2012.10.31 風見③ 02
「で、有くんのお姉さん」
「聖里菜や」
「じゃあ、聖里菜さん。焦ってるみたいですけど、なにかありましたか? 話してくれたらボクは力になりますよ」
「マジでか。助かるで。えーっと、誰やったっけ?」
「風見です。有くんと同じ大部屋で入院してる」
「おにーさんが風見さんなんや。有がよくしてくれよるって、メールで話してくれとったからな。マジでありがとうやで」
両手を包みこむように握られる。お礼を言いながら、律儀に頭を下げてくる。
根元まで染まった金色の髪だが、匂いは抜群にいい。
「ちょっと、風見さん、鼻の下のびてますよ。なんですか、最低ですか」
「別に最低じゃないから。誤解だ、楓ちゃん」
「せやで。男として、当然の反応やから、照れる必要はないで」
風見の手を揉みながら、聖里菜は上目遣いで笑う。まつげが長く、唇が輝いている。
風見の視線が下に降りているのに気づいたのか、聖里菜は手をはなした。
聖里菜が上着のボタンを上から二つまで外す。大サービスだ。黒いブラジャーが見える。
ごくり。ゴクリ。
二回も生唾を飲んでしまった。
「ええ音が聞こえたところで、サービスはおしまいや」
「サービスって――」
人差し指を唇に押し当てられる。長い爪の先端が、風見の鼻に当たる。
「有を見つけてくれたら、続きをしてあげてもええってことや」
「続き? いや、それよりも有くんを見つけるって?」
情報量は極めて少ない。なのに、理解力が追いつかない。色気に浮かれているせいで、頭の回転が鈍っている。
恋愛脳の楓のほうが、先に察したぐらいだ。
「有くんいなくなったんですか?」
「せやで。お願いや。探すん手伝ってくれん?」
「姉のくせに弟のことを甘く見すぎじゃないんですか? 年齢以上に大人ですし、しっかりしてますよ。結論、どっか行ってても探す必要はありません。
はい、論破」
風見も同意見だ。決して口には出さないが、楓よりも有のほうが精神年齢は上だと思っている。
「せやけど、あの子はまだまだ子供なんや。うちのせいで、おらんようになるぐらいに」
聖里菜の真剣さを汲んで、楓がフォローを入れるかと思って風見は黙っていた。が、駄目みたいだ。
「なんか複雑な事情があったとしても、心配しすぎですよ。この病院の土地勘は、相部屋の誰よりも有くんが詳しいぐらいですからね。しばらくしたら帰ってきますって」
「帰ってくるのをただ待つなんて、うちには無理や。だいたい、待ってるだけでそれで状況が変わるなんて、ほぼほぼないねん。最速で走れる男でも、大事なもんに追いつけんぐらいに、現実は残酷なんやからな」
現実は残酷だと、風見も経験から知っている。これは、とてつもない共通点だ。助けるには十分すぎる理由になる。
「楓ちゃん、手伝ってあげようよ」
「なにいってんですか。美人に甘くないですか? そんなに巨乳が好きなんですか」
「待ってるだけの身からしたら、いまの言葉は心に突き刺さるじゃんか」
「刺さりません。かわしました。だいたい、待つのが悪いことだとは思わないもん。それになにより、楓は自分のことでいっぱいいっぱいなんですよ。力になれません」
「でも、人探すんなら、絶対に人手が必要じゃないか。だからさ」
「人手がいるんだったら、相部屋で暇そうにしてる人がいるじゃないですか。その人に頼んだらどうですか?」
相部屋の四人目、桐原未来のことを楓は言っている。
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