2012.10.31 銀河② 01
注射針の刺さった腕に七海がガーゼをつけてくれる。
銀河はまくっていた服の袖を伸ばす。病院で調達した白衣が、痛々しい腕を隠した。
「先生。練習台になってくれて、ありがとうございますっす。しかも、この方法いいっすね。騙されてるかと思ったっすが、リラックス効果がすごいっす」
「おれも痛みを誤魔化せるし、一石二鳥だからね」
「そんなに気が紛れるっすか?」
「うん。だって、揉みごたえがあるからね。いいよ、君のおっぱい。うりうり」
大きい病院では、診察室の数と手の空いている医者の数がイコールではないことがままある。使われていない診察室で、銀河は看護師の注射の練習に付き合っていた。役得として、胸を揉ませてもらっている。
面白いことに、病院で白衣を着ていたら、中学生でも医者のように振る舞える。
医者のフリをしていて怒られても、ハローウィンのコスプレです、すんませんと謝れば、乗り切れるだろう。こちとら、天下の未成年様だ。チンコが剥けるまで、女湯に入っていたのは伊達ではない。
「でも、こんなふうに付き合ってくれる先生いままでいなかったっすよ。みんな忙しそうにしてて、物覚えの悪いわたしには冷たいっすから」
「練習すれば、うまくなるよ。だって、あのバキュームフェラやパイズリは練習のたまものだろ?」
「駄目っすよ、ギンギン。さすがに、いまはしないっすからね」
「んだよ。期待して損した。でもま、仕方ないか」
諦めの言葉を出したあと、銀河は七海の胸を揉むのをやめてキスをする。
経験値のたまもので、舌を絡めれば、たいがいの女を落とせるようになっている。同じクラスの童貞は、キスしている時点で落としているだろうがとか、よくわからないことを言っていた。
価値観のちがいを教室で感じた。
落とすとは、挿入のことだろ。
七海がキスから逃げる。
銀河の肩を掴んだ力から考えて、本気で抵抗している。
「ストップ、ストップ。これ以上は、マジでスイッチ入るんで、勘弁っす」
「んー。ダメか。残念だ」
「仕事終わりなら、時間あるっすけど?」
「いや、この時間帯だからいいんだろ。おれもわざわざ白衣着てるし、燃える」
「それ、どこで手に入れたんすか?」
「病院に来てから拾った。多分、ハローウィン衣装なんだろ――そうだ。トリックオアセックス」
「なに? お菓子かいたずらか? じゃなくて、いたずらか、セックスかってことっすか? どっちも、ギンギンからしたら同じ意味じゃないっすか」
「バキュームフェラ&パイズリ」
「もはや選択肢じゃなくて、合わせ技を求めてきてるじゃないっすか」
「でも、実際に若い先生や患者とかに、そういうギャグ言われたりしないの?」
「ないっすね。気になってる人はいたっすけど、その人は好きな女を待ってるみたいでして。脈なしってわかってんすけど、どうにかできないかって頑張ったんすよ、一応。なんかいいんすよ。すごく写真撮影がうまくて。撮影データを見せてもらったとき、惚れちゃったんすよ。この人には、世界がこんな風に見えてるんだって思って」
他の男の自慢話が、女の口から垂れ流される。
クソみたいな話題だ。
それでも出来る男は、たとえクソの中でも知識を吸収する。そして、銀河はアナルセックスも経験済みなので、クソの中から快楽を得るのもお手の物だ。
写真撮影は、今後の人生に活かせそうだ。自分の抱いてきたコレクションを残していくのは、楽しそう。綺麗に撮るという理由付けで脱がせていく。
これは、天職が見つかったかもしれない。
将来も安泰だ。
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