら、聖里菜は微笑んだ。


「ほなね」


 あとで、エロビデオを借りにいこう。

 と思った矢先に、疾風はしまったと内心で悔しがる。

 レンタルビデオ屋のカードを勇次に貸している。

 これはケチケチせずに、買いに行けという天啓か。あと、忘れてはいけないのはアルコールだ。デビュー作で初体験の話をしていたら、素面では見えないから、苦手な酒も買っておこう。

 でも、酔っ払ったら夜中に峠を攻めれないし、どうしたものか。


 MR2の助手席のドアがあいて、現実に引き戻される。車椅子から上半身の力だけで未来が乗り込んでくる。いまからなにをするか知らないが、手間取ってしまったら、アダルトビデオに興じることも、MR2で風を感じることもできなくなる。


「なにするか知りませんが、最速で終わらせましょう! リーダー」


 疾風のテンションの高さに眉を細めてから、未来は聖里菜に向かって微笑んだ。


「では、聖里菜さん。私の愛車をお任せしますね」


「え。あ、はい。愛車って車椅子のことですね。かしこまりました」


「じゃあな、里菜ちゃん。また今度」


「うん、シップー。ばいばーい」


 バイバイと手を振り返していると、助手席の未来が駐車場の端を指さす。向こうに行けという無言の指示に従って、車を走らせる。


「さきほど夢をきいた子がいましてね。その夢の邪魔をされているようでしたので、助けに行きましょう」


「リーダーなら一人で人助けぐらいできるんじゃ?」


「こちらの駐車場の出口から、看護師の寮に行けるようです。そこの駐車場の端に急いでください」


 なにを言ってもスルーされそうなので、黙って未来の命令に従う。面倒くさいことに巻き込んでくるのも、未来らしい部分だ。本当にぶれない人だ。

 彼女にとっては、正義も悪も関係ない。夢を持つ人間の邪魔をする奴を許さない。

 その一点を貫いて、いままで生きてきた。

 人のためではなく、あくまで自分のためというのが、大きな特徴だ。助けた奴が、夢を叶えられるかどうかは、どうでもいいのだから。

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