2012.10.31 疾風③ 06
朱美は遅刻が多かった。
入学早々、学校がいやになったのかと、疾風は心配した。なんでも朱美は山をひとつはさんだ中学から進学してきたらしく、中学時代からの友達がほとんどいないそうだ。その影響かもしれない。
考えすぎよ、と朱美に笑われてしまった。
単純に家から学校が遠いので、バスに乗り遅れているだけだった。
どうにかできないものかと真剣に考えても、疾風はいいアイデアが浮かばない。すると、朱美は提案してきた。
『乗せてよ』
だから、反則だって。
朱美は疾風の秘密――無免許で父親の車を運転している――を知っている。
だから脅しに屈したという対面を取り繕えた。理由はなんでも良かったのだ。無理やりに作り出してでも、朱美の前で車をとめていただろう。
赤は
――いや、朱は止まれ。
美しい朱の前では、速く吹く風も止まらざるおえない。
さて。峠を攻めることがマイブームとなりつつあった疾風は、そのついでという名目も付け加えて、朱美の送り迎えを承諾した。
朱美の実家は神社で、大きな駐車場が完備されている。
早朝に峠を走った疾風は、朱美の身支度が終わるまで駐車場にとめた車内で眠っていた。朝飯は朱美が用意してくれたオニギリで、学校に向かう道中で運転しながら食べていた。
爪楊枝に刺したオカズもあり、口を開けていると餌付けしてくれた。
同じ中学からの出身者がいない朱美のために、クラスメートの情報提供をしながら、登下校を行う。別にそんなことをしなくても、朱美の性格ならばすぐに馴染めていたかもしれない。
なのに、彼女は素直にお礼をいってくれた。
五月の宿泊訓練では、出席番号順の関係から、男女共同の飯炊きで同じ班になった。川島疾風、近藤旭日、久我朱美、龍浪桜。腐れ縁のはじまりだ。
四人で行動をすることが多くなり、夏祭りも行くことになった。
だから、あの日の疾風はいらだっていた。本当は朱美と二人で行きたかったからだ。それでも、表面上は冷静を装い、楽しそうにとりつくろっていた。
でも、朱美にはお見通しだったようで。
『そういう態度で一緒にいられたら、迷惑なんだけど。みんなが楽しんでるのに、どうしたの?』
『うっせぇな。お前のせいで、つまんねぇんだよ。お前と一緒にいたら、屋台ではオマケされた朱美の分の支払いを請求されるし、ナンパに撃沈した男たちには人ごみの中で蹴られるし。散々なんだよ。なのに、キヨや龍浪にばっかりニコニコしやがって』
『てことは、あたしが帰ったほうが、シップーはいいんだね。ごめん』
『いや、待てよ。そうじゃなくて。ちがうんだ』
『バカ』
朱は止まれ。
動かずに立ち止まっている場合か。信号無視するように、彼女を追いかけた。
道中、仲直りするために、屋台でプレゼントを購入した。それを渡して、告白するつもりだった。
シチュエーションとして、花火があがったときを狙おう。完璧な作戦だ。
朱美が自転車を駐輪している場所に先回りした。あとは、朱美が来るのを待つだけだ。
ドキドキしていた。
花火が打ち上がっても、彼女は来ない。
花火を見終わった連中が帰っていく。
屋台が撤去していく。
まだ来ない。
祭りの終わった寂しさが残る。夏なのに、寒さを感じた。
こだわりのシチュエーションやプレゼントの用意なんて、意味がなかったのだと気づいた。全部、素直に告白できないから準備に時間をかけて先送りにしていたに過ぎない。
なんだか疲れて、地べたに座りこむ。
目を閉じると、眠ってしまっていた。
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