2012.10.31疾風【最終章】07
「なんだ、いまの爆弾発言は? もしかして、俺から距離をとったのは、憎しみとか、家庭の事情とか、そういうのじゃなかったってか? 子供ができたのが原因だったのか? 俺はさ、有くんっていう生き甲斐が里菜ちゃんにあって良かったって安心したばっかなんだぜ。でも、それよりもっと、大事なものが? え? なぁ、なぁ、答えてくれよ」
「やかましいな、シップー。そんな簡単に真実を教えても面白ないやんか」
「責任とるぞ。そこまで甲斐性なしじゃねぇし。里菜ちゃんのこと愛してたのは間違いない。俺だって里菜ちゃんに、助けられてたわけだからよ」
悪魔的な笑みを浮かべるだけで、聖里菜はなにも教えてくれない。
「楽しそうな顔ですね。もしかして、夢が叶ったのですか?」
第三者の介入に、せっぱつまっている疾風は目を血走らせる。
「うっせぇな。いま、大事な話してんだ。茶々いれてくんじゃね
――あ、いや。ごめんなさい。気づいてなかったんです。あああ、勘弁してくださいよ。ほんとに」
話しかけてきた相手の車椅子が見えて、疾風は急ハンドルを切るように態度を改めた。車椅子に乗っている未来は、疾風をじっと見つめている。無表情なのが、逆にこわい。
ペダルを踏む足の力がなくなる。
半クラ状態だった車は、エンストを起こした。疾風の心臓はかろうじて動いている。だが、未来に見られている状態が続いたら、心臓が止まるのもそう遠くないだろう。
未来の視界を遮るように、聖里菜が動いてくれる。何かを察してくれての行動だと、元カノの背中が語っている。
そういうところが大好きだったんだよ、里菜ちゃん。
「きいてーや、未来さん。有が帰ってきたんです。なんや、そこのアホが連れてきてくれましてね」
「さすがシップーと朱美ですね。相変わらず、二人が揃うと、なにかしらの結果を残すようで」
「朱美? ほら、お前。やっぱり、より戻しとるんやろうが。どうなんや!」
聖里菜が振り返るよりもはやく、疾風はエンジンをかけなおす。排気音を轟かせて、聞こえなかったふりを成功させる。
未来はゆっくりと車椅子を近づけながら、車内を確認する。
「ちゃんとお弁当を用意してくれたみたいですね。では、次に頼みたいことがあるのですが」
「あの、それどころじゃないんですよ、リーダー。ちょっと、いまは込み入った話をしてまして」
「ほう? 私に逆らうわけですか?」
「はい。なにしましょうか、リーダー?」
とりあえず、疾風は返事をした。感情はこもっていない。Vシネマに出演する芸人の棒みたいな演技よりも、見るに堪えないだろう。
「込み入っているのでしたら、早急に話を終わらせていただきたいのですが?」
「あ、いや。ええですよ。別に。うちらのことは後回しで、そないすぐに話せることでもないんで。シップーに何かしてもろてから話したいことやから、はい。ははは」
聖里菜も未来に圧倒されたようだ。なんだかさっきより胸が小さくなったように見える。
あれでは、パイズリできないだろうに。
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