2012.10.31銀河【最終章】07

「信じたくなくても、勃起しながら震えることになるよ。楓ちゃんを抱いたときにわかるようにしといた。お前が抱いた女の中の一人とそっくりなように仕込んだからな」


「楓のことを遊びで、お前は」


「なに? お前は、いつも本気で女を抱いてきたっていうのか? だったら、悪かった。覚悟はできてるから、好きにしろ。殴ってもいいし、ぶっ殺してもいいぞ。ただし、ボクには反撃してもいいが、お前の穴兄弟には、単なる被害者もいる。そいつらには、逆らうな。わかってるよね?」


 風見は静かな声量のまま、強い口調でまくしたててきた。敵意を向けるくせに、敵意を向けられる覚悟はなかったのかと、問い詰められている気分だ。

 風見はまだ、優しい人なのかもしれない。

 問答無用で刺されていても、文句は言えない人生を送ってきた。銀河が抱いてきた女性の数に比例するように、受け止めるべき憎しみも増大しているのは明らかだ。

 携帯電話を捨てられただけで身軽になれたと思ったのは、勘違いだった。電話での繋がりがなくなっても、過去は消えない。

 数え切れない罪の全ては、魂に刻まれている。


「おいおい、そんなふ抜けた顔で、楓ちゃんに会うつもりか?」


「楓の居場所を知ってんのか?」


「もちろんだ。お前がいる場所を訊かれたから、片岡がやって来る場所を伝えておいた。楓ちゃんの居場所を教えるついでに、性感帯も教えといてやろうか?」


「なんで、片岡ってやつが来るところを教えた。いやがらせか?」


「おい、性感帯に関しては無視かよ。しょうもないな」


「そもそも、知りもしないのに、勝手に居場所を教えるなよ。余計なことをしなければ、いまごろおれは楓と」


「ああ、それは悪かった。お前が来るとは思ってたが、ボクの情報だと不確定だと判断した。確実なのは、銀河くんが片岡に拉致られることだろ? 話せるかどうかはわからないけど、会えるんだから嘘をついていない。ちがうか?」


「おれが拉致られるって、どういうことだ?」


「拉致られるだけなら、マシだ。ボクみたいに利用価値がないようなら、殺されるぞ」


「どこまで信じればいいのか、わからんのだが」


「こわくなって、疑いはじめたやつだな。はいはい」


「証拠がないって話だ」


「信じたとして受け止められるか? 受け止められたとして、乗り越えられるか?」


 いままでは食ってかかるように反論していたが、こればかりは考え込んでしまう。

 正直なところ、銀河は楓が処女だと思っていた。チャンスがあったのに抱かなかったくせして、初めてをもらえなかったのが悔しくて仕方がない。

 もしも風見の話が、全てハッタリだとしても、処女ではないのかもしれない。

 楓はリストカットして周囲の気を引くほどに、隙の多い女だ。銀河と楓が、いまとはちがう形で出会っていたならば、少ない手順で挿入にこぎつけていただろう。


 もっと自分を大事にしろよ、楓。

 できないのならば、守ってやるべきだったのか。


 思いのほか精神的なダメージは大きい。

 心の中が空っぽになるような感覚だ。さながら、ハローウィンに作られるカボチャのランタンのように、中身がくり抜かれたような虚無感を覚えてしまう。

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