2012.10.31 銀河③ 04

「いきなり話しかけてすみません。もしかして、有くんのお見舞いにいらしたのではないのですか?」


「なんで、そう思ったんですかね?」


「有くんのベッドから出ていくのを見ましたから」


 忍び足で逃げたのに、見つかっていたとは。

 だが、そういう出会いがあってもいい。美人となら、どんな巡り合わせでもありがたい。


「色々と質問されてるところに申し訳ないんですが、あなたはどちらさまですか?」


「これは、失礼しました。申し遅れましたが、私は桐原未来です」


 うん、知ってる。未来さん。

 楓と揉めていた相手の声だと思っていたところだから。


「さて、そろそろこちらの質問に答えてはもらえませんか? あなたは誰で、有くんとの関係は?」


 なにかよくわからないが、圧を感じる。正直に答えなければいけない雰囲気だ。


「自分は久我銀河です。用事があって、有くんの病室に来てたのですがね。彼はいないようでしたから、探しにいこうと思っていたところなんですよ」


 嘘はついていない。かといって、真実を白状したのともちがう。


「もしかして、有くんの居場所に心当たりがあるんですか?」


「ええ、もちろん――」


 もちろんのあとには、地球のどこかにはいます。

 と続けるつもりだったが、喉がきゅっとなって冗談を言えなかった。これでは嘘をつくつもりはなかったのに、未来が勘違いしそうだ。


「みんなが心配して、有くんを探しているんです。迷惑でなければ、私も連れていってもらえませんか? それが無理でしたら、居場所を教えてくれませんかね?」


 この人の圧力は、なんなんだ。逆らえない。

 てきとうな居場所を口にするのが、はばかられた。


「どうぞ、一緒に行きましょう。車椅子を押しますので」


「いえ、自分で動かしたいので、お構いなく」


 触るのを決して許さない様子で、未来は車椅子を動かす。

 とりあえず、ひとけのないところに移動してみよう。

 車椅子の相手をレイプするのは、初めての経験だ。上から下まで舐めまわすように視線を這わせるだけで、頭の中で未来が裸になった。

 視姦に気づいていないのか、未来はのんきに廊下から窓の外を眺めている。


「ステッカーを貼ったままなんですね」


 未来の視線をたどると、赤いMR2が駐車場を走っていくのが見えた。


「ありがとう。まだ情熱乃風の看板を背負って走ってくれていて」


「未来さんは、あの車の持ち主と、お知り合いなのですか?」


「ええ。川島疾風は、私の――なんでしょうね。関係性を言葉で表すのは難しいです」


 やはり、川島疾風の車だったか。

 銀河も彼を知っている。

 銀河が知っている人間の中で、一番クレイジーな奴だ。

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